鴻 門 之 会 項羽本紀第七
語釈
1 項羽大いに怒る
シ ノ ヲ ル ニ リ リ ヲ
楚 軍 行 略―定 秦 地、至 函 谷 関。有 1兵 守 関、2不
二 一 二 一 レ レ レ
ルヲ キ ニ ルト ヲ イニ リ ム
得 入。又 聞 沛 公 已 破 @咸 陽、3項 羽 大 怒、使 当
レ 三 二 一 二
ヲシテ タ ヲ ニ リテ ニ
陽 君 等 撃 関。項 羽 遂 入、至 于 戯 西。
一レ 二 一
シ ニ ダ ルヲ ノ
沛 公 軍 覇 上、1未 得 与 項 羽 相 見。沛 公 A左 司
二 一 レ 下 二 一 上
メテ ヲシテ ハ ニ ク シ タラント
馬 4曹 無 傷、2使 人 言 3於 項 羽 曰 「沛 公 欲 王
三 二 一 レ
ニ メ ヲシテ ラ ク スト ヲ イニ リテ
B関 中、使 C子 嬰 為 相、珍 宝 尽 有 之 5項 羽 大 怒
一 一レ レ
ク セヨ ヲ サント スコトヲ ノ ヲ
曰「D旦 日 饗 士 卒。為 撃―破 沛 公 軍。」
二 一 三 二 一
タリ ノ ノ ハ リ ノ ニ ノ ハ
当 是 時、項 羽 兵 四 十 万、在 新 豊 鴻 門。沛 公 兵
二 一 二 一
リ ニ キテ ニ ク リシ ニ
十 万、在 覇 上。6范 増 説 項 羽 曰「沛 公 居 山 東 時、
二 一 ニ 一 ニ 一
リ ヲ メリ ヲ リテ ニ ク ル
7貪 於 財 貨、好 美 姫。今 入 関、財 物 無 所 取、婦 女
シ スル レ ノ ラ ニ ムルニ ヲシテ マ ノ ヲ
無 所 E幸。此 其 志 不 在 小。吾 4令 人 望 其 F気、皆
レ レ レ レ ニ 一
シ ヲ ス ヲ レ ギ チ カレト スルコチ
為 竜 虎、G成 五 采。此 天 子 気 也。急 撃 5勿 失。」
(注)@咸陽 秦の都。A左司馬 軍政官。B関中 今の陜西省一帯の地。東は函谷関、西は散関、南は武関、北はしょう関に囲まれているので関中という。C子嬰 始皇帝の孫。D旦日 明朝。E幸 寵愛する。F気 (その人から)立ち上がる気体。雲霧―特に偉人のいる場所に立ちこめる雲気。望気―空の雲の様子を見て人事の吉凶を占う術。G成五采 五色(青黄赤白黒)のあやをなす。
一 書き下せ。
二 口語訳。
楚軍は道すがら秦の地を攻め下して、函谷関に到着した。ところが軍兵が関所を守っていて、入ることができなかった。さらにまた、沛公がすでに咸陽を攻め破ったと聞いて、項羽は大いに怒り、当陽君らに関所を攻撃させた。項羽はかくして入って、戯西に到着した。
沛公は覇上に陣をはり、まだ項羽と面会する機会が得られなかった。沛公の左司馬の曹無傷が、人を遣わして項羽に次のように言わせた、「沛公は関中の地で王となろうとして、子嬰を大臣とし、珍宝はすべて自分のものとした。」と。項羽は大いに怒って言った、「明朝、兵士たちにごちそうをふるまうように。沛公の軍を撃破するのだ。」と。
このとき、項羽の兵は四十万で、新豊の鴻門に陣していた。沛公の兵は十万で、覇上に陣していた。范増が項羽に説いて言うには、「沛公は山東にいたときは、財物を欲張り、美女を好みました。今、関中に入ってからは、財物は自分のものとしないし、婦女も寵愛しません。これは、その志が小さいところにないことを示しています。私が人に彼の上に立ちのぼる気を見させたところ、それは皆、竜や虎の形をし、五色のあやをなしているとのことです。これは天子となる者の気です。急ぎ攻撃し、決して取り逃がしてはなりませぬ。」と。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 已 2 咸陽 3 遂 4 項羽 5 沛公(劉邦) 6 曹無傷
7 子嬰 8 旦日 9 鴻 門 10 美姫
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 略定
2 士卒
3 貪
4 財貨
5 美姫
五 二重線部1〜5の文法問題に答えよ。
1 未
2 使
3 於
4 令
5 勿
六 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1 誰の「兵」か。
2 主語を記せ。
3、5の内容はそれぞれどのようなことか。
4 曹無傷はなぜ主君の沛公の悪口を言うのか。
6 沛公を討つ理由として何をあげているか。
7(1)どういうことか。
(2)これと対照的な表現を文中から抜き出せ。
(3) (1)と(2)の 沛公の変化を范増は「志不在小」と表現しているがこの意味を記せ。
解答
一
