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(26)百三十七  花は盛りに(前半)

語釈

(1) 花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。@雨に向かひて月を恋ひ、Aたれこめて春の行方知ら1

 

も、2なほあはれに情け深し。2咲きぬべきほどの梢、散りしをれたる庭など3こそ、3見どころ多けれ

 

歌の詞書にも、「B花見にまかれ4けるに、早く散り5過ぎにければ。」とも、「さはることありて、まか

 

ら6。」なども書けるは、「花を7て。」と言へるに劣れることかは。花の散り、月の傾くを慕ふならひはさ

 

ることなれど、ことに4かたくななる人ぞ、「この枝、かの枝、散り8けり。今は見どころなし。」などは言

 

ふ9める

(注)@ 雨天に対して月を眺めたいと願い。詩題に「対 雨 恋 月」があり、江談抄四には雨の八月十五夜に同題を詠じた源順の「楊貴妃帰唐帝思 李夫人去漢皇情」(類聚句題抄 和漢朗詠集・十五夜)の詩にまつわる逸話を語る。A 家の内に閉じこもっていて過ぎゆく春の行く先を知らないという状態も。「たれこめて春の行方も知らぬまに待ちし桜もうつろひにけり」(古今集・春下・藤原因香朝臣)の歌を引く。子の歌は患って帳を垂れて籠っている間、折り枝の桜が散り始めたのを見て詠じた歌。B 花見に出かけたところ、既に散ってしまっていたので。「雲林院の花見にまかれりけるに、みな地理はてて、僅かに片枝に残りて侍りければ」(新古今・春下・良 )。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 恋ひ  2 行方  3 詞書  4 慕ふ

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 あはれなり

 

 2 詞書

 

 3 さはる

 

三 傍線部1〜7と*の問いに答えよ。

  *(1)〜(4))全文の主題に関わる動詞を抜き出し終止形で記せ。()

 

  1 (1)同じ趣旨のことを言っている箇所を抜き出せ。

    (2)「花は盛りに、月はくまなき」について、修辞法は何か。 また、同じ修辞法の箇所を抜き出せ。 その効果を記せ。

    (3)「のみ」を省くと意味はどう変わるか。      

    (4)「かは」は四回使われている。この使い方を説明せよ。

        また、この表現法で筆者が意図したことは何か。 

 2 どこにかかるか。

3 対照的表現を抜き出せ。 

4 (2)(3(4))から、この人と同じ意味の語句と反対の意味の語句をそれぞれ抜き出せ。(

四 二重線部1〜9の文法問題に答えよ。

  1 文法的意味を記せ。

  2 (1)品詞分解せよ。

    (2)口語訳せよ。

  3 結びの語を抜き出し説明せよ。

  4 文法的に説明せよ。

  5 文法的に説明せよ。

  6 文法的に説明せよ。

  7文法的に説明せよ。

  8 文法的に説明せよ。

  9 文法的に説明せよ。

 

五 口語訳

  ((桜の)花は盛りの状態だけを、月はかげがない状態だけを見るものか(いやそうではない)。雨を見

ながら月を慕い、帳や簾などを垂らしてその中に閉じこもって、春の過ぎてゆくのも知らずにいるのもや

はりしんみりとして趣深く風情を解する心が深い。きっと咲きそうな様子の(桜の)梢、、(落花が)散り

しおれている庭などが(かえって)見る価値が多い。歌の詞書きにも、「花見に参りましたが、既に散っ

てしまっていたので。」とも、「さしつかえることがあって、参りませんで。」などとも書いてあるのは、

「花を見て。」と言っているのに劣っていようか(いや劣っていない)。花が散るのに月が傾くのに心ひか

れる習慣であるのは当然なことであるが、特に愚かで教養がない人が、「この枝もあの枝も散ってしまっ

た。今は見る価値がない。」などと言うようだ。)

 

 

