刎易之交                     廉頗相如列伝第二十一

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語釈

リ   テ        ヲ   ス         ト 
趙 王 帰、以 @相 如 為 A上 卿。

     二       一   二        一

リ        ノ   ニ        ク       リ   ノ   ト
在 B廉 頗 右。 頗 曰、「我 為 趙 将、

二            一                 二      一

  リ 

有 攻 城 野 戦 之 功。

二                     一

ハ          ナリ    ダ    テ      ヲ   ルノミ ガ   ニ        
相 如 素 賤 人。1 2以 口 舌 居 我 上。

                      二      一   二      一

ヅ  ルヲ     ガ   ニ      バ      ヲ      ズ メント  ヲ 
吾 羞 為 3 下。我 見 相 如、4必 辱 之

      レ  二        一       二      一         レ

キ     ヲ    ニ   スル  ニ  シテ  ト      セ   ニ     フヲ  ヲ  
相 如 聞 5、C毎 朝 常 称 病、不 欲 与 D争 列。

レ              レ         レ       レ  二         一レ

デテ       sレバ  チ  キテ  ヲ   ケ  ル    ノ               テ   ス  ト
出 6望 見、輒 引 車 避 匿。其 舎 人 皆 7以 為 恥。

                  レ                                  レ

ク    レ  ッテスラ       ヲ                シ     ヲ
相 如 曰、「夫 以 秦 之 威、相 如 E廷―叱 8

         二         一             二        一

  ム          ヲ          モ     ンwリト  リ  レン        ヲ

辱 其 群 臣。相 如 雖 F駑、2 畏 廉 将 軍 

  二         一            レ            二            一

ヘラク        ノ     ル   ヘテ  ヘ  ヲ       ニ      ダ   テ   ガ      ノ     
顧 念 強 秦 3不 敢 加 兵 於 趙 者、徒 以 吾 両 人 在

                    三      ニ          一           二             一

                    ニ   ハバ  ノ  ヒ        ニハ  キ

也。今 10両 虎 共 闘 其 勢 4不 倶 生。

 二    一


                 ス  レヲ      ニシテ                ヲ      ニスレバ       ヲ

吾 所―以 11為 此 者、先 12国 家 之 急、而 後13G私 讐

      二         一レ           ニ                一       二         一

   ト      キ   ヲ             シテ  ヒ   ヲ  リテ  ニ   シ   ヲ   ニ  ス         

也。」頗 聞 之、14H肉 袒 負 荊 詣 門 謝 罪、遂 為 刎 頸

           レ                  

   ノ   ハリヲ

 之 交。


(注)@相如 生没年未祥。寵臣謬賢の家来であったが、賢の推薦に依って恵文王に仕え、外交使節として活躍した。A上卿 上席の卿。卿は国政を司る者。 B廉頗 BC283〜BC240?。趙の武将。C毎朝 朝廷に出仕する必要のある度に。D争列 朝廷での席次の上下を争う。E廷叱 (秦の)朝廷でしかりつける。F駑 のろい馬。転じて愚か者の意。G私讐 個人的な恨み。H肉袒負荊 諸肌ぬぎになり、背に茨の無知を背負う。撃たれる覚悟を示して、深く罪を詫びる。

 

一 書き下せ。

 

 

二 口語訳。

趙王は国に帰ると、相如を上卿に任じた。その地位は廉頗より上位であった。
廉頗は、「私は、趙の将軍となって、攻城野戦の功績がある。相如は元々身分の低い者である。
ただ口先の働きだけで、私の上席にいる。私は相如の下位にいることを恥ずかしく思う。
私は相如に出会ったら、必ず辱めてやろう。」と言った。
相如はこれを聞いて、朝廷に出仕すべき必要のあるごとに、いつも病気といつわって席次の上下を争うことを望まなかった。また外出して遠くに見かけると、そのたびごとに車を引き返して避け隠れた。
相如の家来たちは皆この態度を恥であると思った。
相如が言うには、
「そもそも秦王の威力をもってしても、私は朝廷で秦王をしかりつけて、その群臣を辱めた。
私は愚かな者ではあるが、どうして廉将軍をおそれようか。(いや、おそれない。)よく考えてみるに、強国の秦がすすんで趙に兵力を加えようとしないのは、ただ我々二人がいるからだ。今、二頭の虎がともに争ったならば、そのなりゆきとして両方とも生き残るというわけにはいかない。
私がこのようにする理由は、国家の危急を第一に考え、個人的な恨みを後まわしにするからである。」と。
廉頗はこのことを伝え聞いて、肌ぬぎになっていばらの鞭を背負い、相如の家を訪れて心から罪を詫び、
とうとう二人は首をはねられても悔いないというような親しい交わりを結んだ