楚軍行秦の地を略定し、函谷関に至る。兵有り関を守り、入ることを得ず。又沛公已に咸陽を破ると聞き、項羽大いに怒り、当陽君等をして関を撃たしむ。項羽遂に入りて、戯西に至る。沛公覇上に軍し、未だ項羽と相見ゆることを得ず。沛公の左司馬曹無傷、人をして項羽に言はしめて曰はく、「沛公関中に王たらんと欲し、子嬰をして相たらしめ、珍宝尽く之を有す。」と。項羽大いに怒りて曰はく、「旦日士卒を饗せよ。沛公の軍を撃破することを為さん。」と。
是の時に当たり、項羽の兵四十万、新豊の鴻門に在り。沛公の兵十万、覇上に在り。范増項羽に説きて曰はく、「沛公山東に居りし時、財貨を貪り、美姫を好めり。今関に入りて、財物取る所無く、婦女幸する所無し。此れ其の志小に在らず。吾人をして其の気を望ましむるに、皆竜虎と為り、五采を成す。此れ天子の気なり。急ぎ撃ちて失ふこと勿かれ。」と。
三 1 すで 2 かんよう 3 つい 4 こうう 5 はいこう(りゅうほう)
6 そうむしょう 7 しえい 8 たんじつ 9 こうもん 10 びき
四 1 攻略し平定する。2 兵士の総称。 3 欲張る。貪欲。
4 金銭と財産として価値のあるもの。 5美女。
五 1 再読文字 未だ〜ない まだ〜ない 2 使役 AをしてBせしむ AにBさせる
3 助字 対象。 4 使役 AをしてBせしむ AにBさせる 5 禁止 なかれ するな
六 1 沛公。2 項羽。
3 兵がいて入関できず怒り、その上沛公が咸陽を破ったという知らせを聞いて大いに怒る。
5 沛公が王になろうとしていると聞いて。
4 項羽が天下を取ると予想し、将来重用されようとしたから。
6 1「其志不在小」―天下をねらう大志がある。2「此天子気也」―天子となる資格を有している。
7 (1)強欲で財物を自分のものとし、好色で美女を好んだということ。
(2)「財物無所取、婦女無所幸」
(3)天下をねらう大志がある。
2 剣の舞 A〜H 宴会の場面の行動順序
ヘ ヲ タリテ エントス ニ リ ニ シテ
沛 公 旦 日 従 百 余 騎、来 見 項 王。至 鴻 門、1謝
ニ 一 ニ 一 ニ 一
ク ハセテ ヲ ム ヲ ハ ヒ ニ ハ フ
曰 「臣、与 将 軍 勠 力 而 攻 秦。将 軍 戦 @河 北、臣 戦
ニ 一 レ レ
ニ レドモ リキ ラ ハ ク ヅ リテ ニ リ ヲ ントハ タ ユルコト
河 南。然 2不 自 意、能 先 入 A関 破 秦、得 復 見 将
ニ 一 レ レ 三 ニ
ニ ニ リ ムト ヲシテ ラ
軍 於 此。今 者 有 小 人 之 言、1令 将 軍 与 臣 有 B
一 ニ 一 ニ レ 一レ
ク レ ノ フ ヲ ンバ ラ
郤。」項 王 曰「此 沛 公 左 司 馬 曹 無 傷 言 之。不 然、
レ レ
ヲ テ ラン ニ
籍 何 以 至 3此。」
レ
リテ メテ ヲ ニ ス シテ
項 王 即 日、因 留 沛 公 与 飲。項 王
項 伯、東 C嚮
ニ 一
シ ハ シテ ス ト ハ シテ ス
坐、亜 父 南 嚮 坐。D亜 父 者、范 増 也。沛 公 北 嚮 坐、
ハ シテ ス A シ ニ ゲテ ノ ブル ヲ
張 良 西 嚮 侍。范 増 数 E目 項 王、4挙 所 佩 F玉 玦、
ニ 一 ニ レ 一
テ ス ニ タビス B チシテ ゼ
以 示 之 者 三。項 王 5黙 然 不 応。
レ レ
C チ デテ シ ヲ ヒテ ク リ ト ビ
范 増 起、出 召 項 荘、謂 曰「6君 王 為 人 不 忍。7若
ニ 一 レ レ
リ ミテ セ ヲ ハラバ ヒテ テ ヲ ヒ リテ チテ ヲ ニ
入 前 為 G寿。寿 畢、請 以 剣 舞、因 撃 沛 公 於 坐
レ レ ニ 一
セ ヲ ズンバ ガ ニ ラント ト トスル
殺 之。不 者、若 H属 皆 82且 3為 所 虜。」
レ レ レ レ
D チ リテ ス ヲ ハリテ ク ム シ
荘 則 入 為 寿。寿 畢 曰「君 王 与 沛 公 飲。軍 中 無
レ ニ 一
テ ス ヲ フ テ ヲ ハント ハク ト キ ヲ
以 為 楽。請 以 剣 舞。」 項 王 曰「諾。」 項 荘 抜 剣 起
レ レ レ
フ E モ キ ヲ チテ ヒ ニ テ ヲ ス ヲ
舞。項 伯 亦 抜 剣 起 舞、常 以 身 I翼―蔽 沛 公。荘 不
レ レ ニ 一 レ
ツヲ
得 撃。
レ
(注)@河北 黄河の北の地。A関 関中の地のこと。B郤 仲たがい。C嚮 「向」に同じ。D亜父 父に次いで尊敬する者の意。「亜」は次ぐの意。E目 目くばせする。F玉玦 環の形をして、欠けたところのあるおび玉。G寿 杯を尊者にすすめて長寿を祝う。H属 身内の者。I翼蔽 親鳥が翼でひなをかばうようにする。
一 書き下せ。
二 口語訳。
沛公は、翌朝百余騎を従え、項羽にまみえに行った。鴻門に至ってこのように謝罪した、
