琵琶行
序文 白居易
語釈
セラル ノ ニ
第一句 元 和 十 年、予 左―遷 A九 江 郡 司 馬。
二 一
リテ ヲ ノ ニ ク ニテ ズル
第二句 明 年 秋,送 客 B湓 浦 口,聞 舟 中 夜 弾 毘
ヲ 下 二
琶 者。
一 上
クニ ノ ヲ トシテ リ ノ
第三句 聴 其 音,C铮 铮 然 有 京 都 声。
二 一 二 一
ヘバ ノ ヲ ニシテ テ ビシア ヲ
第四句 問1其 人,本 長 安 D倡 女,嘗 学 琵 琶 於 穆、
ニ 一 二 一
ニ
曹 二 E善 才。
一
ケ ヘ ネテ ヲ る ノ ト
第五句 年 長 色 衰,委 身 為 F買 人 婦。
レ 二 一
ニ ヒテ ヲ ム ク ゼ ヲ
第六句 遂 命 酒,1使 G快 弹 数 曲。
レ 二 一
ミテ トシテ ラ ノ ト
第七句 曲 罷 H憫 然,自 叙 少 小 时 時 歓 楽 事,
三
sテ スルコトヲ ノ ニ
第ハ句 今 I漂 淪 憔 悴,転―徙 於 江 湖 間。
ニ 一
デテ ヨリ トシテ ラ ズ ジ ノ ノ ニ
第九句 予 出 官 二 年,J恬 然 自 安。 感 斯 人 言
ニ 一
ノ メテ ユ ルヲ ノ
是 夕 始 覚 有 遷 谪 意。
二 一
リテ リテ ヲ ヲ テ ル ニ
第十句 因 為 長 句,歌 以 赠 之。 凡 六 百 一 十 六
ヅケテ フ ト
言。命 曰《 琵 琶 行》。
二 一
(注)@元和十年 815年時に作者44歳。A九江郡 いまの江西省打ち。B湓浦 湓江が長
江に注ぐ所。C铮铮然 高く澄んだ音の形容。D倡女 うたい女。E善才 琵琶の師匠。F買人
商人。G快 思う存分。H憫然 悲しげな様子。I漂淪 落ちぶれる。J恬然 穏やかな様子。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
第九句
第十句
二 口語訳
第一句 元和十年、予は九江郡司馬に左遷される。
第二句 明年秋,客を湓浦口に送り、舟中にて夜琵琶を弾ずる者を聞く。
第三句 その音を聴くに铮铮然として京都の声がする。
第四句 其の人を尋ねると、もと長安の倡女で,嘗て琵琶を、曹琶二善才に学び、
第五句 年を取り容貌も衰え、身を任せて買人のつまとなる。
第六句 遂に酒を命じて数曲を弾かせる。
第七句 曲が終わり、悲しげに自ら若い時の歓楽の事と、
第ハ句今の漂淪憔悴して江湖の間に転々といどうしていることを話す。
第九句 私は官に出て二年、おだやかに安心してきたがこの人の言葉に感じてこの夕べ初めて流れた
と謂う実感を覚えた。
第十句 そこで七言古詩を作ってこの人に送る。全六百一十六言、名づけて琵琶行という。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 琵琶行 2 司馬 3 铮 铮 然 4 倡 女 5 憫然 6 憔悴 7 恬然
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 司馬
2 京都
3 色
4 少小
5 憔悴
6 長句
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 使
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 指示内容を記せ。
解答
一
第一句 元和十年,予九江郡司馬に左遷せらる。
第二句 明年秋、客を送りて湓浦口,舟中夜琵琶を弹ずる者あり。
第三句 其の音は铮铮然として京都の声のようだ
第四句 其人は本長安の倡女だ。嘗て琵琶を穆曹二善才にまなんだ。
第五句 年が長け容貌は衰え身を委人の妇に委ねた。
第六句 遂に酒を命じて快く数曲を弾いた。
第七句 曲が罷る。憫然として自らの若い時の歓楽を述べる。
第八句 今漂淪憔悴し,江湖間に転徙
第九句 予出でて官より二年恬然にして自ら安ず。斯の人の言に感じ,是の夕始めて谪迁意有るを覚ゆ。
第十句 因りて長句の歌を為りて以て之に赠る。凡て六百一十六言。命曰《 琵琶行》。
三
1 びわこう 2 しば 3 そうそうぜん 4 しょうじょ 5 びんぜん
6 しょうすい 7 てんぜん
四
