赤壁之戦 巻三東漢
語釈
後漢末、漢朝の力が衰え、各地に郡祐が割拠するようになった。其の中で黄河流域を支配した@曹操は、A劉表の死に乗じてB荊州を攻め落とした。劉表のもとに流寓していたC劉備は、D
夏口に難を避けるとともに、E諸葛良をF呉に派遣し、G孫権を説得して曹操に敵対させようとした。
リテ ニ ヲ ク
1 操 遺 権 書 曰、
二 一
メ ノ ヲ セント ニ
「今 治 水 軍 八 十 万 衆、1与 将 軍 H会―猟 於 呉。」
二 一
テ ス ニ シ ル フ ヲ
権 以 示 群 下。1莫 不 失 色。
二 一 レ レ レ
フ ヘント ヲ テ シ ト メテ ニ サシメ ヲ
I張 昭 2請 迎 之。J魯 粛 3以 為 不 可、勧 権 召 K周 瑜。
レ レ 二 一 レ 二 一
リテ ク
瑜 至 曰、
フ ノ ヲ ンデ キ ニ ンジテ ニ ノ ラント ヲ
「請 得 数 万 精 兵、進 往 夏 口、保 為 将 軍 破 之。」
二 一 二 一 二 一 レ
キ ヲ リテ ノ ヲ ク
権 抜 刀 斫 前 L奏 案 曰、
レ 二 一
ヘテ フ ヘント ヲ ノ ト ジカラント
「諸 将 吏 敢 言 迎 操 者、4与 此 案 同。」
レ レ 二 一
二 テ ヲ セシメ ヲ セテ ヲ ヘ ヲ
2 遂 以 瑜 督 三 万 人、与 備 媚 力 逆 操、
レ 二 一 レ レ レ
ンデ フ ニ
進 遇 於 M赤 壁。
二 一
ク
瑜 部 将 5N黄 蓋 曰、
ノ ニ ネ ヲ ス キ キテ ラス ト
「操 軍 方 連 船 艦、首 尾 相 接。可 焼 而 走 也。」
二 一 二 一
チ リ ヲ
乃 取 O蒙 衝・ P闘 艦 6十 艘、
二 一
セ ヲ ギ ヲ ノ 二 ミ ヲ
載 Q燥 荻・枯 柴、灌 油 其 中、裹 R帷 幔、
二 一 レ 二 一
ニ ツ ヲ
上 建 S旌 旗。
二 一
メ ヘ ヲ グ ノ ニ
7予 備 21走 舸、繋 於 其 尾。
二 一 二 一
ヅ テ ヲ リ ニ リテ ス スト ラント
先 以 書 遺 操、詐 為 欲 降。
レ レ レ レ
ニ ノ ナリ
時 東 南 風 急。
テ ヲ モ ケ ニ ニ ゲ ヲ
蓋 以 十 艘 最 著 前、中 江 挙 帆、
二 一 レ レ
テ ヲ ニ ム ノ サシテ フ
8余 船 9以 次 佝 進。操 軍 皆 指 言、
レ
ルト
「蓋 降。」
ルコト リ ニ ス ヲ シク ク ノ クコト シ ノ
10去 二 里 余、同 時 発 火。火 烈 風 猛、船 往 2如 箭。
レ レ
キ クシ ヲ ル ニ シ ダ シ
焼―尽 北 船、烟 怩 漲 天。人 馬 溺 焼、死 者 甚 衆。
二 一 レ
ヰテ ヲ シテ イニ ム
瑜 等 率 22軽 鋭、23雷 鼓 大 進。
二 一
イニ レ ゲ ル
11北 軍 大 壊、操 走 還。
(注)@曹操 155〜220年。字は孟徳。後漢末、魏王に封じられた。A劉表 141〜208年。字は景升。荊州の長官。B荊州 今の湖北省と湖南省にかけての地域。C劉備 161〜223年。字は玄徳。のちに蜀漢の天子となる。D夏口 今の湖北省武漢市。E諸葛亮 181〜234年。字は孔明。劉備の三顧の礼を受けて仕え、のち蜀の丞相となる。F呉 今の江蘇省の地方。G孫権 182〜252年。字は仲謀略後呉の天子となる。H会猟 ともに狩りをすること。ここは、決戦しようという意。I張昭 156〜236年。字は子布。呉の功臣。J魯粛 172〜217年。周瑜の死後、軍事を指導。K周瑜 175〜210年。字は公瑾。呉の武将。俗に周瑜と称された。L奏案 臣下から奏上する文書を載せる机。M赤壁 湖北省嘉魚県北東の長江南岸。N黄蓋 生没年未祥。字は公覆。孫権の武将。O蒙衝 軍船。牛の皮で外部を覆い、敵中に突入する堅牢な船。P闘艦 軍艦。Q燥荻 乾いたおき(葦に似た川辺に生える草。)R帷幔 陣幕。S旌旗 旗の総称。ここでは軍旗。21走舸 軽快な小舟。22軽鋭 軍装の身軽な強い兵士。精鋭。23雷鼓 太鼓を雷鳴がとどろくように激しく打ち鳴らすこと。