(26)百三十七  花は盛りに(前半) (1)解答

一 1こい 2 ゆくえ 3 ことばがき 4 した

二 1 しんみりして趣深い 2 和歌の前書き 3 さしつかえる

三 * 「見る」、「眺む」、「まもる」 (1) よろづのことも初め終はりこそおかしけれ。

  (2) 対句 「雨に向かひて月を月を恋ひ、てれこめて春行方知らぬも」、「咲きぬべきほどの梢散りしをれたる庭などこそ」、「花の散り月の傾く」 効果 見る対象、見る態度を明示させる効果

   (3) 「のみ」副助詞・限定・ダケ 満開の桜、満月を否定することになる

  (4)    見るものかは  @   花・月という、見る対象のあり方をいう   起    

        劣れることかは A   花を見る見方をいう            承

        言ふものかは  A   恋のあり方をいう             転

        見るものかは  C   月・花を心眼でとらえることをいう     結

        「かは」係助詞・反語・・・カ・・イヤ・・デハナイ 起承転結の展開になっている

意図したこと 常識的見解に疑問を提示し、それとは逆の自分の考えを協調する

2 「あはれに」、「情け深し」 3 「見どころなし」 4 「片田舎の人」「よき人」)

四 1 助動詞・打ち消し・「ず」・体

2 (1)「咲き」・カ四動・「咲く」・用) 「ぬ」・助動詞・強意・「ぬ」止 「べき」・「梢」・名詞 

(2)きっと咲きそうな様子の梢      3 「多けれ」・形容詞・「多し」・已

4 助動詞・完了・「り」・用        5 ガ上二・動詞・「過ぐ」用)

6 接続助詞・・打ち消し         7 マ上一動詞・「見る」用

8 助動詞・完了・「ぬ」・用        9 助動詞・婉曲・「めり」体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)よろづのことも、初め終はり1こそをかしけれ。男・女の情けも、ひとへにあひ見るをば言ふも

 

のかは。@あはでやみに2憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、長き夜をひとり明かし、A1

 

き雲居を思ひやり、2浅茅が宿に昔をしのぶこそ、色好むとは言は3

 

(注)@ ついに恋人と逢うことなしに終わったつらさを思い。「思ふことありその海のうつせ貝達逢はでやみぬる名をや残さむ」(堀河百首・源師頼)。A 遠い空のかなたにいる恋人のことを思いやり。「忘るなよほどは雲居になりぬとも空行く月のめぐりあふまで」(拾遺集・雑上・橘忠幹)。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 憂さ  2 契り  3 雲居  4 浅茅

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 あひ見る

 

 2 憂さ

 

 3 あだなり

 

 4 かこつ

 

三 傍線部1、2の問いに答えよ。

 

  1 ここではどういう意味で使われているか。

  

2 ここではどういう意味で使われているか。

 

四 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。

 

1 結びの語を抜き出し説明せよ。

 

2 文法的に説明せよ。

 

3 文法的に説明せよ。

 

五 口語訳

  (何でも、初めと終わりは趣深い。男女の恋愛でも、ひたすら男女が関係を結ぶのだけをいうものだろうか(いやそうではない)。結婚しないで終わってしまったすらさを思い、無駄に終わった終末を嘆き、長い夜を一人で明かし、遠くに離れている恋人を思いやり、萱の生えている家に昔を懐かしく思い出したりするのこそ恋の情趣が理解できると言うのだろう。

 

 

 

 

 

 

(26)百三十七  花は盛りに(前半) (2)解答

一 1 う 2 ちぎ 3くもい 4あさじ

二 1 男女が会い関係を結ぶ。 2 つらさ。 3 無駄な様。4 嘆く。

三 1 遠くに離れている恋人。 2 今はなき恋人の家。

四 1 「をかしけれ」・形容詞「をかし」・已然形 2 助動詞・過去・「き」・連体形

  3 助動詞・推量・「む」・已然形

 

 

 