1 州の長官を補佐する地方事務官。
2 都(長安)
3 顔の美しいこと。
4 年若く小さい。
5 やせ衰えたこと。
6 七言古詩
五 1 使役 使AB AをしてBせしむ AにBさせる
六
1 夜 弹 琵 琶 者 2 琵琶を弾く女。
1(1)
ル ヲ
第一句 @潯 陽 江 頭 夜 送 客
レ
第二句 A楓 葉 B荻 花 秋 C瑟 瑟
ハ リ ヨリ ハ リ ニ
第三句 1主 人 下 馬 客 在 船
レ レ
ゲテ ヲ スルニ マント シ
第四句 挙 酒 欲 飲 無 管 絃
レ レ 二 一
ヒテ サ ビヲ トシテ ニ レント
第五句 酔 不 成 歓 D惨 1将 別
レ レ レ
ルル トシテ ス ヲ
第六句 別 時 茫 茫 2江 浸 月
チ ク ノ
第七句 忽 聞 水 上 琵 琶 声
ハ レ ルコトヲ ハ セ
第八句 主 人 忘 帰 客 不 発
レ レ
(注) @潯陽江 今の江西省九江市付近を流れる長江の別名。A楓 からけで。B荻 おぎ。C瑟瑟 風のさびしい形容。D惨 わびしくて物足りない気持の形容。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
二 口語訳
第一句 潯陽の江のほとりで 夜旅人を見送った
第二句 楓の葉は赤く 荻の花は白く 秋の気はさびしげだった。
第三句 主人の私は馬からおり客である旅人は船の中にいる
第四句 杯を挙げ飲もうとしたが音楽が無い
第五句 酔ってもこれではおもしろくなく気も沈んだまま今にも別れようとした
第六句 このときはてしらぬ大川には月影が浮かんでいた
第七句 忽ち水上から 琵琶の声が聞こえた
第ハ句 主人は 帰るのを忘れ旅人も出発しなかった
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 潯陽 2 荻花 3 管絃 4 茫茫 5 忽
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 管絃
2 茫茫
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 将
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 どういうことか。
解答
一
第一句 潯陽江頭夜客を送る
第二句 楓葉荻花秋瑟瑟
第三句 主人馬より下り客は船に在り
第四句 酒を挙げて飲まんと欲するに管絃無し
第五句 酔うて歓びを那さず惨として将に別れんとす
第六句 別るる時茫茫として江は月を浸す
第七句 忽ち聞く水上琵琶の声
第八句 主人は帰ることを忘れ客は発せず
三 1 じんよう 2 てきか 3 かんげん 4 ぼうぼう 5 たいまち
四 1音楽。 2 広々とした様。
五 再読文字 将に〜とす 今にも〜しようとする
六 1 作者。 2 川に月が映っている
(2)
ネテ ヲ ニ フ ズル ハ ゾ
第一句 尋 1声 暗 2問 弾 者 1誰
レ
ノ ミテ シテ ラント シ
第二句 琵 琶 声 停 3欲 語 遅
レ
シ ヲ ヅケテ ヘテ ントシ
第三句 移 船 相 近 邀 相 見
レ
ヘ ヲ ラシテ ヲ ネテ クニ ヲ
第四句 添 酒 @回 燈 重 開 宴
レ レ メテ デ タル
第五句 4千 呼 萬 喚 始 出 来
ホ キテ ヲ バ ギル ヲ
第六句 猶 抱 琵 琶 5A半 遮 面
ニ 一 レ
(注)@回燈 灯火の向きを変える。A半遮面 顔を半ば隠している。『枕草子』の第九十四段に「なかば隠したりけんは、えかくはあらざりけんかし。」とある。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
二 口語訳
第一句 声を尋ねて暗に弾いているものは誰かと尋ねる
第二句 琵琶の声は停んで、語ろうとするが遅しい
第三句 船を移してその船の近くへゆきその女を呼び入れ
第四句 酒を添え燈の向きをかえ、重ねて宴を開く
第五句 千呼 萬喚 始めて出で来たる
第六句 やはり琵琶を抱いて半ば面を遮る
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 彈 2 宴 3 千呼萬喚 4 猶 5 遮
