鼓腹撃壌 巻一五帝
語釈
ハ ノ ノ ハ ク ノ ノ ハ シ ノ
帝 @尭 A陶 唐 氏 B帝 嚳 子 也。其 仁 如 天 其 知 如 神。
レ レ
ケバ ニ ク ノ メバ ヲ シ ノ ス ニ ハ ラ
就 1之 如 日、「望 之 如 C雲。都 D平 陽。 2E茆 茨 不 剪、
レ レ レ ニ 一 レ
ノミ ムルコト ヲ ラ マル
F土 階 三 等。治 天 下 五 十 年、3不 知 天 下 治 歟 、
ニ レ ニ
ル マラ フ クヲ ヲ ル ハ クヲ フニ ニ
不 治 歟、億 兆 願 戴 4己 歟、不 願 戴 歟。問 左 右 不
レ レ レ レ ニ 一 レ
ラ フニ ニ ラ フニ ニ ラ チ シテ ブ
知。 問 外 朝 不 知。 問 在 野 不 知 。乃 微 服 遊 於 康
ニ 一 レ ニ 一 レ ニ
ニ クニ ヲ ク
衢、聞 5童 謡 曰、
一 ニ 一
ツルハ ガ ヲ シ ザル ノ ニ
G立 我 烝 民 61莫 匪 H爾 極
ニ 一 レ ニ 一
ラ ラ フト ニ
不 識 不 知 順 帝 之 則
レ レ ニ 一
リ ミ ヲ シ ヲ チテ ヲ ヒテ ク
有 老 人、I含 哺 鼓 腹、撃 壌 而 7歌 曰、
ニ 一 レ レ レ
デテ シ リテ フ
日 出 而 J作 日 入 而 息
チテ ヲ ミ シテ ヲ フ
鑿 井 而 飲 耕 田 食
レ レ
ゾ ラン ニ ト
8帝 力 2何 有 於 我 哉
ニ 一
(注)@尭 古代の伝説上の聖王。A陶唐氏 堯の姓。初め陶(今の山東省定陶県の南西)にいたがのちに唐(いまの河北省唐県)に映ったので陶唐氏という。B帝嚳 中国古代の伝説上の天子。C雲 恵みの雨をもたらす雲。D平陽 今の山西省臨田市付近。E茆茨不剪 茅出葺いた屋根の軒橋を切りそろえない。「茆」「茨」はともに茅。F土階三等 宮殿に上る階段は、土で築かれた三段だけである。G立我烝民 我々多くの民衆のせいかつを成り立たせているのは。 H爾極 あなたさもの徳のおかげ。I含哺 食物をほおばる。J作 仕事を始める。息と対。
一 書き下せ。
二 口語訳。
帝尭陶唐氏は帝嚳の子である。そのいつくしみの心は天のよう(にゆきわたるもの)で、その知恵は神のようだった。尭に近づくと太陽のようであり、遠くから眺めると(恵みの雨をもたらす)雲のようだった。平陽を都とした。宮殿のかやぶき屋根の端は切りそろえず、階段は三段のみだった。天下を治めること50年になったが、世の中が(平和に)治まっているのかいないのか、人民は自分を天子として戴くことを願っているのかいないのかを知らなかった。側近のものに聞いてもわからない。政治を行う者に聞いてもわからない。民間の者に聞いてもわからない。そこでおしのびで町の大通りへ出かけて行くと童謡が聞こえてきた。(それは)「民衆の暮らしを成り立たせているのは帝尭の偉大な恩恵にほかならない。(民は)知らず知らずのうちに帝のお手本に従っている」(というものだった)。老人がいた。口中に食べ物をほおばり、腹鼓を打ち、壌を撃って歌って言うことには、「日が出れば働き、日が沈めば帰って休む。井戸を掘って水を飲み、田んぼを耕して食べる。帝尭の力(おかげ)などどうして俺たちに関係あろうか(いや、ない)」と。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 鼓腹 2 撃壌 3 堯 4 陶唐氏 5 就 6 茆茨 7 剪 8 戴
9 外朝 10 在野 11 微腹 12 康 衢、 13 烝 民
14 爾 15 息 16 鑿
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 鼓腹
2 撃壌
3 仁
4 就
5 億兆
6 左右
7 外朝
8 在野
9 微腹
10 康 衢
11 則
12 鑿
五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1 莫匪
2 何 哉
六 傍線部1〜8の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 堯のどのようなことを表現しているか。
3 堯が「天下五十年」であるにもかかわらず、自分の政治がどのように人々のうえに反映しているか「不知」であったのはどうしてか。
4 指示内容を記せ。
5 童謡には民衆のどのような考え方が表現されているか。
6 意味する内容を説明せよ。
7 老人の歌には民衆のどのような考え方が表現されているか。
8 意味する内容を説明せよ。
堯 人柄 仁=天 知=神
近づくー日 遠くー雲
質素な宮殿
治世五十年 治まっているかどうか わからない
童謡 積極的に評価
老人の歌 表面的には否定
主題 聖王堯の「無為の治」をたたえる
鼓腹撃壌 原義 腹鼓を打ち足で地面を踏みならして拍子を取る。
転義 平和で安楽な生活を喜ぶ形容。
参考 鯨の狩りー胸鰭をうつ
解答
一 帝尭 1陶唐氏は帝嚳 の子なり。その仁は天の如くその知は神の如し。これに就けば日の如く、これを望めば雲の如し。平陽に都す。茆茨剪らず。土階は三等のみ2。天下を治むること五十年、天下治まるか、治まらざるか、億兆3己を戴くことを願ふか願はざるかを知らず。左右に問ふに知らず。外朝に問ふに知らず。在野に問ふに知らず。乃
ち微服4して康衢に遊び、童謡を聞くに曰 く、「我が烝 民を立つるは、爾
の極に匪 ざるなし。識 らず知らず帝の則に従ふ」と。老人有り。哺 を含み腹を鼓し、壌を撃ちて歌ひて曰く、「日出て作し、日入りて息 ふ。井を鑿 ちて飲み、田を耕して食らふ。帝力何ぞ我に有らんや」と。
三 1 こふく 2 げきじょう 3 ぎょう 4 とうとうし 5 つ 6 ぼうし 7 き
8 いただ 9 がいちょう 10 ざいや 11 びふく 12 こうく 13 じょうみん
14 なんじ 15 いこ 16 うが
四 1 腹づつみを打つ。食に満ちたりているさま。 2 地面を足で踏みならして拍子を取る。
3 いつくしみ。仁愛 4 近づいてみる。 5 数が多いこと。 6 近臣。
7 天子が政治を取る表向きの役所。 8 官に仕えないでいる事。対 在朝。
9 人目に付かない服装。 10 往来の激しいにぎやかな大通り。 11 模範。
12 穴を掘る。穴をあける。鑿掘。
五 1 二重否定―強い肯定。 ざるなし でないものはない
2 反語 何ぞ〜や どうぢて〜か(いや〜ない)
六 1 堯。2 宮殿が質素なものであったこと。
3 理想的な政治が自然におこなわれていたので政治の効力を実家することがなかった
から。無為の政治
4 堯。 5 堯の政治を積極的に評価し感謝している。
6 堯の徳のおかげで平和な生活が出来ること。
7 自部の力で生きており堯の政治は関係ない。
8 堯の存在を無視。