不入虎穴不得虎子 班超伝
語釈
1
班超は西域への道を求めてA鄯善に到着した。当初、鄯善王の広は班超を手厚くもてなしていたが、B匈奴の使節が到着してからは急に粗略になった。そのことに気付いた班超は、匈奴の使節を急襲することを決意する。
チ ザシ ヲ ク シ ノ ヲ
超 及 閉 C侍 胡、 悉 会 其 D吏 士 三 十 六 人、
二 一 二 一
ニ ニ ス ニシテ リテ シテ ク
与 共 飲。酒 酣 因1激 怒 曰、
ガ ニ ルハ ニ スレバナリ テ ヲ テ メント ヲ
「Eク 曹、与 我 倶 在 絶 域、欲 立 大 功 以 求 富 貴。
レ 二 一 シタ 二 一 中 上
ノ ヒ ルコト ニ ナルニ モ ノ チ サル
今 F慮 使 到 裁 数 日、而 王 広 G礼 敬 即 廃。
シ ムレバ ヲシテ メテ ガ ヲ ラ ニ
21如 2令 鄯 善 収 H吾 属 送 匈 奴、
下 二 一 中 上
ク ラン ノ ト
3I骸 骨 長4為 豺 狼 食 矣。
二 ト
スコト ヲ ト
5為 之 3 奈 何。」
レ
ク リ ニ ハン ニ
J官 属 皆 曰「今 在 危 亡 之 地。6死 生 従 司 馬。」
二 一 ニ 一
(注)@班超 32〜102年。後漢の将軍。『漢書』の撰者班固の弟。明帝のとき、西域に使いして武功をたて、定遠侯に封じられた。A鄯善 西域の国名。もとは楼蘭。今の新疆ウイグル而tく鄯善県の南東、ロブ湖の南にあった。B匈奴 蒙古地方を根拠地にして中国を脅かした遊牧伊庭民族。C侍胡 鄯善国の接待係。D吏士 役人。Eク曹 おまえたち。F慮 ここでは匈奴をさす。G礼敬 敬意のある待遇。H吾属 我々一行の意。I骸骨 ここでは身体の意。J官属 各官庁の長官直属の官吏。ここでは班超の部下の意。K司馬 軍事を司る官。このとき、班超は仮司馬であった。
一 書き下せ。
二 口語訳。
超はそこで鄯善国の接待係を閉じ込め、役人三十六人とともに飲んだ。酒がたけなわになるころ激怒して言うことに、「おまえたちは、私とともに絶境にいるのは、大きな手がを立て富貴になろうとするからだ。今匈奴の使いがやってきて僅か数日なのに王広の敬意のある待遇はなくなった。もし鄯善に我々一行を匈奴に送らせるならば、身体は長く山犬や狼の餌となるだりう。一帯どうしたらよいか。」と。部下は皆言うことに、「今亡びそうな状態ある。班超に命を預ける。」と。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 虎穴 2 虎子 3 及 4 悉 5 吏士 6 与 7 倶 8 而 9 匈奴 10 豺狼
11 奈何 12 官属
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 絶域
2 大功
3 豺狼
4 危亡
5 死生
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 如
2 令
3 奈何
六 傍線部1〜5の問いに答えよ。
1 この理由を示す一文を抜き出せ。
2 意味を記せ。
3 誰の身体か。
4 どういうことを言っているか。
5 意味を記せ。
6 どういうことかわかりやすく説明せよ。
解答
一
一超及ち侍胡を閉ざし、悉く其の吏士三十六人を会し、与に共に飲す。酒酣にして、因りて激怒して曰く、「クが曹、我と倶に絶滅に在るは、大功を立て以て富貴を求めんと欲すればなり。今慮の使ひ到ること裁か数日、而も王広の礼敬即ち廃る。如し鄯善をして吾が属を収め匈奴に送らしむれば、骸骨長く豺狼の食と為らん。之を為すこと奈何。」と。官属皆曰く「今危亡の地に在り。死生司馬に従はん。」と。
