語釈
ハク ケル ニ クス ヲ
(1)
@梁 惠 王 曰、「寡 人 之 於 國 也、1盡 心 1焉 耳 矣。
レ
ナレバ チ シ ノ ヲ ニ ス ノ ヲ
A河 内 B凶、 則 移 其 2民 於 C河 東、移 其 3D粟 於 河
二 一 二
ニ
内。
一
ナレバ リ スルニ ヲ シ キ フル ヲ
河 東 凶 4亦 然。察 鄰 國 之 政、 無 2如 寡 人 之 用 心
二 一 下 二 一レ
者。
ヘ ナキヲ ルニ ヘ キヲ ト
鄰 國 之 民 5不 加 少、寡 人 之 民 不 加 多 3何 也。」
レ レ レ
(第一梁恵王章句上三 寡人之於)
(注)@梁惠王 戦国時代の魏の君主。A河内 「河」は黄河。黄河の北、今の山西省南部の魏の領土。B凶凶作。C河東 黄河の南、今の河南省北部の魏の領土。D粟 穀物。
一 書き下せ。
二 口語訳
[口語訳]梁の恵王がおっしゃった。『私は国政に当たって全身全霊を尽くしてきたつもりである。河内地方が飢饉であれば、そこの人民を河東地方に移住させ、河東地方の食糧を河内地方に搬送した。河東地方が飢饉であれば、それも同じように対処した。隣国の政治を見れば、私のように国政を察するに、寡人の心を用うるが如くなる者いない。隣国の民少なきを加えず、私のが増えないのはどうしてだ。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 梁恵王 2 粟 3 寡人
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 王道
2 寡人
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 焉 耳 矣
2 如
3 何 也
六 傍線部 1〜5の問いに答えよ。
1 具体的な説明となっている個所を抜き出せ。
2や3を移すのは何のためか。
4 内容を説明せよ。
5 意味を記せ。
解答
一
(1)梁の惠王曰く、寡人が國に於ける、心を盡くせるのみ。河内凶なるときは、則ち其の民を河東に移し、其の粟を河内に移す。河東凶なるときも亦然す。鄰國の政を察するに、寡人が如き心を用うる者無し。鄰國の民も少なきをことを加えず、寡人が民も多きことを加えざること何ぞ、と。寡人は、諸侯自ら稱す。言うこころは、コの寡なき人なり。河内・河東は皆魏なり。凶は、歳熟さざるなり。民を移して以て食に就け、粟を移して以て其の老稚の移ること能わざる者に給す。
三 1 りょうのけいおう 2 ぞく 3 かじん 4 たと 5 へいじん 6 すで
7 すなわ 8 いかん 9 そくこ 10 ふきん
四 1 道徳によって人民の幸福をはかってする政治のやり方。対義語 覇道
2 諸侯の自称。
五 1 限定」のみ だけだ 2 比況 ごとし ようだ 3 疑問 何ぞや どうしてか
六 1 「河 内 凶、 則 移 其 民 於 河 東、移 其 粟 於 河 内 河 東 凶 亦 然」
2 土地の人を飢え死にさせないため
4 河内の穀物を河東に移し同時に河東の民を河内に移し人口を少なくする。
5 少なくならない。
ヘテ ハク ム ヒヲ フ テ ヒヲ ヘン
(2)
孟 子 對 曰、「王 好 戰。1請 以 戰 喩。
レ
トシテ シ ニ ニ ス テ ヲ キテ ヲ ル
@
塡 然 鼓 之、A兵 刃 旣 接。棄 B甲 曳 兵 而 走。
レ レ レ
イハ ニシテ マリ イハ ニシテ ル
2或 百 歩 而 後 止、或 五 十 歩 而 後 止。
テ ヲ ハバ ヲ チ ト
3以 五 十 歩 笑 百 歩、則 何 如。」
二 一 二 一
ハク ナリ ダ ル ナラ モ タ ル ト
曰、「4不 可。1直 不 百 歩 耳。是 亦 走 也。」
二 一
ハク シ ラバ ヲ チ ムコト キヲ ヨリ
曰、「王 如 5知 此、則 無 望 民 之 多 於 鄰 國 也。」
レ レ 三 二 一
(注)@塡然 太鼓の音の形容。A兵刃 武器。B甲 鎧。
一 書き下せ。
二 口語訳
