先従隗始 燕巻第九 四五四
語釈
テテ ヲ ス ト レヲ ス ト
1 燕 人 立 太 子 平 為 君。是 為 @昭 王。
ニ 一 レ ニ 一
ヒ ヲ フ ヲ クシ ヲ クシテ ヲ テ ク ヲ
1A弔 死 問 生、 B卑 辞 厚 幣、以 招 賢 者。
レ レ レ レ ニ 一
ヒテ ニ ク リテ ノ ルルニ ヒテ ル ヲ
問 C郭 隗 曰、「斉 因 D孤 之 国 乱、而 襲 破 燕。
ニ 一 ニ 一 レ
メテ ル ノ ニシテ ルヲ ラ テ ズルニ
孤 2極 知 燕 小 不 足 以 3報。
ニ 一レ ニ 一
ニ テ ヲ ニ ニシ ヲ テ グハ ヲ ヒ
誠 得 賢 士 与 E共 国 以 雪 4先 王 之 恥、孤 之 願 也。
ニ レ ニ 一
セ ナル ヲ ント フルヲ ニ
先 生 視 F可 者。G得 身 事 5之。」
ニ 一 ニ 一レ
ク ニ リ テ ヲ ムル ヲシテ ノ
2隗 曰、「6古 之 君 有 以 千 金 1使 H涓 人 求 7千 里
下 ニ 一 三 ニ
ヲ ヒテ ノ ヲ ニ ル ル ク
馬 者。買 8死 馬 骨 五 百 金 而 返。9君 怒。涓 人 曰、
一 ニ 一
スラ ツ フ ヲ ンヤ ケル ヲ ニ ラント
『死 馬 2且 買 之。況 生 者 乎。 10馬 今 至 矣。』
レ
シテ ナラ ノ ル アリ
不 期 年、I千 里 馬 至 者 三。
ニ 一
ズ セバ サント ヲ ヅ リ メヨ
今 王 必 欲 致 11士、12先 従 隗 始。
レ レ レ
ンヤ ナル ヨリ ニ シトセン ヲ
3況 賢 於 隗、者 3豈 遠 千 里 哉。」
ニ 一 ニ 一
イテ ニ ニ ノ メテ キ ヲ ス ニ
於 是 昭 王 為 隗 改 築 宮、師―事 13之。
レ レ レ ニ 一
イテ ニ ヒテ ク ニ
於 是 士 争 趨 燕。
レ レ
(注)@昭王 BC311〜BC279年在位。A弔死問生 戦死者を弔い、生存者を見舞う。B卑辞厚幣へりくだった言葉づかいをし、多くの礼物を用意する。C郭隗 生没年未祥。燕の賢者。D孤 諸侯の自称。E共国 国事を相談する。F可者 ふさわし人物。G得身事之 ぜひその人に師事した。H涓人 君主の側近くに仕え、雑用や掃除に従事する人。I千里馬 一日に千里を走るほどの名馬。
一 書き下せ。
二 口語訳。
1 燕の国は太子の平を立てて王とした。これが昭王である。戦死者を弔い、生存者を見舞い、へりくだった言葉遣いをし、多くの礼物を用意して、賢者を招聘しようとした。昭王は郭隗にたずねて、「斉はわが国の混乱につけこんで、燕を攻め破った。燕が小国で、報復できないことをよく承知している。(そこで)ぜひとも賢者を味方に得て、その人物と共に政治を行い、先代の王の恥をすすぐことが、私の願いである。先生、それにふさわしい人物を推薦していただきたい。私自身その人物を師としてお仕えしたい」と言った。
2 郭隗は、「昔の王で、涓人に千金を持たせて、一日に千里走る名馬を買いに行かせた者がおりました。(ところが、涓人は)死んだ馬の骨を五百金で買って帰って来ました。王は怒りました。涓人は言いました『(名馬であれば)死んだ馬の骨でさえ(大金を出して)買ったのです。まして生きている馬だったらなおさら(高く買うに違いないと世間の人は思うことでしょう)。千里の馬はすぐにやって来ます』と。一年もたたないうちに、千里の馬が三頭もやって来ました。今、王がぜひとも賢者を招き寄せたいとお考えならば、まずこの隗からお始めください。(そうしたら)私より賢い人は、どうして千里の道を遠いと思いましょうか。(いや、遠いと思わずにやって来るでしょう。)」と答えた。そこで昭王は、隗のために新たに邸宅を作って隗に師事した。そこで、賢者たちは先を争って燕に駆け付けた。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 燕人 2 弔 3 郭隗 4 与 5 雪 6 之 7 涓人 8 況 9 為 10趨