三 1 こけつ 2 こじ 3 すなわ 4 ことごと 5 りし 6 とも 7 とも
8 しか 9 きょうど 10 さいろう 11 いかん 12 かんぞく
四 1 外国。 2 大きな手がら。 3 山犬と狼。 4 危うくなって滅びる。
5 死ぬこと生きること。
五 1 仮定 もし〜ば もし〜ならば
2 使役 令AB AをしてBせしむ AにBさせる 3 疑問 いかん どうする
六 1 「今慮使到裁数日、而王広礼敬即廃。」
2 もし我々一行が鄯善につかまって匈奴に送られるとしたら。
3 班超達。 4 殺されてしまう。 5 一帯どうしたらよいか。
6 班超に命を捧げる事。
2
ク ンバ ラ ニ ヲ
超 曰、「1不 入 虎 穴,不 得 虎 子。
レ 二 一 レ 二 一
ハ リ ルノミ リテ テ ヲ ムル ヲ
當 今 之 計、1獨 有 因 夜 2以 火 攻 虜、
二 レ レ 一レ
メバ ヲ ラ ラ ガ ヲ ズ イニ シ キ ス
2使 彼 不 知 我 多 少、必 大 震 怖、可 @殄 盡 也。
二 一レ 以t 二 一
サバ ノ ヲ チ リキ ヲ リ タタント
滅 此 虜、則 鄯 善 破 膽、3功 成 事 立 矣。」
二 一 レ
ニ キ ヲ キテ ル ノ ニ
初 夜、4遂 5将 吏 士 往 奔 慮 営。
二 一 一
イニ フク メ ヲシテ チ ヲ レ ノ ノ ニ
会 会 天 大 風。超 3令 十 人 持 鼓 蔵 慮 舎 後、
シテ ク
約 曰、
バ ノ ユルヲ ニ ラシ ヲ イニ ブ
「見 火 然、皆 4当 鳴 鼓 大 呼。
二 一 二 レ 一
シ
ハ ク チ ヲ ミテ ヲ セヨ
余 人 悉 持 弓 弩 夾 門 而 伏。
二 一 レ
チ ヒテ ニ チ ヲ ス
超 及 順 風 縦 火 前 後 A鼓 噪。
レ レ
ノ ス ラ スルコト
慮 衆 驚 乱。超 手 格 殺 三 人、 吏 兵
ルコト ノ ヒ ビ ヲ
斬 其 使 及 従 士 三 十 余 級。
二 一 一
ノ ク ス
余 衆 百 余 人、 悉 焼 死。
イテ ニ シ ヲ テ ノ ヒノ ス ニ
超 於 是 召 鄯 善 王 広 以 慮 使 首 示 6之。
レ ニ 一 二 一
ス シ ゲテ ス ニ レ ヲ ス ト
7一 国 震 怖。超 暁 告 撫 慰。遂 8納 子 為 質。
レ レ
(注)@殄盡 滅ぼし尽くす。A鼓噪 太鼓などを鳴らして騒ぐ。
一 書き下せ。
二 口語訳。
2 班超が言うには「危険を冒さなければ、成功することはない。今の計略としては、夜に鄯善(服属後の匈奴の一支族)の使者の宿営を、火攻めにすることがあるだけである。相手にこちらの勢力を知られなければ、必ず恐怖に駆られ全滅するだろう。この使者を滅ぼせば鄯善は驚いて、(漢の勢いを示すことが)うまくいく。」
午後八時ごろ、とうとう役人を連れて匈奴の陣営に行く。たまたま大風が吹く。趙は十人に鼓を持ち、匈奴の建物の後ろに隠れさせ打ち合わせして言うことに、「火が燃えるのを見たら、皆当然太鼓を打ち鳴らし大叫びせよ。残りの人は皆弓矢を以て門を挟んでふせていろ。」
超は」そこで風に従って火を放ち前後を太鼓などを鳴らして騒ぐ。匈奴の人々は驚き慌てる。趙は自ら手で伐殺す人三人、兵はその使いの者従士ヲ三十余り首を切る。余りの衆百余人全て焼死する。