「わたくしは将軍と力を合わせて秦を攻めました。将軍は河北で戦われ、わたくしは河南で戦いました。
しかし、まさか最初に関中に入って秦を破り、嚮ここで将軍に再びまみえることができましょうとは、
まったく予想していませんでした、今は、小人の讒言があって、将軍とわたくしを離間させようとしています。」
項羽は言った、
「それは沛公配下の左司馬曹無傷が言ったのだ。そうでもなければ、どうして、こんなことになっていようか、いや、なっていないだろう。」
項羽は即日、そのまま沛公を留め、ともに酒を飲んだ。項羽と項伯は東向きに座り、亜父は南向きに座った。
亜父とは、范増のことである。
沛公は北向きに座り、張良は西向きに侍座した。范増は項羽に何度も目線を送り、腰につけた玉玦を持ち上げて示し、沛公殺害の決断を促した。項羽は黙り込んで応じなかった。
范増は立ち上がって宴席から外れ、項荘を呼んでこう言った、
「君王の人柄は、恩情があり、沛公をここで謀殺するようなことは、耐えられない。
おまえは宴席に入り、沛公の前に進み出て、杯を勧めて長寿を祝え。それが終わったら、剣の舞をすることを請い、許可されれば、この機に乗じて沛公を座上で切り殺せ。もしそうしなければ、おまえの一族は沛公に捕らえられることになろう。」
そこで、項荘は宴席に入って、沛公に杯を勧めて長寿を祝った。それが終わると、項荘はこう言った、
「君王と沛公はともに酒を飲んでおられます。しかし、軍中にはなんの娯楽もありません。
どうか私に剣の舞をさせてください。」
項羽は「よかろう」と言った。
そこで項荘は剣を抜き、立ち上がって舞った。項伯もまた剣を抜き、立ち上がって舞い、身を挺して、
親鳥が翼で雛をかばうようにして、沛公を守った。項荘は沛公を撃つことができなかった。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 秦 2 然 3 郤 4 即日 5 東 C嚮 6 亜父
7 范増 8 張良 9 因 10 翼蔽
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 小人
2 即日
3 因
4 軍中
5 諾
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 令
2 且
3 為 A 所 B
六 傍線部1〜9の問いに答えよ。
1 同じ意味で使われている熟語を記せ。
2 どこまでかかるか。
3 指示内容を記せ。
4 どういうことを示唆したか。
5 なぜか。
6 意味を記せ。
7 指示内容を記せ。
8 指示内容を記せ。
9 誰が「虜」とするか明確にして口語訳せよ。
解答
一 沛公旦日百余騎を従へ、来たりて項王に見えんとし、鴻門に至り、謝して曰はく、「臣、将軍と力を勠せて秦を攻む。将軍は河北に戦ひ、臣は河南に戦ふ。然れども自ら意はざりき、能く先づ関に入りて秦を破り、復た将軍に此に見ゆることを得んとは。今者小人の言有り、将軍をして臣と郤有らしむ。」と。項王曰はく、「此れ沛公の左司馬曹無傷之を言ふ。然らずんば、籍何を以て此に至らん。」と。
項王即日、因りて沛公を留めて与に飲す。項王・項伯、東嚮して坐し、亜父南嚮して坐す。亜父とは、范増なり。沛公北嚮して坐し、張良西嚮して侍す。范増数項王に目し、佩ぶる所の玉を挙げて、以て之に示す者三たびす。項王黙然として応ぜず。
范増起ち、出でて項荘を召し、謂ひて曰はく、「君王人と為り忍びず。若入り前みて寿を為せ。寿畢はらば、剣を以て舞はんことを請ひ、因りて沛公を坐に撃ちて之を殺せ。不者ずんば、若が属皆且に虜とする所と為らんとす。」と。
荘則ち入りて寿を為す。寿畢はりて曰はく、「君王沛公と飲す。軍中以て楽しみを為すこと無し。請ふ剣を以て舞はん。」と。項王曰はく、「諾。」と。項荘剣を抜き起ちて舞ふ。項伯も亦た剣を抜き起ちて舞ひ、常に身を以て沛公を翼蔽す。荘撃つことを得ず。
三 1 しん 2 しか 3 げき 4 そくじつ 5 とうきょう 6 あほ
7 はんぞう 8ちょうりょう 9 よ 10 よくへい
四 1 つまらぬ人物。対―君子。 2 その日。 3 そこで 4 軍中または陣営の中。
5 よし。よろしい。
五 1 使役 令AB AをしてBせしむ AにBさせる 2 再読文字 且に〜んとす 今にも〜しようとする
3 受身 為A所B AのBする所と為る AにBされる
六 1 謝罪。 2 「見将軍於此」。 3 沛公を討つこと。
4 沛公を討つことに決断を促したこと。
5 1人情。 2 前夜の項伯の説得。
6 王の人柄は残忍なことができない性格だ。
7 項荘。 8 沛公。
9 今にも沛公に虜にされようとする。
