(4)
すべてK世の中のありにくく、わが身とすみかとの、はかなく、」Lあだなるさま、またかくのごとし。いはん
や、所により、M身の程に従ひつつ、心を悩ますことは、挙げてかぞふべからず。
(注)@大地震 1185年七月九日正午ごろ起きた。『平家物語』巻十二に記事がある。A海はかたぶきて海には津波がおこって。B足の立處 足の踏み場。C堂舍塔廟 寺の御堂や塔。D龍ならばや 隆であるならば。Eひとひまぜ 一日おき。F四大種 仏教では、地、水、火、風の四種をあらゆる物体を成り立たせる根本のものと考えた。四大とも言う。G齊衡の頃 855年五月二十三日。Hすなはちは その当時は。Iあぢきなき事 この世のつまらないこと。努力する甲斐のないこと。J心の濁りも薄らぐ 欲望に染まった心もあらわれる。K世の中のありにくく 世間の生きにくく。Lあだなる 無駄である。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 大地震 2 渚 3 堂舍塔廟 4 忽ちに 5 間遠になりて 6 四大種 7 濁り
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 地震
2 ふる
3 まろぶ
4 まつたし
5 ひしぐ
6 しく
三 傍線部1〜14と「 」の問いに答えよ。
1 「世の常なら」ぬ様子を具体的に述べているのはどこからどこまでか。
2 「音」にかかる修飾語を記せ。
3 「 」の中で具体的な数字を挙げているのはなぜか。
4 (1)何が何に比べて「如か」ないのか。
(2)「とぞ」の後に補うべき語を記せ。
5 副助詞「だに」は程度の軽いものを挙げて思い内容を類推させる働きを持つ。この場合、軽いものと思いものとはそれぞれ何か。
四 二重傍線部1〜9の品詞名 基本形 活用形 文法的意味に答え、対句を抜き出せ。
五 口語訳
(1)
また、同じころだったろうかはんはだしく大地震が揺れることがあった。その様子は、並大抵のことではない。山は崩れて川を埋め海は斜めになって陸地に押し寄せる。土は避け水がわき出、岩が割れてtに二転がり入る。渚を濃ぐ船は、波に漂い道を歩く馬は、まごついている。都のほとりには、あtこちで寺のお堂や塔が一つとして完全ではない。あるいは崩れ、あるいは倒れる。塵芥がたちのぼり、その盛んな様子に、煙のようだ。地が動き、家が壊れる音は雷と異ならない。家の中にいると忽ち押されつぶされそうになる。走り出すと、地が割れさける。羽がないので空をとぶこともできず、竜でないので雲に乗ることもできない。おそれの中に、おそるべきはただ地位である。
(2)
「このように猛烈にゆれることはしばらくしてやんだがその余波はしばらく絶えない。普通驚くほどの地震は二、三十回揺れない日はない。十日二十日過ぎるとだんだんまどうになって、、」あるいは四五度、二三度もしくは一日おき、二三日に一度など、大体その余震は三月ばかり続いた。
(3)
四大種の中に、水・火・風はいつも害をなすが、大地に至っては特別に異変をおこさない。昔齊衡野ころでは、大きな地震がゆらし、東大寺の仏の首が落ちたなどと大変なことがあったけれど、やはりこのたび及ばないということだ。すなわち、人は皆この世のつまらないことを少し心の濁りも薄らぐと見えたが月日がかさんり年はてのちは、言葉にかけて言いだす人さえいない。
(4)
全て世間の生きにくくわが身と住まいとのはかなく、無駄である様子はまたこのようなものだ。まして、所によって、それぞれの地位、自分に従いつつ心を悩ますことはあげてかぞえることもできない。
構成
(1)
1185年7月9日正午 大地震 恐るべし
山 崩落 川をせき止める。
海 津波
土 水をふく 液状化現象
岩 谷へ
船 漂う
馬 立てない
都 お堂・塔 崩壊
轟音地割れ
(2)
余震 二三十度
三月続く
(3)
859年大地震
大仏の首落下
地震後 元のよう
(4)
自分・住居 頼みがいがない
主題 大地震の恐怖
(4)二 3 大地震 解答
一1 おおない 2 なぎさ 3 どうしゃとうみょう 4 たちま 5 まどお 6 しだいしゅ
7 にご
二 1 地震。 2 大地が揺れる。 3 ころがる。 4 完全である。 5 押されてつぶれる。
6 及ぶ。
三 1 「山崩れて・・・ 地割れ裂く。」 2 地の動く音、家の破るる音 3 現実性をもたせるため。
4 (1)齊衡の頃の地震が今回の地震に比べて。 (2)伝ふ(言ふ。聞く等)
5 軽いもの 言葉に出して言うこと 思いもの その精神を実行すること。
四 1、4、5、6、8、9 助動き過 1 止 4、5、6、8 已 9 体
2、3、7 助動けり過 2 体 3 止 7 已
き 直接体験 けり 間接体験
堂舍 或は崩れ、 地の動き、 家の中に居れば、忽ちにひしげなんとす
塔廟 或は倒れぬ 家の破るゝ 走り出づれば、地割れ
裂く
羽なければ、空をも飛ぶべからず。
龍ならばや、雲にも登らむ