TOPへもどる

古文へもどる

(14)五十 応長のころ、伊勢国より

語釈

  (1)

@応長のころ、A伊勢国より、女の鬼になりたるを1て上りたりといふことありて、そのころ二十日ばか

 

り、日ごとに、京、B白川の人、鬼見にとて1出で惑ふ。「昨日はC西園寺に2参りたりし。」「今日はD院

 

へ3参るべし。」「ただ今はそこそこに。」など言ひ合へ3。まさしく見たりと言ふ人もなく、虚言と言

 

ふ人もなし。4上下、ただ鬼のことのみ言ひやま4

 (2)                                            

そのころ、E東山よりF安居院の辺へ5まかり侍りしに、G四条より上さまの人、みな北をさして走る。「H

 

条室町に鬼あり。」とののしり合へ5り。I今出川の辺より6見やれば、J院の御桟敷のあたり、6さらに通

 

り得べうもあらず立ちこみたり。KはやくL跡なきことにはあらざめりとて、7人を遣りて見するに、おほか

 

た逢へる者なし。暮るるまでかく立ち騒ぎて、果てはM闘諍起こりて、あさましきことどもあり7けり

 (3)                                                                           

そのころ、おしなべて、二三日、人のわづらふこと8侍りしをぞ、「かの鬼の虚言は、8のしるしを示

 

すなりけり。」と言ふ人も侍り9。〔第五十段〕

 

(注)@応長 疫病蔓延のため、延慶四年(1311)四月改元され、応長となる。この年号は翌年三月まで。A伊勢国 今の三重県。B白川 鴨川と東山との間の地域。京の郊外。C西園寺 西園寺実兼(1249〜1322)の別邸。今の金閣寺の地にあった。D院 伏見上皇の御所。時明院殿。今の京都市上京区光昭院の地。E東山 今の京都市東山区一帯の地域。F安居院 比叡山東塔竹林院の僧徒里坊(出京の時に宿泊した別院)。今の京都市上京区にあっった。G四条より上さま 四条大路より北の方面。H一条室町 一条大路と室町小路の交差している辺り。I今出川 一条大路の北を東に流れ、東京極大路に沿って南へ流れていた川。J院の御桟敷 賀茂の祭りで上皇の見物用に常設されていた桟敷。一条室町にあった。Kはやく やはり。もともと。L跡なきこと 事実無根のこと。M闘諍 けんか。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

    1 二十日  2 西園寺  3 虚言  4 侍り  5 桟敷  6 遣る      7 闘諍

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

    1 参る

 

    2 虚言

 

  3 ののしる

 

    4 おほかた

 

    5 あさまし

 

    6 おしなべて

 

    7 しるし

 

三 傍線部1〜8の問いに答えよ。

 

    1 主語を記せ。

 

    2 主語を記せ。

 

    3 主語を記せ。

 

    4 何の上下か。

    5 主語を記せ。       6 主語を記せ。

 

    7 ここには、噂に対する作者のどのような態度がうかがえるか。

 

    8 指示内容を記せ。

 

四 二重線部1〜9の文法問題に答えよ。

 

    1 品詞名 基本形 活用形 活用の種類

 

      品詞名 基本形 活用形  文法的意味

 

      品詞名 基本形 活用形  文法的意味

 

      品詞名 基本形 活用形  文法的意味

 

      品詞分解 口語訳

 

      品詞名 基本形 活用形  文法的意味

 

      品詞名 基本形 活用形 活用の種類

 

      品詞名基 本形 活用形  活用の種類

 

  9 品詞名品 詞名基本形   文法的意味

 

五 口語訳

(1)

 応長の頃、伊勢の国から、女で鬼になったのを連れて上ったということがあって、そのころ二十日ばかり、毎日、京、白川の人が、鬼見といってやたらに出歩く。「昨日は西園寺二参上した。」「今日は院へ参上するだろう。」「ただ今は、そこそこに。」など言い合った。確かに見たというひともなく、嘘と言う人もない。上下、ただ鬼の事のことだけ言いやまない。

(2)

 そのころ、東山から安居院のあたりへ行きました時に、四条から上の方の人、みな北を指して走る。「一条室町に鬼がいる。」と大騒ぎしあった。今出川のあたりから見やると、院の語桟敷のあたり、全く通ることができそうにないほど混雑していた。やはり、事実無根の事ではにだろうと、人をつかわして見させると、全く会った者もいない。日が暮れるまでこにょうに大騒ぎして、とうとう喧嘩まで起こって、驚きあきれることどもがあった。

(3) 

 そのころ、みな一様に、二日三日、人が病気になることがありましたことを、「あの鬼の嘘は、この前兆を示すんであった。」と言う人もいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構成

 

 

主題 流言に惑わされる人々

 

* 社会不安がある時、流言は広まる。 例 関東大震災 第一次・第二次オイルショック

 

 

 

 

 

 

(!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)

 

応長

伊勢から京へ

三日間

 

「昨日、西園寺」

   ↓

「今日、院。」

   ↓

「今はどこそこに。」

 

 

そのころ

 

「一条室町。」

 

 

日暮れ

 

そのころ

 

 

 鬼

 

 

鬼見に出歩く。

 

 

言い合う。

 

 

見た人はいない。

否定する人もいない。

 

 

 

 

北へ走る。

混雑。

あった人いない。

喧嘩

 

病気にかかる。

前兆

 

 人々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東山

 ↓

安居院

見渡す

人を見に行かせる。

 

 

 

 

 

 筆者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(14)五十 応長のころ、伊勢国より  解答

一 1 はつか 2 さいおんじ 3 そらごと 4 はべ 5 さじき 6 や 7 とうじょう

二 1 参上する。 2 うそ。 3 大声を上げて騒ぐ。 4 全く。 5 驚きあきれるばかりだ。

  6 みな一様に。 7 前兆。

三 1 人々。 2 鬼。 3 鬼。 4 身分。 5 筆者。 6 筆者。7 冷静。客観的。

  8 病気流行。

四 1 動率る用ワ上一 2 助動べし止推 3 助動り止存 4 助動ず止打 5 助動り止存

  6 さらに副 通り動通る用ラ四 う動う止ア下二 べう助動べし用火可ウ音便 も係

  あら動あり未ラ変 ず助動ず用打 全く通ることが出来そうもないほど。7 助動けり止過

  8 はべり動はべり用ラ変 9助動き体過止