一 書き下せ。
二 口語訳。
1 曹操は孫権に書状を送り、「今、水軍八十万の兵を引き連れ、将軍と呉の地でお会いして狩りをしたい。」
と言ってきた。孫権はこの書状を群臣に示した。顔色を変えない者はいなかった。
張昭は、曹操の軍を迎え入れるように願った。魯粛は、承服できないことであるとして、孫権に周瑜を呼び寄せて勧めた。周瑜は到着すると、「どうか数万の精兵をもらい受け、進めて夏口に赴き、将軍のために曹操を打ち破ってご覧にいれましょう。」と言った。孫権は、刀を抜いて前に置かれた上奏文を置くための机を切って、「もろもろの将軍や役人たちで、ぜひとも曹操を迎えたいと言うような者は、この机と同じことになる。」と言った。
2 かくて周瑜に三万の精兵を率いさせ、劉備と協力して曹操を迎え撃たせ、進めて赤壁で遭遇した。
周瑜の部将の黄蓋は、「曹操の軍はちょうど船艦を連結しており、船首と船尾とがつながっております。
焼き討ちにして追い払うべきであります。」と進言した。そこで軍船と軍艦十艘を選んで、乾燥した荻や枯れた柴を満載し、油をその中に注ぎ、幕で見えないように包みこみ、上に軍旗を立てた。
前もって軽快な小舟を用意し、それらの船尾につないでおく。書状を曹操に送って、偽って降伏したいと申し出た。
ちょうどそのとき、東南の風が強く吹いていた。黄蓋は十艘を先陣にして、長江の中程に帆を上げ、
その他の船は、順序に従っていっせいに進んだ。曹操の軍船では、皆指さして、
「黄蓋が降伏してきた。」と言い合っていた。南岸の赤壁から進んで二里ばかりのところで、同時に火を放った。火の勢いは激しく風も猛烈に吹き荒れ、船は矢のように進んでいった。北軍の船を焼き尽くし、煙や炎は空いっぱいに広がっていった。人も馬もおぼれ死んだり、焼け死んだりして、死んだ者は非常に多かった。
周瑜らは身軽な精兵を率いて、攻め太鼓をドンドンと打ち鳴らして進撃した。北軍は大敗を喫し、曹操は逃げ帰った。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 曹操 2 劉表 3 荊州 4 劉備 5 諸葛亮 6 孫権 7 会猟 8 張昭
9 魯粛 10 周瑜 11 奏案 12 赤壁 13 黄蓋 14 帷幔 15 旌旗
16 走舸 17 遂 18 及 19 詐 20 漲
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 群下
2 失色
3 不可
4 保
5 督
6 降
五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1 莫 不
2 如
六 傍線部1〜8の問いに答えよ。
1 (1)こう言う言い方で決戦を挑んだ曹操の気持ちはどういうものか記せ。
(2)曹操の挑戦を受けた呉の人々の気持ちを最も端的に示している部分を五字以内で抜き出せ。またその気持ちを熟語で記せ。
2、6 それぞれ具体的に言っている個所を抜き出せ。
