哀 @江 頭               杜甫

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語釈
(1)

                ノ            ンデ ヲ   ス  

第一句 1A少 陵 野 老 2呑 聲 哭 

                          レ

ス                ノ
第二句 春 日 潛 行 曲 江 曲

             ノ          シ      ヲ  

第三句 江 頭 宮 殿 鎖 千 門

                        ニ      一

                        ニカ    ガ  ナル  

第四句 細 柳 新 蒲 為 1 香@ 

(注)@江 曲江のほとり。曲江は長安の南東にあった池の名。枯渇し今はない。A少陵 長安の南郊にある

漢の宣帝の皇后の陵墓。転じてその地名。杜甫は、少陵の出身であった。

 

一 書き下せ。

 

第一句

 

第二句

 

第三句

 

第四句

 

二 口語訳

 

第一句 少陵の野老たる自分は咽びそうな声を押し殺しながら、

 

第二句 春の一日曲江のあたりをしのび歩く、

 

第三句 川のほとりの宮殿は門を閉ざしたまま、

 

第四句 柳や蒲が芽吹いているのは、果たして誰のためだろうか

 

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 少陵 2 野老 3 潜行 4 曲江 5 江頭 

 

 

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 頭

 

2 野老

 

3 潜行

 

五 二重線部1の文法問題に答えよ。

 

1 誰

 

六 傍線部1、2の問いに答えよ。

 

1 誰のことか。

 

2 どういう行為か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答

第一句 少陵の野老聲を呑んで哭す

第二句 春日潛行す曲江の曲
第三句 江頭の宮殿千門を鎖す
第四句 細柳新蒲誰が為にか高ネる

1 しょうりょう 2 やろう 3 せんこう 4 曲江 5 こうとう

四 1 ほとり。あたり。 2 田舎の老人。 3 偲び歩くこと。

五 疑問 だれ 誰

六 1 杜甫。 2 人目を忍んで声を出さずに泣く。

 

 

 

 

 

 


(2)

フ  ヲ        ノ  リンヲ       ニ
第一句 1憶 昔@霓 旌 下A南 苑

                          二      一  

             ノ            ズ      ヲ

第二句 苑 中 萬 物 2生 顏 色 

                          二      一

                              ノ 

第三句 3B昭 陽 殿 裡 第 一 人

           ジクシ ヲ  ッテ  ニ   ス      ニ  

第四句 4同 輦 隨 5 侍 君 側 

           レ      レ       二      一

             ノ          ビ      ヲ

第五句 輦 前C才 人 帶 弓 箭

二       一

ス       ノ
第六句 白 馬 D嚼 囓 黄 金 勒

シ   ヲ  カッテ 二   イデ  ル  ヲ    
第七句 翻 身 向 天 仰 射 雲 

レ                  レ

       ニ   トス   

第八句 一 箭 正 墜 雙 飛 翼  


(注)@霓旌 天子の儀式・行列に用いられた五色の旗。A南苑 曲江のほとりにある芙蓉苑を指す。B昭陽殿 漢の成帝の妃のいた宮殿。C才人 女官の名称。D嚼囓 かむこと。

 

一 書き下せ。

 

第一句

 

第二句

 

第三句

 

第四句

 

第五句

 

第六句

第七句

 

第ハ句

 

二 口語訳

 

第一句 思い起こすに、かつては霓旌の一団が南苑に下り 

 

第二句 苑中の万物が華やかに輝いたものだった

 

第三句 昭陽殿裡第一の人たる楊貴妃は、

 

第四句 玄宗皇帝と同じ輦に乗って付き従っていた

第五句 輦前に控えた才人は腰に弓箭を帶び

 

第六句 白馬は黄金の轡を嵌めていた

 

第七句 才人の一人が身を翻し天に向かって矢を射ると

 

第ハ句 一対の翼が楊貴妃の笑顔の前に落ちてきたものだ

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 霓旌 2 南苑 3 輦 4 弓箭  5 嚼囓  6 勒 7 一箭

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 裏

 

2 弓箭 

 

五 傍線部1〜5の問いに答えよ。

 

1 内容はどこからどこまでか。

 

2 どういうことか。

 

3 実際には誰のことか。

 

4 どういうことか。

 

5 実際には誰のことか。

 

 

 

 

 

 

解答

 

第一句 憶ふ昔 霓旌南苑に下り

第二句 苑中萬物顏色を生ぜしを

第三句 昭陽殿裡第一の人

第四句 輦を同じくし君に隨って君側に侍す

第五句 輦前の才人弓箭を帶び

 

第六句 白馬嚼?す黄金の勒

 

第七句 身を翻し天に向って仰いで雲を射れば

第八句 一箭正に墜つ雙飛の翼

 

1 げいせい 2 なんえん  3 れん 4 きゅうせん 5 しゃくげつ 6 くつわ 7 

 

1 なか。内面。 2 弓と矢。 武器。

1 「霓旌下〜雙飛翼」2 生き生きしてくる。 3 楊貴妃  

4 天子の車に同乗すること(天子として節度が無い)。

5 玄宗皇帝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)

クニカ  ル
第一句 1@明 眸 皓 齒 今 1何 在 

            リ
第二句 血 汚 遊 魂 歸 不 得

                      レ

ハ      シ        ハ   シ  
第三句 A清 渭 東 流 B劍 閣 深

  
第四句 2去 住 彼 此 無 消 息 

二      一 
(注)@明眸皓齒 明るい瞳と白い歯。転じて美人のこと。A清渭 渭水。陝西省の中部を東西に流れる、黄河最大の支流。B劍閣 長安から蜀に入る途中にある山で、道中の難所。

