臥薪嘗胆 巻第四十一 越世家第十一
語釈
ゲテ ヲ ラシム ヲ ハ
1 @闔 廬。擧 A伍 員 謀 國 事。員、字 子 胥。B楚 人 伍 奢
二 一 二 一
ナリ セラレテ ル ニ ヰテ ノ ヲ ル ニ ツ ヲ ツキテ
之 子。奢、誅 而 奔 C呉。以 呉 兵 入 郢。呉 伐 越。闔 廬 傷
レ 二 一 レ レ
ス ノ ツ タ フ ニ ス セント ヲ
而 死。子 D夫 差 立。子 胥 復 事 1之。夫 差 2志 復 讎。
レ レ レ
シ ニ スルニ メテ ヲシテ バ ク
朝 夕 3臥 薪 中、出 入 1使 人 呼 曰、
二 一 二 一
レタル シシヲ ノ ヲ ト
「夫 差、4而 忘 越 人 之 殺 而 父 邪。」
三 二 一
ノ ニ ル ヲ ニ
2 E周 敬 王 二 十 六 年 F夫 淑 敗 越 2于 夫 椒。
二 一
ヰテ ヲ ミ ニ フ リ ト ハ ラント ト
越 王 G句 踐、以 餘 兵 棲 H會 稽 山、請 爲 臣、 妻 爲 妾。
二 二 一 レ 一レ
フ ナリト ケ ノ ヲ キテ ニ
子 胥5 「言、5不 可。」I太 宰 J伯 嚭 受 越 賂、6説 夫 差
二 一 ニ 一
サ ヲ
赦 越。
レ
リ ニ ケ ヲ ニ チ ギ ヲ メテ ヲ ク
3 句 踐 反 國、懸 膽 於 坐 臥、即 7仰 膽 嘗 之 曰、
レ 二 一 レ レ
レタル ヲ ト ゲテ ヲ シ ニ
「8女 忘 會 稽 之 恥 3邪。」擧 國 政 K屬 大 夫 L種、
二 一 二 一 二 一
シテ メ ヲ トス ルヲ ヲ
而 與 M范 蠡 治 兵、事 謀 呉。
二 一 レ レ レ
ス ヂテ ノ ルヲ ヰられ スト
4 太 宰 N嚭 譛 子 胥 恥 謀 4不 用 O怨 望。
下 ニ 一レ ウエ
チ フ ニ ヲ
夫 差 及 9賜 子 胥 属 婁 之 剣。
二 一
ゲテ ノ ニ ク
子 胥 告 其 家 人 曰
二 一
ズ ヱヨ ガ ニ ヲ ハ キ トス リテ ガ ヲ ケヨ ニ
「10必 樹 吾 墓 P檟。檟 可 材 也。 11抉 吾 目 懸 東 門。
二 一 レ 二 一 二 一
テ ント スヲ ヲ チ ス リ ノ ヲ ルニ
以 観 越 兵 之 滅 呉。及 Q自 剄。 夫 差 12取 其 尸 盛
二 一レ 二 一
テシ ヲ ズ ヲ ニ
以 R鴟 夷 投 之 江。
二 一 二 一
レミ ヲ テ ヲ ニ ユケテ ク ト
呉 人 憐 之、立 祠 江 上、命 曰 胥 山。
レ 二 一 二 一
シ ス
5 13越 十 年 S生 聚、十 年 21教 訓。
ノ ノ ツ タビ ヒ タビ グ
22周 元 王 四 年、越 伐 呉。呉 三 戦 三 北。
レ
リ ニ フ ヲ ニ カ
夫 差 上 23姑 蘇、亦 謂 24成 於 越。范 蠡 不 可。
二 一 ニ 一 レ
シト テ ル ヲ リテ ニ チ ス
夫 差「吾 5無 以 見 子 胥。」14為 25 螟 冒 及 死。
三 ニ 一 二 一
(注)1 @闔廬 BC514〜BC496年。在位。A伍員 ?〜BC484年。楚の人。父の奢と兄を平王に殺され、呉に亡命して、闔廬に仕えた。B楚 春秋戦国時代に、長江中流域を領有した国。C呉 春秋時代に、長江下流域を領有した国。都は会稽(今の浙候省紹興市。)D夫差 BC495〜BC473年在位。
2 E周敬王二十六年 BC494年。F夫淑 今の江蘇省會稽県にある山。G句踐 BC496〜BC465年在位。H會稽山 今の浙候省紹興市の南東にある山。I太宰 官名。宰相。J伯嚭 生没年未祥。楚の人。
