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(12)四十一 五月五日、賀茂のくらべ馬を

語釈

(1)

五月五日、@賀茂のくらべ馬を見はべりしに、車の前に、A雑人立ち1隔てて見えざりしかば、2

 

のおの降りて、B埒のきはに寄りたれど、ことに人多く立ちこみて、分け入りぬ1べきやうもなし。

(2)

かかる折に、向かひ2なるC楝の木に、法師の、登りて、木のまたにDついゐて物見るあり。3取りつきな

 

がらいたう睡りて、落ちぬべきときに目をさますこと、たびたびなり。これを見る人、4あざけりEあさみて

 

A「F世のしれ者かな。かく危ふき枝の上にて、やすき心ありて睡る3らんよ。」と言ふに、我が心にふと思ひ

 

しままに、 B「我らがG生死の到来、ただ今にもやあ4らん。5それを忘れて物見て日を暮らす、6愚かな

 

ることはなほまさりたるものを。」と言ひたれば、前5なる人ども、C「まことにさにこそさうらひけれ。7H

 

もつとも愚かにさうらふ。」と言ひて、皆、8後ろを見かへりて、D「ここへ入らせたまへ。」とて、I所を去

 

りて、9呼び入れはべりにき

(3)

10かほどの理、たれかは思ひよらざ6らんなれども、11J折からの、思ひかけぬ心地して、12胸にあた

 

りけるにや。K人、木石にあらねば、時にとりて、物に感ずることなきにあらず。

 

○良、告 島葡√すい1

 
(注)@賀茂のくらべ馬 陰暦五月五日頃に上賀茂神社の馬場で行われた競馬 A雑人 一般庶民。ここでは群衆。 B埒 馬場の周りの柵。 C楝 せんだんの古名。センダン科の落葉高木。初夏に葉の付け根に多くの薄紫色の小花を付ける。Dついゐて 腰掛けていて。

Eあさみて 軽蔑して。 F世のしれ者 とんでもない愚か者。 G生死 ここでは死のこと。Hもっとも 本当に。 I所を去りて 場所を空けて。J折からの ちょうど折りが折りで。K人、木石にあらねば 『白氏文集』に、「人、木石にあらず、皆情あり。」とある  

 

一 次の1〜9の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

  1 五月五日  2 賀茂   3 雑人  4 埒  5 楝       

 

6 睡りて    7 生死    8 理    9 木石

 

二 次の1〜のごの意味を辞書で調べよ。

 

  1 やすし

 

  2 理

 

三 登場人物を抜き出せ。また、A〜Dの会話が誰の言葉か記し、傍線部1〜12の問に答えよ。

 

1 何と何との間を隔ててか。

 

2 何から「降り」るのか。

 

3 誰が何に。

 

4 何のどういう点についてか。

 

5 指示内容を抜き出せ。

 

6 何が何にくらべてまさっているのか。

 

7 誰のことを言っているか。

 

8 結局どういう場所か。

 

9 誰が誰をどこに。

 

10 具体的に何を指すか、抜き出せ。

 

11 具体的にどういう事実を指しているか。

 

12 誰の胸にか。また、どのようなことに感銘したか。 

 

四 次の文法問題に答えよ。

 

 1 品詞名 基本形 活用形 意味 

 

 2、5 を識別せよ。

 

 3、4、6 を識別せよ。

 

五 口語訳

(1)五月五日に賀茂の競馬を見ましたときに、車の前に群衆が立ち並んで見えなかったので、めいめい車から降りて、柵の側にちかよったけれど、ことに人が多く立ち並んでいて、分け入ることができそうもない。

 (2)そんなときに、(柵の)向こう側にある楝の木に法師が登って木の股にちょっと腰掛けて見物しているのがいる。木の股につかまりながら、大層眠り込んで、落ちてしまいそうなときに目を覚ますということがたびたびあった。これを見ている人が馬鹿にして軽蔑して、「とんでもない愚か者だな。こんな危ない枝の上で安心して眠っていられるものかなあ。」と言うので、私の心にふと思いついたままに、「我々の死がやってくることは今すぐかも知れない。そのことを忘れて(競馬)見物で日を暮らすというのは、愚かな点ではあれ以上であるノのに」と言ったところ、前にいた人たちが、「本当にそのとおりですよ。」と言って、皆後ろを振り返って、「ここへお入りなさい。」といって場所を空けて呼び入れてくれたのでした。

(3)これくらいの道理を誰でも思いつかない筈はないのだが、ちょうど折りが折りで思いがけない気持ちがして、おもいあたったのだろうか。人は木や石ではないから、時によっては物事に感動することがないでもない。 

 

 

 

 

 

 

構成

 

(1)

 

 

(2)

 

 

 

 

(3)

五月五日

賀茂神社

 

楝の木で法師が居眠り

時・場所

群衆立ちこめる

 

 

←「ばか。」

 

「その通り。ここに入りなさい。」    →

見えない 。車から降りる

 

 

←「無情を忘れ競馬見物している我々のほうがばか。」

 

 

この道理は場所が場所だけに思い当たった。

 

 

 

 

 

 

 

作者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 真理には、時に応じて偶然気がつく。

 

 

 

 

(12)四十一 五月五日、賀茂のくらべ馬を   解答

一 1 さつきいつか 2 かも 3 ぞうにん 4 らち 5 おうち 6 ねぶ

  7 しょうじ 8 ことわり 9 ぼくせき

二 1 安心だ。 2 道理

三  法師 競馬見物人

  A 法師を見ている人。 B 作者。  C 作者の前にいる人達 D 作者の前にいる人達

  1 作者の一行とくらべ馬の間。 2 車。 3 法師が木の股に。 

4 木の上の法師の、居眠りをして落ちそうになっていること。 

5 我らが生死の到来、ただ今にもやあらん。 

6 「物見て日を暮らす我らが「危ふき枝の上にて、安き心ありて眠る」法師より 7 「前なる人ども」

8 作者の居る方 9 「前なる人ども」が作者を馬場近くの場所へ。

10 「我ら生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて物見て日を暮らす、愚かなることはなほまさりたるものを。」 11 のんきにくらべ馬を見ているような場合にとっての。

12 比べ馬を見ていた他の人々 雑人 所を去り手呼び入れたひとびと。

四 1 助動 べし体可 2 助動なり体存  5 助動なり体存 3 助動 らむ止現在の推量

  4 動ラ変あり未あら活用語尾+助動む体推 6 助動ず未ざらの一部ざ+助動む体推