春夜宴従弟桃花園@序
語釈
1
レ ニシテ
夫1天 地 者 萬 物 之 逆 旅1光 陰 者 百 代 之 過 客 也。
シテ ハ シ ノ スコト ヲ ゾ
而 浮 生 21若 夢 爲 歡 2幾 何。
レ レ
リテ ヲ ブ ニ ル
A古 人 秉 燭 夜 遊 良 3有 以 也。
レ レ
ンヤ クニ ヲ テ ヲ スニ ニ テスルヲヤ ヲ
3況 陽 春 召 我 以 煙 景 大 塊 B假 我 以 文 章。
レ 二 一 レ 二 一
2
シテ ニ ス ヲ
會 桃 李 之 芳 園 C序 D天 倫 之 樂 事。
二 一 二 一
ノ ハ リ
群 季 俊 秀 皆 爲 E惠 連。
二 一
ノ ハ リ ヅ ニ
吾 人 詠 歌4獨 慚 F康 樂
二 一
ダ マ タ シ
幽 賞 4未 已 高 談 5轉 清。
レ
キテ ヲ テ シ ニ バシテ ヲ フ ニ
開 G瓊 筵 以 6坐 華 H飛 羽 觴 而 7醉 月。
二 一 レ 二 一 レ
不 有 佳 作 5何 I伸 雅 懷。
レ 二 一 二 一
シ ンバ ラ ハ ノ ニ
6如 詩 不 成 罰 依 金 谷 酒 数。
レ 二 一
(注)@序 文体の一種。詩文集の前書き。A古人秉燭夜遊 「古詩十九首」の中に「昼短苦夜長、何不乗燭夜」とある。「乗燭」は、灯火を手に持つこと。B假 貸し与える。C序 述べる。D天倫 自然に定められた人間関係の秩序。ここでは一族の兄弟のこと。E惠連 謝惠連(397〜433年)。南北朝の宋の詩人。霊運の従兄。F康樂 南北朝の宋の詩人。G瓊筵 立派な宴席。H飛羽觴 盛んに杯を交わす。「羽觴」は雀が羽を広げた形の杯。I伸雅懷 風雅な思いを述べる。J金谷酒數 晋の石宗が、その別荘金谷園で開き、詩のできないもには、罰として酒三杯を飲ませた故事。
J金谷酒數
一 書き下せ。
二 口語訳。
1
いったい天地はあらゆるものを迎え入れる旅の宿のようなもの。時間の流れは、永遠の旅人のようなものである。
しかし人生ははかなく、夢のように過ぎ去っていく。楽しいことも、長くは続かない。
昔の人が燭に火を灯して夜中まで遊んだのは、実に理由があることなのだ。
ましてこのうららかな春の日、霞に煙る景色が私を招いている。そして造物主は私に文章を書く才能を授けてくれた。
2
桃や李の実ったかぐわしい香りのする園に集まり、兄弟そろって楽しい宴を開こう。
弟たちは晋の謝惠連のように優れた才能を持つ者ばかりだ。
私独り、歌を吟じても謝霊運に及ばないのだが。
静かに褒め称える声が止まぬうちに、高尚な議論はいよいよ清らかに深まっていく。
玉の簾を敷いて花咲く樹木の下に座り、羽飾りのついた杯を交わして月に酔う。
優れた作品に仕立てなければ、この風雅な気持ちはとてもあらわせない。
もし詩が出来ないなら晋の石崇の故事にのっとり、罰として酒三杯を飲むことにしよう。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 浮生 2 幾許 3 燭 4 大塊 5 群季 6 俊秀 7 瓊筵 8 羽觴
9 雅懷
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 逆旅
2 光陰
3 百代
4 過客
5 浮生
6 陽春
7 煙景
8 大魂
9 群季
10 俊秀
11 幽賞
12 高談
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 若
2 幾何
3 況
4 未
5 何
6 如
六 傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 「天地」を「万物之逆旅」、「光陰」を「百代之過客」というのはなぜか。
2 とはどういうことのたとえか。
3 とあるが、どのような理由か。
4 にはどんな気持ちがあるか。
5 とはどういう意味か。
6 どういう意味か。
7 どういう意味か。
構成
1 天地=宿屋
人生=夢 だから夜まで遊ぶ
時間=旅人
陽春→煙景
長夜を楽しむ
大塊→文才
2 時 春 夜
場所 桃花園
人物 一族の兄弟たち
状況 酒宴 花 月
事件 詩を作って楽しむ 罰杯三杯
主題 はかない人生を楽しく過ごす。
解答
一
春夜桃李園に宴するの序
夫れ天地は萬物の逆旅(げきりょ)にして光陰は百代(はくたい)の過客(かかく)なり
而して浮生は夢の若し歡を爲すこと幾何(いくばく)ぞ
古人燭を秉りて夜遊ぶ良(まこと)に以(ゆえ)有る也
況んや陽春の我を召すに煙景を以てし大塊の我に假すに文章を以てするをや
桃李の芳園(ほうえん)に會(かい)し天倫(てんりん)の樂事(がくじ)を序す
群季(ぐんき)の俊秀(しゅんしゅう)は皆 惠連(けいれん)たり
吾人(ごじん)の詠歌(えいか)は獨り康樂(こうらく)に慚(は)づ
幽賞(ゆうしょう)未だ已(や)まざるに高談(こうだん)轉(うた)た清し
瓊筵(けいえん)を開いて以て華に坐し羽觴(うしょう)を飛ばして月に醉う
佳作有らずんば何ぞ雅懷(がかい)を伸べん
如(も)し詩成らずんば罰は金谷(きんこく)の酒數(しゅすう)に依らん
三 1 ふせい 2 いくばく 3 しょく と 4 たいかい 5 ぐんき 6 しゅんしゅう
7 けいえん 8 うしょう 9 がかい
四 1 宿屋。 2 時間。 3 永遠。 4 旅人。 5 はかない人生。 6 暖かい春の季節。
7 霞がたなびいている春景色。 8 天地。自然。造物主。 9 多くの弟たち。
10 才知の優れていること。ひと。 11 静かにほめ味わう。 12 高尚な話。
五 1 比況 ごとし ようだ 2 疑問 いくばくか どれくらいか
3 抑揚 いわんや〜をや まして〜はなおさら〜だ 4 再読文字 未だ〜ず まだ〜ない
5 反語 なんぞ〜ん どうして〜か(いや〜ない) 6 仮定 もし〜ば もし〜ならば
六 1 万物が天地の間に生まれ死んでいくからー 宿屋 歳月が過ぎ去っていくからー旅人
2 はかないこと
3 短い人生の中で少しでも楽しみを尽くそうとしたから。
4 謙遜。
5 いよいよ。
6 桃の花の下に宴席を設けて座る。
7 月を愛でながら酒を飲む。