(3)@1望月のくまなきを千里のほかまで眺めたるよりも、暁近くなりて1待ち出でたるが、いと

 

、青みたるやうて、深き山の杉の梢に3見えたる、A2木の間の影、うちしぐれたるむら隠れのほ

 

ど、またなくあはれなり。椎柴・白樫などの、ぬれたるやうなる葉の上に3きらめきたるこそ、身にしみ

 

て、4心あらん友もがなと、4都恋しうおぼゆれ

 

(注)@ かげりのない十五夜の月を遠く彼方までも眺めた場合よりも。「秦 之一千里 凛々氷鋪 漢家之三十六宮 澄々紛 」和漢朗詠集・秋・十五夜)、「三五夜中新月色 二千里外故人心」(同・白楽天)などを念頭に置く。 A 木の間を漏れる月の光やしぐれを降らす村雲に隠れた有様などが。「尋ね来て言問ふ人のなき宿に木の間の月の影ぞさしくる(山家集)、「今よりは木の葉隠れもなけれどもしぐれに残る村雲の月」(新古今集・冬・源具親)。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 望月  2 暁  3 椎柴  4 白樫

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 むら雲

 

 2 またなく

 

三 傍線部1〜6の問いに答よ。   

    「望月の・・・あはれなり。」の文構造を説明せよ。

 

 2 何の影か。

 

3 主語を記せ。

 

4 (1)筆者はどこにいるか。

   (2)なぜこう思うか。

 

四 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。

 1 文法的に説明せよ。

 

2 音便の種類と元の形を記せ。

 

3 文法的に説明せよ。

 4 (1)品詞分解せよ。

   (2)口語訳せよ。

 

五 口語訳

   満月でかげがない(月を)はるか遠いところまで眺めているよりも、暁近くなって待って出てきた(月)

   が、たいそう趣深く、青みを帯びているようで、深い山の杉の梢に見えている(その)木の間の月の姿

   時雨を降らせている群がっている雲に(ちらちら)見える様子は、並びなくしみじみと趣深い。椎の木

   椎の木や白樫の木などの、濡れているような葉の上に(月が)きらきら輝いているのはしみじみと感じ

   られて、風流を解する友がいてほしいと都が恋しく思われる。

 

 

 

(26)百三十七  花は盛りに(前半) (3)解答

一 1 もちづき 2 あかつき 3 しいしば 4 しらかし

二 1 群がっている雲。 2 並びない。

三 1 ((月は)望月のくまなきを千里のほかまで眺めた、るよりも、

                             いと心深う

暁近くなりて待ち出でたる(月)が、

                             青みたるやうにて

     深き山の杉の梢に見えたる木の間の影

                             またなくあはれなり。)

     うちしぐれたるむら雲隠れのほ

2 月の姿 3 月 4 (1)田舎 (2)都には風流を解する友がいるから

四 1 ダ行下二段動詞「出づ」連用形  2 ウ音便 心深く 3 y行下二段動詞「見ゆ」連用形

  4 (1)心 名詞  あら ラ行変格活用動詞「あり」未然形  ん 助動詞・婉曲・「む」連体形撥音便  友 名詞  もがな 終助詞 願望  と 格助詞 引用

  (2)風流を解するような友がいてほしいと

 

 

 

(4) すべて、月・花をば、1さのみ目にて見るものかは。2春は家を立ち去らでも、月の夜は閨の内なが

 

らも思へる1こそ、いとたのもしう、をかしけれ。4よき人は、ひとへに好けるさまにも見え2、3興ず

 

さまもなほざりなり。片田舎の人こそ、5色濃くよろづはもて興ずれ。花のもとには、ねぢ寄り立ち寄り、

 

あからめもせずまもりて、酒飲み、連歌して、果ては、4大きなる枝、心なく折り取り5。泉には手・足さ

 

しひたして、雪には下り立ちて跡つけなど、よろづのもの、6よそながら見ることなし

 

一 次の1〜4の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 閨   2 興ずる   3 片田舎  4 連歌

