(9)四三 虫は
語釈
蟲は @鈴蟲。A松蟲。促織(はたおり)。B蟋蟀(きりぎりす)。Cはたおり。DわれからEひを蝣。螢。
蓑蟲いとあはれなり。鬼の生みければ、親に1似て、1これもおそろしき心地ぞあらんとて、親2の2Fあ
やしき衣ひき著せて、「G今秋風吹かんをりにぞ3こんずる、侍てよ」といひて4逃げていにけるも知らずH風
の音5聞き知りて、八月ばかりになれば、Iちちよちちよと6はかなげに鳴く、いみじくあはれなり。
J叩頭蟲(ぬかずきむし)また7あはれなり。Kさる心に道心おこして、つきありく3らん。又おもひかけ
ず暗き所などにLほとめきたる、聞きつけたるこそをかしけれ。
蠅4こそにくきもののうちに入れつべけれ。M愛敬なくにくきものは、人々しう書き出づべきもののやうに
あらねど、萬の物にゐ、顏などに8ぬれたる足して居たるなどよ。人の名につきたるは必かたし。
N夏蟲いとをかしく廊のうへ9飛びありく、いとをかし。蟻は5にくけれど、輕びいみじうて、水のうへな
どをただ歩みありくこそをかしけれ。
(注)@鈴蟲 今の松虫。A松蟲 今の鈴虫。B蟋蟀(きりぎりす) 今のこおろぎ。Cはたおり 印猶きりぎりす。Dわれから 海の藻につく小虫。Eひを蝣 かげろう。。Fあやし みすぼらしい。Iちちよちちよ
その泣き声に、幼児が母を呼ぶ声を連想させたのであろう。「父よ」と「乳」とある。J叩頭蟲(ぬかずきむし)米つきバッタ。Kさる そんな虫けらの心にも、信仰心を起こして。Lほとめき ほとほと音を立てる。M愛敬なく これほど可愛げのないものはない。N夏蟲 青蛾で火取虫をさす。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 蝶 2 蓑虫 3 八月 4 道心 5 蠅 6 愛嬌 7 蟻
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 はかなげなり
2 うとまし
3 にくし
三 三つに分類されるうちのどれか。また、傍線部1〜9の問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 事実上何を意味するか。
3 主語を記せ。
4 主語を記せ。
5 主語を記せ。
6 なぜか。
7 蓑蟲も叩頭蟲(ぬかずきむし)も「あはれ」としているが、その相違点は何か。
8 感触としてどんな印象をあたえるか。
9 主語を記せ。
四 二重傍線部1〜5の文法問題に答えよ。
1 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
2 文法的意味
3 品詞名 基本形 活用形 文法的意味
4 結びの語 基本形 活用形
5 品詞名 基本形 活用形 活用の種類
五 口語訳
虫は、鈴虫、ひぐらし、蝶、きりぎりす、はたおり、われから、ひおむし、蛍。
蓑虫は、大層かわいそうだ。鬼が生んだので、親に似てこれも恐ろしい心があるだろうと言って親がみすぼらしい衣を着せて、「間もなく秋風が吹くだろうころには来ようと思う。待っていろ。」と言っておいて、逃げて行ったのも知らないで、風の音を聞き知っていて、八月ごろになると、「ちちよちちよ。」と心細そうな様子でなく。大層かわいそうだ。
ぬかづき虫は、またいじらしい。そんな虫の心にも道心を起こしてお辞儀して回るだろうか。思いがけず暗い所などにほとほとと音を立てるなど面白い。
蠅は、不愉快なもののうちに入れるべきで可愛げのないものだ。人並みに扱って、、相手などにするはずの大きさではないが、秋など、ただいろいろなものにとまり、顔などに濡れ足でとまっているのなどは、人の名についているのは大層いとわしい。
夏虫は、大層可愛くあいらしい。灯近く物語など見ていると髪の上など飛び歩くのは大層面白い。
蟻は、大層憎いけれど、身軽さは、そうとうなもので、水の上などをただどんどん歩くのは面白い。
構成
鈴蟲。松蟲。促織(はたおり)。蟋蟀(きりぎりす)。はたおり。われから。 ひを蝣。螢。
蓑虫 みすぼらしい衣類。「秋に来る。」。八月「ちちよちちよ。」と鳴く。
ぬかづきむし 道心を起こしてつき歩く。
蠅 嫌いなもの。かわいげがない。秋、いろいろな物にとまる。顔に濡れ足でとまる。
人の名につくのは嫌だ。
夏虫 趣深く可愛い。本の上を飛び歩く。
蟻 身軽で水の上を歩く。
主題 虫のいろいろ。
(9)四三 虫は 解答
一 1 せみ 2 みのむし 3 はづき 4 どうしん 5 はえ 6 あいぎょう 7 あり
二 1 心細そうだ。 2 いとわしい。 3 憎らしい。
三 類聚的章段 1 蓑虫 2 蓑虫が枝葉などを使って巣を作って中にいること。 3 蓑虫の親。
4 蓑虫の親。 5 蓑虫。 6 秋になれば帰ってくると言った親が帰って来ないから。
7 蓑虫 かわいそうだ。 ぬかづきむし いじらしい。 8 ひやりとするような気持の悪い感じ。
9 夏虫。
四 1 動似る用ナ上一 2 格主 3 助動らむ止現推 4 けれけり已 5 形にくし已ク活