(32)二百十五 平宣時朝臣
@平宣時朝臣、老いの後、昔語りに、A「A最明寺入道、ある宵の間に呼ば1るゝ事ありしに、B『1やが
て』と2申しながら、B直垂のなくて、2とかくせし程に、また使きたりて、C『3直垂などのさふらはぬに
や。夜なれば4異樣なりとも疾く』とありしかば、なえたる直垂、うちうちのままにて3まかりたりしに、銚
子にかはらけ取りそへて持て出でて、D『この酒をひとりたうべんがさうざうしければ、5申しつるなり。肴
こそなけれ。人は静まりぬらむ。6さりぬべき物やあると、いづくまでも求め4給へ』とありしかば、C紙燭
さしてくまぐまを求めしほどに、台所の棚に、小土器に味噌の少しつきたるを見出でて、E『これぞ求め得て
5候』と申ししかば、F『7事足りなん』とて、心よくD数献に及びて、興に入ら6れ7侍りき。8その世
にはかくこそ侍りしか」と8申さ9れき。
(注)@平宣時朝臣 大仏宣時。1238〜1323年。北条時政の曾孫で、幕府の連署(執権を助けて政務を総領する職)となった。A最明寺入道 北条時頼。1227〜1263年。鎌倉幕府五代の執権。三十才で病のため職を退いて出家し、鎌倉建長寺山内の最明寺に入った。B直垂 当時、武士が着用した衣服。袖ぐくり・胸ひも・菊とじのある無紋のもの。すそを袴の内側に入れて着る。C紙燭 屋内用の照明器具。松の木を50センチメートルほどの細い棒状に削り、先に油を塗ったもの。こよりを油に浸したものを用いることもある。D数献に及びて 杯を重ねる事が、何度にも及んで。「数」は数の多いこと、「献」は酒を飲む回数を表す。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 平宣時朝臣 2 最明寺入道 3 宵 4 直垂 5 異樣 6 疾く 7 銚子 8 肴
9 紙燭 10 土器 11 味噌 12 数献
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 とかく
2 なゆ
3 まかる
4 土器
5 さうざうし
6 肴
7 事足る
三 傍線部1〜9の問いに答え、「 」A〜Fの会話は誰が誰に言ったか記せ。
1 後にどのような語句を補えばよいか。
2 「とかく」した理由を記せ。
3 後にどのような語句を補えばよいか。
4 後にどのような語句を補えばよいか。
5 誰が誰になんと申したか。
6 ここでは具体的にどんな物か。
7 何が何に「事足り」るのか。
8 (1)いつの時代か。
(2)平宣時朝臣のどのような気持ちを表しているか。
「 」A〜Fはそれぞれ誰が誰に言った言葉か。
四 二重傍線部1〜9の敬語について、次の表の空欄を埋めよ。
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注 意 |
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7 |
6 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
れ |
申さ |
侍り |
れ |
候ふ |
給へ |
まかり |
申し |
るる |
語 |
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主 語 |
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種 類 |
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地 会話 |
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誰 が |
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誰 を |
五 口語訳
平宣時朝臣が年取って後、昔話に、「最明寺入道が、ある夜呼ばれることがあったときに、『すぐに。』と申しながら、直垂がなくて、あれこれしていたうちに、また使いが来て、『直垂などがないのだろう。夜なので、変な格好でもいい。はやく。』とあったので、よれよれの直垂で、内緒で参上した時に、銚子に土器を添えて持って出てきて、『この酒を一人で飲もうとしたが、心寂しかったので、申したのだ。肴はない。人は寝静まっている。肴にふさわしい物があるか、どこまでも探して来い。とあったので、屋内用の照明道具を持ってすみずみまで探すうちに、台所の棚にの小さい土器に味噌が少しついているのを見いだして、『これをもとめてきました。』と申したところ、『満足だ。』といって、気持ちよく数献飲んで愉快になられました。曽於当時にはこんなでした。』と申された。
構成
宵の間 台所の棚に味噌 数献飲む。 |
時 場所 |
呼ぶ 「変な格好でもいい。」 銚子と土器をもって出てくる。 「一人飲むのは寂しいから読んだ。 肴を探してこい。」 「十分だ。」 |
最明寺入道(北条時頼) |
老いた時の昔話 直垂がなくてぐずぐず よれよれの直垂で行く 「これを探し出した。」 当時はそんなものだ。 |
平宣時朝臣(大仏宣時) |
主題 平宣時朝臣の質素な生活
(32)二百十五 平宣時朝臣 解答
一 1 たいらののぶときあそん 2 さいみょうじのにゅうどう 3 よい 4 ひたたれ 5 ことよう
6 と 7 ちょうし 8 さかな 9 しそく 10 かわらけ 11 みそ 12 すこん
二 1 あれやこれやと。 2 柔らかになる。 3 参上する。
4 上薬を塗っていない素焼きの土器。 5 心寂しい。 6 酒のつまみ。 7 満足する。
三 1 参らん。 2 目上の人の前に着ていく直垂がなかったから。
3 あらん。 4 おはせ。(来給へ)
5 最明寺入道が 平宣時朝臣に「とく。」と申した。 6 酒の肴になりそうな物。
7 味噌の少量が酒の肴に。
8(1)最明寺入道が執政のとき。(2)質素な生活と素朴で飾り気がない生活を懐かしむ気持ち。
「 」A〜F A 宣時が筆者に B 宣時が使いの者に C 使いの者が宣時に
D 最明寺が宣時に E 宣時が最明寺に F 最明寺が宣時に
四
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注 意 |
9 |
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1 |
番号 |
れ |
申さ |
侍り |
れ |
候ふ |
給へ |
まかり |
申し |
るる |
語 |
(申さ=宣時) |
宣時 |
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(入ら=最明寺) |
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(求め=宣時) |
宣時 |
宣時 |
(呼ば=最明寺) 最明寺入道 |
主 語 |
尊敬 |
謙譲 |
丁寧 |
尊敬 |
丁寧 |
尊敬 |
謙譲 |
謙譲 |
尊敬 |
種 類 |
地の文 |
地の文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
会話文 |
地の文会話文 |
筆者 |
筆者 |
宣時 |
宣時 |
宣時 |
最明寺 |
宣時 |
宣時 |
宣時 |
誰が |
宣時 |
読者 |
筆者 |
最明寺 |
最明寺 |
宣時 |
最明寺 |
最明寺 |
最明寺 |
誰を |