3 樊噲、頭髪上指す
Fイテ ニ リ ニ ル ヲ ク
於 是、張 良 至 軍 門、見 樊 噲。樊 噲 曰「今 日 之 事
レ ニ 一 ニ 一
ト ク ダ ナリ キテ ヲ フ ノ
1何 如。」良 曰「1甚 急。今 者、項 荘 抜 剣 舞。2其 意
レ
ニ リ ニ ト ク レ レリ フ リテ
常 在 沛 公 也。」噲 曰「3此 迫 矣。4臣 請、入 与 5之 @
ニ 一 レ
ジクセント ヲ G チ ビ ヲ シテ ヲ ル ニ スモ
同 命。」噲 即 帯 剣 擁 盾 入 軍 門。A交 戟 之 衛 士、欲
レ レ ニ 一 ニ
メテ ラント レ テテ ノ ヲ テ キテ ヲ ス ニ
止 不 内。樊 噲 B側 其 盾 以 撞 衛 士 仆 地。
一レ ニ 一 ニ 一 レ
ニ リ キテ ヲ シテ チ ラシテ ヲ ル ヲ
噲 遂 入、披 C帷 西 嚮 立、瞋 目 視 項 王。5頭 髪 上
レ レ ニ 一
シ ク ク ジテ ヲ キテ ク ル
指、目 眥 尽 裂。項 王 D按 剣 而 E跽 曰「客 2何 為
レ
ゾト ク トイフ ト ク
者。」張 良 曰「沛 公 之 F参 乗 樊 噲 者 也。」項 王 曰
ナリ ヘト ニ ヲ チ フ ヲ シテ チ
「壮 士。賜 之 卮 酒。」則 与 G斗 卮 酒。噲 拝 謝 起、
ニ 一 ニ 一
チナガラニシテ ム ヲ ク ヘト ニ ヲ チ フ ヲ
立 而 飲 6之。項 王 曰「賜 之 彘 肩。」則 与 一 生 彘 肩。
レ ニ 一 ニ 一
セ ノ ヲ ニ ヘ ヲ ニ キ ヲ リテ フ ヲ
樊 噲7覆 其 盾 於 地、加 H彘 肩 上、抜 剣、切 而 啗 之。
ニ 一 一 ニ 一 レ レ
ク ナリ ク タ ム ト ク スラ ツ
項 王 曰「壮 士。能 復 飲 乎。」樊 噲 曰「臣 死 3且 不
ケ クンゾ ランヤ スルニ レ リ スコト ヲ
避。卮 酒 4安 足 辞。夫 秦 王 有 8虎 狼 之 心。9殺 人
レ ニ 一 レ
ク ルガ ハ グル スルコト ヲ シ ルルガ ザルヲ ヘ ク ニ
I如 不 能 挙、刑 人 J如 恐 不 勝。天 下 皆 叛 10之。懐
レ レ レ レ レ レ レ レ
シテ ク ニ リテ ヲ ル ニ トセント ニ
王 与 諸 将 約 曰『先 破 秦 入 咸 陽 者、王 之。』今、沛
ニ 一 レ ニ 一 レ
ニ リテ ヲ ル ニ モ ヘテ ラ ヅクル シ
公 先 破 秦 入 咸 陽。11豪 毛 5不 敢 有 所 近。封ー閉
レ ニ 一 ニ 一レ レ ニ
ヲ リテ シ ニ テ テリ ノ タルヲ ラニ ハシ ヲ ラシメシ
宮 室、12還 軍 覇 上、以 待 13大 王 来。故 6遣 将 守
一 ニ 一 ニ 一 レ レ
ヲ ヘシ ノ ト ニ シテ キコト キニ
関 者、備 他 盗 出 入 与 非 常 也。14労 苦 而 功 高 如
三 ニ 一 レ
クノ ダ ラ モ キ ヲ ス セント
此。未 有 K封 侯 之 賞。而 聴 15細 説、欲 誅 16有 功
レ ニ 一 ニ 一 レ ニ
ヲ レ クナル カニ ニ ノ ル ラ ト
之 人。17此 亡 秦 之 続 耳。L窃 為 大 王 不 取 也。」
ヲ ニ 一 レ
ダ ラ テ フル セヨト ヒテ ニ ス H スルコト
項 王 18未 有 以 応。曰「坐。」 樊 噲 従 良 坐。坐 須
レ ニ 一 レ
ニシテ チテ キ ニ リテ キテ ヲ ヅ
臾、沛 公 起 如 廁、因 招 樊 噲 出。
レ ニ 一
(注)@同命 生死をともにしよう。A交戟之衛士 矛を左右から十文字に交えている番兵。B側 斜めにたてて構える。C帷 とばり。D按剣 刀の柄に手を掛ける。E跽 ひざをついてみがまえる。F参乗 周jんを護衛するための添え乗り。G斗卮酒 一斗入りの大杯についだ酒。当時の一斗は役2リットル。H彘肩 豚の肩の肉。I如不能挙 あまり多くて、数え切れないほどである。J如 恐不勝 あまりおおくてし残しがなかと心配する。K封侯 諸侯に封ずる。L窃 はばかりながら。
一 書き下せ。
二 口語訳。
ここで、張良は軍門へ行って樊噲と会った。樊噲は行った、「今日の会見はどんな感じですか。」
張良は答えた、「極めて危険だ。今、項荘は剣の舞をしている。そして、その真意は、常に沛公を殺すことにある。」
「これは緊急事態だ。どうか中に入って、沛公と命をともにさせてください。」
樊噲は剣を帯び、盾を取って軍門に入った。戟を構えていた番兵は、樊噲を止め、中に入れまいとした。
樊噲は盾を斜めに構えて突き、番兵を地に突き倒した。
そのまま樊噲は入り、とばりを開いて西を向いて立ち、怒りで目を張って項羽を見た。
髪は逆立ち、まなじりはことごとく避けているようだった。
