@
兵車行 杜甫
語釈
(1)
ノ リ ニ
車 1A轔 轔,馬 蕭 蕭, B行 人 C弓 箭 各 在 腰
レ
リテ ル エ
2D耶 孃 妻 子 走 相 送, 3塵 埃 1不 見 E咸 陽 橋。
レ
キ ヲ シ ヲ リテ ヲ ス チニ リ ス ヲ
4牽 衣 F頓 足 闌 道 哭, 哭 聲 G直 上 干 H雲 霄。
レ レ レ 二 一
(注)@兵車行 兵車のうた。「兵車」は軍用の車。「行」は歌謡の体裁で作られた詩の題につく語。A轔轔 車がごろごろと走る音。B行人 出征兵士。C弓箭 弓と矢。D耶孃 父母。「耶」は「爺」に同じ。E咸陽橋 秦の都咸陽の南にあった橋の名。ここでは、長安郊外の端をさす。F頓足 足をふみならす。地団太を踏む。G直上 まっすぐに登る。H雲霄 雲の上。大空。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
二 口語訳
第一句 車はガラガラ、馬はヒヒーン、
第二句 出征兵士は、弓矢を各々腰に着けている。
第三句 父と母、妻と子は、走って見送って、
第四句 砂煙で、咸陽橋が見えなくなる。
第五句 上着を引っ張ったり、地団駄を踏んだり、足にしがみついたり、道をさえぎって、声をあげて泣いているし、第六句 啼き声は、真っ直ぐにたち上って、雲のある大空にまでとどいている
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 兵車行 2 轔轔 3 弓箭 4 耶孃 5 咸陽 6 頓足 7 哭聲 8 雲霄
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 蕭蕭
2 哭聲
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 不
六 傍線部1〜4の問いに答えよ。
1 こう言う語を何というか。他に二例抜き出せ。
2 誰のそれか。
3 どういう状態を示しているか。
4 誰か。
解答
一
(1)
車轔轔 馬蕭蕭 行人の弓箭各 腰に在り
耶 嬢妻子走りて相送る 塵埃 に見えず咸陽橋
衣を牽 き足を頓 し道をさへぎりて哭 す 哭声直上して 雲霄 を干 す
三 1 へいしゃこう 2 りんりん 3 きゅうせん 4 やじょう 5 かんょう 6 とんそく
7 こくせい 8 うんしょう
四 1 いななく声。 2 大声で泣く。
五 1 否定 ず ない
六 1 重言(畳語) 蕭蕭 啾啾
2 行人。 3 兵士や見送りの家族で雑踏している。
4 耶 嬢妻子
(2)
ノ グル フ ニ ダ フ ナリト
1道 旁 過 者 問 行 人 行 人 1但 2云 @點 行 頻
二 一
イハ リ ノカタ ギ ニ チ ッテ ニ ノカタ ム ヲ
或 從 A十 五 北 B防 河 便 至 四 十 西 C營 田
二 一 レ 二 一 レ
ル ニ ミ ヲ リ タレバ キ タ ル ヲ
去 時 D里 正 E與 F裹 頭 歸 來 頭 白 還 戍 邊
レ レ
(注)@點行 兵隊を徴発すること。A十五 唐代、十六才で租税と兵役の義務。B防河 黄河で敵の侵入を防ぐ。727年チベット族の侵入を臨垗拭きで防いだ。C營田 農耕に従事する。D里正 村里の長。E與 自分のために。F裹頭 布で頭を包む。聖人に達したことを祝う儀式。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
二 口語訳
第一句 道端の通りすがりの者が問い尋ねると、
第二句 出征兵士がただ、云うことには、徴兵が頻(しき)りなされている。
第三句 或る者は十五歳から、北の方の黄河(上流)の防衛戦の守備に就き、
第四句 そのままで、四十歳になって、西の方の屯田兵を命ぜられた。
第五句 出征する時、村長は出征の装束の頭巾をかぶせてくれた。
第六句 帰ってくたら、(もう)頭髪が白くなっているのに、なおまた辺疆を防備する(ことを命ぜられた)。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 行人 2 頻 3 點行 4 便 5 里正 6 裹 7 還 8 戊
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 行人
2 辺
3 戍
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 但
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 具体的に誰を指すか。
2 言った言葉はどこからどこまでか。
解答
一