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 よし  

 

 2 色濃し

 3 まもり

 

 4 心なし

 

三 傍線部1〜8の問いに答よ。

  1 では何でみるのか。

  2 修辞法を記せ。

  3 何を「思」うのか。

  4 「よき人」と反対の意味の語句を抜き出せ。

  5 同じ対応の仕方を言っている箇所を二箇所抜き出せ。

  6 (1)「よそながら見る」と同じ対応の仕方を言っている箇所を抜き出せ。

    (2)「よそながら見る」とはどのように見る見方か。

 

四 二重線部1〜5の文法問題に答えよ。

  1 結びの語を抜き出し説明せよ。

  2 文法的に説明せよ。 

  3 文法的に説明せよ。 

  4 文法的に説明せよ。 

  5 文法的に説明せよ。 

 

五 口語訳

  総じて、月や花を、そういうふうに目だけで見るものか(いやそうではない)。春は家を出て行かなくても、月の夜は寝室に籠もったままでも、(月や花を)思っているのは、大層期待が出来、趣深い。教養ある人はひたすら好みにふけっている様にも見えず、おもしろがる様子もほどほどだ。片田舎の人に限って、しつこく何事も面白がる。花の下にはにじり寄り近寄り、わき目もしないでじっと見つめて、酒を飲んだり連歌をしたりしまいには大きな枝を分別なく折り取ってしまう。泉には手足を(直接)ひたし、雪の上におりて足跡をつけたりなど全てのものを間接的にそれとなく見ることはない。

 

 

 

 

 

(26)百三十七  花は盛りに(前半) (4)解答

一 1 ねや 2 きょう 3 かたいなか 4 れんが

二 1 教養がある。2 しつこい。 3 じっと見つめる。4 分別がない

三 1 心眼。2 対句。 3 月・花。 4 片田舎の人。

  5 あからめもせずまもりて よそながら見ることなし。 6(1)なほざりなり

  (2)対象を離れて客観的に見る見方

四 1 をかしけれ 形容詞「をかし」已然形 2 助動詞 打ち消し「ず」連用形

  3 サ行変格活用動詞「興ず」連体形 4 形容動詞ナリ活用「大きなり」連体形

  5 助動詞 完了「ぬ」終止形

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

(3)

 

 

 

 

 

 

(4)

 

 

 

 

 

 

 

 

特色

花・月{自然}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋人(人事)

 

 

 

 

 

 

 

月(自然)

 

 

 

 

 

観賞の態度

項目

部分的 視覚的

肉眼で直接見る

 

満開の桜・満月

 

 

 

 

 

落下―見る価値なし

 

 

 

 

 

 

 

結ばれる恋

 

 

 

 

 

 

 

満月

 

 

 

 

 

目で見る

 

 

 

片田舎の人=しつこく直接的に見る 体感する

(例)花←目で見る

   泉←手足を浸す  

   雪←足跡をつける

 

常識的な見方

全体的 心情的

心眼で全体をとらえる

満開の桜・満月

◎反語「かは」による提示

雨に月

部屋にいて春       見る価値多い

咲きそうな梢

散った花

(例)詞書

   花が散った

   花見に行けない

    <

   花を見る

◎反語「かは」による提示

 

結ばれる恋

◎反語「かは」による提示

結ばれないで終わった恋

無駄に終わった約束

独り寝          恋の情趣

遠くにいる恋人

恋人の昔のい家

 

満月

◎火飼う「より」による提示

木の間の月

村雲隠れの月       月の情趣

濡れた葉の月

 

心眼で見る

◎反語「かは」による提示

春←家にいて思う     心でとらえる

月夜←寝室にいて思う

教養ある人=ほどほどに間接的に見る

独自の見方

構成

 

主題 物の見方

 

*物を見る見方について、肉眼でみる見方、心眼で見る見方が指摘されているが、このほかに天眼(神の目)による見方もある。