(20)七十一 名を聞くより
語釈
(1)
名を聞く1より、やがて面影はおしはから2るる心地するを、見るときは、また、かねて思ひつるままの顔
したる人こそなけれ。昔物語を聞きても、このごろの人の家の、@そこほどにてぞあり3けんと覚え、1人も、
今見る人の中にA思ひよそへ4らるるは、2たれもかく覚ゆるにや。
(2)
また、3いかなる折ぞ、4ただいま人の言ふことも、目に見ゆる物も、我が心のうちも、かかることのいつぞ
やあり5しかと覚えて、いつとは思ひ出で6ねども、まさしくあり7し心地のするは、5我ばかりかく思ふに
や。
(注)@そこほどにて そのあたり。A思ひよそへらるるは 自然に思い比べられてくる。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 面影 2 心地
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 面影
2 かねて
3 昔物語
三 傍線部1〜5の問いに答えよ。
1 どういう人か。
2、5 これは筆者の主観的感想か。
3 どこへかかるか。
4 文構造を説明せよ。
四 二重傍線部1〜7の文法問題に答えよ。
1 文法的に説明せよ。
2 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
3 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
4 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
5 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
6 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
7 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
五 口語訳
(1)
名を聞くやいなや、すぐに顔つきが、推測される気持がするのに、会ってみると、前に思っていたママの顔をしている人はいない。昔の話を聞いても、今の人の家の、そのあたりにあっただろうかと思われ、人も、今見る人の中に思い比べられるのは、誰もこう感ずるのであろうか。
(2)
また、どういう折りであったろうか、現在人が言うことも、目に見えるものも、自分の心のうちも、こういうことがいつかあったと思われて、いつだったとは思いだせないけれども、確かにあった気持がするのは、自分だけこうおもうのだろうか。
構成
|
(1) (2) |
節 |
過去 |
(名前) 名前 (昔の話) その人の家 人 基準→ あった気がする。 |
対象 |
現在 |
―比較 (今の家のあのあたり) ―比較 今の人 「人の言うこと。」 「目に見えるもの。」 「わが心の内。」 ←基準 |
検討 |
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連想 記憶 |
種別 |
主題 現実にはないことを会ったかのように思う人間心理の不思議さ
* 筆者の自己観照の鋭さ (前世の体験 誰にもある体験)
(20)七十一 名を聞くより 解答
一 1 おもかげ 2 ここち
二 1 顔つき。 2 前に。 3 思い出話。
三 1 昔話の登場人物。 2、5 自分の心情の不思議さを見つめる。他人に向かって問題提起する。
3 「ありしかとおぼえて」
4 人の言うことも
ただいま 目に見ゆるものも かかることの
我が心のうちも
四 1 格即時スルヤイナヤ 2 助動る体自 3 助動けむ止過推 4 助動らる体自
5 助動き已過 6 助動ず已打 7 助動き体過