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 千呼萬喚始
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 誰
六 傍線部1〜5の問いに答えよ。
1 何の声か。
2 問いの内容を抜き出せ。
3 どういうことか。
3、4、5 どういう気持ちが伺えるか。
解答
一
第一句 声を尋ねて暗に問う弾ずる者は誰ぞ
第二句 琵琶の声停みて語らんと欲すること遅し
第三句 船を移して相い近き邀えて相い見る
第四句 酒を添え燈を回らし重ねて宴を開く
第五句 千呼 萬喚 始めて出で来たる
第六句 猶を琵琶を抱いて半ば面を遮る
三
1 だん 2 うたげ 3 せんこばんかん 4 なお 5 さえぎる
四 1
五 疑問 誰か だれが
六
1 琵琶の音。 2 「弾者誰」
3 返事をしようと思いながらなおためらっている。
3、4、5 弾き手がどんな人か期待し、先方の船に近づけその人を呼び寄せて会おうとした。
(3)
ジ ヲ フ ヲ
第一句 @轉 軸 撥 絃 三 両 声
レ レ
ダ サ ヲ ヅ リ
第二句 11未 成 曲 調 先 有 情
レ 二 一 レ
シテ
第三句 絃 絃 A掩 抑 声 声 思
タリ フルニ ルヲ ヲ
第四句 2似 訴 平 生 不 得 志
レ 二 一レ レ
レ ヲ セテ ニ トシテ ジ
第五句 3低 眉 信 手 続 続 弾
レ レ
キ クス ノ ヲ
第六句 説 盡 心 中 無 限 事
(注)@轉軸 琵琶の弦をしめて。調子を合わせること。A掩抑 ばちでおさえる。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
二 口語訳
第一句 絃をしめてばちで弦をはらって二声三声調子を合わせ、
第二句 未だ演奏に入らないのに情けがこもっているようだった
第三句 一本一本の絃の音をばちで押さえひとつひとつの音に思いがかんじられる
第四句 普段心の思がとげられないことえを琵琶に託して訴えているようだ。
第五句 顔を伏せて、手にまかせて続けざまに弾奏し
第六句 心中の思いをはき出してしまいそうだった。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 三両声 2 掩抑 3 平生 4 盡
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 三両声
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 未
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 どういうことを言っているか。
2 どういうことを言っているか。
3 どういう様子か。
解答
一
第一句 軸を轉じて絃を撥すること三両声
第二句 未だ曲調を成さず 先づ情あり
第三句 絃絃掩抑す声声の思い
第四句 平生の志しを得ざるを訴えるに似たり
第五句 眉をたれて手に信せて続々として弾じ
第六句 説き盡す心中 無限の事
三 1 さんりょうせい 2 えんよく 3 へいぜい 4 ことごと
四 1
五 1 再読文字 未だ〜ず まだ〜ない
六
1 まだ演奏にはいらないのに、情がこもっている。
2 普段の思いがとおらないことを琵琶に託して訴えているようだ。
3 伏し目がちに。
(4)
ク ヘ ク リテ ヒテ タ グ
第一句 軽 龍 慢 撚 抹 復 挑
メハ シ ヲ ハ
第二句 初 為 霓 装 後 六 么
二 一
ハ トシテ ク ノ
第三句 大 絃 曹 曹 1如 1急 雨
二 一
ハ トシテ ク ノ
第四句 小 絃 切 切 如 2私 語
二 一
ト ト シテ ジ
第五句 曹 曹 切 切 錯 雑 弾
ツ ニ
第六句 3大 珠 小 珠 落 玉 盤
二 一
タル ニ ラカニ
第七句 間 関 4鴬 語 花 底 滑
セル ル ヲ
第八句 5幽 咽 泉 流 水 下 灘
レ
シ ス
第九句 6水 泉 冷 渋 絃 凝 絶
シテ ゼ ラク ム