項羽は剣の柄に手をかけ、ひざを付き、構えて言った、「何者だ。」
張良が答えた、「沛公の参乗、樊噲という者です。」
項羽は言った、「壮士だなぁ。この者に大杯の酒を与えよ。」
樊噲は謹んで礼を言って立ち、そのままこれを飲んだ。
項羽は言った、「この者に豚の肩の肉を与えよ。」
そこで、一つの生の豚の肩の肉が与えられた。樊噲は盾を地に伏せ、豚の肩の肉を持ち上げ、
剣を抜き、切ってこれを食べた。
項羽は言った、「壮士だなぁ。まだ飲めるか。」
樊噲は言った、「わたくしは死でさえも避けません。ましてどうして大杯の酒ごとき辞退するのに足りましょうか、いえ、足りません。そもそも秦王には、虎狼のごとき残虐な心がありました。
殺した人は数え切れず、処罰した人は、し残しを心配するくらい大勢いました。このため、天下は皆秦に背きました。懐王は諸将とこう約束しました、『最初に秦を破って咸陽に入った者を、関中の王とする。』
今、沛公は最初に秦を破って咸陽に入りました。ほんのわずかの財宝にも決して近づこうとしませんでした。
宮室を閉鎖し、咸陽から帰って覇上に陣を敷き、大王のご到着をお待ちしていました。意図的に武将を派遣して函谷関を守らせたのは、他の盗賊の出入りと、非常事態に備えるためです。労苦して、功績もこのように高いのに、まだ領地・爵位の恩賞がありません。その上、つまらぬ意見を受け入れて、有功の人を誅殺しようとしています。これでは、滅んだ秦と同じです。僭越ながら、大王はそうなさらないほうがよいでしょう。」
項羽はいまだ応じずにいた。そして、「まあ、座れ。」と言った。樊噲は張良に従って座った。
それからしばらくして、沛公は立ち上がって便所に行き、この機に乗じて樊噲を招いて出た。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 樊噲 2 如何 3 請 4 交戟之衛士 5 遂 6 目眦
7 卮酒 8 咸陽 9 須臾 10 厠
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 軍門
2 擁
3 上指
4 目眦
5 壮士
6 拝謝
7 豪毛
8 細説
9 須臾
10 厠
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 何 如
2 何 為
3 且
4 安
5 不 敢
6 遣
六 傍線部1〜18の問いに答えよ。
1、3 この短文の表現はどのような効果をあげているか。
2 具体的な意味を記せ。
4 誰か。
5 何に対して怒っているか。
6 指示内容を記せ。
7 この表現はどのような効果をあげているか。
8 どのような心か。
9 何を強調して述べようとしているか、十五字以内で説明せよ。
10 指示内容を記せ。
11 こう言った真意は何か。
12 こう言った真意は何か。
13 誰のことか。
14 誰を讃えてこう言ったか。
15 誰の発言をこう言ったか。
16 誰のことか。
17 この内容を端的に表現した部分を、七字以内で抜き出せ。
18このときの項王の気持はどのようなものか。
解答
一
是に於いて、張良軍門に至り、樊ョを見る。樊ョ曰はく、「今日の事何如。」と。良曰はく、「甚だ急なり。今者、項荘剣を抜きて舞ふ。其の意常に沛公に在るなり。」と。ョ曰はく、「此れ迫れり。臣請ふ、入りて之と命を同じくせん。」と。ョ即ち剣を帯び盾を擁して軍門に入る。交戟の衛士、止めて内れざらんと欲す。樊ョ其の盾を側てて以て撞く。衛士地に仆る。
ョ遂に入り、帷を披きて西嚮して立ち、目を瞋らして項王を視る。頭髪上指し、目眥尽く裂く。項王剣を按じて跽きて曰はく、「客何為る者ぞ。」と。張良曰はく、「沛公の参乗樊ョといふ者なり。」と。項王曰はく、「壮士なり。之に卮酒を賜へ。」と。則ち斗卮酒を与ふ。ョ拝謝して起ち、立ちながらにして之を飲む。項王曰はく、「之に。肩を賜へ。」と。則ち一の生。肩を与ふ。樊ョ其の盾を地に覆せ、。肩を上に加へ、剣を抜き、切りて之を啗らふ。
項王曰はく、「壮士なり。能く復た飲むか。」と。樊ョ曰はく、「臣死すら且つ避けず。卮酒安くんぞ辞するに足らん。夫れ秦王虎狼の心有り。人を殺すこと挙ぐる能はざるがごとく、人を刑すること勝へざるを恐るるがごとし。天下皆之に叛く。懐王諸将と約して曰はく、『先づ秦を破りて咸陽に入る者は、之に王とせん。』と。今、沛公先づ秦を破りて咸陽に入る。豪毛も敢へて近づくる所有らずして、宮室を封閉し、還りて覇上に軍して、以て大王の来たるを待てり。故らに将を遣はし関を守らしめし者は、他盗の出入と非常とに備へしなり。労苦だしくして功高きこと此くのごとし。未だ封侯の賞有らず。而るに細説を聴きて、有功の人を誅せんと欲す。此れ亡秦の続のみ。窃かに大王の為に取らざるなり。」と。
