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(27)百四十一 悲田院の堯蓮上人は

 

悲田院のA堯蓮上人は、俗姓は三浦のなにがしとか、双なき武者なり。故郷の人の来たりて物語すとて

 

a吾妻人こそ、言つることは頼まるれ、b 都の人は、ことうけのみよくて、まことなし。」と言ひしを、

 

聖、 「Bそれはさこそ2おぼすめども、おのれは都に久しく住みて、慣れて見はべるにc3心劣れり

 

とは思ひはべらず。なべて心やはらかに、情けあるゆゑに、e4の言ふほどのこと、けやけくびがたく

 

て、よろづ放たず、心弱くことうけしつ。f 偽りせんとは5思はね、C乏しくかなはぬ人のみ

 

れば、おのづから本意通らぬこと多かるべし。g6吾妻人は我が方なれ、げにはD心の色なく、情けおくれ、

 

ひとへにEすくよかなるものなれば、初めより否と言ひてみぬ。ぎはひ豊かなれば、人には頼まるる

 

ぞかし。」とことわら4はべりしこそ、この聖、F声うちゆがみ、荒々しくて、G聖教の細やかなる理、いと

 

わきまへずもやとしに、この一言ののち、8心にくくなり多かる中に寺をも住持せ5るる、1

 

かくHやはらたるところあり、11その益もあるにこそと12覚えはべりし。

 

*解説にa〜hまでの符号をつけ、構成のまとめに使用した。

 

()@悲田院 京都市上京区にあった寺。古くは貧しい病人や孤児を救済する施設であった。A堯蓮上人 伝未詳。「上人」は僧侶の継承。Bそれは あなたは。C乏しくかなはぬ人 貧乏で何事も思うようにならない人。D心の色なく 心のやさしさがなく。Eすくよかなるものなれば 一本気でたくましいい者だから。F声うちゆがみ 言葉になまりがあって。G 聖教 仏典。Hやはらたるところ 頑固でなくものを柔軟に考える心。 

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 悲田院   2 堯蓮上人   3 俗称   4 武者  5 吾妻

 

  6 聖     7 偽り     8 本意   9 聖教  10 理

 

二 次の1〜10の語の意味を辞書で調べよ。

 

  1 双なし

 

  2 物語

 

  3 吾妻人    

 

  4 ことうけ

 

  5 まこと

 

  6 聖

 

  7 なべて

 

  8 やけし

 

  9 心にくし

 

  10 益

 

三 傍線部1〜12とAの問に答えと。

 

  1 下に適当な語を四字の文語で記せ。

 

  2 「故郷の人」は「吾妻人」と「都の人」に対する評価の基準を何においているか。漢字四字の慣用句で記せ。

  3・4の人はどのように違うか。

 

  5 誰が思うのか。

 

  6 この言い方に表れた尭連上の人柄はどういうものか。。

 

  7 誰が思うのか。

 

  8 誰が誰に対してどんなに感じたのか。

 

  9 何が「多かる」のか。

 

  10 どういう点をさしているか。

 

  11 指示内容を記せ。

 

  12 内容に当たる部分を抜き出せ。

 

  A 作者が堯蓮上人人の人柄について、最も感動して述べている言葉を十五字以内で抜き出せ。

 

四 二重線部1〜5の文法問題に答えよ。

 

 1、3、4、5 文法的に説明せよ。

 

 2 品詞分解 口語訳 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五 口語訳 悲田院の堯蓮上人は、俗称は三浦の何とか言った比べる者がない武者だ。故郷の人が来て話をすると言って「東国の人こそ言ったことは頼りに出来る。都の人は受け答えだけよくて真情がない。」と言ったのを、聖は「あなたは、そうお思いになるでしょうが、自分は都に長く住んで、慣れてみますところ、(都の)人の心が劣っているとは思いません。一般に心が柔らかいので人情があるせいで、他人がいうことをはっきり否定できなくて、万事口に出してきっぱりいうことができず、気弱く引き受ける。嘘をつこうとは思わないが、貧乏で何事も思うようにならない人ばかりいるので、自然に思いが通らないことが多いだろう。吾妻人は、自分の仲間だけれど、本当は心のやさしさがなく人情が足らずまったく一本気でたくましい者だから、初めから嫌と言ってそのままになる。富が豊であるので、人にも信頼されるのだ。」と筋道を立てて説明されましたのこそ、この聖は、声が言葉になまりがあって荒々しくて、仏典の細やかな道理もたいそう理解しないのではと思っていたが、この一言ののちには奥ゆかしくなって(僧が)大勢いる中に寺をもお持ちになっていられるのは、このように頑固でなくものを柔軟に考えるところがあって、その利益もあるのだなあと思われました。

 

 

構成

 

相違点

吾妻人

 

 

 

 

 

 

都の人

 

 

 

 

 

 

 

 

対象

 

よく考えたか

外面的結果で判断している

○a言ったことは信頼できる

 

 

 

 

 

×口先だけで真心がない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故郷の人の見方

 

多面的にとらえる

結果のみで判断しない

 

 

 

 

 

 

 

×心の優しさがなく人情が足りな

 い

一本気でたくましいから初めから断ってしまう

 

生活が豊かなので信頼される

 

心は劣っていない

 

心穏やか 人情味ある

 

○e人の言うことを断れずつい引き受ける

 

嘘をつこうとは思わないが貧乏で思うようにならない

 

堯蓮上人の見方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 堯蓮上人の人柄と考え方の柔軟さ

 

 

 

 

 

(27)百四十一 悲田院の堯蓮上人は 解答

一 1 でんいん 2 ぎょうれんしょうにん 3 ぞくしょう 4 むしゃ 5 あずま

  6 ひじり 7 いつわ 8 ほい 9しょうぎょう 10 ことわり

二 1 比べる物がない。 2 話。 3 東国の人。 4 うけこたえ。 5 真心。 6 徳の高い人。

  7 一般に。 8 はっきりしている。 9 おくゆかしい。10 効き目 効果。

三 1「言ひける」 2 「言行一致」 3 3「都の人」 4「他人」 5 都の人 

6 穏やかで思いやりがある  7 筆者。 

8 筆者が堯蓮上人に対して、その情味ある人間理解を奥ゆかしく感じた。 9 僧 

10 堯蓮上人は東国出身でありながら、故郷の人に迎合せず公正に考えている点。

  11「かくやはらぎたるところ」 12 「多かるなかに

  12「 多かる中に寺をも住持せ5らるるは、かくやはらたるところあり、その益もあるにこそ

A 「かくやはらぎたるところ」

四 1 助動る已可 

2 副 言放た動言放つ未 助動ず未打 口に出してきっぱりいいはんすことができない

  3 助動る体受 4 助動る用尊  5 助動らる体尊