孟子はそれに答えて申し上げた。『王は戦争がお好きですから、戦争を例にとってお答えしましょう。戦を告げる太鼓が勢い良くドドンと打ち鳴らされて、兵士たちが敵軍と刀槍を交えたとします。甲冑を脱ぎ捨てて、槍や刀を持ったまま逃げ出す兵士がいます。ある者は百歩で踏みとどまります。ある者は五十歩で踏みとどまります。五十歩で踏みとどまった者たちが、百歩逃げた者たちを嘲笑したとします。それはいかがなものでしょうか?』恵王がおっしゃった。『それはおかしなことである。百歩まで逃げないとしても、五十歩でも逃げたということでは同じである。』孟子が話された。『恵王がもしその理由をお分かりであれば、人民の人口が隣国よりも増加することを期待されることはないでしょう。王が(公共工事の労働力の徴収で)、農
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 喩 2 兵刃 3 既 4 即 5 何如
四 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 直〜耳
五 傍線部 1〜5の問いに答えよ。
1 (1)どういうことか説明せよ。
(2)恵王のどのような言葉に対して答えようとしたか。
2 訳を記せ。
3 (1)五十歩の者は何について笑ったのか。
(2)「五十歩百歩」の転義(話のもとの意味から転じて生じた意味)を記せ。
4 王はなぜ「不可」と笑ったか。
5 何をさすか。
解答
一 孟子對えて曰く、王戰を好む。請う戰を以て喩えん。塡然として之に鼓うち、兵刃旣に接[まじ]わるとき、甲を棄て兵を曳いて走[に]ぐ。或は百歩にして後に止まり、或は五十歩にして後に止まる。五十歩を以て百歩を笑わば、則ち何如、と。曰く、不可。直[ただ]百歩ならざるのみ、是も亦走ぐるなり、と。曰く、王如[も]し此を知らば、則ち民の鄰國より多からんことを望むこと無かれ。
三 1 たとえ 2 へいじん 3 すで 4 すなわ 5 いかん
四 1 限定 直だ〜のみ ただ〜だけだ
五 1(1)戦争おことでたとえる。
(2)いい政治をやっているのに民が増えない。
2 ある者は。
3 (1)百歩も逃げたことについて、臆病と笑った。
(2)大差がないこと。
4 戦いで退却は負けであり、五十歩も百歩も負けに変わりはないから。
5 五十歩で止まった者も百歩で止まった者も井桁事に変わりはないこと。
(3)
レバ ヘ ヲ ハ ル カラ ゲテ フ
不 違 農 時、穀 不 可 勝 食 也。
レ 二 一 レ 二 一
@
1數 罟 不 入 A洿 池、B魚 鼈 不 可 勝 食 也。
斧 斤 C以 時 入 山 林、材 木 不 可 勝 用 也。
穀 與 魚 鼈 1不 可 勝 食、材 木 不 可 勝 用、
是 2使 民 2D養 生 喪 死 無 憾 也。
養 生 3E喪 死 F無 憾、4王 道 之 始 也。
(注)@數罟 目の細かな網。A洿池 沼や池。B魚鼈 魚やすっぽん。C以時 樹木を切るのに敵Sた時期。D養生 家族を養うE喪死 使者を厚く弔う。 F無憾 心残りがない。
一 書き下せ。
二 口語訳
王が(公共工事の労働力の徴収で)、農作業の妨げとならない季節を選ばれたならば、穀物は豊作となり食べきれないほどになります。漁師が目の細かい網(魚を獲りすぎる網)を沼地に投げることを禁止したならば、魚や鼈(すっぽん)などは多いに繁殖して食べきれないほどになります。木こりが斧や斤(ておの)で材木を伐採する時節を制限すれば、材木は有り余るほどに取れるようになります。穀物と魚・鼈など食糧が食べきれないほどになり、材木が有り余るようになると、人民の衣食住を賄い死者の葬儀を執り行うのに何の心配もなくなります。人民の衣食住の保障と死者の葬儀の執行が問題なく行われれば、天下に王道(仁政)を敷く始まりとなります。人民の五畝の宅地に桑の木を植えさせれば、五十歳の老人は(着心地の良く暖かな)絹の服を着ることが出来ます。(食用となる)鶏・豚・犬の飼育に当たって繁殖の時機を逃さぬようにすれば、七十歳の老人は(美味しくて栄養のある)肉を食べられるようになります。