項王未だ以て応ふること有らず。曰はく、「坐せよ。」と。樊ョ良に従ひて坐す。坐すること須臾にして、沛公起ちて廁に如き、因りて樊ョを招きて出づ。
三 1 はんかい 2 いかん 3 こ 4 こうげきのえいし 5 つい
6 もくし 7 ししゅ 8 かんょう 9 しゅゆ 10 かわや
四 1 陣営の門。 2 かかえる。 3 上をさす。 4 めじり。 5 気力の盛んな男。
6 つつぃンでお礼を申し上げる。 7 少し。 8 つまらぬ説。
9 しばらく。 10 便所。
五 1 疑問 いかん どのおうか 2 疑問 何為る どういうことか
3 抑揚 すら且つ でさえ〜だ 4 反語 安くんぞ づして〜か(いや〜ない)
5 強い否定 敢えて〜ず 決して〜しない
6 使役 遣わし 〜を遣わして〜させる
六 1、3 事態が一刻の猶予も許されない状態にある。
2 意図は常に沛公を撃つ事にある。 4 樊噲。
5 沛公を撃とうとしている項王に対して。 6 樊噲。 7 項王に対する示威行為。
8 残忍な心。 9 秦は多くの人に恨まれていた。 10 秦王。
11 沛公は関中の王だからどうしようと勝手なのに。
12 都咸陽に駐屯していても当然なのに。 13 項王。 16 沛公。
14 沛公。 15 曹無傷。17 「欲誅有之人」
18 反論すべき何ものも持ち合わせていない気持ち。
4 沛公、虎口を脱す
ニ ヅ ム ヲシテ サ ヲ
沛 公 已 出。1項 王 1使 @都 尉 陳 平 召 沛 公。沛
三 ニ 一
ク ヅルニ ダ セ スコトヲ ヲ ト ク
公 曰「今 者 出、2未 A辞 也。為 2之 3奈 何。」樊 噲 曰
ルレ
ハ ミ ヲ ハ セ ヲ ハ ニ リ
「大 行 不 顧 細 謹、大 礼 不 辞 小 譲。如 今、人 方 為
レ ニ 一 レ ニ 一 ニ
ハ リ ゾ スルコトヲ サント イテ ニ ニ ル
3B刀 俎、我 為 4魚 肉。何 辞 為。」於 是 遂 去。
一 ニ 一 レ
チ ム ヲシt マリ セ ヒテ ク タルトキ ヲカ レルト シ
乃 令 張 良 留 謝。良 問 曰「大 王 来、何 C操。」曰「我 持
ニ 一 ニ
ヲ シ ゼント ニ ヲバ セシモ ヘント ニ
D白 璧 一 双、欲 献 項 王、E玉 斗 一 双、欲 与 亜 父、
レ ニ 一 レ ニ 一
ヒテ ノ リニ ヘテ ゼ ニ ガ ゼント ヲ ク ミテ スト
会 其 怒 4不 敢 献。公 為 我 献 之。」張 良 曰「5謹諾。」
ニ 一 ニ 一 レ レ
タリ ノ ニ ノ ハ リ ノ ニ ノ ハ リ ニ
当 是 時、項 王 軍 在 鴻 門 下、沛 公 軍 在 覇 上、
ニ 一 ニ 一 ニ 一
ルコト ナリ チ キ ヲ シテ ヲ リ シ
相 去 四 十 F里。沛 公 則 置 車 騎、脱 身 独 騎、与 樊
ニ 一 レ 下
ト ノ シテ ヲ スルモノ
噲 夏 侯 嬰 靳 彊 紀 信 等 四 人 持 剣 盾 歩 走、
ニ 一 上
リ ノ シテ ニ ス ヒテ ニ ク リ ノ
従 驪 山 下、道 芷 陽 G間 行。沛 公 謂 張 良 曰「従 此
ル ガ ニ ル ギ ニ リ ノ ルヲ ニ チ
道 至 吾 軍、不 過 二 十 里 耳。6度 我 至 軍 中、公 乃
レト
入。」
ニ リ ビテ ル ニ リテ シテ ク
沛 公 已 去、間 至 軍 中。張 良 入 謝 曰「沛 公 H不
ニ 一 レ
ヘ ニ ハ スル ミテ ムト ヲシテ ジ ヲ シテ
勝 桮 杓、不 能 辞。7謹 使 臣 良 奉 白 璧 一 双、再 拝
ニ レ レ 下 ニ 一
ジ ノ ニ ヲバ シテ ゼ ノ
献 大 王 足 下、玉 斗 一 双、再 拝 奉 大 将 軍 足
ニ 一 中
ニ ク クニカ ルト ク キ リト
下。」項 王 曰「8沛 公 安 在。」良 曰「聞 大 王 有 意
ニ 一レ ニ
スルニ ヲ シテ ヲ リ レリ ニ ラント ニ
I督―過 9之、脱 身 独 去。已 至 軍 矣。」
ニ 一 レ レ
チ ケ ヲ ク ヲ ニ ケ ヲ
10項 王 則 受 璧、置 之 J坐 上。11亜 父 受 玉 斗、
レ ニ 一
キ ヲ ニ キ ヲ キテ リテ ヲ ク ラ
置 之 地、抜 剣、撞 而 破 之 曰「5唉、12K豎 子 不 足
ニ 一 レ レ レ ニ
ニ ルニ フ ノ ヲ ハ ズ ナラン ガ ニ ラント
与 謀。奪 項 王 天 下 者、必 沛 公 也。吾 属 今 為 13
一 ニ 一 ニ
ガ ト
之 虜 矣。」
一
リ ニ チドコロニ ス ヲ
沛 公 至 軍、立 誅―殺 曹 無 傷。
レ ニ 一
