狐借虎威 巻第五 一七五
語釈
ノ ヒテ ニ ク ク ルルヲ ヲ
1@荊 宣 王 問 群 臣 曰、「吾 聞 北 方 之 畏 A昭 奚 恤 也。
ニ 一 ニ 一
タシテ ニ ト シ フル
果 誠 1何 如。」 群 臣 莫 對。
レ
ヘテ ク メテ ヲ フ ヲ タリ ヲ
2 B江 乙 對 曰、「虎 求 C百 獸 而 食 1之。得 狐。
ニ 一 レ レ
ク カレ ヘテ ラフ ヲ ム wシテ タラ ニ
狐 曰、『子 2無 敢 食 我 也。D天 帝 3使 2我 長 百 獸。
ニ 一レ 三 ニ 一
ラハバ ヲ レ ラフ ニ
今、 子 食 我 、是 逆 3天 帝 命 也。
レ ニ 一
テ ヲ サバ ト ナラ ニ ノ セン
4子 以 我 爲 不 信、吾 爲 子 先 行。
レ レ レ レ
ヒテ ガ ニ ヨ ルヤ ヲ ヘテ ラン ラ ト
子 隨 我 後 觀。百 獸 之 見 我、而 4敢 不 走 乎。』
ヘラク リト ニ ニ ク テ ヲ ル
虎 5以―爲 6然。故 E遂 與 7之 行。8獸 見 之 皆 走。
レ レ
ル ラ ノ レテ ヲ ルヲ ヘラク ルル ヲ
虎 不 知 獸 畏9 己 而 走 也。以 爲 畏 狐 也。」
レ ニ 一 レ
アリテ
3 今、王 之 地、方 五 千 里、F帶 甲 百 萬、
ラ ス ヲ ニ ニ ルルハ ヲ
而 專 屬 之 昭 奚 恤。故 北 方 之 畏 奚 恤 也、
ニ 一 ニ いい
ノ ルルコト ヲ ルルガゴトキナリ
其 實 畏 王 之 甲 兵 也、猶 10百 獸 之 畏 虎 也。
ニ 一 レ
(注)@荊 楚の国。A昭奚恤 楚の宰相。B江乙 魏出身。昭奚恤のライバル。C百獸 あらゆるけだもの。D天帝 天地を支配する神。E遂 そのまま。F帶甲 よろいを着た兵士。
一 書き下せ。
二 口語訳。
1 楚の宣 王が群臣に尋ねて言うことに、「私は北方の昭奚恤を恐れるということを聞いている。
本当か?」と。群臣は答えない。
2 江乙が答えて言うことに、「虎は多くのけだものを食う。狐を見つけた。
「虎はどんな獣でも捕らえて食べる。ある時、虎を食べようとした。狐が言うには、
『あなたは決して私を食べてはいけない。天の神は、私を百獣の長(おさ)にしたからだ。
いま、あなたが私を食べてしまえば、それは天帝の命(めい)に背(そむ)くことになる。
あなたが私の言うことを信じられないのならば、私があなたの前を歩いて行く。あなたは私の後からついて来て見ろ。どんな獣も私を見て逃げ出さずにいられるか(いやきっと逃げる)』と。
虎はもっともだと思い、そこで狐について行くことにした。
獣たちはその様子を見ると、皆逃げた。
虎は皆が自分を畏れて逃げたのだということに気付かず、
狐を畏れているのだと思った。」
3 今、王の土地は五千里ある。鎧を着た兵士は百万人いる。専らこれを 昭奚恤に任せている。だから、北方の昭奚恤を恐れるのは、王の兵を恐れるのだ。百獣が虎を恐れるようなものだ。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 荊 2 昭奚恤 3楚 4 宰相。5 江乙 6 帶甲 7 然
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 子
2 長
3 先行
4 故
五 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。
1 何 如
2 無 敢
3 使
4 敢 不
六 傍線部1〜10の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 指示内容を記せ。
3 (1)どのような内容か。
(2)「命」と同じ意味の熟語を記せ。
4 (1)「以 為」の読みと意味を記せ。
(2)「子」「我」の指示内容をそれぞれ記せ。
5 読みと意味を記せ。
6 指示内容を具体的に記せ。
7 指示内容を記せ。
8 なぜか。
9 指示内容を記せ。
10 何を例えているか。
1 荊宣王 Q「北方の昭奚恤を恐れる?」
群臣 答えない。
2 江乙 A「虎は百獣を食べる。狐を食べよう。
狐『私は王だ。獣は私を見て逃げる。ついてこい。』
3 虎 狐を見て逃げると思う。
主題 弱者が強者の威光を借りていばる。
解答
一
1 荊の宣王、群臣に問いて曰く、吾、北方の昭奚恤を畏るるを聞く。果たして誠に何如、と。群臣対うる莫し。
2 江乙対えて曰く、虎、百獣を求めて之を食らう。狐を得たり。狐曰く、子敢えて我を食らうこと無かれ。天帝、我をして百獣に長たらしむ。今、子、我を食らわば、是れ天帝の命に逆らうなり。子、我を以て信ならずと為さば、吾、子の為に先行せん。子、我が後ろに随いて観よ。百獣の我を見て、敢えて走らざらんや、と。虎、以て然りと為す。故に遂に之と行く。獣之を見て皆走る。虎、獣の己を畏れて走るを知らざるなり。以為えらく狐を畏るるなり、と。
3 今、王の地、方五千里、帯甲百万ありて、専ら之を昭奚恤に属す。故に北方の奚恤を畏るるは、其の実、王の甲兵を畏るること、猶お百獣の虎を畏るるがごときなり、と。
三 1 けい 2 しょうけいじゅつ 3 そ 4 さいしょう 5 こういつ
6 たいこう 7 しか
四 1 あなた。 2 首領。かしら。 3 先に行く。 4 そこで。
五 1 疑問 いかん どのようであるか 2 強い否定 あえてあ〜ず 決して〜ない
3 使役 使AB AをしてBせしむ AにBさせる
4 反語 あえた〜ざらん どうして〜ないだろうか(いやきっと〜する)
六 1 百獣。 2 狐。 3 (1)狐を百獣の王としたこと。(2)命令。
4(1) もって〜なす としている (2)子―虎。我―狐。
5 おもえらく と思う。
6 動物たちが狐をみて逃げたら、狐が百獣の王である証拠だと言うこと。
7 狐。 8 狐の後ろにいる虎を恐れたから。 9 虎。
10 虎―荊宣王。狐―昭奚恤。百獣―民衆。