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 (7)四一 鳥は    

語釈

 

(1)鳥は、@こと所のものなれど、鸚鵡、いとあはれなり。人の言ふ1らむことをまねぶ2らむ

 

よ。ほととぎす。Aくひな。BしぎC。都鳥。Dひわ。Eひたき。

 

 F山鳥、G友を恋ひて鳴くに、鏡を見すれば慰む3らむ、心若う、いとあはれなり。H谷隔てた

 

 

るほどな鷺は、ど、心苦し。鶴は、いとこちたきさまなれど、I鳴く声、曇井まで聞こゆる、いと

 

めでたし。

 

鷺は、いとみめも見苦し。Jまなこゐなども、Kうたてよろづになつかしからねど、「1Lゆるぎ

 

の森にひとりは寝じ。」と争ふらむ、をかし。

 

水鳥、鴛鴦いとあはれなり。かたみにゐかはりて、M羽の上の霜払ふ5らむほどなど。千鳥いと

 

をかし。

 

(注)@こと所  異国。Aくひな  クイナ科の鳥。Bしぎ  シギ科の渡り鳥。C都鳥  カモメ科の鳥。Dひわ  スズメ科の鳥。Eひたき  ヒタキ科の大部分とツグミ科の部との総称。火打ち石を打つ音に似た声で鳴く。F山鳥  キジ科の鳥。G友を恋ひて鳴くに、鏡を見すれば慰む  当時の伝説による。H谷隔てたるほどなど  山鳥は夜、雌雄が別々の峰に寝るという伝説による。I鳴く声、曇井まで聞こゆる  『詩経』に「鶴鳴九  、声聞干天」(小雅)とある。Jまなこゐ  目つき。Kうたて  形容詞「うたてし」の語幹。Lゆるぎの森にひとりは寝じ  「ゆるぎの森」は滋賀県高島郡安曇川町にある。『古今六帖』に「高島やゆるぎの森の鷺すらもひとりは寝じと争ふものを」(巻六)とある。M羽の上の露払ふ  『古今六帖』に「羽の上の露打ち払ふ人もなし鴛鴦のひとり寝けさぞかなしき

」(巻三) 

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      鸚鵡        都鳥        曇井            鴛鴦      千鳥

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      まねぶ

 

      心苦し

 

      こちたし

 

      曇井

 

      めでたし

 

      みめ

 

  *1・2の問いに答えよ。また、傍線部1の問いに答えよ。

 

   *1  ア 類集的章段、イ 日記的章段、ウ 想的章段のうちどれに分類されるか。

 

   また*2 (1)何種の鳥が取り上げられているか。

 

          (2)最も好んだ鳥は何か。

 

          (3)実際に見ていない鳥は何か。

 

      何を「争ふ」のか、漢字一字で答えよ。

 

 

 

 

  二重線部1〜5の文法事項に答えよ。

 

      活用形            文法的意味

 

      活用形            文法的意味

 

      活用形            文法的意味

                                   

      活用形            文法的意味

 

      活用形            文法的意味 

 

 

(2)                                                                    

 鶯は、文などに1、めでたきものに作り、声1よりはじめて、さまかたちも、2ばかりあてに

 

うつくしきほど2よりは、九重の内に鳴かぬぞ、いとわろき。人の「3なむある。」と言ひし

 

を、さしもあらじと4思ひしに、十年ばかり5候ひて聞きしに、まことに4さらに音せざりき。@

 

さるは、竹近き紅梅も、いとよく通ひぬべきたよりなりかし。まかでて聞けば、あやしき家の見ど

 

ころもなき梅の木などには、かしかましきまで5鳴く。7夜鳴かぬも、いぎたなき心地すれど

 

も、今はいかがせむ。夏・秋の末まで老い声に鳴きて、「虫食ひ」など、Aようもあらぬ者は、名

 

をつけかへて言ふ6、口惜しく、Bくすしき心地する。それもただ、雀などのやうに、常にある

 

鳥ならば、8も9おぼゆまじ。春鳴くゆゑ7こそはあらめ 。C年立ち返る」など、をかしきこ

 

とに、10歌にも文にも作るなるは。8なほ春のうちならましかば、いかにをかしからまし。人を

 

も、人げなう、世のおぼえあなづらはしうなりそめにた るをば、そしり9はする。鳶・烏などの

 

上は、見入れ聞き入れなどする人、世になしかし。されば、11いみじかるべきものとなりたれば

 

と思ふに、12心ゆかぬ心地するなり。夜鳴くもの、何も何もめでたし。乳児どものみぞ、さしも

 

なき。

 

(注)@さるは  そうはいうものの。Aようもあらぬ  身分の低い。Bくすしき  奇妙な

C年立ち返る  『拾遺集』に「あらたまの年立ち返るあしたより待たるるものは鶯の声」

(春  素性法師)とある。

 

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。 

 

      九重        候ひて        口惜しく               

 

     

 

  次の語の意味を辞書で調べよ。

 

     

 

      あてなり

 

      うつくし

 

