漁父辞 屈原
語釈
1
ニ タレテ ビ ニ ズ ニ
屈 原 既 @放、遊 於 A江 潭、行 吟 澤 畔。
ニ 一 ニ 一
シ セリ
1顏 色 憔 悴、B形 容 枯 槁。
テ フ ニ ク ハ ズ ニ
漁 父 見 而 問 2之 曰、「3子 1非 C三 閭 大 夫 2與。
ニ 一
ノ ニ レルト
3何 故 至 於 斯。」
ニ 一
(注)@放 追放する。A江潭 沅江(洞庭湖に注ぐ川。)のほとり潭は水辺。B形容 姿。C三閭大夫
戦国時代楚の官名。昭・屈・景の三王族を取り締まる官。ここでは」屈原のこと。
一 書き下せ。
二 口語訳。
屈原は追放されてしまうと、(南方の)川のほとりをさすらいながら、水辺に口ずさんで歩いた。
その表情はやつれはて、その表情はやつれ果て、その姿はひどくやせこけていた。
(その時)漁師が彼を見かけ尋ねて行った。「あなたは、」三閭大夫ではありませんか。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 屈原 2 江潭 3 澤畔 4 憔悴 5 枯槁 6 三閭大夫
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 漁夫
2 辞
3 行吟
4 憔悴
5 枯槁。
6 斯
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 非
2 与
3 何
六 傍線部1〜3の問いに答えよ。
1 修辞法を記せ。
2、3 指示内容を記せ。
解答
一 屈原既に放たれて、江潭に遊び、行澤畔 に吟ず。顔色憔悴し、形容枯槁せり。漁夫見て曰く、「子は三
閭大夫に非ずや。何の故に斯に至れる。」と。
三 1 くつげん 2 こうたん 3 たくはん 4 しょうすい 5 ここう 6 さんりょたゆう
四 1 漁師。 2 賦の一種。抒情を主とした韻文。3 歩きつつ口ずさむ。
4 やせ衰える。 5 今のこの境遇。
五 1 否定 非ず ない 2 疑問 か か 3疑問 なに 何
六 1 対句 2、3 屈原
2
ク ゲテ ヲ リ リ メリ
屈 原 曰、「1舉 世 皆 濁 2我 獨 清。
ヒ リ メタリ
3衆 人 皆 醉 我 獨 醒。
ヲ テ タリト タ
是 以 1見 放。」
レ
ク ハ シテ セ ニ
漁 父 曰「4聖 人 不 @凝―滯 於 物、
二 一
ク ス
而 能 與 世 推 移。
レ
ラバ ゾ ル シテ ノ ヲ ゲ ノ ヲ
5世 人 皆 濁 2何 不 A淈 其 泥 而 揚 其 波。
下 二 一 中 上
ハバ ゾ ル ノ ヲ ラ ノ ヲ
6衆 人 皆 醉 何 不 餔 其 B糟 而 啜 其 C麗。
下 二 一 中 上
ノ ニ ク ヒ ク ゲテ ラ ムル タ
7何 故 深 思 D高 舉 自 3令 放 4為。」
レ
(注)@凝滯 滞る。こだわる。A淈其泥 泥をかき乱して濁す。B糟 酒のしぼりかす。C麗 糟を水に溶かした薄い酒。D高舉 俗人に紛れず纐纈にふるまう。
一 書き下せ。
二 口語訳。
2 屈原曰く「世を舉げて皆濁り我獨り清めり衆人皆醉ひ衆人皆醉ひ我獨り醒めたり是を以て放たる。」と。
漁父曰く「 聖人は物に凝滯せずして能く世と推移す能く世と推移す
世人皆濁らば何ぞ其の泥を濁して其の波を揚げざる。衆人皆醉はば何ぞ其の糟を餔(くら)ひて其の麗(り)を啜(すす)らざる。
何の故に深く思ひ高く舉がりて自ら放たれしむるを為す。」と。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 衆人 2 聖人 3 凝滯 4 糟 5 麗
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 衆人
2 聖人
五 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。
1 見
2 何 不
3 令
4 為
六 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1、3 修辞法を記せ。
2 指示内容を記せ。
4 ここでは誰のことか。
5、6 (1)修辞法を記せ。
(2)「何不A淈其泥而揚其波」「 何不餔其B糟而啜其C麗」
ここではどういうことを言っているか。
7 どういう処世態度か。
解答
一
屈原曰く、「世を舉げて皆濁り我獨り清めり。衆人皆醉ひ我獨り醒めたり。
是を以て放たれり。」。と。
漁父曰く「聖人は不物に凝滯せず能く世と推移す。世人皆濁らば何ぞ其の泥を淈して其の波を揚げざる。
衆人皆醉はば何ぞ其の糟を餔らひて其の麗を麗を啜らざる。何の故に深く思ひ高く舉ひて自ら放たしむるか。」と。
三 1 しゅうじん 2 せいじん 3 ぎょうたい 4 かす 5 すす
四 1 多くの人々。 2 知徳が優れて事理に通達した人。
五 1 受け身 る られる 2 反語 なんぞ〜ざる どうして〜ないか(いやあ^だ)