3 読みと意味を記せ。
4 (1)具体的に何をどうすることか、簡潔に説明せよ。
(2)孫権のどのような気持ちを表しているか。
5 黄蓋の火責めが功を奏した原因と考えられる部分を二か所、十字と五字で抜き出せ。
7 なぜか。
8 具体的にどのような舟のことか。
9 どのようなことか。
10 意味する状況を記せ。
11 どちらの軍勢か。
1 2 |
節 |
曹操 手紙「水軍八〇万で戦う。」→ 「黄蓋は降伏した。」 → 二 船を焼きつくす。人馬大量に死ぬ。 曹操 逃げ帰る |
魏 |
孫権 家来に見せる。 張昭 「降伏すべきだ。」 魯粛 「いけない。」 周瑜 「数万の兵で倒す。」 孫権 「闘うぞ。」 周瑜・劉備 三万人 赤壁で 黄蓋「曹操の軍は船を連けつぃているから 火責めにしよう。」 船十隻=枯れ草 油 軍船 ←手紙「降伏する。」 東南の風 他の舟=隠れるように進む。 里 火を放つ。 |
呉 |
主題 赤壁の戦いの様子(208年)
解答
一
1 操 権に書を遺りて曰はく、「今 水軍八十万の衆を治め、将軍と呉に会猟せん。」と。
権 以つて群下に示す。色を失はざるは莫し。張昭 之を迎へんと請ふ。
魯粛 以つて不可と為し、権に勧めて周瑜を召さしむ。
瑜 至りて曰はく、「請ふ数万の精兵を得て、進んで夏口に往き、保んじて将軍の為に之を破らん。」と。
権 刀を抜き前の奏案を斫りて曰はく、「諸将吏 敢へて操を迎へんと言ふ者は、此の案と同じからん。」と。
2 遂に瑜を以つて三万人を督せしめ、備と力を媚せて操を逆へ、進んで赤壁に遇ふ。
瑜の部将黄蓋曰はく、「操の軍 方に船艦を連ね、首尾相接す。焼きて走らすべきなり。」と。
乃ち蒙衝・闘艦 十艘を取り、燥荻・枯柴を載せ、油を其の中に灌ぎ、帷幔に裹み、上に旌旗を建つ。
予め走舸を備へ、其の尾に樓ぐ。先づ書を以つて操に遺り、詐りて降らんと欲すと為す。
時に東南の風急なり。蓋 十艘を以つて最も前に著け、中江に帆を挙げ、
余船 次を以つて佝に進む。操の軍 皆 指さして言ふ、
「蓋 降る。」と。去ること二里余り、同時に火を発す。火烈しく風猛く、船の往くこと櫞のごとし。北船を焼き尽くし、烟怩天に漲る。人馬厦焼し、死する者
甚だ衆し。瑜等 軽鋭を率ゐて、雷鼓して大いに進む。
北軍大いに壊れ、操 走げ還る。
三 1 そうそう 2 りゅうひょう 3 けいしゅう 4 りゅうび 5 しょかつりょう
6 そんけん 7 かいりょう 8 ちょうしょう 9 ろしゅく 10 しゅうゆ
11 そうぞく 12 せきへき 13 こうがい 14 ちょうまん 15 せいき
16 そうか 17 つい 18 すなわち 19 いつわる 20 みなぎる
四 1 多くの下々の者。 2 顔色を変える。 3 承知しない。 4 うけあう。
5 ひきいる。 6 負けて敵に従う。
五 1 二重否定 ざるはなし ないことはない 強い肯定 2 比況 ごとし ようだ
六 1 (1)自信。 (2)「莫不失色」 驚愕。2 「言迎操」 6 「蒙衝・闘艦十艘」
3 もってなす とする
4(1) 曹操に降伏しよと言う者を切り捨てると言うこと。
(2)曹操と戦おうとする強い意志。
5 「操軍方連船艦、首尾相接」 「時東南風急」
7 曹操の軍を焼き打ちにしたときの脱出用のため。
8 軍艦の背後にあらかじめ供えて置いた船。
9 軍艦の背後で隠れるようにして一斉に進む様子。
10 両軍の距離が二里あまりになってから、互いに火を放ちあった。
11 曹操軍。