第十句 7凝 絶 不 通 声 暫 歇
レ
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
第九句
第十句
二 口語訳
第一句 軽く弦をおさえ、ゆるくひねり、音を消したりかき立てたり
第二句 初は霓裳の曲、次はは六幺の曲
第三句 大絃さわがしく急雨のようだ
第四句 小絃小さい音を立てて私語のようだ
第五句 曹 曹切切と錯雑して弾じ
第六句 太い音と細い音と入り交じって弾奏されると
第七句 鶯がなめらかに花の下になき
第八句 泉がむせびなくように早瀬を下るかと思われる
第九句 早瀬を流れる水が冷たかったりせかれるときのように弦もこおったかきれたかと
第十句 しばらく音がやむ
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 曹曹 2 切切 3 鴬語 4 幽咽 5 冷渋 6 凝絶
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 急雨
2 私語
3 幽咽
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 如
六 傍線部1〜7の問いに答えよ。
1〜7における修辞法は何か。
解答
一
第一句 軽く龍へ慢く撚りて抹してまた挑ぐ
第二句 初めは霓装を為し後六么
第三句 大絃は曹曹として急雨のごとし
第四句 小絃は切切として私語のごとくして
第五句 曹曹と切切と錯雑して弾じ
第六句 大珠小珠玉盤に落つ
第七句 間関たる鴬語花底に滑らかに
第八句 幽咽せる泉流水灘を下る
第九句 水泉冷渋し絃凝絶す
第十句 凝絶して通ぜず声暫らく歇む
三
1 そうそう 2 せつせつ 3 おうご 4 ゆうえつ 5 れいじゅう 6 ぎょうぜつ
四
1 にわか雨。2 ひそひそ話。 3 かすかにむせび泣く。
五 1 比況 ごとく ようだ
六 比喩
(5)
ニ リ ズル
第一句 別 有 幽 愁 暗 恨 生
二
ノ キハ レリ ルニ
第二句 此 時 無 声 勝 有 声
レ レ
チ レテ リ
第三句 1@銀 乍 破 A水 漿 迸
ル
第四句 2鉄 騎 突 出 刀 槍 鳴
第五句 3曲 終 収 撥 当 心 B畫
シ ノ
第六句 C四 弦 一 声 4如 裂 帛
二 一
トシテ
第七句 東 船 西 D舫 悄 無 言
レ
ダ ル ニ ノ キヲ
第八句 1唯 見 江 心 秋 月 白
(注)@銀乍 銀の水差し。A水漿 水。B畫 大きく一線をえがくような動作で弾く。C四弦一声如裂帛D舫 『太平記』の巻四に、「四弦一声如裂帛」と引用され、また、蕪村の句にも「帛を裂く琵琶の流れや秋の声」
とある。D舫 船と同じ。
一 書き下せ。
第一句
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
二 口語訳
第一句 すると別に幽愁と悔恨とが生じて
第二句 こんな時は音のしない方がするよりもまさっている
第三句 たちまち鳴りだすと銀の瓶がわれてみずが吹き出るかのよう
第四句 または鎧かぶとの騎馬武者が飛び出して刀や槍の音がするかのようだ
第五句 一曲が終わって撥をひき胸に当てて 一の字を書くと、
第六句 四本の糸が同時に衣を裂くような音をたてる
第七句 東に居た船も西に居た船もひっそりして声立てず
第ハ句 大川の真ん中に秋の月が見えるだけだ。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 幽愁 2 暗恨 3 銀乍 4 水漿 5 鉄騎 6 裂帛 7 江心
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 暗恨
2 裂帛
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
六 傍線部1〜4の問いに答えよ。
1、2、4 修辞法は何か。
2 主語を記せ。
解答
一
第一句 別に幽愁暗恨の生ずる有り
第二句 此の時 声無きは声有るに勝る
第三句 銀[缶 并]乍ち破れて水漿迸り
第四句 鉄騎突出して刀槍鳴る
