不若人有其宝
語釈
1
ニ リ シ ヲ ズ ヲ ニ
@宋 人 有 得 玉 者。献 諸 A司 城 子 罕、
二 レ 二 一
ケ ズル ク
1B子 罕 不 受。献 玉 者 曰
レ レ
テ スニ ニ テ ス ト ニ ヘテ ズト ヲ
「以 示 玉 人、C玉 人 2以 為 宝 故。敢 献 之」。
二 一 一 レ レ レ
ク テ ルヲ ラ シ ト ハ テ ヲ ス ト
子 罕 曰「我 以 不 貪 為 宝、爾 以 玉 為 宝。
レ レ シ レ レ
シ ニ フ ヲ ト カ ゴトニ スルン ノ ヲ
若 与 我 者、3皆 喪 宝 也。1不 若 人 有 其 宝」。
レ レ レ 三 ニ 一
2
ニ
ハク
故 宋 国 之 D長 者 曰
ハ
ザル キニ
ノ トスル
ナル
「子 罕 2非 無 宝 也。所 宝 者 異 也。
レ レ レ
テ ト ヲ テ サバ ニ
今 以 百 金 与 E摶 黍 以 示 児 子
三 二 一
ハ ズ ラン ヲ
4児 子、必 取 摶 黍 矣。
二 一
テ ト ヲ テ 二
以 F和 氏 之 壁 与 百 金 以 示 G鄙 人、
二 一 二 一
ハ ズ ラン ヲ
5鄙 人 必 取 百 金 矣。
二 一
テ
以 和 氏 之 壁 与 道 徳 之 H至 言、
ハ ハ ズ ズ
以 示 賢 者6賢 者 必 取 至 言 矣。
二 リテ
ノ ハ
7其 知 弥 粗、其 取 弥 粗。
ノ レル
子 罕 之 所 宝 者 8至 矣」。
新序 劉向
(注)@宋 春秋戦国時代に、黄河中流域を領有した国。都は商丘。A司城 土地や人民を司る大臣。B子罕 宋の賢太夫。C玉人 玉の細工をする人。D長者 有徳者。E摶黍きびだんご。F和氏之壁 楚の和氏が見つけた㒒(加工していない玉)で作られたト。G鄙人 小人。つまらぬ人間。H至言 真実を語る言葉。
一 書き下せ。
二 口語訳。
1
宋の人で玉を得た者がいて、これを司城(役職名)である子罕に献じたが、
子罕は受け取らなかった。
玉を献じた者は、
「玉人(玉を鑑定する人)に示すと、玉人は(本物の)宝だとしています。
だから私は敢えて(無理をして・進んで)あなたに献じたのです」と言った。
子罕は、「私は貪らないということを玉とし、あなたは玉を宝としています。
若し私に玉を与えれば、皆が宝を喪うことになります。
(つまり,あなたは宝である玉を失い、私は貪らないという信念(玉)を失うからです。)
人ごとに其の宝とするものが有るのであって、
それ以上には及びません(それに越したことはありません)」と言った。
2
だから宋国の長者は、
「子罕は宝が無いのではありません。
宝とする所のものが異なるのです。
今,大金と黍団子を子供に示せば,子供は必ず黍団子を取るでしょう。
和氏の璧(宝玉とは判らない)と大金を田舎者に示せば、
田舎者は必ず大金を取るでしょう。
和氏の璧と道徳の至言を賢者に示せば、
賢者は必ず至言つまり真実の言葉を取るでしょう。
その知恵・知性が精緻(優れたもの)であれば、
その取るところはますます精緻となります。
その知恵・知性が粗雑(劣るもの)であれば、
その取るところもますます粗雑となります。
子罕が宝とする所のものは、
至ることは、最上のもの(真実の言葉)です」と言った。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 諸 2 以 那 3 爾 4 若 5 摶黍 6 鄙人 7 至言 8 弥
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 貪
2 百金
五 二重線部1の文法問題に答えよ。
1 不 若
2 非 無
六 傍線部1〜8の問いに答えよ。
1 理由を述べている部分を六字で抜き出せ。
2 読みと意味を記せ。
3 なぜこういうことになるのか。
4 理由を記せ。
5 理由を記せ。
6 理由を記せ。
7 「知」のア「最も精なるもの」と、イ「最も粗なるもの」、「其の取る」の、ウ「最
も精なるもの」と、エ「最も粗なるもの」をそれぞれ文中の語で答えよ。
8 意味を記せ。
構成
主題 真実の言葉の大切さ |
1 2 |
節 |
受け取らない 「貪らないことが宝だ。」 |
子罕 |
|
玉を献上する 「完全だから受け取れ。」 子供 黍団子≥大金 田舎者 大金 ≥和氏の璧 賢者 至言 ≥和氏の璧 |
人 |
主題
解答
一
宋人に玉を得し者有り。
諸(これ)を司城の子罕(しかん)に献ずるも、
子罕は(玉を)受けず。
玉を献ずる者曰く
「以て玉人に示すに、玉人は以て宝と為す。
故に敢へて之を献ず」と。
子罕曰く
「我は貪らざるを以て玉とし、爾(なんじ)は玉を以て宝と為す。
若し我に(玉を)与ふれば皆宝を喪ふなり。
人ごとに其の宝を有するに若かず」と。
故に宋国の長者曰く
「子罕は宝無きに非ざるなり。
宝とする所の者が異なるなり。
今百金と摶黍(たんしょ・黍団子)とを以て児子(じし)に示さば、
児子は必ず摶黍を取らん。
和氏(かし)の璧(へき・玉)と百金とを以て、
以て鄙人(ひじん・田舎者)に示さば、鄙人は必ず百金を取らん。
和氏の璧と道徳の至言(しげん・真実の言葉)とを以て、
以て賢者に示さば、賢者は必ず至言を取らん。
其の知弥(いよいよ)精なれば、其の取るや弥精なり。
其の知弥(いよいよ)粗なれば、其の取るや弥粗なり。
子罕の宝とする所の者至れり」と。
三 1 これ 2 も な 3 なんじ 4 も 5 たんしょ 6 ひじん
7 しげん 8いよいよ
四
1 財を過度に求める。
2 大金。
五
1 比較 〜は〜にしかず 〜は〜に及ばばい
2 二重否定 ざるにあらず ないわけではない
六
1 「我以不貪為宝」 2 もってなす と思う
3 宋人は宝としている玉を失い、子罕は玉を受け唐ことで貪らないとう信条に背くこ
とになるから。
4 子供はお金の価値が分からず、きび団子のほうが食べておいしいから。
5 つまらぬ人間は和氏の玉の価値が理解できず、お金の方が使い道があっていいと思
うから。
6 賢者は物質的な物より精神的なものに価値を求めるから。
7 ア 賢者 イ 児乎 ウ 至言 エ 摶黍
8 これ以上ないほど素晴らしい。