管鮑之交 管晏列伝第二巻第六十二
1
語釈
ノ キ ニ
@
管 仲 夷 吾 者、A潁 上 人 1也。少 時、常 与 B鮑 叔 牙
二 一
ブ ル ノ ナルヲ ニシテ ニ ク ヲ
游。鮑 叔 知 其 賢。管 仲 貧 困、常 欺 鮑 叔、
二 一 ニ 一
ニ ク シ ヲ テ サ ヲ
鮑 叔 終 善 遇 之、1不 以 為 言。
レ 二 一レ
(注)@管仲夷吾?〜BC645年。春秋時代の斉の太夫。字は仲。A潁上 潁水のほとり。今の安徽省潁上県付近。Bあわ美酒区木場 斉の太夫。叔芽は名。一般に名は叔。
一 書き下せ。
二 口語訳。
管仲夷吾は、潁水のほとり出身安徽省潁上県付近である。若いとき、鮑叔牙と仲がよかった。
そのため、鮑叔は管仲の賢さを知った。管仲は貧困しており、いつも鮑叔を欺いていたが、
鮑叔は最後まで彼を厚遇し、その行いに対して文句をいう事も無かった。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 管鮑之交 2 管仲夷吾 3 潁上 4 鮑叔牙 5 欺 6 以為
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 管鮑之交
2 欺
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 也
六 傍線部1の問いに答えよ。
1(1)人物関係を明らかにする語句を補って口語訳せよ。
(2)このような態度がとれた理由を示す一文を抜き出せ。
解答
一管仲夷吾は、潁上の人なり。少き時、常に鮑叔と游ぶ。
鮑叔其の賢なるを知る。管仲貧困にして、常に鮑叔を欺く、
鮑叔終に善く之を遇し、以て言を為さず。
三 1 かんぽうのまじわり 2 かんちゅいご 3 えいじょう 4 ほうしゅくが
5 あざむ 6 も な
四 1
五 1 断定 なり だ
六 1 管仲と鮑叔との親しい交際。両人は貧しかった時から富貴になるまでその友情が変わらなかった。転じて親密な交際のたとえ。
2 いつわる。騙す。詐欺。
2
ニ ヒラレ ズ ニ ニ
管 仲 既 用、任 政 於 斉。
二 一
ノ テ トナリ シ ヲ セシハ ヲ
@斉 桓 公 以 覇、A九―合 諸 侯、B一―匡 天 下、管 仲 之
二 一 二 一
ク
謀 也。管 仲 曰、
メ シ テ ス カツニ ヲ ク ラ フ
「吾 始 困 時、嘗 与 鮑 叔 賈。分 財 利 多 自 与。
二 一 ニ 一
テ ヲ サ ト レバ ノ ナルヲ
鮑 叔 不 以 我 為 貪。知 我 貧 也。
二 レ 一レ ニ 一
テ ニ ノ リテ ヲ ニ ス
吾 嘗 為 鮑 叔 C謀 事、而 更 窮 困。
二 一 レ
テ ヲ サ ト レバ ニ ルヲ ト ト
鮑 叔 不 以 我 為 愚。知 時 有 利 不 利 也。
レ レ 三 二 一
テ タビ ヘテ タビ ハ ニ テ ヲ サ ト
吾 嘗 三 仕 三 1見 逐 2於 君。鮑 叔 不 以 我 為 不 肖。
レ 二 一 二 レ 一レ
レバ ノ ハ ニ テ タビ ヒ タビ グ テ ヲ サ
知 我 不 遭 時 也。吾 嘗 三 戦 三 走。鮑 叔 不 以 我 為
三 二 レ 一レ
ト レバ ニ ルヲ レ シ ニ
怯。知 我 有 老 母 也。D公 子 糾 敗、E召 忽 死 之、吾 幽
三
セラレテ ク メヲ テ ヲ サ シト レバ ノ シテ ヂ ヲ
囚 受 辱。鮑 叔 不 以 我 為 無 恥。1知 我 不 羞 小 節、
レ ニ レ 一レ レ 下 レ ニ 一
ヅルヲ ノ ルヲ レ ニ
而 恥 功 名 不 顕 3于 天 下 也。
中 上レ 二 一
ム ヲ ハ ル ヲ ハ ト
生 我 者 父 母、知 我 者 2鮑 子 也。」
レ レ
(注)@斉桓公BC685〜BC643年在位。春秋時代の斉の君主。A九合 諸侯を集めて何度も盟約を結ぶ。B一匡 一つにまとめ秩序を正す。C謀事 ここでは、鮑叔のために画策したことを言う。D公子糾 桓公の庶兄。E召忽 斉の臣。公子糾の守り役。
一 書き下せ。
二 口語訳。
管仲は用いられることになり、斉に政治を任された。斉の桓公が覇者となり、諸侯を何度も集めて規約を結び天下を一つにまとめ上げ秩序を正すことができたのは、管仲の画策のおかげである。
管仲は言った、
「私は、かつて困窮したときに、鮑叔と店を開いて商売したことがある。利益を分配するとき、私は鮑叔より多くとった。だが、鮑叔は私を欲張りだと思わなかった。私が貧しいことを知っていたからである。
また、かつて鮑叔のために事を画策して失敗し、さらに困窮したことがある。だが、鮑叔は私を馬鹿だとは思わなかった。有利なときと、不利なときがあるのを知っていたからである。
私は、かつて多くの君主に使えたが、そのたびに君主に首にされた。
だが、鮑叔は私を愚か者だとは思わなかった。私が時代にあっていないことを知っていたからである。
私は、かつて三戦して三度とも逃げたことがある。だが、鮑叔は私を臆病だとは思わなかった。
私に老母がいることを知っていたからである。
公子糾は敗れ、召忽は殉死し、私が拘束され辱めを受けた。だが、鮑叔は私を恥知らずだとは思わなかった。私が小さな節義を守らないことを恥じず、
