@ 雑説
語釈 韓愈
ニ リテ ル ニ ノ
(1)
世 有 伯 楽、然 後 有 1千 里 馬。
ノ ハ ニ リ ハ ニハ タ
千 里 馬 常 有。而 伯 楽 1不 常 有。
二 一
ニ モ リト ダ メラレ ニ
故 雖 有 名 馬、祇 辱 於 A奴 隷 人 之 手、
レ 二 一 二 一
シテ ニ ル テ ヲ セラル
B 駢―死 於 C槽 櫪 之 間、2不 以 千 里 称 也
二 一 シタ 二 一
ナル ハ ニ イハ クス ヲ
(2)
馬 之 千 里 者、一 食 或 尽 D粟 E一 石。
ニ 一
フ ヲ ハ ル リテ ノ ク ナルヲ ハ
食 馬
者、不 知 其 能 千 里 而 食 也。
レ 下 二 一 上
ノ モ リト レバ カ ラ
3是 馬 也、雖 有 千 里 之 能、食 不 飽、
力 不 足、
レ 二 一 レ レ
ノ ニ レ つ スルモ ノ シカラント カラ
4才 美 不 外 見。且 5欲 与 常 馬 等、不 可 得。
二 一 下 二 一 上 レ レ
クンゾ メン ノ ナルヲ
2安 求 其 能 千 里 也。
二 一
ツニ ヲ ッテセ ノ ヲ フニ ヲ ハ クサシムル ノ ヲ
(3)
6策 之 不 以 7其 道。8食 之 不 能 尽 9其 F材。
レ レ 二 一 レ レ 二 一
ケドモ ニ ハ ズル ノ ニ
10鳴 之 而 不 能 通 11其 意。
レ レ レ 二 イチ
リテ ヲ ミテ ニ ハク シト
執 策 12臨 之 曰、「天 下 無 馬。」
レ レ
レ ニ キ キ レ ニ ル ラ ヲ
3嗚 呼、其 真 13無 馬 無 4邪、其 真 14不 知 馬 也。
レ レ レ
(注)@雑説 「説」は文体に一種。論説文。特に題名を設定しないので、「雑説」という。A奴隷人 馬の飼育係などの使用人。B駢―死 (駄馬と)首を並べて死ぬ。C槽櫪之間 馬小屋の中。D粟 穀物。E一石 「石」は、もと重さの単位。のち、容量の単位としても使用。当時の一石は重量役七十キロ、容量役60リットル。F材 「才」に同じ。
一 書き下せ。
二 口語訳
(1)世間に馬の鑑定の名人(伯楽)がいて、そうして初めて、一日に千里を走る名馬が見いだされる。千里の馬は、いつも存在している。しかし、それを見いだす伯楽は、いつもいるとは限らない。というわけであるから、名馬はいるのだが、むなしく、身分の低い馬飼いたちの手によって粗末に扱われ、馬小屋の中で、並の馬といっしょに首を並べて死んでゆき、千里の馬としてほめたたえられないで終わってしまう。
(2)馬の中で、一日に千里を走るほどのものは、一度の食事に、あるときは穀物一石を食べ尽くしてしまう。ところが(今の、)馬を飼っている人は、その馬の能力が一日に千里も走るということを承知して(それに応じて)飼っているのではない。この馬は、一日に千里を走るほどの能力があるのだが、食糧が不十分であれば、十分な力を発揮できないし、立派な才能が外に現れることもない。そのうえ、並の馬と同じような働きをしようと思っても、それもできない。(これでは)どうしてその馬が、一日に千里も走るようにと望むことができようか、いや、できはしない。
(3)千里の馬をむちうつにしても、千里の馬にふさわしい方法によらない。千里の馬を飼うのに、千里の馬としての才能を発揮させることもできない。千里の馬が鳴いて訴えても、飼い主はその心を理解することができない。むちを手にして、千里の馬に向かって言う、「世の中には、すぐれた馬はいない。」と。ああ、いったい、ほんとうにすぐれた馬はいないのか、それとも、すぐれた馬を見抜けないのであろうか。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 伯楽 2 槽櫪之間 3 粟 4 且 5 策
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 伯楽
2 千里馬
3 飽
五 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。
1 不常
2 安〜也
3 嗚呼
4 邪
六 傍線部1〜14の問いに答えよ。
1 同義語を抜き出せ。
2 具体的にどういう意味か、記せ。
3 指示内容を記せ。
4 具体的に何か、記せ。
5 なぜか。
6 主語を記せ。
7 指示内容を記せ。
8 主語を記せ。
9 指示内容を記せ。
10 主語を記せ。
11 指示内容を記せ。
12 具体的にどうすることか。
13 ・14作者は「無馬」と「不知馬」のどちらが言いたいのか。
構成
(1) (2) (3) |
節 |
いつもいるとは限らない |
伯楽 |
伯楽によって見出される いつもいる だからいないと同じこと 養う方法を知らない 能力を発揮できない その能力を発揮できない |
千里馬 |
主題 千里の馬は伯楽がいて初めてその能力を発揮できる。
解答
一(1) 世に伯楽有りて、然る後に千里の馬有り。千里の馬は常に有り。而れども伯楽は常には有らず。故に名馬有りと雖も、昶だ奴隷人の手に辱められ、槽櫪の間に磚死して、千里を以つて称せられざるなり。
(2)馬の千里なる者は、一食に或いは粟一石を尽くす。馬を食ふ者は、其の能の千里なるを知りて食はざるなり。是の馬や、千里の能有りと雖も、食 飽かざれば、力 足らず、才の美 外に見はれず。且つ常の馬と等しからんと欲するも、得べからず。安くんぞ其の能の千里なるを求めんや。
(3) 之を策うつに其の道を以つてせず。之を食ふに其の材を尽くさしむる能に鳴けども其はず。之の意に通ずる能はず。策を執りて之に臨みて曰はく、「天下に馬無し。」と。嗚呼、其れ真に馬無きか、其れ真に馬を知らざるか。
三
1 はくらく 2 そうれきのかあん 3 ぞく 4 かつ 5 むち
四
1 春秋時代の馬の良否を見分ける人(人材を見抜く眼力に優れた人のたとえ。)
2 一日に千里も走る名馬(優れた才能を持つ人のたとえ)。
3 満足する。
五
1 部分否定 常にはず いつもいるとは限らない
2 反語 安くんぞ〜や どうして〜か、いや〜ない 3 感嘆 ああ ああ
4 疑問 か か
六
1 名馬 馬之千里者 2 一日に千里も走る名馬だと称讃されることがない。
3 千里馬 4 千里之能
5 飼料は十分でなく、名馬として能力が発揮できず馬車を引く力さえ出ないから。
6 飼い主。 7 千里の馬の扱い方。8 飼い主。 9 千里の馬の才能。
10 千里馬。名馬。
11 千里の馬の気持ち。 12 馬の前に立ちはだかって。 13・14「不知馬」