TOPへもどる

古文へもどる

                                                   

 

(1)師の説になづまざること 『玉勝間』二の巻 四六

語釈

(1)

           A            B

おのれ古典を説くに、@師の説とたがへること多く、師の説のわろきことあるをば、Aわき                                         C

まへ言ふことも多かるを、1いとあるまじきことと思ふ人多かんめれど、2これすなはちわが    

   

師の心にて、常に教へ1られしは、3「のちによき考への出で来たらんには、必ずしも師の説

 

にたがふとて、2なはばかりそ。」と3なん、教へ4られし。こはいと貴き教へにて、わが師の、

 

よにすぐれ5給へる一つなり。

 

(注)@師  ここでは、賀茂真淵(1697〜1769)。国学の著作に『万葉考』『歌

意考』などがある。Aわきまへ言ふ  はっきりと違いを見分けて言う。

 

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      玉勝間        本居宣長        賀茂真淵        古典      貴き

 

  次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      たがふ

 

      よに

 

  傍線部1〜2と3「  」の問いに答えよ。

 

      どのようなことに対していっているか。

 

      なにをさすか。

 

      「のちによき・・・なはばかりそ。」  この教えをどう評価しているか。文中か

        らぬき出せ。

 

          1〜5の文法事項に答えよ。

 

  1、4 品詞名 基本形 活用形 文法的意味

 

      品詞分解  口語訳

 

      結びの語と活用形を記せ。

 

      敬語について説明せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)D

おほかた、いにしへを考ふること、1さらに一人二人の力もて、ことごとく明らめ尽くすべくも

    E

あらず。また、2よき人の説ならん1からに、多くの中には、誤りもなどかなからん。必ずわろき

              F

こともまじらでは2えあらず。その3おのが心には、「今はいにしへの心ことごとく明らかなり。

 

これをおきては、@あるべくもあらず。」と、思ひ定めたることも、思ひのほかに、また人のこと

                G

なるよき考へも出で来るわざなり。あまたの手を3経るまにまに、先々の考への上を、なほよく考

 

へきはむる4からに、次々に詳しくなりもてゆくわざなれば、4の説なりとて、必ずなづみ守る

        H

べきにもあらず。よきあしきを言はず、ひたぶるに古きを守るは、学問の道には5言ふかひなきわ

    I

ざなり。また、おのが師などのわろきことを言ひ表すは、6いともかしこくはあれど、7それも言

                             J

はざれば、世の学者その説に惑ひて、8長くよきを知る期なし。師の説なりとして、わろきを知り

 

ながら、言はずつつみ隠して、Aよさまにつくろひをらんは、ただ師をのみ貴みて、9をば思

 

はざるなり。

 

(注)@あるべくもあらず  真実はあるはずもない。Aよさまにつくろひ  よいように格

好をつけ。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      経る      詳しく    3惑ひ      

 

  次の語の意味を古語辞典で調べよ。

 

      おほかた

 

      なづむ

 

  3 かしこし

 

  傍線部1〜9の問いに答えよ。

 

      どこにかかるか。

 

      (1)「よき人」とはどのような人か。

 

        (2)どういう意味か。

 

      誰の心か。

 

      (1)の「師」との違いを説明せよ。

 

      どのような学問の態度をそのようにいったか。

 

      どういう意味か。

 

      指示内容を記せ。

 

  8 意味を記せ。

 

      「道」とは何の道か。文中の言葉を用いて答えよ。

 

四二重線部1〜5の文法事項に答えよ。

 

    1、4  意味を説明せよ。    2 品詞分解 口語訳

 

  3 品詞名 基本形 活用形 活用の種類     文法的に説明せよ。

 

五 口語訳

(1)

 私が古典を教える時に、先生の説と違っていることが多く、先生の説でよくないところがあるのを、はっきりと違い見分けて言うことも多いのを、全くあってはならないことと思う人が多いようだが、これはとりもなおさず私の先生の心であって、常にお教えになったのは、「後に良い考えが出てきたら、そのときには先生の説と違うからと言って、必ずしも遠慮するな。」と、お教えになった。これは大層優れた教えで、私の先生が大層優れていらっしゃることの一つである。

(2)