      九重

 

      まかづ

 

      かしかまし

 

      世のおぼえ

 

      そしる

 

  三 傍線部1〜12の問いに答えよ。

 

        何に対して「も」か。

 

        主語。

 

        指示内容。

 

        主語。

 

        誰がどこにいたのか。

 

        主語。

 

        (1)「夜鳴かぬも」とあるが、何に対して「も」か。

 

          (2)「今はいかがせむ。」とあるが、どのような心情を述べたものか。

 

        指示内容。

 

        主語。

 

    10  そうなる理由が本文中にある。その部分を抜き出せ。

 

    11  鶯を「いみじかるべきもの」と思うのはなぜか。理由を二つ延べよ。

 

    12  何について「心ゆかぬ」のか。

 

  二重線部1〜9の文法事項に答えよ。

 

      文法的意味

 

      文法的意味

 

      結びの語            活用形

 

      文法的意味

 

      結びの語            活用形

 

      結びの語            活用形

 

      結びの語            活用形

 

      品詞分解・口語訳

 

      結びの語            活用形

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)祭りのかへさ1見るとて、雲林院・知足院などの前に車を立てたれば、ほととぎすも忍ばぬ

 

に1あらむ、鳴くに、いとよう2まねび似せて、木高き木どもの中に、もろ声に鳴きたる2こそ

 

さすがにをかしけれ。

 

  ほととぎすは、3なほさらに言ふべき方なし。いつしかしたり顔にも聞こえたるに、卯の花・花

 

橘などに宿りをして、はた隠れたるも、ねたげなる心ばへなり。五月雨の短き夜に寝覚めをして、

 

いかで人より先に聞かむと待たれて、夜深くうちいでたる声の、らうらうじう愛敬づきたる、いみ

 

じう心あくがれ、せむ方なし。4六月になりぬれば、音もせずなりぬる、すべて言ふもおろかなり。

 

  夜鳴くもの、何も何もめでたし。3乳児どものみぞ、さしもなき

 

(注)@祭りのかへさ  賀茂の祭りの翌日、斎王が紫野(今の京都市北区)の斎院に帰る行列。陰暦四月の、中の酉の日が祭日。A雲林院・知足院  ともに紫野にあった寺院。B卯の花  ユキノシタ科の落葉低木。『後選集』に、「鳴きわびぬいづちか行むほととぎすなほ卯の花のかげは離れじ」(夏  よみ人知らず)などとある。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      雲林院        知足院        卯の花                五月雨

 

      寝覚め        愛敬          六月          乳児

 

  次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      もろ声

 

      さすがに

 

      はた隠れ

 

      らうらうじう

 

      せむ方なし

 

  傍線部1〜4の問いに答えよ。

 

      主語。

 

      何が何を「まね」るのか。

 

      どの部分を受けるか。

 

      このほととぎすについての記述は、前の鶯のどの記述と対応しているか。

 

  二重線部1〜3の文法事項に答えよ。

 

      結びの語          活用形

 

      結びの語          活用形

 

      品詞分解

 

 

五 口語訳

(1)

鳥は異国の物だけれど、鸚鵡は大層しみじみと趣深い。人が言うようなことをまねするとかいうそうだ。ほととぎす、きな、しぎ、都鳥、ひわ、ひたき。

 山鳥は、友をしたって鳴くが、鏡を見せると慰むようだ。純情に大層しみじみ赴き深い。谷をへだてて寝ているのなど気の毒だ。鶴は大層仰山であるさまであるが、鳴く声は天まで聞こえるのは大層いすばらしい。

 鷺は大層見た目も見苦しい。目つきなども、異様で親しみがもてない。「ゆるぎの森に一人は寝ない。」と争うとか言うのもおもしろい。

水鳥鴛鴦大層しみじみと趣深い。互いにいる所を変わって、羽の上の露を払うことなど。千鳥は大層赴き深い。

(2)

 鶯は漢詩などにもすばらしい物に作り、声から始めて姿格好もそれほど上品でかわいらしいいほどよりは、宮中で鳴かないのがひどく気にくわない。人が、「そうなんだった。」と言ったのをそうでもあるまいと思っていたのに、十年ばかり伺候して聞いたが本当に全く音がしなかっった。そうはいうものの、竹に近い紅梅も大層よく火曜足がかりだ。退出して、聞くと賤しい家の見所もない梅の木などには、やかましいほど鳴く。夜鳴かないのも寝坊である持ちがするが、いまはどうしようか。夏、秋の末まで老いた声で鳴いて、「虫食い」などと身分の低い者は名を付け替えて言うが残念で奇妙な気持ちがする。それもただ雀などのようにいつもいる鳥であるならば、そうも思うまい。春鳴くせいだからであろう。「年立ち返る。」など、趣深いことに、歌にも漢詩にも作るのであるのは、やはり春のうちであったならば、どんないかすばらしかろう。人をも、一人前でなく、世人の評判を侮ってなりそめたのを、悪く言おうか(いやいわない)。鳶、烏などのことは、気づいて見る、心をこめて聞く人など世にないなあ。だからすばらしい鳥と決まっていたならば、と見ると満足しない気持ちがする。