第一句 道旁の過る者[行人に問へば
第二句 行人但だ云ふ「点行[]頻 りなり」と
第三句 或は十五より 北のかた河を防ぎ
第四句 便 ち四十に至るも西のかた田を営む
第五句 去く時 里正 与 に頭を裹 み
第六句 帰り来たれば頭白くして還 た辺を戍 る
三
1 こうじん 2 しきり 3 てんこう 4 すなわち 5 りせい
6 つつむ 7 また 8 まもる
四
1 出征する兵。 2 辺境。3 武器を以て国境を守る。
五
1 限定 ただ〜のみ ただ〜だけだ
六
1 杜甫。
2 點行頻〜聲啾啾
(3)
1@邊 庭 流 血 成 海 水 A武 皇 開 邊 意 1未 已
2君 不 聞 B漢 家 C山 東 二 百 州
千 邨 萬 落 生 D荊 杞
2縱 有 E健 婦 把 F鋤 犁 G禾 生 H隴 畝 I無 東 西
3況 復 J秦 兵 耐 苦 戰 4被 驅 不 異 犬 與 鷄
(注)@邊庭 辺境地帯。A武皇 漢の武帝。ここでは唐の玄宗を指す。あからさまに言うのを憚る。B漢家
漢の帝室。ここでは唐の朝廷をさす。C山東 ここではかん谷関以東の地方を言う。D荊杞 いばらとくこ。荒れ地に生える植物。E健婦 けなげな妻。F鋤犁 農耕の道具。「鋤」も「犁」もすき。G禾 穂を出す穀物の総称。 H隴畝 うねとあぜ。田畑を言う。I無東西 東とも菱とも方向が定まらず、雑然としいる。
J秦兵 陜西地方出身の兵士。昔から勇猛をもって知られた。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
二 口語訳
第一句 国境附近の戦闘による流血は、海のようになった。
第二句 漢の武帝(唐・玄宗を暗示)の辺疆を開こうという意図は、まだ終わらない。
第三句 あなたは、聞いたことがあるでしょう、我が国家の山東の二百州のことを。
第四句 あらゆる村々では(荒れ果てて)いばらや枸杞(くこ)の雑木が生い茂ったことを。
第五句 喩え健気な妻が、鋤(すき)などの農機具を(手に)執り持って(健闘した)としても、
第六句 稲や穀類が田圃に生え、荒れて茫茫に生えた中に畝も隠れ、西も東もなくなった無秩序な状態になっている。
第七句 まして、秦の兵士は、いくら(勇猛で)苦戦に耐えていく(能力がある)とはいっても、
第八句 追い立てられて、(使役されるのは)犬や鶏といった小動物や家畜と違わない。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 邊庭 2 荊杞 3 縱 4 鋤犁 5 禾 6 隴畝 7 況 8 復
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 千村万落
五 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。
1 未
2 縦
3 被
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 どういう状態を示しているか。千、万を用いた他の熟語を記せ。
2 内容はどこからどこまでか。
解答
一
第一句 辺庭]の流血 海水を成すも
第二句 武皇 辺を開く意未だ已まず
第三句 君聞かずや漢家[山東の二百州
第四句 千村万落 荊杞を生ずるを
第五句 縦 ひ健婦の鋤犁]を把 る有りとも
第六句 禾は隴畝に生じて東西無し
第七句 況 んや復た秦兵]苦戦に耐ふとて
第ハ句 駆らるること犬と鶏とに異ならず
三
1 へんてい 2 けいき 3 たとい 4 じょれい 5 くわ 6 ろうほ
7 いわんや 8また
四 1 多くの村落。
五 1 再読文字 未だ〜ず まだ〜ない。 2 仮定 たとい〜とも たとえ〜としても
3 抑揚 いわんや〜をや まして〜はなおさらだ。 4 受身 る れる
六 1 全ての村々が荒廃している状態。千山万水 千山万巻 千客万来 千状万態 千差万別
2 漢家〜荊杞
(4)
モ リト フ ヘテ ベンヤ ミヲ
1@長 者 雖 有 問 A役 夫 1敢 申 恨
レ レ レ
ツ キ ノ ノ ダ メ ノ ヲ
且 2如 今 年 冬 未 休 B關 西 卒
二 一 レ 二 一
ニ ムルモ ヲ リカ ク デシ
C縣 官 急 索 租 租 税 從 3何 出
レ レ
ニ ル ムハ ヲ シク ツテ レ ムハ ヲ キヲ
信 知 2生 男 惡 反 是 3生 女 好
レ レ
マバ ヲ ホ ンモ スルヲ ニ マバ ヲ シテ ハン ニ
生 女 猶 得 嫁 D比 鄰 生 男 E埋 沒 隨 百 草
レ レ 二 一 レ 二 一