(史記、項羽本紀)
(注)@都尉 将軍の下で軍事を司る官。A辞 別れの挨拶をする。B刀俎 包丁とまな板。C操 (土産として)もってくる。D白璧一双 白玉の平らで丸い宝石。一対。E玉斗 玉で作ったひしゃく。F里 一里は約0,4キロメートル。 G間行 こっそりと近道をとる。H不勝桮杓 これ以上は酒を飲めない。「桮」は杯。「杓」は酒をくむ物。I督過 過ちをとがめる。J坐上 座席のかたわら。。K豎子 こぞう。青二才。
一 書き下せ。
二 口語訳。
沛公は宴席から出ていた。項羽は都尉陳平に沛公を呼ばせた。
沛公はこう言った、「今、宴席から出るに当たって、別れの挨拶をしていない。
どうすればよいだろうか。」
樊噲は言った、「大事を行うときは、些細な慎みなど問題にせず、大いなる礼には、小さな謙譲の語など問題ではありません。今、向こうは包丁とまな板で、我々は魚肉です。どうして別れの挨拶をする必要がありましょうか、いえ、必要ありません。」
こうして、そのまま酒宴から立ち去った。そして、張良に留まって謝罪させることにした。
張良は尋ねた、「大王は、いらっしゃったとき何を土産に持ってきましたか。」
「私は白璧一対を項王に献上し、玉斗一対を亜父に与えたいと思っていたが、その怒りを目の当たりにして、どうしても献上出来なかった。君は、私のためにこれらを献上してくれ。」
張良は答えた、
「謹んでお受けします。」
この時、項羽の軍は鴻門のあたりにあり、沛公の軍は覇上にあって、40里離れていた。沛公は車騎を置き去りにして身を脱して一人馬に乗り、樊噲・夏侯嬰・靳彊・紀信等4人の剣と盾を持ち、自分の足で走る者達と、
驪山のふもとから芷陽を経由して、抜け道を通ってひそかに急行した。
沛公は張良にこう言っていた、「この道を通って我が軍に合流するのには、20里ほど走ればよいだろう。
私が軍中にいたるのを見計らって、君は宴席に入れ。」
沛公は鴻門を去り、すでにひそかに軍中に到着していた。
張良は宴席に入ってこう謝罪した、「沛公はもはや酒に耐えられず、別れの挨拶もできないありさまです。
そこで、わたくしに、白璧一対を、二度お辞儀をして大王様に献じ、玉製のひしゃく一対を、二度お辞儀をして大将軍閣下に献上させることにしたのです。」
項羽は言った、「沛公はどこにいるのか。」
張良は答えた、「大王に沛公の過ちをとがめる意思がおありだと聞いて、身を脱して一人去りました。
すでに軍中に至っていることでしょう。」
項羽は璧を受け、これを座席の傍らに置いた。
范増は玉製のひしゃくを受け、これを地に置き、剣を抜いて叩き壊して言った、
「ああ、青二才は天下の大事をともに語るに足らぬ。項王の天下を奪う者は、必ず沛公だ。
我が一族は、彼に捕らえられることになるだろうよ。」
沛公は軍に合流し、即座に曹無傷を誅殺した。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 既 2 奈何 3 細謹 4 刀 俎 5 乃 6 白璧一双
7 玉斗 8 為 我 9 間行 10 豎子
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 大行
2 細謹
3 大礼
4 桮杓
5 虜
6 誅殺
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 使
2 未
3 奈 何
4 不 敢
5 唉
六 傍線部1〜13の問いに答えよ。
1 項王はなぜこうしたか。
2 指示内容を記せ。
3、4 それぞれ何の比喩か。
5 こう言った張る良の心中を推察せよ。
6(1) こう言った理由を説明せよ。
(2)時間はどのくらいかかると思われるか。
7 大王、大将軍はそれぞれ誰を指すか。
8 こう問う項王の気持ちを説明せよ。
9 指示内世を記せ。
10 、11 二人の気持ちをそれぞれ説明せよ。
12 誰を指すか。
13 指示内容を記せ。
解答
一
沛公已に出づ。項王都尉陳平をして沛公を召さしむ。沛公曰はく、「今者出づるに、未だ辞せざるなり。之を為すこと奈何せん。」と。樊ョ曰はく、「大行は細謹を顧みず、大礼は小譲を辞せず。如今、人は方に刀俎たり、我は魚肉たり。何ぞ辞せんや。」と。是に於いて遂に去る。乃ち張良をして留まり謝せしむ。良問ひて曰はく、「大王来たるとき、何をか操れる。」と。曰はく、「我白璧一双を持し、項王に献ぜんと欲し、玉斗一双をば、亜父に与へんと欲せしも、其の怒りに会ひて敢へて献ぜざりき。公我が為に之を献ぜよ。」と。張良曰はく、「謹みて諾す。」と。
