鶏鳴狗盗 猛嘗君列伝第十五 史記巻七十五
語釈
ノ
1 @靖 郭 君 田 嬰 者、斉 A宣 王 之 B庶 弟 1也。
ゼラル ニ リ フ ト
封 2於 C薛。有 子 曰 文。食 客 数 千 人。
二 一 レ レ
コユ ニ シテ ス ト
名 声 聞 於 諸 侯。D号 為 孟 嘗 君。
二 一 二 一
ノ キ ノ ヲ チ ヅ レ ヲ ニ テ ム ンコトヲ
2 秦 E昭 王、聞 1其 賢、乃 2先 納 F質 於 斉、以 求 見。
二 一 二 一 レ
レバ チ メ ヘテ ス サント ヲ ヲ
3至 則 止、囚 4欲 殺 之。孟 嘗 君。
レ レ
ム ヲシテ リテ ノ ニ メ カンコトヲ
3使 人 抵 昭 王 G幸 姫 求 解。
下 二 一 一レ
ク ハクハ ント ノ ヲ
姫 曰、「願 得 君 H狐 白 裘。」
二 一
シ テ テ ジ ニ シ ノ
I蓋 孟 嘗 君、5嘗 以 献 昭 王、無 他 裘 矣。
二 一 二 一
ニ リ ク ス ヲ リ ノ ニ リテ ヲ テ ズ ニ
客 有 能 為 狗 盗 者。入 秦 蔵 中、取 裘 以 6献 姫。
下 二 一 二 一 レ レ
ニ ヒテ タリ サルルコトヲ
7姫 為 言 得 釈。
レ
チ セ リ ジ ヲ ニ ル ニ
3 即 8馳 去、9変 姓 名、夜 半 至 J函 谷 関。
二 一 二 一
ノ キテ ニ ダス ヲ ル ノ ニ イテ ハンコトヲ ヲ
関 法、鶏 鳴 K方 出 客。恐 秦 王 後 10悔 追 11之。
レ 二 一レ
ニ リ ク ス ヲ ク ク
客 有 能 為 鶏 鳴 者。鶏 尽 鳴。
下 二 一 上
ニ ス ヲ デテ ニシテ フ タシテ ルモ バ
遂 L発 伝。出 M食 頃、追 者 果 至、而 N不 及。
レ レ
リテ ミ ヲ チ ヲ ル ニ
孟 嘗 君、帰 怨 秦、与 韓 魏 伐 12之、入 函 谷 関。
レ 二 一 レ 二 一
キテ ヲ テ ス
秦 割 O城 以 和。
レ
(注)@靖郭君田嬰 斉の宰相。田は姓。嬰は名。在位BC319〜301年。靖郭君と呼ばれた。A宣王 斉の君主。B庶弟 異母弟。C薛 今の山東省の地。D号為 と呼ばれた。E昭王 秦の君主。在位BC306〜BC251年。F質 人質。G幸姫 お気に入りの官女。H狐白裘 狐のわきの下の白毛で作った皮衣。I蓋 実のところ。J函谷関 関所の名。今の河南省北西部にあった。K方 その時に。L発伝 旅客を出発させる。「伝」は通行手形。M食頃 ごく僅かな時間。N不及 追いつけなかった。O城 城郭で囲まれた町。
一 書き下せ。
二 口語訳。
1 靖郭君田嬰という人は斉の宣王の異母弟である。薛に領地をもらって領主となった。子どもがいて(その名を)文という。食客は数千人いた。その名声は諸侯に伝わっていた。孟嘗君と呼ばれた。
2 秦の昭王がその賢明さを聞いて、人質を入れて会見を求めた。(昭王は孟嘗君が)到着するとその地にとどめて、捕らえて殺そうとした。
孟嘗君は配下に命じて昭王の寵姫へ行かせて解放するように頼ませた。寵姫は「孟嘗君の狐白裘がほしい」と言った。実は孟嘗君は狐白裘を昭王に献上していて狐白裘はなかった。食客の中にこそ泥の上手い者がいた。秦の蔵の中に入って狐白裘を奪って寵姫に献上した。寵姫は(孟嘗君の)ために口ぞえをして釈放された。
3 すぐに逃げ去って、氏名を変えて夜ふけに函谷関についた。関所の法では鶏が鳴いたら旅人を通すことになっていた。秦王が後で(孟嘗君を釈放したのを)後悔して追いかけてくることを恐れた。食客に鶏の鳴きまねの上手い者がいた。(彼が鶏の鳴きまねをすると)鶏はすべて鳴いた。とうとう旅客を出発させた。出てからまもなく、やはり追う者がやってきたが追いつくことはできなかった。孟嘗君は帰国すると秦をうらんで韓・魏とともに秦を攻めて函谷関の内側に入った。秦は町を割譲して和平を結んだ。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 鶏鳴狗盗 2 食客 4 諸侯 4 孟嘗君 5 狐白裘