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 君
2 賢者
3 賢士
4 雪
5 期年
6 士
7 師事
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 使
2 且〜況〜乎
3 豈〜哉
六
1 何のためにこうしたか。
2 修飾している語を抜き出せ。
3 何に報じるのか。
4 指示内容を記せ。
5 指示内容を記せ。
7 「千里馬」、8「死馬骨」はそれぞれ暗に何を指すか。
9 なぜ怒ったか。
10 どういうことか。
11 「士」12 「隗」はそれぞれたとえ話の部分では何に当たるか。
12 どういうことか。
13 指示内容を記せ。
1 燕国 檜(王)=無能 乱脈政治 斉の攻撃で殺される。
昭王 =使者を弔い生存者を見舞う。賢者を招く。集まらない。
「燕は小国だから報復できない。賢者を招いて強くしたい。ふさわしい人を推薦して
くれ。」
2 隗 「ある君主 千金=千里馬
涓人 五百金=死馬骨
生きている馬なら高く買う。
一年の内に三匹の千里馬
賢者を招くなら隗を採用しろ
昭王 隗に邸宅を建ててやり、師事する
賢者は来る
主題 優れた者を求めるにはそれより劣った者を優遇すればよい。
解答
一1
燕人 太子平を立てて君と為す。是れを昭王と為す。死を弔ひ生を問ひ、辞を卑 くし幣1を厚くして、以つて賢者を招く。郭隗 に問ひて曰はく、「斉は孤2の国の乱るるに因りて、襲ひて燕を破る。孤極めて燕の小にして以つて報孤の願ひなり。先生可なる者を視
せ。身之に事 ふることを得ん。」と。
2
隗曰はく、「古 の君に千金を以つて涓人 3をして千里の馬4を求めしむる者有り。死馬の骨を五百金に買ひて返る。君怒る。涓人曰はく、『死馬すら且つ之を買ふ。況
んや生ける者をや。馬今に至らん』と。期年5ならずして、千里の馬至る者三有り。今、王必ず士を致さんと欲せば、先
づ隗より始めよ。況んや隗より賢なる者、豈に千里を遠しとせんや。」と。是に於いて昭王隗の為に改めて宮を築き、之に師事す。是に於いて士6争ひて燕に趨そこで昭王は、郭隗のために新たに邸宅を造って郭隗に師事した。その結果、賢者たちは先を争って燕に駆けつけた。
三 1 えんひと 2 とむら 3 かくかい 4 とも 5 すす 6 これ 7 けんじん
8 いわ 9 ため 10 おもむ
四 1 天子。 2 才能に優れ人徳がある人。 3 徳行と知恵に優れた人。
4 (恥を)そそぐ。雪辱。 5 万一年。 6 才能、胆力、識見を備えた人。
7 先生としてその人に仕える。
五 1 使役 使AB AをしてBせしむ AにBさせる
2 抑揚 Aすら且B況やCをや AでさえもBだ。ましてCはなさらBだ
3 反語 あに〜んや どうして〜か(いや〜ない)
六 1 王として民衆の心をつかむため。 2 「知」。3 斉国。 4 噲王。
5 可者。 6 「至者三」。7 賢者 賢士 士 8 隗。
9 死んだ馬の骨を大金を出して買ったから。
10 千里馬の持ち主は必ずやってくる。 11 千里馬。 12 死馬骨。
12 自分を賢者として優遇すること。 13 隗。