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(22)七十五  つれづれわぶる人は

語釈
(1)
 1つれづれわぶる人は、いかなる心ならむ。2紛るゝ方なく、唯一人あるのみこそよけれ
(2)
 @世に從へば、Aほかの塵にうばはれて惑ひ易く、人に交はれば、3言葉よそのききに隨ひて、さながら心

 

にあらず。人に戲れ、物に爭ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。4そのこと定れることなし。分別みだりに起りて、

 

得失やむ時なし。5惑ひの上に醉へり、醉ひの中に夢をなす。走りていそがはしく、Bほれて6忘れたること、

 

人皆かくのごとし。
(3)
 いまだC誠の道を知らず1とも、D縁を離れて身をしづかにし、事にあづからずして心を安くせんこそ、7

 

暫く樂しぶ2ともいひつべけれ。「生活・人事・E技能・學問等の諸縁をやめよ。」と3こそ、F摩訶止觀にも

 

侍れ。

(注)@世に從へば 世間に順応して行動すること。Aほかの塵 仏教で言う六塵のことで、目・耳・鼻・舌・身・意を通じて外界から入ってきて、人の心を汚す俗悪なもの。Bほれて ぼんやりして。本心を失って。C誠の道 ここは、仏教の正しい道の事。D縁 外界とのつながり。E技能 技芸。F摩訶止觀 天台宗の書。中国隋時代の高僧、天大大師智ぎが説いた仏道修行の方法を、弟子の章安が書きとめたもの。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 紛るる 2 惑ひ易く 3 戲れ 4 分別 5 得失 6 暫く 7 摩訶止觀

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 聞き

 

 2 さながら

 

 3 分別

 

 4 得失

 

 5 あづかる

 

三 傍線部1〜7の問いに答え、また、主張の中心となっている一文を抜き出せ。

 

 1 「つれづれわぶる」態度と対照的に考えられている態度を抜き出せ。

 

 2(1)「紛るる方なく」とは、何がどういうことに紛れないのか。

 

(2)「紛るる方なく、唯一人ある」と同じ状態を記している部分を抜き出せ。

 

 3 どういうことか。

 4 指示内容を記せ。

 

 5 人の心のいかなる様を言っているか、簡潔に述べよ。

 

 6 何を忘れるというのか。

 

 7 どこに続いていくか。

 

 中心

 

四 二重傍線部1〜4の文法問題に答えよ。

 

1、2 「とも」の意味の違いを記せ。

 

3 結びの語 基本形 活用形

 

4 対句、対句的表現を抜き出せ。

 

五 口語訳

(1)   所在ない状態を嘆く人は、どういう心をしているのだろう。

(2)   世間に従えば、心は俗悪なものに奪われて迷いやすく、人と交われば言葉は他人の評判に従いそのまま心ではない。人とふざけ物で争い、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのことは定まっているということはない。思慮はむやみにおこって、利害・損得はやむことはない。迷いの上に酔っている。酔うなかに夢を見る。走って忙しそうで、ぼんやりして、忘れると人は皆こういうものだ。

(3)   まだ、仏教の正しい道をしらなくても、外界とのつながりを断って静かに暮らし、事に関わらないで、心を平穏に保つことこそ、少しの間でも、楽しむともいうことができる。「生活・人事・技能・学問等の諸縁をやめよ。」と摩訶止觀にもございます。

 

構成

(1)「つれづれ」 人生の真実

   心理 「紛るる方なく」

   身体 「唯一人ある」

 

   「つれづれ」を嘆く人 俗人 俗事にとらわれる

 

(2)種々相

   心理 「ほれて忘れたる事」

   身体 「走りていそがはしく」

 

(3)生活・人事・技能・学問 仮称的な人生の営み

   心理 「事にあずからずして心をやすくせん」

   身体 「縁を離れて身を静かにし

 

主題 「つれづれ」の人生的意義と価値

 

 

 

 

 

 

(22)七十五  つれづれわぶる人は  解答

一 1 まぎるる 2 まどいやすく 3 たわむれ 4 ふんべつ 6 しばらく 7 まかしかん

二 1 聞くこと。評判。 2 そのまま。3 思慮。 4 利害損得。 5 かかわる。

三 1 唯一人ある。 2 (1)自分の心が外界の事物に紛れることもなく。

  (2)縁を離れて身を静かにし、事にあずからずして心を安くせん。 

  3 自分の言葉がそれを他人はどう理解して聞くかということにばかり注意が向いて発せられる。

  4 戯れ、争い、恨み、喜ぶ 5 自己の本心を失い迷いに陥り大事な道の事を忘れているさま。

  6 人生の一番大切なこと。 7 言ひつべけれ。

  中心 紛るゝ方なく、唯一人あるのみこそよけれ

四 1 接助とも 逆接仮定 2 格助と 係助も 3 侍れ動侍り已ラ変

  対句・対句的表現 

世に從へば、ほかの塵にうばはれて惑ひ易く

人に交はれば、言葉よそのききに隨ひて

  

  人に戯れ   一度は恨み  惑ひの上に酔へり      走りていそがはしく

  物に争ひ   一度は喜ぶ  酔ひのうちに夢をなす    ほれて忘れたる

 

  縁を離れて身をしづかにし

  事にあづからずして心を安くせん