 大体古代について考えることは、決して一人二人の力をもってことごとく明らかにし尽くすことはできない。また、優れた人の説でたとえあっても、多くの(説の)中には、誤りもどうしてないだろうか(いやあるに違いない)。必ずよくない説が混じらないではありえない。その(説を立てた)人本人の心には、「今は古代の精神はすべて明らかだ。これ以外のには、(真実は)あるはずもない。」と、心を決めていることも、思いのほかに別の人の違ったよい説も出てくるものだ。多くの人の手を経るにつれて、以前の考察の上を、いっそうよく考え究めるために、次々に詳しくなっていくことであるから、先生の説だからと言って必ず執着して守らなけらばならないものではない。良い悪いをいわず一途に古い説を守るのは、学問の道では言っても仕方がないことだ。また、自分先生などのよくないことを言い表すことは、大変恐れ多いことではあるが、それも言わなければ世間の学者がその説に迷って、長く、正しい説を知る機会がない。先生ン説であるとして、よくない事を知っているのに、言わずにつつみ隠して、よいように格好をつけているとしたら、それは、ただ先生だけを尊重して、学問の道を思わないのである。

 

構成

 

 

(1)

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A 師の説

 

B 良くない所

 

C 師「良くないところが出てきた

ら、師の説と違ってもいい。」

 

D 古代    

 

E 優れた人の説

 

F 説を立てた人「真実はこれだけだ。」

 

 

 

H 良い悪いを言わず古い説を守る。

 

I 自分の師の良くないところ

 

 

 

J師の説の悪い所

 人は隠し繕う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対象

 

←違うことが多い。

←違うと言う←人「それはいけない。」

 

←優れている。

 

 

←一人二人の力で明らかにできない。

←誤りもある。

 

 

←別の人の説もある

G多くの人の手をへて考究するから詳しくなる。師の説といって執着すべきではない。

 

←学問の道では話にならない。

 

←言うのは恐れ多い。 

 ←言わなければ正しい説を知ることができない。

 

←師を尊んでいる。学問の道を思っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宣長の考え

 

主題 学問の道のためには、師の説でも誤りは指摘すべきだ。

   学問の道への絶対的姿勢 

 

 

文学史 随筆 十四巻 本居宣長

 

  成立 1793〜1799年

 

  内容 「初若菜」「桜の落葉」「たちばな」「わすれ草」「枯れ野のすすき」「か

らる」「ひぢあみ」「荻の下葉」「花の雪」等

 

作者 1730〜1801年 国学者 語学者 号は鈴屋 伊勢松坂出

   京都に上り、医学修行のかたわら国学に志し『源氏物語』などを研究

   する。

    他人や其の作品を批判する人はこれまでいなかった。が、宣長は師や

 先人の作品まで批判した。自分の正しいと思うことは、其のまま主張

した。この時代にそれは新しい考え方だった。この後の時代に通じて

いく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)師の説になづまざること 『玉勝間』二の巻 四六  解答

(1)

一 1 たまかつま 2 もとおりのりなが 3 かものまぶち 4いにしえぶみ 5 とおと

二 1 ちがう。 2 大層

三 1 師の説の悪いところを悪いと指摘する。 

2 自分が師と異なる学説を述べたり、師の説の欠点を指摘したりすること。

3「こはいと貴き教へにて、わが師の、世にすぐれ給へる一つなり。」 高く評価している。

四 1、4 助動らる用尊(師を敬う)

   2 な副 はばかり動はばかる用ラ四 そ終助禁止 遠慮するな

  3 し 助動き体過

5「すぐれ」の主語は師 給へ 補動給ふ用尊 師を敬う

(2)

一 1 ふ 2 くわ 3 まど  

二 1 大体。 2 執着する。 3 恐れ多い。

三 1 「あらず」 2 (1)優れた学者。

(2)優れた人の説であっても、多くの中には誤りが必ずある。3 説を立てた本人。

  4(1)師賀茂真淵。(2)一般的に先生。

5 学説正誤を検討せず、一途に古い学説を墨守する学問の態度。

6 大変おそれおおいことではあるが。7 「おのが師などのわろきこと」

8 長く正しい説を知る機会がない。 9 学問の道。

四 1 接助逆接仮定条件 タトエ・・・デモ 4 接助原因理由 ノデ タメニ   

  2 え副 あら動ありラ変 ず助動ず止 え+打ち消し=不可能 ありえない。

  3 動経体ハ下二 5 接助逆接確定条件