第五句 曲終りて撥を収め心に当てて畫し
第六句 四弦一声 裂帛の如し
第七句 東船西舫 悄として言無く
第ハ句 唯見る江心秋月の白きを
三 1 ゆうしゅう 2 あんこん 3 ぎんぺい 4 すいしょう 5 てっき 6 れっぱく
四 1 ひそかなくらみ。 2 裂帛した
五 限定 ただ〜のみ ただ〜だけだ
六 1 比喩 2 琵琶を弾く女
2 (1)
メ ヲ ム ニ
沈 吟 収 撥 挿 弦 中
レ 二 一
シテ ヲ チテ ム ヲ
整―頓 衣 裳 起 斂 容
二 一 レ
ラ フ レ ノ
自 1言 本 是 @京 城 女
ハ リテ ニ ム
家 在 A蝦 蟇 陵 下 住
ビ テ ヲ リ
十 三 学―得 琵 琶 2成
ハ ス ニ
名 属 B教 坊 第 一 部
二 一
ンデハ ニ ム ヲシテ セ
曲 罷 常 1教 善 才 服
ニ 一
リテハ ニ ニ マ
粧 成 毎 2被 C秋 娘 妬
ニ 一
ノ ヒテ シ
D五 陵 年 少 争 E纏 頭
ニ ラ ヲ
一 曲 F紅 肖 不 知 数
レ レ
(注)@京城 都。長安を指す。A蝦蟇陵 地名。長安の市内にあり、名妓と美酒で有名。B教坊 唐代に官設された歌舞練習所。C秋娘 美人のこと。一説に美人で有名だった杜秋娘という。D五陵 長安郊外の地名。E纏頭 引き出物を与える。F紅[肖 赤色の薄絹。
一 書き下せ。
第一句
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
第九句
第十句
二 口語訳
第一句 彼女は物思いに沈んで撥を弦のあいでに挟み
第二句 衣装をかいつくろってい住まいを正した
第三句 身の上話をして言うには「私はもと長安の生まれで
第四句 家は蝦蟇陵のあたりでした。
第五句 十三のとき琵琶の稽古をしおえ
第六句 教坊の第一部に戸六された
第七句 曲を奏で終わって師匠を感服させたこともあった
第ハ句 化粧した後はいつも杜秋娘にねたまれた
第九句 五陵の若様方は競争で花代をくれるので
第十句一曲の演奏ごとにもらった赤い絹は数知れなほどだった
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 沈吟 2 衣裳 3 蝦蟇陵下 4 秋娘 5 五陵 6 五陵 7 紅[肖
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 沈吟
2 善才
五 二重線部1〜2の文法問題に答えよ。
1 教
3 被
六 傍線部1〜の問いに答えよ。
1 主語を記せ。
2 どういう意味か。
解答
一
第一句 沈吟 撥を放ちて弦中に挿み
第二句 衣裳を整頓して起って容を斂める
第三句 自た言ふ本は是京城の女
第四句 家は蝦蟇陵下に在りて住す
第五句 十三琵琶を学び得て成り
第六句 名は属す教坊の第一部
第七句 曲罷みて曾て善才をして服せしめ
第八句 粧成りて毎に秋娘に妬まれる
第九句 五陵の少年争うて纏頭し
第十句 一曲の紅[肖]数を知らず
三
1 ちんぎん 2 いしょう 3 がmりょうした 4 しゅうじょう 5 ごりょう 6 こうしょう
四
1 思いに沈む。 2 唐代の琵琶の名手。転じて琵琶の師匠。
五
1 使役 教AB AをしてBせしむ AにBさせる 2 受身 る れる
六
1 琵琶を弾く女 2 成就する。
(2)
ノ チテ ヲ ケ
第一句 鈿 頭 銀 篦 撃 節 砕
レ
ノ シテ ヲ ル
第二句 血 色 羅 裙 翻 酒 汚
レ
シ タ
第三句 1今 年 歓 笑 復 明 年
ニ ル
第四句 秋 月 春 風 等 閑 度
ハ リテ ヒ ニ ハ シ
第五句 弟 走 従 軍 阿 姨 死
レ
レ タリテ ル
第六句 暮 去 朝 来 2顔 色 故
シテ ナリ
第七句 門 前 冷 落 鞍 馬 稀
ニシテ シテ ル ノ ト
第ハ句 老 大 嫁 3作 商 人 婦
二 一
ハ ンジテ ヲ ンズ ヲ
第九句 4商 人 重 利 軽 別 離
レ 二 一
ニ ヒテ ヲ ル
第十句 前 月 浮 梁 買45茶 去
レ
シテ ヲ ル ヲ
第十一句 去―来 江 口 守 6空 船
二 一 二 一
ル ヲ シ
第十二句 遶 船 明 月 江 水 寒