(注)@長者 年長者や立派な人に対する敬称。A役夫 徴発された者。B關西卒 函谷関以西の地から兵隊を徴発すること。C縣官 県の役人。D比鄰 隣近所。E埋沒隨百草 雑草の中に埋もれて、朽ち果てる。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
第五句
第六句
第七句
第ハ句
第九句
第十句
二 口語訳
第一句 あなたさまがそのようにお訊ねになりますが
第二句 それがしは、積極的にうらみごとを申せましょうか。
第三句 今年の冬のごときは
第四句 関西(秦の故地である陝西)への出兵が、終わることがない(のに)
第五句 県の徴税吏は、租税を急にもとめていました。
第六句 租税(の穀物)なんて、一体どこから出てきましょうか。
第七句 男の子を産むことは好くないことだと本当に分かった。
第ハ句 (これと)反対に、女の子を産むことは好いことだ。
第九句 女の子を産んだら、まだ近所へお嫁に行かせることができるが
第十句 男を生めば、(兵卒となって屍を)雑草の中に埋もれ伏してゆくことになる。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 役夫 2 恨 3 且 4 縣 官 5 租税 6 比鄰 7 埋没
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 租
2 租税
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 敢へて〜や
2 如
3 何ク
六 傍線部1〜3の問いに答えよ。
1 具体的に誰を説明しているか。
2、3の理由を述べている個所をそれぞれ抜き出せ。
解答
一
第一句 長者問ふ有りと雖 も
第二句 役夫敢へて恨みを申 べんや
第三句 且つ今年の冬の如きは
第四句 未だ関西の卒[を休めざるに
第五句 県官急に租を索む
第六句 租税 何くより出でん
第七句 信 に知る男を生むは悪しく
第ハ句 反って是れ 女を生むは好 きを
第九句 女を生まば 猶 ほ比鄰に嫁するを得るも
第十句 男を生まば 埋沒して百草に随はん
三 1 えきふ 2 うらむ 3 かつ 4 けんかん 5 そぜい 6 ひりん 7 まいぼつ
四 1 みつぎ。年貢。 税金。
五 1 反語 敢えて〜や どうして〜ないか(いや〜ない) 2 比況 ごとし ようだ
3 疑問 いずく どこ
六 1 杜甫。
2 生 男 埋 沒 隨 百 草
3 生 女 猶 得 嫁 比 鄰
(5)
ヤ ノ ク ムル
1君 不 見 @青 海 頭 古 來 白 骨 1無 人 收
レ 二 一
ハ シ ハ シ タルヲ
A 新 鬼 B煩 冤 舊 鬼 哭 天 陰 雨 濕 聲 C啾 啾
(注)@@ 青海省にある湖の名。A新鬼 最近ン戦死者。「鬼」は死者の霊魂を言う。B煩冤 悶え恨む。C啾啾 泣く声のか細いさま。
一 書き下せ。
第一句
第二句
第三句
第四句
二 口語訳
第一句 あなたは、見たことがないのか、青海湖の畔(では)
第二句 昔から今まで(戦死した兵士の)白骨を誰も収めていない。
第三句 (今回の戦役で亡くなった)新たな霊は、わずらいもだえて、(昔の戦役で亡くなった)霊は、声をあげて啼いており
第四句 空が曇り、雨で湿る折には、死者の魂が悲しげにしくしくと泣いている声を。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 青海 2 新鬼 3 煩冤 4 啾啾
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 頭
2 旧鬼
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 無
六 傍線部1の問いに答えよ。
1 内容はどこからどこまでか。
解答
一
第一句 君見ずや 青海[の頭
第二句 古来 白骨 人の収むる無く
第三句 新鬼[煩冤し 旧鬼は哭し
第四句 天陰 り雨湿 ふとき声啾啾たるを
三
1 せいかい 2 しんき 3 はんえん 4 しゅうしゅう
四
1 ほとり。 2 死んだ人の魂。
五
1 否定 なし ない
六 1 青海〜啾啾
構成 韻字
(1)咸陽橋 出征する兵士を見送る人々 蕭 腰 橋 霄
(2) 出征兵士の恨みごと 徴兵 人 頻
田 辺
(3)出征兵士の恨みごと 流血 村の荒廃 秦兵の酷使 水 已 杞
犂 西 鶏
(4)出征兵士の恨みごと 徴兵 徴税 間 恨
卒 出
好 草
(5)兵士の代弁 戦争の悲惨 頭 収 啾
主題 兵士の嘆き苦しみ
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