(35)二百四十三 八つになりし年
@ 八つになりし年、A父に問ひて言はく、A「仏はいかなるものにかさうらふ1らん。」と言ふ。父が言はく、
B「仏には人の2なりたる3なり。」と。また問ふ、C「人は何として仏にはなりさうらふや4らん。」と。父また、
D「仏の教へによりて5なるなり。」と答ふ。また問ふ、E「教へさうらひける仏をば、何が教へさうらひける。」
と。また答ふ、F「それもまた、先の仏の教へによりてなりたまふなり。」と。また問ふ、 G「その教へ始め
さうらひける第一の仏は、いかなる仏にかさうらひける。」と言ふとき、父、H「空よりや降りけん、土より
やわきけん。」と言ひて、笑ふ。I「問ひ詰められて、え答へず6なりはべりつ。」と、1諸人に語りて興じき。
(注)@八つ 八才。兼好八才の年は、通説では正応三(1290)年。 A父 卜部兼顕。生没年未生。兼好は卜部兼顕の三男であったという。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 諸人 2 興じき
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 いかなり
三 傍線部1の問いと A〜Iの「 」は誰の言葉か答えよ。
1 (1)主語を二通り考えよ。また、ここからうかがえることを指摘せよ。
(2)この時の父の気持ちについて考えてみよう。
AとCは尋ねた内容にどういう違いがあるか。
四 二重傍線部1〜6の文法問題に答えよ。
1 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
2 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
3 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
4 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
5 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
6 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
五 構成
八才 仏について父に問う。 父は諸人に語って興じた。
主題 筆者の根本にある探究心
(34)二百四十三 八つになりし年 解答
一 1 しょにん 2 きょう
二 どのようだ。
三 1 (1) ○父 筆者(高慢になる)わが子の探究心への満足。
(2)1 子供の知的成長を無心に喜んでいる。
2 仏教の根本問題になることを子供なのによく気づいてくれたという満足。
3 根本の問題を子供に教えられたという驚きと喜び。
A 筆者 B 父 C 筆者 D 父 E 筆者 F 父 G 筆者 H 父 I 父
A 「いかなるもの」とは、性質・内容を訪ねており、「どんな性質のものなのか」「もともとは何だったのだろうか」と聞いている。
B 「なんとして」とは手段・方法を尋ねている。「どういうふうにして、仏になったのだろうか。
四 1 助動らむ体現推 2 動なる用ラ四 3 助動なり止断 4 助動らむ現推 5 動なる用ラ四断
6 動なる用ラ四止