百畝の田畑の耕作に課税し過ぎないようにすれば、数人の家族は飢えることがなくなるでしょう。郷里の学校における教育に注力し、親への孝行と老人への従順を身に付ける道徳を教えれば、白髪まじりの老人が道路で重い荷物を背負うことはなくなるでしょう。七十歳の老人が絹の衣服を着て肉を食べ、一般の人民が飢えも寒さも感じなくなる。このような仁政を敷いて王になれない者はいまだ見たことがありません。豊作の年には、犬や豚が人間の食糧を食い漁っているのを防止することができず、凶作の年には、路上に餓死した死体が転がっていますが、国家の食糧庫を開いて人民を救済することを怠っています。更には、人民が死んでも自分のせいではない、その年の気候の責任だと開き直っています。これは他人を刺し殺したのに、自分の責任ではない、刃物のせいだというのと全く同じです。王が餓死者の多さを気候のせいにしないで、人民を救済する政治に責任を持たれたならば、天下の人民はこぞってあなたの国にやってくるでしょう。』
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 數罟 2 斧 斤
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 農事
2 斧斤
五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1
2
六 傍線部 1〜3の問いに答えよ。
1 理由を分かりやすく説明せよ。
2 「養生」3「喪死」は、それぞれ前のどの部分を受けているか。」また、」どうしてそう言えるか説明せよ。
4 「王道」とはどのような政治を言うのか。
七 構成
主題 王道
(1) (3) |
節 |
河内=凶作 民 →河東 民は増えない 穀物→河内 隣国=何もしていない 民減らない |
梁恵王 |
←(2)五十歩 ←(2) 百歩 ・農作業の時使役しない→穀物多い ・細かな網を使わない。→魚は増える ・適した時に木を切る。→樹木多い 家族を養える 使者を弔える |
孟子 |
解答
一 農時に違わずんば、穀勝[あ]げて食らう可からず。數罟[そくこ]洿池[おち]に入らずんば、魚鼈勝げて食らう可からず。斧斤時を以て山林を入らば、材木勝げて用う可からず。穀と魚鼈と勝げて食らう可からず、材木勝げて用う可からざれば、是れ民をして生を養い死を喪して憾[うらみ]無からしむなり。生を養い死に喪して憾無きは、王道の始めなり。勝は音升。數は音促。罟は音古。洿は音烏。○農時は、春耕し夏耘[くさぎ]り秋收むるの時を謂う。凡そ興作有るに、此の時を違わず、冬に至りて乃ち之を役するなり。勝げて食らう可からずは、多きことを言う。數は密なり。罟は網なり。洿は、窊下[わか]の地。水の聚まる所なり。古は網罟は必ず四寸の目を用う。魚尺に滿たざれば、市粥[う]ることを得ず、人食らうことを得ず。山林川澤は、民と之を共にして、視ヨ有り。草木零落して、然して後に斧斤入る。此れ皆治を爲すの初めにて、法制未だ備わざれども、且く天地自然の利に因りて、撙節愛養するところの事なり。然れども飮食宮室は生を養う所以、祭祀棺槨は死を送る所以にて、皆民の急にする所にして無くんばある可からざる者なり。今皆以て之を資[たす]くること有れば、則ち人恨む所無し。王道は民の心を得るを以て本とす。故に此を以て王道の始めとす。
三
1 そくこ 2 ふきん
四 1 耕作すべきまた工作のいそがしい時期・季節。 4 おのまさかり。
五 1 特殊な否定 あげて〜べからず いきれないほど多い。
2 使役 使A B AをしてBせしむ AにBさせる
六 1 眼の細かい網を入れなければこれから育つ小さな魚やすっぽんをつかまえないことになり将来的に
数が増えるから。
2 「穀 與 魚 鼈 不 可 勝 食」 食糧が十分あれば家族を養えるから。
3 「材 木 不 可 勝 用」 材木が十分あれば棺桶を作りそうしきができるから。
4 民の生活を安定させ、よい政治を行う。