是の時に当たり、項王の軍は鴻門の下に在り、沛公の軍は覇上に在り、相去ること四十里なり。沛公則ち車騎を置き、身を脱して独り騎し、樊ョ・夏侯嬰・靳彊・紀信等四人の剣盾を持して歩走するものと、山の下より、陽に道して間行す。沛公張良に謂ひて曰はく、「此の道より吾が軍に至る、二十里に過ぎざるのみ。我の軍中に至るを度り、公乃ち入れ。」と。
沛公已に去り、軍中に至る間、張良入りて謝して曰はく、「沛公桮杓に勝へず、辞すること能はず。謹みて臣良をして白璧一双を奉じ、再拝して大王の足下に献じ、玉斗一双をば、再拝して大将軍の足下に奉ぜしむ。」と。項王曰はく、「沛公安くにか在る。」と。良曰はく、「大王之を督過するに意有りと聞き、身を脱して独り去れり。已に軍に至らん。」と。
項王則ち璧を受け、之を坐上に置く。亜父玉斗を受け、之を地に置き、剣を抜き、撞きて之を破りて曰はく、「唉、豎子与に謀るに足らず。項王の天下を奪ふ者は、必ず沛公ならん。吾が属今に之が虜と為らん。」と。
沛公軍に至り、立ちどころに曹無傷を誅殺す。
三 1 すで 2 いかん 3 さいきん 4 とうそ 5 すなわ 6 はくへきいっそう
7 ぎょくと 8 ため わ 9 かんこう 10 じゅし
四 1 立派な行為。 2 小さな礼法。 3 重大な礼。 4 杯とひしゃく。
5 捕虜。6 罪を責めて殺す。
五 1 使役 使AB AをしてBせしむ AにBさせる 2 再読文字 未だ〜ず まだ〜ない
3 疑問 いかん どのようか 4 強い否定 敢えて〜ず 決して〜しない
5 感嘆 ああ ああ
六 1 厠からの帰りが遅いから。 2 別れの挨拶。
3 料理する。害を加える方。4 料理される。害を加えられる方。
5 項王の怒りを買い、殺されるかもしれない。項伯がいるから大丈夫かもしれない。
6 (1)項王が、脱出に気づいたら追跡してくると思ったから。
(2)時速30キロとして16分。
7 大王―項王 大将軍― 范増。
8 単純で正直。 9 沛公。
10 項王―事の重大さに気づかない。
11 范増―絶好のチャンスを逃したことを怒っている。
12項王。 13 沛公。
構成
|
1 項羽大いに怒る BC210年 始皇帝没 BC207年 懐王「関中の王。」 BC206年 破る→ 函 戯西 怒り「撃破してやる。」 → 鴻門 40万 范増「沛公には天子の気がある。撃つべきだ。」 (項伯 報せる → 「明朝陣に来て謝罪しろ。」→ 項羽に思い止まらせる。) 2 剣の舞 3 樊噲、頭髪上指す 鴻門 「告げ口は曹無傷だ。」 → 宴 座席 T西―項羽・項伯 U北―范増
=行動(心理) A范増=項羽に目配せ(沛公を撃つ) B項羽=応じない(人情家。項伯説得) C范増=項荘に剣舞を勧める。 D項荘=剣舞をする(沛公殺害) E項伯=剣舞をする(沛公を守る) |
楚 項羽 27才 激しい気性 楚の将軍の家柄 范増―参謀 項伯―叔父 陳平―知将 項荘―従弟 当陽君―部下 虞美人―愛妾 |
咸陽 谷関←封鎖 覇上 ←曹無傷 告げ口「沛公は王になるらしい。」 沛公 10万 ( 張良 命の恩人 ←項羽へのとりなしを頼む。) 百余騎 ←「告げ口で仲違いになった。」 V南―沛公 東―張良 F張良=樊噲に事情を告げる G樊噲=豪快に飲み、演説する(項羽を 圧倒し、非を責める) H沛公=厠に行く 樊噲=沛公に従う |
沛公(劉邦・後の漢の高祖)43才 農民の子 おおらか 張良―参謀 樊噲―護衛 夏侯嬰―部下 曹無傷―部下 王嬰―部下 |
(史記、項羽本紀)
4 沛公、虎口を脱す 「沛公を呼べ」 鴻門 16キロ 「どこに居る」 お土産を置く 范増 土産を割る 殺しそびれた。沛公は天下を 取る」 |
「別れの挨拶をしていない」 樊噲「些細なこtだ」 「張良よ、土産を渡してお詫びしろ」 覇上 一人馬に乗る 樊噲他三人走る 剣と盾 鴻門〜芷陽〜覇上 間道8キロ 「着いたころに行け」
張良「沛公は帰った。お土産がある」 「覇上にいる」 曹無傷を殺す |
主題 項羽と沛公の確執
*このうち「2 剣の舞 A〜H 宴会の場面の行動順序」については、大修館書店「漢文教室」(
または国語教室)に以前発表されたものを改訂して載せた。左図はその概略である。これに矢印を入
れ行動名が入る。斜めの線を記入できないので半端なものになった。以後、漢文の教材研究はこの発
表を参考にして進めた。
宴会
項荘(刺客) 樊噲(参乗)
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 垂れ幕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
東 張良(謀臣)
北 范増(謀臣) 南 沛公(客)
西 項羽(主人)・項伯(叔父)