超はこう言う訳で、鄯善王広を呼び、匈奴の使いに首を見せる。一国は震え上がった。超はいたわり慰める。
子を人質として差し出した。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 当今 2 因 3 震怖 4 殄盡 5 遂 6 将 7 奔
8 余人 9 弓弩 10 夾 11 伏 12 縦 13 鼓噪
14 驚乱 15 是 16 召 17 暁 18 撫慰 19 納 20 為
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 当今
2 多少
3 震怖
4 初夜
5 然
6余人
7 弓弩
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 独
2 使
3 令
4 当
六 傍線部1〜8の問いに答えよ。
1 意味を記せ。
2 火攻めにした理由を記せ。
3 具体的にどのようになることか。
4 意味を記せ。
5 主語を記せ。
6 指示内容を記せ。
7 この理由を述べよ。
8 主語を補って口語訳せよ。
1 2 |
節 |
もてなさない。 「匈奴を火攻めにするぞ。」
36人の部下と火攻め。 → |
班超 |
←もてなす ←匈奴の使いをもてなす。 後漢に服属する。 |
鄯善 広(王) |
主題 不入虎穴不得虎不得虎子
原義―虎住む穴に入らなければ虎の子を生け捕りにすることはできない。
転義―危険をおかさなければ大きな成果は有られない。
解答
一
2超曰く、「虎穴に入らずんば虎子を得ず。当今の計、独だ夜に因って火を以て虜を攻むることあるのみ、彼をして我が多少なるを知らぜしむれば、必ず大いに震怖し、殄盡すべし。この虜を滅すれば即ち鄯善破膽し、成事をなす功ならん。」
と。
初夜、遂に吏士を将き往きて吏の営に奔る。会会天大いに風吹く。超十人をして鼓を持ち慮の舎の後に蔵れ、約して曰く、
「火の然ゆるを見ば、皆当に鼓を鳴らし大いに呼ぶべし。余人は悉く弓弩を持ち門を夾みて伏せよ。
超及ち風に順ひて火を縦ち、前後鼓噪す。慮の衆驚乱す。超手ら格殺すること三人、吏兵其の使ひ及び縦士を斬ること三十余級。余の衆百余人悉焼死す。超是に於いて鄯善王を召し、慮の使ひの首を以て之に示す。一国震怖す。超暁し告げて撫慰す。遂に子を納れ子を質と為す。
三 1 とうこん 2 よ 3 しんぴ 4 てんじん 5 つい 6 ひき
7 はし 8 よじん 9 きゅうじ 10 さしはさ 11 ふ 12 はな
13 こそう 14 きょうらん 15 ここ 16 め 17 さと 18 ぶい
19 い 20 な
四 1 ただ今。 2 多いと少ないと。 3 ふるえ恐れる。 4 戌の刻の称。今の午後八時ご
ろ。 5 燃やす。 6 残りの人。 7 普通の弓といしゆみ。 弓一般。
五 1 限定 独り〜のみ ただ〜だけ
2 使役 AをしてBっせしむ AにBさせる 3 使役 AをしてBっせしむ AにBさせる
4 再読文字 当に〜べし 当然〜すべきである
六 1 原義―虎の住む穴に入らなければ虎の子を生け捕りにすることはできない。
転義―危険を犯さなければ大きな成果は得られない。
2 匈奴を混乱させ自軍の人数が少ないことを知られないするため。
3 鄯善が班超等の行動に恐れをなし、漢に服属するようになること。
4 こうして。 5 班超。6 鄯善王。
7 僅か四十人弱で四倍の匈奴を倒すだけの実力が想像できないほどだったため。
(鄯善王は)子を人質として漢に差し出した。