クシテ チ ム ノ ヲ
第十三句 夜 深 忽 夢 少 年 事
ニ キテ ナリト
第十四句 7夢 啼 粧 涙 紅 蘭 干
(注)
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
第九句
第十句
第十一句
第十二句
第十三句
第十四句
二 口語訳
第一句 螺鈿した銀のこうがいなど拍子を取るのに叩いて砕いた
第二句 真っ赤な薄絹のスカートは酒をひっくりかえしてしみがつく
第三句 事師はおもしろおかしくすごしまた来年もと。
第四句 秋のお月さまや春風はうかかと過ごしました。
第五句 弟は軍隊に入りますし叔母はしにました
第六句 日を過ごすうちに自分の顔もふけました
第七句 かど口はさびしくなり 馬で来る人もまれになる
第ハ句 年寄って嫁入りして商人の妻になりました。
第九句 商人と言えば金もうけが大切で別れ暮らすのなどなんでもなく
第十句 先月から浮梁へ茶を買いに行っています
第十一句 私は大川を行き来して一人船の番をしています。
第十二句 其の鮒の周りは明るいお月さまと寒い川の水。
第十三句 夜更けには若い時の事をふと夢に見て
第十四句 夢の中で泣くので化粧も崩れて血の涙が一杯だ。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 螺鈿 2 浮梁 3 忽
四 傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 誰のどういうことを言っているか。
2 どういうことか。
3 主語を記せ。
4 どういうことか。
5 主語を記せ。
6 どういう船か。
7 主語を記せ。
解答
一
第一句 鈿頭の銀篦 節を撃ちて砕けり
第二句 血色の羅裙 酒を翻して汚る
第三句 今年
歓笑
復明年
第四句 秋月春風等閑に度る第五句 弟は走りて軍に従い阿姨は死す
第六句 暮去り朝来りて顔色故り
第七句 門前冷落鞍馬稀なり
第ハ句 老大嫁して商人の婦と成る
第九句 商人は利を重んじ別離を軽んず
第十句 前月浮梁に茶を買い去る
第十一句 江口に去来して空船を守る
第十二句 船を遶ぐる明月江水寒
第十三句 夜深けて忽ち夢みる少年の事
第十四句 夢に啼けば粧涙
紅蘭干
三 1 らでん 2 ふりょう 3 たちま
四 1 琵琶を弾く女が若い時年年を浮ついた生活をおくってすごしてきたこと。
2 年を取り容貌が衰えたこと。
3 琵琶を弾く女。
4 商人は仕事で遠くへ行くことを意に介さない。
5 夫。商人。
6 夫のいない船。
7 琵琶を弾く女。
三 (1)
キテ ヲ ニ スルニ
我 聞 琵 琶 已 嘆 息
ニ 一
キテ ノ ヲ ネテ タリ
又 聞 1此 語 重 @喞 喞
ニ 一
ジク レ ノ
2同 是 天 涯 A淪 落 人
フハ ゾ ズシミ テノ ノミナラン
相 逢 1何 必 B曾 相 識
(注)@喞喞 ため息の形容。A淪落 落ちぶれる。B曾相識 昔からの知り合い。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
二 口語訳
第一句 私は琵琶を聞いた時にすでに嘆息したが、
第二句 この話を聞くと二倍に悲しくあった。
第三句 お前も私も同じく世界のはてに落ちぶれた人間で
第四句 こうしてあってみると前からの知り合いでなくっても同じこと
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 已 2 嘆息 3 淪落
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 天涯
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 何
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 何を意味するか。
解答
一
第一句 我琵琶を聞て已に嘆息し
第二句 又此語を聞いて重ねて喞喞たり
第三句 同じく是れ天涯淪落の人
第四句 相い逢う何ぞ必ずしも曾て相識らん
三 1 すでに 2 たんそく 3 りんらく