3 K屬 任せる。L種 生没年未祥。姓は文、種は名。春秋時代の越の功臣。M范蠡 生没年未祥。字は少伯。春秋時代の越の功臣。
4 N嚭 中傷する。そしる。O怨望 恨みに思う。P檟 ひさぎ。棺桶の材料として用いられた。Q自剄 自分で自分の首をはねて自殺すること。R鴟夷 馬の皮で作った、酒を入れる袋。この袋で川を渡る。
5 S生聚 民を生じ、財を集める意で 、国民を増やし、物資を豊かにする。国力を充実させること。21教訓 軍事訓練を施す。22 周元王四年 BC473年。23姑蘇 今の江蘇省呉県の南西の姑蘇山下にあった台の名。24成 和解。25螟冒 死者の顔をおおう四角い布。
一 書き下せ。
二 口語訳。
一1 闔廬は伍員を登用して国の政治を執らせた。員は、字は子胥だ。楚人の伍奢の子だ。奢が殺されたので
呉に出奔した、呉の兵を率いて(楚の都の)郢に攻め込んだ。呉が、越に攻め込んだ。が、闔廬は傷つき死んだ。子の夫差が王位に就いた。子胥はまたこれに持仕えた。夫差讎は敵打ちををしようとした。朝夕薪を摘んだうえに寝て、(夫差が)出入りするたびに、臣下に叫ばせて、「夫差、おまえは越人がお前の父を殺したのを忘れたのか。」と。
2 周の敬王二十六年、夫差は、越を夫椒で敗った。越王句践は生き残りの兵を率いて会稽山にこもり、身は、臣したと為り妻は召使いさsていただきたいと願った。子胥言った、いけないと。太宰伯嚭は越から賄賂を受けとり、夫差を説得して、越を赦させた。
3 句践は都に反り、胆を座ったり寝たりする場所に懸け、胆を仰ぎ之を嘗めて言うことに、「おまえは会稽での恥辱を忘れたのか。」と。国政の全てを大夫種に任せ、そして、范蠡と兵を訓練し、呉に報復するkと二従事した。
4 太宰嚭譛は子胥が意見が用いられなかったことを恨みに思っていると中傷した。夫差はそこで胥属婁の剣を子胥に与えた。子胥はそこで其家人に言うことに、「必ず私の墓には檟の木をを植えろ。檟は材料にすることができる。私の目を抉りぬきて、東門に下げろ。それで越兵が呉を滅ぼすを見よう。」と。
そこで、自分の首を自剄す。 夫差其屍を取り鴟夷に詰めてそれを長江に投げた。呉人これを憐れみ祠を立て、命づけて檟山と。曰ク。
5 、越十年国民を増やし国民を増やし、十年軍事訓練した。周元王四年、越呉を伐つ。呉三度戦ひ三度北ぐ夫差姑蘇に上り亦成を越に謂ふ。范蠡可かず夫差曰く、「螟冒を為りて死す。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 臥薪嘗胆 2 闔廬 3 伍員 4 子胥 5 夫差 6 句踐 7 會稽山
8 坐臥 9 范蠡 10 怨望 11 属 婁 之 剣 12 自頚 13 鴟夷 14 鴟夷 15 螟
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 臥薪嘗胆
2 国事
3 誅
4 賄賂
5 胆
6 家人
7 抉
8 北
五 1 使
2 干
3 邪
4 不
5 無
六
1 指示内容を記せ。
2 どういうことか、具体的に説明せよ。
3 何故こうしたか。
4 指示内容を記せ。
5 何故こう言ったか。
6 夫差はなぜ伯嚭の意見を入れて句踐を許したのか。
7 こうしたのはなぜか。
8 指示内容を記せ。
9 こういうことで、夫差は子胥に何を命じたか。
10 (1)「檟」は誰の棺桶の材料か。
(2)どういうことを言っているか。
11 どうしてか。
12 (1)「尸」は誰のものか。
(2)どういうことか。
13 この二十年は他に何を意味するか。
14 夫差が「為螟冒」して死んだのはなぜか。