 

一 書き下せ。

 

第一句

 

第二句

 

第三句

 

第四句

 

二 口語訳

 

第一句 あの明眸皓齒の人はいまどこにいるのだろうか 

第二句 血は汚され魂は遊離したまま二度と戻らない

第三句 渭水は東へと流れ劍閣の谷は深く、

第四句 去るものは茫々として消息もない

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 明眸皓齒 2 血汚  3 遊魂 4 清渭 5 劍閣 6 去住彼此

 

 

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

1 遊魂

2 去住彼此

 

五 二重線部1の文法問題に答えよ。

 

1 何

 

六 傍線部1〜2の問いに答えよ。

1 誰のことか。

2 それぞれ誰をさすか。

 

解答

一 

第一句 明眸皓齒今何くにか在る

第二句 血汚れて遊魂歸り得ず

第三句 清渭東流し劍閣深し

第四句 去住彼此消息無し

三 

1 めいぼうこうし 2 けつお 3 ゆうこん 4 せいい 5 けんかく

 6 きょじゅうひし

1 体を離れてさまよう魂。

2 さることと、とどまること。また、行ってしまった者とそこに残っている者。

五 

1 疑問 いずくにか どこに

六 

1 楊貴妃

2 彼去―彼=去った玄宗皇帝  此住―楊貴妃=とどまった楊貴妃  

(4)

                リ           ス    ヲ

第一句 1人 生 有 情 涙 沾 @臆 

  ニ  マラント 
第三句 江 水 江 花 1 終 極  

ツ   ニ
第三句 黄 昏 胡 騎 塵 滿 城

                            レ

           シテ  カント    ニ   ル     ヲ 

第四句 2欲 往 城 南 忘 城 北

レ  ニ       一   二      一


(注)@臆 胸。A胡 北方や西方の民族の騎兵。

 

一 書き下せ。

 

第一句

 

第二句

 

第三句

 

第四句 

 

二 口語訳

 

第一句 人生の転変のむなしさが涙を催させる 

第二句 江水江花は極まりがないというのに 

第三句 いま黄昏の城内には胡騎が塵をあげてのし歩いている 

第四句 自分は城南に行こうとして思わず行在所のある北の方向を見てしまうのだ

 

三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 沾 2 豈 3 黄昏 4 塵 5 塵

 

四 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

1 黄昏

 

五 二重線部1の文法問題に答えよ。

 

1 豈

六 傍線部1〜2の問いに答えよ。

 

1 どの個所と相対比しているか。

2 どういうことを言っているか。

 

解答

第一句 人生情有り情涙臆を沾す

第二句 江水江花豈に終に極らんや

第三句 黄昏胡騎塵城に滿つ
第四句 城南に往かんと欲して城北を忘る

1 うるおす 2 あに 3 こうこん 4 ちり 
1 沾 2 豈 3 黄昏 4 塵 

1 夕暮れ

五 1 反語 豈〜や どうして〜か(いや〜ない)

六 

1 江水江花

2 町の南北がわからなくなっている。

構成

主題 荒廃した長安で、人間の運命の変遷の激しさを嘆く。

まとめ

(1)

 

(2)

 

 

(3)

 

 

 

 

(4)

 

 無常

賊軍の制圧下にある長安

曲江 宮殿閉門

回想

玄宗皇帝・楊貴妃=同じ輦

二羽の鳥を射る

回想

楊貴=どこにいるか?

遊魂は帰らない

楊貴妃=悲運の最期

玄宗皇帝=蜀へ去る

人性=涙

夕暮れ 城内

異民族の騎兵=のし歩く

私=町の南北が分からない

 人事

 常住

 

柳・蒲=変わらぬ緑

 

 

 

 

渭水=東流れる 劍閣=深い

 

 

 

江水江花=極まりない

自然

哭 曲 緑

 

 

色 側

勒 翼

 

得 息

 

 

 

極 北

 

韻字

   「春望」と同時期  七言古詩

 

 

 

 

参考

安碌山軍によって捕らえられ長安に幽閉された杜甫だが、幽閉といっても軟禁されたけではなく、詩作や散策など一定の自由が保障されていたようだ。この期間中にも春望を始め、数々の詩を書き残している。
そんな杜甫が至徳二年の早春、曲江を訪れた。長安城の東南にある行楽地で、かつて楊貴妃たちが歓楽を尽くした場所である。その歓楽の様子を、杜甫は麗人行の中で歌っていた。
いまその地を訪れた杜甫は、麗人行で描いた三年前の様子と今日の様子とを比較して、その余りの変わりように、時代の移り変わりを強く意識させられないではおられなかった。三年前には、たしかに楊貴妃一族の横暴があったとはいえ、人々はそれなりに自立して生活していた。しかしいまや長安は胡の征服するところとなり、人々は塗炭の苦しみをなめている。
杜甫はこうした時代の鋭い対比を、明眸皓齒今何在という句で表現している。明眸皓齒とは楊貴妃の美貌をあらわす言葉だ。その楊貴妃の無残な死と長安の今日の惨めな姿を重ね合わせることで、杜甫は国を滅ぼされたことの満腔の悲しみを歌いこんでいるのだといえる。
城北とは王宮のあったところであり、唐王朝にとっての象徴的な場を表すシンボルである。その方角の延長上には、行在所がある。杜甫は何度も振り返っては、その方角を確かめないではいられない。救いを求める気持ちがそうさせるのだ