TOPへもどる

古文へもどる

(34)二百三十六段   丹波に出雲といふ所あり

 

(1)@丹波にA出雲といふ所あり。B大社をC移して、めでたく作れ1。しだのなにがしとかやしる所2

 

なれば、秋のころ、D聖海上人、そのほかも、人あまた1誘ひて、1「いざたまへ、出雲拝みに。かいもちひ

 

召させん。」とて、具しもて行きたるに、おのおの2拝みて、2ゆゆしく信おこしたり。

 

(2)御前3なるE獅子・狛犬、3背きて、後ろさまに立ちたりければ、上人4いみじく感じて、2「あなめ

 

でたや。この獅子の立ちやう、いと3めづらし。深きゆゑ4あらん。」と涙ぐみて、3「いかに、殿ばら、殊勝

 

のことは御覧じとがめずや。5むげなり。」と言へば、

 

(3)おのおのあやしみて、4「まことに他に異なりけり。都のつとに語ら4ん。」など言ふに、

 

(4)上人なほゆかしがりて、5おとなしくもの知り5べき顔したる神官を呼びて、5「この御社の獅子の

 

立てられやう、さだめてならひあることに6はべらん。ちと承らばや。」と言はれければ、6「そのことに候ふ。

 

7さがなき童べどものつかまつりける、奇怪に8候ふことなり。」とて、さし寄りて、6据ゑ直して7いにけれ

 

ば、6上人の感涙いたづらになりにけり。

 

(注)@ 丹波 いま京都府と兵庫県の一部。A 出雲 今の京都府亀岡市千歳町。B 大社 島根県にある出雲大社。C 移して ここは神霊をお招きして。D 聖海上人 伝未詳。E 獅子・狛犬 獣をかたどった魔除けの像。口を開いた「阿」の形が獅子、口を閉じた「吽」の形が狛犬。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

1 丹波   2 出雲  3 聖海上人   4 召させん  5 具し  6 獅子  

 

7 狛犬  8 背きて    9 殊勝    10 神官  11 承らばや  

 

12 奇怪   13 据ゑ  14 感涙

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

  1 めでたし

 

  2 具す

 

  3 ゆゆし

 

  4 めづらし

 

  5 とがむ

 

6 むげなり

7 ゆかしがる      8 おとなし

 

9 さがなし      10 いたづらなり

 

三 「  」は誰の言葉か記せ。また、傍線部1〜6とAの問に答えよ。

 

  「  」1〜6は誰の言葉か。

 

   1 誰が誰を誘ったのか。

 

   2 どのような気持ちからか。

 

   3 これを見て、上人はなにがあると推測しているか、二語抜き出せ。

 

   4 上人が感激したのはなぜか。 

 

   5 何を言っているのか。

 

   6 なぜか。

 

   A 話の結果から考えて、上人の失敗はどのような点にあったか。

 

四 二重傍線部1〜7の文法問題に答えよ。

 

  1 、2、3 、4、5 品詞名 基本形、活用形、文法的意味 

  

  6、7         品詞名 基本形、活用形  活用の種類

 

五 口語訳

 

(1)   丹波に出雲という所がある。出雲大社を移して申し分なく作ってある。志太の某とかが領有しているところであるので(その志太の某とかが)、秋のころ聖海上人やその他も人を大勢誘い合わせて、「さあ、いきましょう。出雲参拝に。ぼたもちもごちそうしましょう。と言って連れて行ったところ、めいめい拝んで大いに信心を起こした。

(2)   (拝殿の)前にある獅子と狛犬が互いに背を向け合って後ろ向きに立っていたので、上人は大そう感心して、「ああ、すばらしい。この獅子の立ち方はたいそう珍しい。深いわけがあるのだろう。」と涙ぐんで、「なんとみなさん、こんなすばらしいことをご覧になり、気にしないのか。あんまりだ。」と言うと、

(3)   めいめい不思議に思って、「本当に他のものと異なっている。都への土産にはなそう。」などというので

(4)   上人は一層(そのいわれを)知りたがって、思慮分別に富み物を知っていそうな顔をした神官をよんで、「この神社の獅子の立てられ方はきっと由緒があるjことでございましょう。ちょっと伺いたい」とおっしゃったところ「そのことでございます。たちが悪い子供がし申しあげたことで、けしからぬことでございます。」と言って据えなおしていってしまったので、上人の感涙は無駄になってしまった。         

 

 

 

 

構成

 

 

(1)

 

(2)

 

 

 

(3)

 

(4)

 

 

 

 

 

 節

 

壮麗

 

獅子・狛犬=後ろ向き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出雲社

 

←感激    「ゆゆしく信おこしたり」

 

←(上人)  「いみじく感じ」

        涙ぐむ。 

        同意を求める。

    

←(その他の人々)感動

 

←(上人)由緒を尋ねる。

        なほゆかしがりて。

 

←(神官)「子供のいたずらだ。」

 

 

一行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題  無批判な盲目的な信仰のおかしさ

 

 

(34)二百三十六段   丹波に出雲といふ所あり  解答

一 1 たんば 2 いずも 3 しょうかいしょうにん 4 め 5 ぐ 6 しし 7 こまいぬ

  8 そむ 9 しゅしょう 10 しんかん 11 うけたまわ 

12 きかい 13 す 14 かんるい

二 1 立派だ。2 連れて行く。 3 たいそう。 4 すばらしい。 5 気にする。 6 最低だ。

  7 知りたがる。 8 思慮分別日富む。 9 いたずらだ。 10 むだだ。

三 「 」1 しだのなにがし 2 聖海上人 3 聖海上人 4 その他の人々  5 聖海上人

  6 神官

  1 しだのなにがしが聖海上人その他の人達を 2 壮麗な社殿に過激。

  3 深きゆゑ ならひ 4 深いいわれがあると思ったから。

5 獅子と狛犬が背中合わせになっていることに気がつかないこと。 

6 獅子・狛犬のことが子供のいたずらだったから。

A 形だけ見て、独りよがりに判断した点。

四 1 助動り止完 2 助動なり已断 3 助動なり体存 4 助動む止意 5 助動ぬ止強

  6 動据う用ワ下二 7 動いぬ用ナ変