(3)

 祭りの翌日帰る行列を見ると言って、雲林院、知足院あどの前に車を立てたところ、ほととぎすも鳴かないではいられず、鳴くと大層よくまねをしてにせて小高い木どもの中に元々鳴いていたのこそ、そうはいうものおやはり趣深い。ほととぎすはなおさらいうことができない。いつんまにか自信に満ちた鳴き声に聞こえたのに、卯の花、花橘などに寝て、半分隠れたのも心憎い趣だ。五月雨の短い夜に、眠りが覚めることをして、どうしても人より先に聞こうと待たれて、夜深く鳴いた声がたくみでかわいらしく大層上の空になるのはどうしようもない。六月になってしまえば音もしなくんある。すべて言うも愚かだ。

 夜鳴くもの何も何もすばらしい。乳児どもが、泣くのはそうでもない。

 

構成

 夜鳴くのはみなすばらしいが、赤子の泣くのはそうでもない。

(1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

(3)

鸚鵡

ほととぎす

山鳥

 

 

鴛鴦

千鳥

 

 

 

 

 

 

 

 

ほととぎす

鳥の名

人まね

くいな しぎ 都鳥 ひわ ひたき

 

鏡で慰む

別々に寝る

声が天まで届く

見た目

牝を争う

互いに霜を払う

 

 

歌 漢詩文

声 姿いい

宮中で鳴かない

賤しい家で鳴く

夜鳴かない

夏秋まで鳴く

春の鳥だから評価が高い

 

うぐいすと合唱

(うぐいすより)

 

卯の花 橘

五月雨

六月 鳴かない

特色

あはれ

 

 

あはれ

心苦し

めでたし

見苦し

をかし

あはれ

をかし

 

 

 

わろし

 

いぎたなし

口惜しくくすしき

 

をかし

いふべきかたなし

ねたげなる

せむかたなし

言ふもおろかなり

感想

 

 主題 おもしろい鳥

 

 *物の見方感じ方の特色

   1 詩歌、故事、伝聞に依拠(×実感的)

   2 人間に引き寄せ人間を投影(×自然物として見る)

   3 小さい物に共感 4 うぐいすに批判的 5 ホトトギスを最上

  

 

 

 

 

(7)四一 鳥は   解答

(1)

一 1おうむ 2 みやこどり 3 くもい 4 さぎ 5 おし 6 ちどり

二 1 まねをする。 2 気の毒だ。 3 仰山である。 4 天空。 5 すばらしい。

6 見た目。    

三 *1 ア 2 (1)16 (2)ほととぎす (3)鸚鵡 山鳥 鴛鴦

1 雌 

四 1 連体形 婉曲 テイル ヨウナ 2 連体形 伝聞 トカイウ ソウダ

3 4 5 連体形 伝聞 トカイウ ソウダ

 

(2)

一 1 ここのえ 2 さぶら 3 くちお 4 すずめ 5 とび 6 からす

二 1 漢詩 2 上品だ。 3 かわいらしい。4 宮中。 5 退出する。 6 やかましい。

7 世の評判。 8 悪く言うこと。

三 1 和歌。 2 鶯。 3 鶯が宮中で鳴かないこと4 作者。 5 作者が宮中に。

6 鶯。 7 (1)「九重のうちに鳴かぬ」 (2)残念で仕方ないという心情。

8 「口惜しくくすしき心地」9 作者 10「春鳴くゆゑにこそはあらめ」

11 声や容姿が上品でかわいらしいから。春になく鳥となっているから。

12 鶯が夏・秋まで鳴きつづけること。

四 1 格助 時間・場所の起点 2格助 比較の基準 3 ある あり 体 

4 さらに+打=全然・・・ない 5 鳴く 鳴く 体 6 心地する 心地す 体

7 め む 已 9 する す 体

8 なほ 副 春 名 の 格助 連体修飾格 うち 名 なら 助動 断 なり 未

ましか 助動 反実 まし 未 ば 接助 順接仮定 いかに 副 

をかしから 形 をかし 未 まし 助動 反実 まし 体

やはり春のうちだったらどんなにかすばらしかろう

(3)

一1 うりんいん 2 ちそくいん 3 うのはな 4 たいばな 5 さみだれ

6 ねざ 7 あいぎょう 8 みなづき 9 ちご

二 1 もろともに鳴くこと。 2 そうはいうものの。 3 半分隠れる。

4 たくみだ。 5 どうしようもない。

三 1 作者達 2 鶯がほととぎすの声を。 3 「さすがにをかしけれ」 

4 「春、秋の末まで老い声に鳴く」 鶯の比べほととぎすをほめている。

四 1 む む 体 2 をかしけれ そかし 已

  3 乳児ども 名 のみ 副助 限定 ぞ 係助 強意 し 副助 強意

も 係助 強意 なき 形 ク活 体 乳児どもが鳴くのはそうでもない。