采薇之歌                        巻一周

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語釈

           シ     ノ      ツ     ヲ  ス      ト   ノカタ    シテ  ヲ

@ 西 伯 卒、 子 発 立。1 為 武 王。東 2A観 兵

                               ニ      一           レ

ル             ニ  ノ            ノ     シテ  セ      スル

至 1於 B盟 津。是 時 3諸 侯 C不 期 而 噲 者 八 百

  ニ             一                     レ       

         シ  ツ   ト

「D紂 可 伐 矣。」

          レ

       シテ  カ   キ  ル            メ 

 不 可 引 帰。 紂 不 悛。

        レ                  レ

     チ   タントシ ヲ   セテ              を   テ   ク

王 乃 伐 紂、5載 西 伯 E木 主 以 行

         レ        ニ               一

                    ヘテ  ヲ  メテ   ク

F伯 夷・叔 斉 G叩 馬 諫 曰、

                    レ

 

       シテ      ラ   ニ  ブ        ニ   ケン  フ  ト

「父 死 不 葬、爰 及 H干 戈、可 謂 孝 乎。

           レ          ニ       一   レ    レ

  テ   ヲ    ス   ヲ   ベケン フ  ト

以 臣 I弑 君、可 謂 仁 2。」

   レ       レ       レ   レ

         ス    セント    ヲ           ク             ト   ケテ      ラシム  ヲ

左 右 欲 J兵 6。K太 公 曰、「7義 士 也。」扶 而 去 8

          レ     レ                                           レ

(注)@西伯 西方の諸侯の長。周の武王の父の文王。A観兵 軍隊の威力を示す、B盟津 黄河の私場の名。今の河南省孟県にあった。盟は孟と同じ。C不期 約束をしない。D紂 殷の最後の天子。暴君として有名。E木主 位牌。F伯夷・叔斉 殷代の諸侯、風竹君のニ子。伯は兄、叔は弟。G叩馬 馬の手綱を引しめる。H干戈 たてとほこ。武器。戦争。I弑 身分の下の者が上の者を殺す。J兵 武器で殺す。K太公

周初めの宰相、太公望呂商。

 

一 書き下せ。

 

二 口語訳。

1 西伯が亡くなり、子の発が位についた。これが武王である。武王は(紂王を反省させるために)軍事力を示しながら、盟津までやってきた。このとき、諸侯は約束したわけでもないのに集まった者が800人にも達した。皆「紂王を討伐すべきです」と言った。(しかし)武王はそれを承知せずに自国に引き上げた。(ところがそれでも)紂王は反省して行いを改めなかった。(ついに)武王は紂王を討伐しようと決心して、西伯の位牌を(戦車に)載せて出発しようとした。伯夷と叔斉は馬の手綱を取って諌めて言った。「父君が亡くなられてまだ葬式も終わらないのに戦争をなさろうとしている。これを『孝』と言えるでしょうか。臣下の者が主君を殺そうとしています。これを『仁』と言えるだろうか。」(武王の)側近たちはこの二人を殺そうとした。太公は「正義の人である」と言った。(太公は)二人を助けてその場から立ち去らせた。

 

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 采薇之歌  2 曾先之 3 盟津 4 紂 5 悛 6 諌

 

7 伯夷・叔斉 8 干戈 9 弑 10 義士

 

 

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 卒

 

2 諸侯

 

3 伐

 

4 諌

 

5 左右

 

6 義士

 

五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。

 

1 於

 

2 乎

 

六 二重線部1〜8の問いに答えよ。

 

1 指示内容を記せ。

 

2 どういうことか説明せよ。

 

3 どういう事を意味しているか。

 

4 誰のことか。

 

5 どういう事を意味しているか。

 

6 指示内容を記せ。 

 

7 誰の事を言っているか。

 

8 指示内容を記せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答 

一 1 西伯卒し、子の発立つ。是れを武王と為す。東のかた兵を観して盟津に至る。是の時諸侯期せずして会する者八百。皆曰く、「紂伐つべし。」と。王可かずして引きて帰る。紂悛めず。王乃ち紂を伐たんとし、西伯の木主を載せて以て行く。伯夷・叔斉 馬を叩へて諫 めて曰く、「父死して葬らず、爰 に干戈 に及ぶ。孝と呼ぶべけんや。臣を以って君を弑す、仁と謂 ふべけんや。」と。左右之を兵せんと欲す。太公曰く、「義士なり。」と。扶 けて之を去らしむ。

三 1 さいびのうた 2 そうせんし 3 もうしん 4 ちゅう 5 あらたむ

  6 いさむ 7 はくい・しゅくせい 8 かんか 9 しいす 10 ぎし

四 1 しぬ。 2 天子から土地の所有を認められた国の君主。3 兵力で攻める。征伐

  4 忠告する。 5 近臣。 6 正義を固く守る人。

五 1 助字 対象 2 反語 〜か 〜か(いや^ない)