 

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 趙 2 相如 3 為 4 賤人 5 徒 6 口舌 7 与

 

8 輒 9 夫 10 廷叱 11 群臣 12 雖 13 所以 14 詣 

 

15 刎頸之交

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 賤人

 

2 舎人

 

3 私讐

 

4 所以

 

5 刎頸之交

 

  同様の故事成語を記せ。

 

五 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。

 

1 徒

 

2 独〜哉

 

3 不 敢

 

4 不 倶

 

 

 

六 傍線部1〜13の問いに答えよ。

 

1 同じような意味を表している個所を三字で抜き出せ。

 

2 (1)どういうことか。

 

  (2)「口舌」と対比的に用いられている表現を五字以内で抜き出せ。

 

3 指示内容を抜き出せ。

 

4 「之」が具体的に分かるように訳せ。

 

5 指示内容を記せ。

 

6 (1)なにをか。

 

  (2)同じ意味の熟語を記せ。

 

7 読みと意味を記せ。

 

8 指示内容を記せ。

 

9 内容はどこからどこまでか。

 

10 何か。

 

11 どういうことか。

 

12 何か。

 

13 何か。

 

14 こういう行動をとったのは、廉頗が相如のどの言葉に感動したからか十字以内で抜き出せ。

 

構成

 

 

 

 

 

「戦いで手がらをたてた。相如は身分が

 低い。口先で上席に居る。会ったら辱

めてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                親しい

 

廉頗   下

 

 

趙王は上卿にした

 

 

 

 

 

この事を聞く。仮病で休む。相如を見ると隠れた。

 

近臣=恥と思う。

 

「秦王を叱り、群臣を辱めた。愚かだが廉将軍を恐れない。

考えてみると強国の秦が趙に兵を加えないのは、二人がいるからだ。二人が争ったら両方とも生き残ることはない。

逃げ隠れるわけは国家の危急を第一に考え恨みを後ましにするからだ。」

 

 

 

交わり

 

 

 

 

 

 

 

相如   上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題

 

 

 

主題 相如の真意に打たれた廉頗は謝罪し、刎頸の交わりを結ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

解答



帰り、相如を以つて上卿と為す。廉頗の右に在り。頗曰はく、「我 趙の将と為り、攻城野戦の功 有り。
相如は素 賤人なり。徒だ口舌を以つて我が上に居るのみ。吾 之が下たるを羞づ。我 相如を見ば、必ず之を辱めん。」と。
相如 之を聞き、朝する毎に常に病と称して、与に列を争ふを欲せず。出でて望見すれば、輒ち車を引きて避け匿る。其の舎人 以つて恥と為す。
相如曰はく、「夫れ秦の威を以つてすら、相如 之を廷叱し、其の群臣を辱む。相如 駑なりと雖も、独り廉将軍を畏れんや。顧念ふに強秦の敢へて兵を趙に加へざるは、徒だ吾が両人の在るを以つてなり。
両虎 共に闘はば、其の勢ひ佝には生きざらん。吾 此れを為す所以は、国家の急を先にして、私讐を後にすればなり。」と。
之を聞き、肉袒して荊を負ひ、門に詣りて罪を謝し、遂に刎頸の交はりを為す。
三 1 ちょう 2 しょうじょ 3 な 4 せんじん 5 た 6 こうぜつ 7 とも

  8 すなわ 9 そ 10 ていしつ 11 ぐんしん 12 いえど 

13 ゆえん 14 いた 15 ふんけいのまじわり

四 1 身分の低い人。 

2 戦国時代から漢代初め、王侯や高官などの家に置かれた食客。

3 個人的なあだ。 4 理由。

5 たとえ相手のために首をはねられたとしても、悔いのないような深い親交。

  同様 水魚の交わり 管鮑の交わり

五 1 限定 ただ〜のみ ただ〜だけだ 2 反語 ひとり〜んや どうして〜か(いや〜ない)

  3 強い否定 あえて〜ず 決して〜しようとしない

六 1 「居吾上」 2(1)口先の外交によって功績をあげたこと。(2)「攻城野戦」

  3 相如。 4 私はきっと相如を辱めてやろ。

  5 「廉頗」。 6 (1)廉頗。(2)遠望。 7 もってなす。思う。

  8 秦おう。 9 「強秦不〜人在也。」

  10 強い二人の人物。 11 相如が廉頗を避け逃げ隠れること。

  12 趙が秦に侵略されること。 13 廉頗に恥をかかされること。

  14 「国家之急、而後私讐」