六 1、3 対句 2 屈原 4 屈原
5、6 (1)対句。 (2)世俗に従い同調して、俗人と同じように生きる。
7 独善的・高踏的にふるまっている処世態度。
3
ク ケリ ヲ
屈 原 曰 「吾 聞 1之
レ
タニ スル ハ ズ キ ヲ タニ スル ハ ズ フト ヲ
2新 @沐 者 必 A彈 冠 3新 浴 者 必 振 衣
レ レ
クンゾ ク テ タルヲ クル タルヲ ナラン
1安 能 4以 身 之 B察 察 5受 物 之 C汶 汶 者 乎。
二 一 二 一
ロ キテ ニ ラルトモ ニ
2寧 D赴 湘 流 葬 於 江 魚 之 腹 中
二 一 二 一
クンゾ ク テ キヲ モ ラン ヲ
安 能 以 皓 皓 之 白 而 蒙 世 俗 之 塵 埃 乎。」
二 一 二 一
(注)@沐 髪を洗う。A彈冠 冠の塵を指ではじいて落とす。B察察 潔白なさま。C汶汶 けがれているさま。D赴湘流 湘江に身を投げる。「湘」は洞庭湖。
一 書き下せ。
二 口語訳。
3 屈原曰く「吾之を聞く、新たに沐する者は必ず冠を彈き新たに浴する者は必ず衣を振るふ
安んぞ能く身の察察たるを以て物の文文たる者を受けんや
寧ろ湘流に赴きて江魚の腹中に葬らるるとも安んぞ能く皓皓の白を以て
世俗の塵埃を蒙むらんや。」と。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 沐 2 察察 3 汶汶 4 湘流 5 江魚 6 皓皓 7 塵埃
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 塵埃
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 安〜乎
2 寧
六 傍線部1〜5の問いに答えよ。
1 指示内容を抜き出せ。
2と3、4と5 修辞法を記せ。
2、3 どういうことを言っているか。
4、5 同じ意味の表現をそれぞれ抜き出せ。
解答
一 屈原曰く「吾之を聞けり
「新たに@沐する者は必ず冠を彈き、 新たに浴する者は必ず衣を振るふt。」と。
安くんぞ能く以身の察察たるを以て受くる物の汶汶たるを受くる者ならん。
寧ろ湘流に赴きて、江魚之腹中に葬らるとも
安くんぞ能く皓皓の白きを以て而も世俗の塵埃を蒙らん。」と。
三 1 もく 2 さつさつ 3 もんもん 4 しょうりゅう 5 こうぎょ
6 こうこう 7 じんあい
四 1 世の中のけがれ。
五 1 反語 いずくんぞ〜せんや どうして〜か(いや〜ない)
2 選択 むしろ のほうがよい
六 1「 新沐者必彈冠新浴者必振衣」
2、3と4、5 対句
2、3 清らかさをほっするものは、ますます身を清らかに保とうと度量する。
4、5 4「皓皓之白」 5「蒙世俗之塵埃」
4
トシテ ヒ シテ ヲ ル
1漁 父 @莞 爾 而 笑 A鼓 竅@而 去。
レ
チ ヒt ク マバ シ テ フ ガ ヲ
乃 歌 曰 「2B滄 浪 之 水 清 兮 可 以 濯 吾 C纓。
三 二 一
ラバ シ テ フ ガ ヲ
滄 浪 之 水 濁 兮 可 以 濯 吾 足。」
三 二 一
ニ リテ タ ニ ハ
遂 去 1不 復 與 言。
二 一
(注)@莞爾 にっこり。A鼓竅@かいを漕ぐ。B滄浪 漢水下流の川の名。C纓 冠の紐。
一 書き下せ。
二 口語訳。
4 漁父莞爾として笑ひ竅iえい)を鼓して去り乃ち歌ひて曰く
「滄浪の水清(す)まば以て吾が纓を濯(あら)ふべし
滄浪の水濁らば以て吾が足を濯ふべし
以て吾が足を濯ふべし
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 莞爾 2 竅@3 乃 4 乃 5 滄浪 6 纓
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 莞爾
2 纓
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 不 復
六 傍線部1、2の問いに答えよ。
1 漁夫の気持ちを述べよ。
2 修辞法を記せ
解答
一
漁父莞爾として笑ひ、竄鼓して去る。
乃ち歌ひて曰く 「滄浪の水清まば以て吾が纓を濯ふべし。
滄浪の水濁らば以て吾が足を濯ふべし。」と。
遂に去りて復た與に言はず。
三 1 かんじ 2 えい 3 すなわち 4 そうろう 5 えい
四 1 にっこり笑うさま。 2 冠の紐。
五 1 部分否定 また〜ず 二度とは〜しない
六 1 屈原に同情しつつ惜しむ気持ち。 2 対句。
構成
1 2 3 4 |
節 |
追放され放浪する。 追放された理由 自分=清・醒 世人=濁 ・酔 潔白な身を汚すなら死を選ぶ |
屈原 |
「あなたは屈原?なぜ? 聖人=世に同調 世人=ともに濁れ酔え 笑って去る 水=清 纓を洗う 水=濁 足を洗う |
漁夫 |
主題 人生いかに生きるべきか。
屈原 孤高 理想主義(儒教的) 漁夫 妥協 現実主義(道家的)