主題 原義―薪の上に寝、苦い胆をなめる。
1 2 3 4 5 |
節 |
父 闔廬=伐つ 死ぬ → 伍員 (子胥)に政治を任せる 子 夫差ー王位 臥薪 夫差=破る → 子胥「いけない。」 伯嚭=賄賂を受け取り、助命 → 伯嚭=中傷 夫差「自殺せよ。」 子胥「呉は越に滅ぼされる。」 自頚 夫差=子胥の尸を長江に棄てる。 夫差=和睦 → 夫差「子胥に合わせる顔が無い。」 自殺 |
呉 |
←句踐=和睦・命乞い 句踐=嘗胆 種に政治を任せる。 范蠡 と兵を訓練する。 十年 国力充実 十年 軍事訓練 ←連戦連勝 ←范蠡=不可 |
越 |
転義―敵を討つため、自分の身を苦しめて志を励ますこと。
(参考)サッカー最終戦敗退 ドーハの悲劇の写真を見て励ます。
解答
一1 闔廬に至る。伍員を挙げて国事を謀る。員、字は子胥、楚人伍奢の子なり。奢、誅せられて
呉に奔り、呉の兵を以て郢に入る。呉、越を伐つ。闔廬傷つきて死す。子夫差立つ。子胥復た之に事う。夫差讎を復せんと志す。朝夕薪中に臥し、出入するに人をして呼ばしめて曰く、夫差、而は越人の而の父を殺ししを忘れたるか、と。
2 周の敬王二十六年、夫差、越を夫椒に敗る。越王句践、余兵を以て会稽山に棲み、臣と為り妻は妾と為らんと請う。子胥言う、不可なり、と。太宰伯嚭、越の賂を受け、夫差に説いて越を赦さしむ。
3 句践国に反り、胆を坐臥に懸け、即ち胆を仰ぎ之を嘗めて曰く、女、会稽の恥を忘れたるか、と。国政を挙げて大夫種に属し、而して范蠡と兵を治め、呉を謀ることを事とす。
4 太宰嚭譛子胥謀の用ゐられざるを羞じて怨望すと譛。夫差及ち胥属婁之剣を子胥に賜ふ。子胥告其家人に告げて曰く、「必ず吾墓に檟を植ゑよ。。檟は材とすべきなり。 吾が目を抉りて、東門に懸けよ。以て越兵の呉を滅ぼすを見ん。」と。
及ち自剄す。 夫差其尸を取り盛るに鴟夷を以てし、之を江に投ず。呉人之を憐れみ祠を立て、命づけて檟山と。曰。
5 、越十年生聚し、十年教訓す。周元王四年、越呉を伐つ。呉三度戦ひ三度北ぐ夫差姑蘇に上り、
亦成を越に謂ふ。范蠡可かず夫差曰く、「螟冒を為りて及ち死す。
三 1 がしんしょうたん 2 こうりょ 3 ごうん 4 ししょ 5 ふさ 6 こうせん
7 かいけいざん 8 ざが 9 はんれい 10 えんぼう 11 しょくるのけん 12 じけい
13 しい 14 せいしゅう 15 べきぼう
四 1 薪の上に寝、苦い胆をなめる。
2 一国の政治。 3 殺す。誅殺。 4 贈り物。 賄賂。 5 胆汁を蓄えておく器官。
6 家族。 7ほじくる。くりぬく。抉剔。 8敗れて逃げる。敗北。 9
五 1 使役 使AB AをしてBせしむ AにBさせる 2 助字 場所 3 助字 疑問
4 否定 5 否定
六 1 夫差。2 越に殺された父の敵を討とうとしたこと。
3 薪で背中に痛みを感じるたたびに越に対する憎しみをかきたて復讐をわすれないようにするため。
4 夫差。 5 句踐を生かしておけば、復讐されると思ったから。 6 勝者としての驕りがあったから。
7 苦い膽をなめることで夫差から受けた敗戦の恥辱を忘れないようにするため。
8 句踐。 9 この剣で自殺せよということ。
10(1)夫差。(2)檟が成長して棺桶の材料になるころに呉が亡ぶ。
11 この目で呉が亡ぶのを見るため。
12(1)子胥。(2)夫差は子胥の屍を袋に詰めて長江に流した。死体を侮る。
13 木が育つ期間。
14 子胥の諫言を聞かずに敗戦の恥辱を受けることにな
り、子胥にあわせる顔がないという気持ちから。