四 1 天の果て。非常に遠いところ。
五 1 反語 何ぞ〜や どうして〜か(いや〜ない)
六 1 2(1)自言本〜2(2)紅欄干」 (女の語る身の上話)
(2)
リ シテ ヲ
第一句 我 従 去 年 辞 帝 京
ニ 一 二 一
シテ ス ニ
第二句 謫 居 臥 病 潯 陽 城
ニシテ シ
第三句 潯 陽 地 僻 無 音 楽
二 一
ハ カ ノ ヲ
第四句 終 歳 不 聞 絲 竹 音
レ 二 一
ヒハ ク ニ ハ
第五句 住 近 盆 江 地 低 湿
二 一
ハ リ ヲ ズ
第六句 黄 盧 @苦 竹 遶 宅 生
ノ ニ ク ヲカ
第七句 1其 間 旦 暮 2聞 何 物
二 一
キテ ニ ス
第八句 A杜 鵑 啼 血 猿 哀 鳴
レ
ノ ノ
第九句 春 江 花 朝 秋 月 夜
リテ ヲ タ リ ク
第十句 往 往 取 酒 還 獨 傾
レ
ニ カランヤ ト
第十一句 1豈 無 山 歌 與 村 笛
二 一
シ シ クヲ
第十二句 B嘔 唖 啁 哳 嘲 難 為 聴
レ レ
ィテ ガ ノ ヲ
第十三句 今 夜 聞 3君 琵 琶 4語
二 一
ク クガ ヲ ラク ラkナリ
第十四句 2如 聴 仙 楽 耳 暫 明
カレ 二 一 ヲ
第十五句 3莫 辞 更 坐 弾 一 曲
レ 二 一
ニ ガ シテ ラント ヲ
第十六句 為 君 C翻 作 琵 琶 行
レ ニ 一
(注)@苦竹 竹の一種。まだけ。A杜鵑 ほととぎす。血をはくような悲しい声で泣くと言う。B嘔唖嘲難調子はずれで聞き苦しい歌や調べ。C翻 詩に作り替える。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
第九句
第十句
第十一句
第十二句
第十三句
第十四句
第十五句
第十六句
二 口語訳
第一句 私は去年長安の都に別れてから
第二句 潯陽のまちに流されて来て病気をしている
第三句 この潯陽は片田舎で音楽とてもなく
第四句 一年中弦楽や管楽を聞くことが出来ない
第五句 すまいは盆江の近くで土地は低くしめっぽく
第六句 黄色い葦と苦竹とが家のまわりに生えている
第七句 そこで朝夕に何を聞くかといえば
第ハ句 血を吐くホトトギスのこえと悲しい猿の泣き声だ
第九句 春の川辺の花の朝や秋の明月の夜には
第十句 時には酒を取り寄せて一人で飲むことがある
第十一句 疝の歌や村人の笛がないではないが
第十二句 舌たらずやかん高くて耳を傾けるわけにはいかない
第十三句 今夜は君の琵琶の音を聞いて
第十四句 仙人の音楽をを聞いたようで耳がひと時すんだ
第十五句 ことわらないでおくれよ、座りなおしてもう一曲弾いてくれ
第十六句 そうそれば君の音楽が琵琶の歌というのに作り直すよ
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 謫居 2 糸竹 3 盆江 4 黄蘆 5 哀鳴 6 嘔唖
7 暫 8 凄凄 9 掩
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 謫居
2 城
3 糸竹
4 旦募
5 嘔唖
6 啁哳
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 豈
2 如
3 莫
六 傍線部1〜4の問いに答えよ。
1 どういう意味か。
2 (1)何が聞こえると言っているか二つ抜き出せ。
(2)音楽としてあるものはなにだといっているか二つ抜き出せ。
(3)また聞くに堪えると言うものは何か。
3 指示内容を記せ。
4 こう言ったわけは何か。
解答
一
第一句 我 去年 帝京を辞せしより
第二句 謫居 病に臥す潯陽城
第三句 潯陽地僻にして音楽無し
第四句 終歳聞かず絲竹の音
第五句 住[シ 盆]江に近うして地低湿
第六句 黄盧苦竹宅を遶って生ず
第七句 其間旦暮何物をか聞く
第ハ句 杜鵑 血に啼いて猿哀鳴す
第九句 春江の花朝秋月の夜
第十句 往往 酒を取りて還獨り傾く
第十一句 豈に山歌と村笛と無からんや
第十二句 嘔唖嘲[ロ 析]聴を為し難し
第十三句 今夜君が琵琶の語を聞き
第十四句 先薬を聴くが如く耳暫らく明らかなり
