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(19)五十九 大事を思ひたたん人は

語釈

(1)  1@大事を思ひたた1人は、Aさりがたく、心にかから2ことの本意を遂げずして、さながら捨

 

つべきなり。

 

(2)「しばしこのこと果てて。」 「同じくはかのことB沙汰しおきて。」 「3しかしかのこと、人のあ

 

ざけりやあら3ん、C行末難なくしたためまうけて。」 「4D年ごろもあればこそあれ、5そのこと待た

 

ほどあらじ。6Eもの騒がしからぬやうに。」など思は5には、6えさらぬことのみいとど重なりて、7こと

 

の尽くる限りもなく、8ひたつ日もあるべからず。Fおほやう、人を見るに、少しG心あるきはは、皆この

 

あらましにてぞH一期は過ぐめる。 

 

(2)  近き火などに逃ぐる人は、「9しばし。」とや言ふ。身を助け7とすれば、恥をもかへりみず、財も

 

捨てて逃れ去るぞかし。命は人を待つものかは。無常の来たることは、水火の攻むるよりも速やかに、逃れが

 

たきものを。10そのとき、11老いたる親、いときなき子、君の恩、人の情け、捨てがたしとて捨てざら8

 

や。

 

(注)@大事 ここでは出家して悟りを開くこと。Aさりがたく 避けにくく。B沙汰しおきて 始末しておいて。C行末難なくしたためまうけて 将来、人から非難されないように、前もって始末を付けておいて。D年ごろもあればこそあれ 長年のあいだこうして過ごしてきたのだから。Eもの騒がしからぬやうに うろたえあわてないように。Fおほやう だいたい。G心あるきは 物の道理が分かっていると言う程度の人。H一期 一生。I無常 ここでは死のこと。11水火 洪水や火災。

 

一 次の1〜6語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 本意   2 沙汰   3 行末    4 一期   5 無常  6 老いたる

 

二 次の語の語の意味を辞書で調べよ。

 

  1 本意

 

  2 さながら

 

  3 年ごろ

 

  4 いとど

 

  5 あらまし

  6 いときなし

 

三 次の傍線部1〜12とA・Bの問いに答えよ。

 

  1 仏教語で仏門に入ることを意味するが、二字の漢字で言い換えよ。

 

  2 下に省略されている語を記せ。

 

  3 どこに掛かるか。

 

  4 どういうことか。

 

  5について、

(1)             どういうことか。

 

(2)             どうなるのを「待たん」というのか。

 

 6 下に省略されている語を記せ。

  

7 どういうことか。

 

 8 は何をか。

 

  9 下に省略されている語を記せ。

 

 10 指示内容を記せ。

 

 11 四つに共通している点は何か。

 

 A この段落の要旨を最もよく表している一文を抜き出せ。

 

 B この文で主張したその主張の理由または根拠と見られる事柄を抜き出せ。

 

四 二重線部1〜8の文法問題に答えよ。

 

 1〜5、7、8 について文法的に説明せよ。

 

 6 品詞分解 口語訳

 

 

 

 

 

 

 

五 口語訳

  (1) 出家して悟りを開こうとするような人は、避けにくく気に掛かるような用事(があっても、そ)

の目的を果たそうとしないで、そっくりそのまま捨ててしまうべきだ。

 

  (2)「もう少し待って、この事が終ってから。」「同じ事ならあのことの始末をしておいて。」「これこ

れのことは、他人のあざけりを受けるかも知れない、将来、人から非難されないように、前もって

始末を付けておいて。」「長年の間こうして過ごしてきたのだから、そのことが終わるまで待とう、

長くはかかるまい。うろたえあわてないように。」などと思うなら、避けられないことばかります

ます重なって事の果てる際限もなく、決意する日もあるはずがない。だいたい、人を見渡すと少し

物の道理が分かっていると言う程度の人は、皆こういった心づもりのままでその一生は過ぎてしまう

ようである。

 

(3) 近所の火事などで逃げ出す人は、「ちょっと待って。」と言うか、(いや言いはしない)。身を助

けようと思えば恥も顧みないで、財宝をも捨てて逃げ去るはずだ。命は人を待っていようか(いや

待っていない)。死が迫ってくるのは、洪水や火災の襲ってくるのより速くて逃れることができな

いものであるのに。その時、年取った親やおさない子、主君の恩、他人の好意を捨てにくいからと

言って捨てないでおられようか(いや捨て去ってしまわなけらばならない。

 

構成

 

  1 出家遁世=一切を捨てるべきだ。

 

  2 それに反する例=「この事」、「かのこと」、「しかしかのこと」、「そのこと」 

 

             世俗の用事にとらわれている。

 

  3 例=近火  死の到来に一切を捨てる。

 

         「親」、「子」、「恩」、「情け」 捨てる。

 

  主題 諸縁放下の覚悟の必要性 

 

 

(19)五十九 大事を思ひたたん人は  解答

一 1 ほい 2 さた 3 ゆくすえ 4 いちご 5 むじょう 6 お

二 1 かねてからの望み。 2 そのまま。 3 長い間。 4 さらにいっそう。 5 大体の様子。

  6 幼い。

三 出家。 2 出家せん 3 したためまうけて 4 こうして生きてきたのだから、生きていける。

  5 (1)世俗の雑事。 (2)そのことの成就すること。 6 出家せん。

  7 雑事の亡くなる時期 8 出家。 9 待て。 10 死ぬ時。 11 人間同士の愛情。

  A  事を思ひたたん人はAさりがたく、心にかからんことの本意を遂げずして、さながら捨

つべきなり。 B 命は人を待つものかは。

四 1 助動む体仮定婉曲 2 助動む体仮定婉曲 3 助動む体推 4 助動む体意思

  5 助動む体仮定婉曲 6 え副 さら動さりラ四未 ぬ助動ぬ体打 こと名 避けられないこと 

7 助動む止意 8 助動む止推