創業守成                         巻五

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語釈

唐の初代皇帝で父の高祖・李淵の跡をついで二代皇帝に即位した太宗李世は、「貞観の治」と呼ばれる繁栄と安定を国にもたらした。彼は常に臣下の意見に耳を傾け、政治に取り組んだ。

         テ   フ        ニ           ト       ト      レカ  キト

@ 上 A嘗 問 B侍 臣、「C創 業 D守 成 1 難。」

二        一

ク                          メ          ビ   コリ
E房 玄 齢 曰、「1F草 昧 之 始、群 雄 並 起、

     シテ  ヲ     ル      トス    ヲ          シト

2G角 力 H而 後 臣 3。創 業 難 矣。」

レ                  レ
ク     リ               シ   ルハ

I魏 徴 曰、「自 古、帝 王 2莫 不 得 

                 レ                レ  下  二

    ヲ          二  ハ      ヲ         ニ          シト

之 於 艱 難、失 5之 於 安 逸。守 成 難 矣。」

ク         ハ           ニ    リ      ヲ      デテ      ヲ          ヲ
上 曰、「玄 齢 与 6吾 共 取 天 下、7J出 百 死 得 一 生

  ニ  ル               キヲ

故 知 創 業 之 難。

     二               一

ハ           ニ  ンジ      ヲ   ニ  ル       ハ  ジ           ニ
徴 与 吾 共 安 天 下、常 恐 驕 奢 生 於 富 貴、

    レ           二      一      下           ニ          イチ

     ハ   ズルモ     ヨリ   ニスル

禍 乱 生 於 所 K忽。

ニ   ル              キヲ    レドモ           キハ   ケリ
故 知 守 成 之 難。L然 創 業 之 難、往 矣。

キハ  二               マント  ヲ  
守 成 之 難、方 与 M諸 公 慎 之。」

                    二        一    レ

(注)@上 天子のこと。ここは、太宗・李世民。A嘗 過去の事柄を表す。B侍臣 君主の治近くに仕える臣下。C創業 建国の事業を始める。D守成 築かれた事業をしっかりと守って完成させる。E房玄齢 578〜648年。太宗と活動し、唐の建国に貢献した。F草昧 まだ天下が治まらないころ。G角力 武力によって勝敗を競う。「角」は比べる。争う。H而後 それから。I魏徴 580〜643年。初め太宗と敵対したが、後仕えて厳しい諫言を続け、安定した政治の実現に貢献した。J出百死 死ぬような危険に数え切れにあ程あって。K忽 いい加減にする。L然 逆接の助字。しかし。M諸公 臣下全員を指す。諸君の意。

 

一 書き下せ。

 

二 口語訳。

太宗は以前、侍臣にこう聞いた、
「国家統治事業を始めるのと、それを保持していくのとではどちらがより困難であろうか。」
房玄齢が答えた、
「世の秩序が乱れ、いまだ天下の定まらぬ時期の初め、
群雄が並び起こり、武力を競い、勝利して初めて相手を臣従させることができました。
国家統治事業を始めることのほうが困難であろうと思います。」
魏徴はこう答えた、
「古来、艱難のときに天下を得て、安逸をむさぼるうちにこれを失わなかった帝王はいません。
一度成ったものを保持していくことのほうが困難であろうと思います。」
太宗は言った、
「玄齢は私と共に天下を取り、百死に一生を得た。
だから国家統治事業を始める困難を知っている。
徴は私と共に天下を安定させ、常に、驕りや贅沢が富貴から生じ、
災いや世の乱れが物事をおろそかにすることから生じるのを恐れてきた。
だから一度成ったものを保持していく困難を知っている。
まあしかし、国家統治事業を始める困難は、すでに去った。
一度成ったものを保持していく困難は、今まさに諸公と慎んでいかねばなるまい。」

 

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 創業守成 2 李淵 3 李世民 4 嘗 5 房玄齢  6 草味 7 驕者 8 群雄

 

9 魏徴 10 艱難 11 安逸 12 玄齢 13 富貴

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 群雄

 

2 艱難

 

3 安逸

 

4 驕者

 

5 富貴

 

6 禍乱

 

五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。

 

1 

 

2 莫 不

 

六 傍線部1〜7の問いに答えよ。

 

1 二字の熟語で「期」につながる語を記せ。

 

2 「角」と同じ意味の熟語を記せ。

 

3〜5 それぞれ指示内容を記せ。

 

6 誰のことか。

 

7 似た語句を記せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構成

 

 

Q「創業と守成とどちらが難しいか?」

 

 

 

房玄齢と国を作った。だから、かれは創業の難しさを知っている。

魏徴と国を安定させた。だから、彼は守成の大変さを知っている。

今や創業の困難は過ぎた。これからは守成の困難について戒めていこう。」

 

 

 

 

 

 

 李世民

 

 房玄齢「創業が難しい。」

 

  「守成が難しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 側近

 

 

 

 

主題 創業守成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答

太宗嘗て侍臣に問ふ、「創業と守成と孰れか難き。」と。
房玄齢曰はく、「草昧の始め、群雄並び起こり、力を角して而る後之を臣とす。
創業は難し。」と。
魏徴曰はく、「古より、帝王之を艱難に得て、之を安逸に失はざるは莫し。
守成は難し。」と。
上曰はく、「玄齢は吾と共に天下を取り、百死を出でて一生を得たり。
故に創業の難きを知る。徴は吾と共に天下を安んじ、常に驕奢の富貴に生じ、
禍乱の忽にする所に生ずるを恐る。故に守成の難きを知る。然れども創業の難きは、往けり。
守成の難きは、方に諸公と之を慎まん。」と。

三 1 そうぎょうしゅせい 2 りえん 3 りせいみん 4 かつ 5 ぼうげんれい

  6 そうまい 7 きょうしゃ 8 ぐんゆう 9 ぎちょう 10 かんなん 

11 あんいつ 12 げんれい 13 ふうき

四 1 多くの優れた人々。2 辛い日。 3 やすらかにのんびりと楽しむこと。

  4 おごりたかぶって贅沢なことをする。 5 家が富んで身分が高いこと。

  6 わざわいとなる世の中の乱れ。

五 1 疑問 いずれか どちらが〜か 2 二重否定 ざる〜なし ないものはない

六 1 「草創」。 2 角逐。 3 群雄。 4 天下。 5 天下。 

  6 李世民。 7 九死に一生を得る。