第十五句 辞する莫れ更に坐して一曲を弾ぜよ
第十六句 君為翻して琵琶行を作らん
三 1 たくきょ 2 いsちく 3 ぼんこう 4 こうろ 5 あいめい 6 おうあ
7 しばらく 8 せいせい 9 おおう
四 1 罪せられて遠方に流されていること。
2 まち。
3 琴と笛。弦楽器と管楽器。
4 朝夕。5 つつみや笛の音がやかましいさま。 6 雑音が響くさま。
五 1 反語 あに〜や どうして〜か(いや〜ない) 2 比況 ごとし ようだ
3 禁止 なかれ してはけない
六 1 そのあたり
2 (1)杜鵑 猿
(2)山歌 村笛
(3)琵琶の音
4 琵琶の演奏に深い情意が籠っていて、何かを語りかけてくるようだから。
(3)
ジテ ガ ノ ニ シク チ
第一句 感 我 1此 言 良 久 立
二 一
キ シテ セバ ヲ タ ナリ
第二句 却 坐 促 弦 弦 転 急
レ
トシテ ノ ニ
第三句 凄 凄 不 似 @向 前 声
レ 二 一
キキテ ヲ フ ヲ
第四句 満 座 聞 之 皆 掩 泣
レ レ
ルコト カ モ キ
第五句 2座 中 泣 下 13誰 最 多
ノ フ
第六句 4江 州 司 馬 A青 衫 湿
(注)@向前 さきほどの。A青衫 青い上着。身分ぽ低い役人の服。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
二 口語訳
第一句 私のこの言葉に感激して長い間立ち止まっていたが
第二句 座りなおして弦をかきならすとこんどは急な曲だった
第三句 涼しく澄んだ調子の曲で前のとは違っていたので
第四句 一座のものは皆これを聞くと涙が流れてそれを手でかくす
第五句 中で一番多く涙を流したのは誰だったろう
第六句 江州の司馬である私がそれで青い官服がぬれてしまった。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 掩 2 青衫
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 凄凄
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 誰
六 傍線部1〜4の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 指示内容を記せ。
3 誰が最も多いか。
4 誰のことか。
解答
一
第一句 我が此の言に感じて良久しく立ち
第二句 却坐 弦を促して弦転急なり
第三句 凄凄として向前の声に似ず
第四句 満座重ねて聞いて皆泣を掩う
第五句 座中泣下る誰か最も多き
第六句 江州の司馬青衫湿う
三
1 おお 2 せいさん
四
1 寒々しいさま。
五 1 疑問 誰か 誰が
六 1 3(2)我従去〜3(2)琵琶行
2 満座
3 江州の司馬(作者)
4 江州の司馬(作者)
構成
序文 元和十年(815)
左遷 皇太子の教育係→州の長官の補佐役
潯陽江 琵琶を聞きこの詩を作る
韻字
1(1)秋 月 潯陽江 客 索
作者が旅に出る友人を送る
琵琶の音
(2)弾き手は? 思わせぶり 誰 遅
ようやく会う 見 宴 面
(3)女 準備 声 情
演奏―もの思わしげ 思 志 事
(4)女 演奏
比喩 夕立の音 私語 桃 么
真珠が皿に落ちる 弾 盤 灘
鶯の声
早瀬の水 水の凍結 絶 歇
(5) 銀の瓶が壊れる 生 声 鳴
刀や槍の触れあう音 画 帛 城
長江に白い月 旅立つ友人を送る 琵琶の演奏
2(1)女 過去 長安 美人 琵琶の名手 男が夢中 中 容
(2) 銀の串で演奏 絹のスカートを汚す 住 部
弟―出征 母―死 容貌の衰え 妬 数
現在 商人の妻 空しい日々 汚 渡 故
女の身の上話 帰 去
3(1)女=作者 同じ境遇 感情が通じ合う 息 卿 識
京 城 声
(2) 作者 僻地 音楽無し 低湿 杜鵑 去る 生 鳴 傾
つまらない歌 琵琶―仙楽 聴 明 行
(3)女 演奏 聞き手 涙 立 急
泣 湿
作者の述懐
主題 左遷された作者が、落ちぶれた倩女を境遇が同じと同情し琵琶に感動する。
参考 元鎮の「琵琶歌」を下が気にしている。
同題のものは数多くある。