六 1 発。 2 紂をうとうと思えばいつでもできるのだという威嚇。

  3 武王の挙に賛成して集まった。 4 武王。 

5 父の意思をついで父とともに紂を打とうとすることを示す。

  6 伯夷・叔斉。 7 伯夷・叔斉。 8 伯夷・叔斉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ニ    ボシテ  ヲ   ル         ニ             シ            ヲ               ト

2 王 既 滅 殷 為 天 子。@追―尊 A古 公 為 太 王、

             レ      弐      一      弐          一    弐      一

           シ      ト      ヲ    ス      ト 

B公 季 為 王 季、西 伯 為 文 王。

         二      一          二       一

       ス  ヲ                   ヂ     ヲ      マ  ノ     ヲ

天 下 宗 周 。伯 夷・叔 斉 恥 1、不 食 周 D粟。

         レ                        レ       レ  二        一

  レ                ニ  リテ  ヲ  ク

隠 於 E首 陽 山、作 歌 曰

  二               一    レ

         リ  ノ        ニ           ル  ノ    ヲ

登 彼 F西 山 G兮  采 其 H薇 矣

  二            一          二       一

  テ    ヲ  ヘ     ニ             ラ     ノ   ヲ

以 2 易 3 兮  不 4 5其 非 矣

   レ        レ             レ    二        一

                           トシテ シヌ            クニカ       セン  

I神 農 J虞 K夏 L忽 焉 没 兮  我 1 M適 帰 矣

            カン                 ヘタル   ト  

于―嗟 N徂 兮   命 之 衰 2

    ニ  ヱテ      セリ

O遂 餓 而 死。

 

(注)@追―尊 死後に尊号を贈る。A古公 武士の祖父。B公季 武士の祖父。D粟 扶持米。俸禄。E首 陽山 今の山西省済県の南部にある。F西山 首陽山の別名。G兮 「けい」。語調を整える助字。

H薇 食用になる野草の名。野豌豆。I神農 太古の帝王の炎帝。農業の神とされている。J虞 帝舜。帝堯とともに古代の理想的天子と言われる。 K夏 夏王朝の第一代の天子の兎王。L忽焉 たちまちにして。 M適帰 身をおちつけると。N徂 死ぬ。

 

一 書き下せ。

 

二 口語訳。

2 (さて、)王はすでに殷を滅ぼして天子となり、古公には太王と、公季を王季と、西伯を文王とおくりなした。天下(の者)は周を天子とした。伯夷・叔斉はこれを恥として、周の俸禄を受けようとせず、首陽山に隠れ、歌を作った。

あの西山に登って、そこのぜんまいを採っている。

(武王は)乱暴な行為で(紂王の)暴虐な行為にとってかわった。(しかも武王は)その悪さを理解しない。

神農・虞・夏(のような理想的な時代は)たちまち過ぎ去ってしまい、われわれはどこでこの身を落ち着けたらよいのか。

ああ、もう死のう。わが運命は衰えてしまった。

とうとう(二人は)餓死した。

 

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 粟 2 薇 3 忽鳶 4 適帰 5 干嗟 6 遂

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 粟

 

五 二重線部1〜5の文法問題に答えよ。

 

1 安

 

2 干―嗟 矣

 

六 1 指示内容を記せ。

 

  2 具体的内容を記せ。

 

3 具体的内容を記せ。

 

  4 主語を記せ。

 

  5 具体的内容を記せ。

 

 

 

解答

2 王既に殷を滅ぼして天子と為し、古公を追尊して太王 と為し、公季を王季と為し、西伯を文王と為す。天下周を宗とす。伯夷・叔斉之を恥ぢ、周の粟を食らはず。首陽山に隠れ、歌を読む。

彼の西山に登り   其の薇采る

暴以て暴に易へ   其の非を知らず

神農虞夏忽焉として没す  我安くんぞ適帰せん   

于―嗟 徂かん   命の衰へたる

遂に餓せり。

三 1 ぞく 2 ビ 3 こつえん 4 てきき 5 ああ 6 つい

四 1 扶持米。俸禄。 

五 1 反語 いずくんぞ〜ん どうして〜か(いや〜ない) 2 感嘆 ああ ああ

六 1 「天下宗周」 2 臣下の身にありながら主君を殺した武王の暴行。

  3 紂王の暴虐な政治。 4 武王。 5非道な行い=放伐

 

 

 

 

 

 

 

構成

 

 

 

 

 

 

 

 

2 

 

 

 

 

西伯(文王)から武王へ

紂を威嚇する

紂を討とう

諸侯「紂を討つ。」

近臣 「二人を殺そう。」

宰相 義士といって逃がす。

 

殷を滅ぼし天子になる。

 

 

 

 

 

 武王

 

 

 

 

反対「文王の葬儀も終わっていない。」

 

 

 

王の政治を恥と思い、俸禄を受けない。

首陽山にこもり、餓死する。

 

 

 

 

 伯夷・叔斉

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 餓死してでも筋を通す伯夷と叔斉