功名が天下に知られわたらないことを恥じるのを知っていたからである。私を生んでくれたのは両親であるが、私を知ってくれているのは鮑叔殿である。」
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 桓公 2 嘗 3 窮困 4 不肖 5 召忽 6 幽囚 7 功名
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 覇
2 賈
3 財利
4 貪
5 窮困
6 不肖
7 怯
8 幽囚
9 小節
10 功名
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 見
2 於
3 干
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 「小節」の具体的内容を示す部分を五字以内で抜き出せ。
2 管仲のことを「鮑叔」と呼んでいる心情は何か。
解答
一 管仲既に用ひられ、政に斉に任ず。斉の桓公以て覇となり、諸侯を九―合し、天下を一―匡せしは、管仲の謀なり。
管仲曰く、
「吾始め困しみし時、嘗て鮑叔と賈す。財利を分かつに多く自ら与ふ。鮑叔我を以て貪と為さず。我の貧なるを知ればなり。吾嘗て鮑叔の為に事を謀りて、更に窮困す。鮑叔我を以て愚と為さず。。時に利と不利と有るを知ればなり。吾嘗て三たび仕へて三たび君に逐る。鮑叔我を以て不肖と為さず。我の時に遭はざるを知ればなり。吾嘗て三たび戦ひ三たび走ぐ。鮑叔我を以て怯と為さず。我に老母有るを知ればなり。公子糾敗れ、召忽之に死し、吾幽囚せらられて辱めを愛く。
鮑叔我を以て恥無しと為さず。我の小節を羞じずして、功名の天下に顕れざるを知ればなり。
我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり。」と。
三 1 かんこう 2 かつ 3 きゅうこん 4 ふしょう 5 しょうこつ
6 ゆうしゅう 7 こうみょう
四 1 諸侯の長。特に武力によって天下を治める者。
2 商売にする。3 金もうけ。 4 よくばり。 5 苦しみ困る。
6 愚かな者。自己の謙称。 7 臆病。卑怯。 8 捉われて牢屋に閉じ込められること。
9 小さい事柄。小さい義理、節操。 10 手がらとほまれ。
五 1 受身 る れる 2 対象 3 場所
六 1 「吾幽囚受辱」
2 深い感謝の念と敬意を抱いている。「子」は男子の敬称。
3
ニ ズ ヲ テ ヲ ル ニ
1鮑 叔 既 進 管 仲、以 身 下 之。
二 一 レ レ
セラレ ニ ツ ヲ
子 孫 世 禄 1於 斉、有 封 邑 者 十 余 世、
二 一 二 一
ニ リ sテ トセ ヲ
常 為 名 @大 夫。天 下 不 A多 管 仲 之 賢、
二 一 レ 二 一
トスル ク ルヲ ヲ
而 多 鮑 叔 能 知 人 也。 『史記』巻六十二 管晏列伝第二1
二 一レ
(注)@大夫 官位にある者をさす。A多 賞賛する。
一 書き下せ。
二 口語訳。
鮑叔は既に管仲を推挙して、自らはその部下になっていた。子孫は代々、斉に禄を与えられ、封邑を保つこと十数世にわたり、常に名大夫として存在していた。
天下の人々は管仲の賢さを賞賛するよりも、鮑叔の人を見る目を賞賛した。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 既 2 封邑
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 封邑
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 於
六 傍線部1の問いに答えよ。
1(1)理由は何か。
(2)「之」は何を指すか。
(3)鮑叔のどのような人柄がうかがえるか。
解答
一 鮑叔既に管仲を進め、身を以て之に下る。子孫世斉に禄せられ、封邑を有つ者十余世、
常に名大夫為り。天下管仲之賢を多とせずして、鮑叔能く人を知るを多とするなり。
三 1 すで 2 ほうゆう
四 1 領地。封地。
五 1 対象。
六 1(1)管仲の能力を高く評価し、陰からその地価rを発揮させ支えるため。
(2)管仲。 (3)謙虚・沈着
構成
1 2 3 |
節 |
貧困 欺く → 斉の国政につく 桓公=覇者 商売をして利益を多く取る → 鮑叔のため画策して更に困らせる→ 三度任官し三度追放される → 三度戦い三度敗走する → 主人が敗れたのに自分だけ捕虜になった 鮑叔は私を知っている |
管仲 |
←賢者と知る ←善意で扱う ←欲張りと思わない 貧乏を知っていた ←馬鹿と思わない 時の運不運を知っていた ←馬鹿と思わない 時勢に合わないのだ ←臆病と思わない 老婆がいる ←恥知らずと思わない 小さい節操より功名大切 ←桓公に推薦する 管仲 ≥ 鮑叔 子孫=斉の俸禄 人を見抜く力がある |
鮑叔 |
主題 斉の桓公を覇者たらしめた管仲と彼を陰で支えた鮑叔のかわることのない友情。