6 献 7 能 8 函谷関 9 遂 10 食頃
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 鶏鳴
2 狗盗
3 鶏鳴狗盗
4 食客
5 諸侯
6 和
五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1 也
2 於
3 使
六 傍線部1〜12の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 昭王がこうした理由は何か。
3 主語を記せ。
4 なぜ殺そうとしたか。
5 何を「献」じたか。
6 主語を記せ。
7 (1)姫は誰のために何を言ったか。
(2)そして何をもらったか。
8 主語を記せ。
9 (1)主語を記せ。
(2)なぜか。
10 何を後悔するのか。
11 指示内容を記せ。
12 指示内容を記せ。
1 2 3 |
節 |
宣王(兄) 靖郭君田嬰(弟)―文(子) 孟素養薫=食客数千人 孟宗薫 使いの者「釈放して。」 食客(狗盗)=狐白裘を盗み、献上 → 函谷関 夜中 食客(鶏鳴)=鳴き真似 → 孟祥君=韓・魏を攻める |
斉 |
照王 ←監禁 幸姫 幸姫「狐白裘をくれ。」 ←幸姫=照王に言って助ける。」 役人=通行させる 照王=和睦 |
秦 |
主題 鶏鳴狗盗―つまらぬ技能の持ち主。。鶏鳴狗盗の輩などといって軽蔑的意味を込めて使う。
(参考)清少納言 小倉百人一首
夜をこめて鳥のそら寝ははかるとも夜に逢坂の関はゆるさじ
解答
一 1 靖郭 君田嬰 なる者は、斉の宣王の庶弟なり。薛に封ぜらる。子有り文と曰ふ。食客数千人。名声諸侯に聞こゆ。号して孟嘗君
と為す。
2 秦の昭王、其の賢を聞き、乃 ち先づ質を斉に納れ、もって見 んことを求む。至れば則ち止め、囚 へて之を殺さんと欲す。孟嘗君人をして昭王の幸姫3に抵 り解かんことを求めしむ。姫曰く、「願はくは君の狐白裘
4を得ん」と。蓋 し孟嘗君、嘗 てもって昭王に献じ、他の裘無し。客に能
く狗盗を為す者有り。秦の蔵中に入り、裘を取りて姫に献ず。姫為に言ひて釈 さるるを得たり。
3 即ち馳せ去り、姓名を変じ夜半に函谷関5に至る。関の法、鶏鳴きて方に客を出だす。秦王の後に悔いて之を追はんことを恐る。客に能く鶏鳴を為す者有り。鶏尽
く鳴く。遂に伝を発す。出でて食頃 にして、追う者果たして至るも及ばず。孟嘗君、帰りて秦を怨み、韓魏と之を伐ち函谷関に入る。秦城を割きて以て和す。
三 1 けいめいくとう 2 しょっきゃく 3 しょこう 4 もうしょうくん 5 こはくきゅう
6 けん 7 よ 8 かんこくかん 9 つい 10 しょっけい
四 1 鶏の鳴き声。 2 犬のように足音をたてずに忍んで盗みをするこそ泥。
3 つまらぬ技能の持ち主。「鶏鳴狗盗の輩」などと言って軽蔑する。
4 客分としてかかえられている私的な家来。(国))他人の家に養われている居候。
5 封建時代、天子から領地の所有を認められた国の君主。 6 和平を結ぶ。
五 1 断定。 2 対象。3 使役。使AB AをしてBせしむ AにBさせる
六 1 孟嘗君。 2 人質を送り込み、相手の警戒を解くため。
3 孟嘗君。 4 孟嘗君の賢明さに危機を感じたから。 5 狐白裘。 6 孟嘗君。
7 (1)孟嘗君のために彼を釈放すること。 (2)狐白裘。
8 孟嘗君。 9 (1)孟嘗君。 (2)知られないため。
10 孟嘗君を釈放したこと。 11 孟嘗君。 12 秦。