不顧後患
語釈
1
シ タント ヲ ノ ニ ク ヘテ ラバ ムル セント
@
呉 王 欲 伐 A荊、 其 左 右 日、「1敢 有 諫 者 死。」
レ レ ニ 一
ニ リ ナル
B舎 人 有 少 儒 子 者。
ニ 一
スルm メント ヘテ チ キ ヲヒ リテ ヲ ブ ニ
2欲 諫 不 敢。即 懐 C丸 操 D弾 、遊 於 後 園。
レ レ レ ニ 一
ス ヲ キ クノ ナリ
露 沾 其 衣。如 3是 者 三 旦。
ニ 一 レ
2
ク タレ ゾ シミテ スコト ヲ キト クノ
呉 王 日、「子 来。1何 苦 沾 衣 2如 此。」
レ レ
ヘテ ク ニ リ ノ ニ リ
対 日、「園 中 有 樹。其 上 有 4蝉。
レ レ
シ シテ ミ ヲ ル ラ ノ ルヲ ノ ロニ
蝉 高 居 E悲 鳴 飲 露、不 知 5F蟷 螂 在 其 後 也。
レ レ ニ 一
ネテ ヲ シ シ ラント ヲ ル ラ ルヲ ノ
蟷 螂 G委 身 曲 附、欲 取 蝉、而 不 知6H黄 雀 在 其
ラニ
傍 也。
ベ ヲ シ マント ヲ モ ル ラ ノ ルヲ ノ ニ
黄 雀 延 頸、欲 啄 蟷 螂、而 不 知 蝉 丸 在 其 下 也。
レ レ ニ 一 レ 三 ニ 一
ノ ハ メテ シ ント ノ ヲ モ ル ミ ノ ルヲ
7此 三 者、皆 務 欲 得 其 前 利、而 不 顧 其 後 之 有
シ ニ 一 レ ニ 一 ヘ ト
患 也。」
ク キ ト チ ム ノ ヲ
8呉 王 日、「9善 哉。」乃 10罷 其 兵。
ニ 一
『説苑』説話集 (BC77〜BC6年)劉向(りゅうきょう)著 春秋時代から漢の初めまでの人々の伝記
逸話を集めたもの。
(注)(注)@呉 春秋時代に、長江下流域を領有した国。A荊 楚の別名。春秋時代に長江流域を領有した国。B舎人 王の近くに侍る者。C丸 はじき弓のたま。D弾 はじき弓。E悲鳴 高い声で泣く。F蟷螂 かまきり。G委身曲附 体をかげめ、脚をちじめる。H黄雀 雀の一種。
一 書き下せ。
ニ 口語訳
1
呉の王(夫差)が荊(楚)を討伐しようとして、その側近の者に言い聞かせた。
「わたしを諌めようとする者があれば、生かしてはおかない」
舎人(官名)に年若い男がいて、諌めようとしたものの決心がつかないので、
弾き丸をふところに入れて、裏庭を歩きまわっていた。
露がその着物を濡らしたが、年若い男は三日間つづけてそうしていた。
2
呉の王がたずねた。
「おまえは、どうしてわざわざそんなことをして着物を濡らしているのか」
すると、年若い男はこう答えた。
「庭に樹があって蝉(せみ)がとまっていました。
蝉は高いところで悲しそうに鳴きながら露を飲んでいるのですが、
自分のうしろに蟷螂(かまきり)がいるのには気がつきません。
蟷螂は体をかがめ足を折り曲げているのですが、
自分のそばに黄雀(こうじゃく)がいるのには気がつきません。
黄雀は首をのばして蟷螂を啄(つい)ばもうとしているのですが、
わたしが弾き丸を持ってその下にいるのには気がつきません。
この三つのものは、それぞれ目前の利益を手に入れるには懸命で、
そのうしろに災難が待ちかまえているのには気がつかないのです」
これを聞くと、呉の王は、
「よくわかった」
と言い、討伐を中止することにした。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 後患 2 諌 3 則 4 蟷螂 5 委 6 黄雀 7 頸 8 啄 9 乃 10 罷
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 後患
2 左右
3 三旦
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 何
2 如
六 傍線部1〜10の問いに答えよ。
1 意味を記せ。
2 何を「諌」めるのか。
3 指示内容を記せ。
4 、5、6、9について「前利」、「後之患」に相当するものをそれぞれ記せ。
7 指示内容を記せ。
9 意味を記せ。
10 (1)具体的どうしたのか。
(2)理由を記せ。
構成
1 呉王=荊を打とうとする。
少儒子 はじき弓
2 少儒子「露←蝉←蟷螂←黄い雀」
主題 少儒子の巧みな諌めで荊を討つことを止めた。
解答
一
1 呉王 荊を伐たんと欲し、其の左右に告げて曰はく、「敢へて諫むる者有らば死せん。」と。舎人に少孺子なる者有り。諫めんと欲するも敢へてせず。則ち丸を懐き弾を操りて、後園に遊ぶ。露 其の衣を沾す。是くのごとき者三旦なり。
2 呉王曰はく、「子 来たれ。何ぞ苦しみて衣を沾すこと此くのごとき。」と。対へて曰はく、「園中に樹有り。其の上に欟有り。欟 高居し悲鳴して露を飲み、螳螂の其の後ろに在るを知らざるなり。螳螂 身を委ねて曲附し、欟を取らんと欲し、而も黄雀の其の傍らに在るを知らざるなり。黄雀頸を延べ、螳螂を勞まんと欲し、而も弾丸の其の下に在るを知らざるなり。此の三者は、皆務めて其の前利を得んと欲し、而も其の後ろの患へ有るを顧みざるなり。」と。
呉王曰はく、「善きかな。」と。乃ち其の兵を罷む。
三1 こういん 2 いさ 3 すなわ 4 とうろう 5 ゆだ 6 こうじゃく
7 くび 8 ついば 9 すなわ 10 や
四 1 後々の憂え。2 近臣。お側のもの。 3 、三日間の朝。
五 1 疑問 何か どうして〜か 2 比況 ごとし ようだ
六 1 私を諌めようとする者があれば、生かしてはおかない。
2 呉王の荊を攻撃しようという考え。
3 「懐丸操弾、遊於後園。」
4
8 蝉 蟷螂 黄雀 9 よくわかった 10 (1)荊を討つのを中止した。 (2)少儒子の話で背後の強国に対する警戒の気持ちが出来たから。 |
後之患 |
前利 |
|
蟷螂 |
露 |
蝉 |
|
黄雀 |
蝉 |
蟷螂 |
|
弾丸 |
蟷螂 |
黄雀 |
|
周りの強国に攻め込まれること |
荊を討ち領土にすること |
呉王 |