天知地知
語釈
ニ ス ノ
楊 震、年 已 五 十 余、A累―遷 B荊 州 刺 史、
二
ノ ニ タリ クニ ニ ヲ
C東 莱 太 守。当 之 郡、D道 経 E昌 邑。
一 レ レ ニ イチ
ノ グル ノ リ ノ ト
F故 所 挙 荊 州 G茂 才 王 密 為 昌 邑 H令、
レ 二 イチ
ニシテ w テ ル ニ
夜 懷 1金 十 I斤、以 遺 震。
レ
ク ルニ ヲ ルハ ラ ヲ ゾ ト
震 曰、「2故 人 知 君、3君 不 知 故 人、1何 也。」
レ レ 二 一
ク シト ル ク リ リ
密 曰、「暮 夜 無 知 者。」震 曰、「4天 知、地 知、
リ ル ゾ ハンヤト シト ル ヂテ ヅ
我 知 子 知 。2何 謂 無 知 者。」密 5愧 而 出。
レ 二 一
ズ ノ ニ ニ ス
後 転 J涿 郡 太 守。性 公 廉 子 孫 常 6蔬 食・歩 行。
二 一
イハ スルモ メント ニ カ ヲ ゼ
故 旧 或 欲 3令 為 聞 K産 業、震 不 肯。
レ 三 二 一 レ
ク メン ヲシテ ラ ノ ノ
曰、「4使 後 世 称 為 製 清 白 吏 子 孫。
三 ニ 一
テ ヲ ラバ ニ タ カラ ト
以 7此 遣 8之 5不 亦 厚 乎。」
レ レ 二 一
(注)@楊震 54〜124年。字は伯起。後漢の学者。A累―遷 次々と昇格入していく。B荊州刺史 「荊州」は現在の湖北・湖南省一帯をさす。C東莱太守 「東」は現在の山東省煙台市。「太守」は郡の長官。D道経 途中〜を経由する。E昌邑 現在の山東省金郷県の西北。F故所挙 以前に推薦した。G茂才 官吏登用試験の名前。ここはその合格者の意。 H令 長の意。I斤 重さの単位。十斤で約2200グラム。J郡
現在の北京市。K産業 生計を立てるための財源。
一 書き下せ。
二 口語訳。
楊震は、もはや年五十才余りだったが荊州の刺史や東莱郡の太守と、次々と出世していた。東莱郡に赴任する際、途中で昌邑県を経由することになった。(そこには以前)楊震が推薦して修飾の世話をした荊州の英才王密が県令になっていて、夜、金十斤を懐に入れて楊震を訪れて、それを贈ろうとした。
(そこで)楊震は「昔馴染みである私は、君の事をよく知っている。(それなのに)君は、(うけとらない)私人柄を知らないなんてどういうことか。」と言った。王密は「今は世中で、誰もこのことを知るはずがありません。」と言うと、楊震は「天が知り地が知り私も君も知っている。どうして誰も知る者がいないと言えようか(いや言えない)と言った。(すると)王密は自らを羞じてそのまま退出して行った。
後に、楊震は涿郡の太守として転出した。(そこでも)楊震は公正んして潔白な態度であって、(賄賂による余財がなかったので)子や孫たちはいつも粗末な食事をし、徒歩で往来していた。昔からの友人の中には、彼とその家族を案じて、生計のための実業を始めさせようとした者がいたが楊震はそれを承知しなかった。楊震が言うには、「(財産を残そうとは思わない。」後世の者に、清廉潔白な役人の子孫であると称させたいのだ。これを(遺訓として)子孫たちに残せば、何とも手厚い遺産ではないか。」とのことだった。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 楊震 2 累遷 3 昌邑 4 斤 5 故人 6 遣 7 暮夜
8 謂 9 愧 10 蔬食 11 故旧 12 肯 13 亦 14 吏 15 以
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 累遷
2 茂才
3 故人
4 暮夜
5 愧
6 蔬食
7 故旧
8 舅
9 小子
10 清白
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 何 也
2 何
3 令
4 使
5 不 亦 乎
六 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1 何のために贈ろうとしたか。
2、3 それぞれ誰のことか。
4 (1)「我」、「子」はそれぞれ誰のことか。
(2)どういう意味か。
5 なぜか。
6 なぜこうしていたのか。
7 指示内容を記せ。
8 指示内容を記せ。
昌邑県 夜 後 郡 |
時・場所 |
50才 出世した 荊州の刺史 東莱郡の太守 「受け取らない。」 → 「天知る。地知る。我知る。君知る。」 → 太守 公正潔白 子孫=粗末な食事 徒歩 「子孫に財産を残さない。 清廉潔白な役人。」 |
楊震 |
(王密)=県令 ←金十斤 ←「夜で誰も知らない。」 ←(友人)生計のため実業を進める |
その他 |
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主題 物欲に流されない、楊震の清廉潔白な態度
解答
一
楊震、年已に五十余、荊州の刺史、東莱の太守に累進す。郡に之くに当たり、道昌邑を経。故挙ぐる所の荊州の茂才王密昌邑の令と為り、夜金十斤を懐にして以て震に遣る。震曰く、「故人君を知るに、君故人を知らざるは、何ぞや。密曰く、「暮夜知る者無し。」と。震曰く、天知り、地知り我知り、子知る。何ぞ知る者無しと謂はんや。」無と。密愧ぢて出づ。
後涿郡の太守に転ず。性公廉子孫常に蔬食・歩行す。故旧或いは為に産業を開かしめんと欲するも、震肯ぜず。
曰く、「後世をして称して清白の吏の子孫為らしめん。此を以て之に遣らb亦た厚からずや。」と。
三 1 ようしn 2 るいせん 3 しょうゆう 4 きん 5 こじん 6 おく
7 ぼや 8 い 9 は 10 そし 11 こきゅう 12 がえん 13 ま
14 り 15 も
四 1 次々に昇進していく。 2 才能の優れた人材。 3 旧友。 4 夜中。
5 はじる。 6 粗末な食物。 7 以前からの知り合い。 8 夫または妻の父。
9 身分の高い人が低い人を呼ぶ語。 10 私利私欲がなく行いが清らかであること。
五 1 疑問 なにぞ〜どうして〜だ
2 反語 なにぞ〜や どうして〜だ
3 使役 令AB AをしてBせしむ AにBさせる 4 使AB AをしてBせしむ AにBさせる
5 詠嘆 また〜ずや なんと〜ではないか
六 1 賄賂を贈り便宜を図ってもらおうとした。
2 2楊震 3昌邑
4 (1)楊震 昌邑
(2)秘密裏に物事を行っても必ず露見する。
5 不正をしようとしたことがはずかしかったから。
6 楊震 が公正で清廉であるために、財産がなく贅沢できないので。
7 「使後世称為製清白吏子孫」 8 子孫