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(6)三七 木の花は

語釈

                                               

(1)  木の花は、濃きも薄きも紅梅。桜は、1花びら大きに、2葉の色濃きが、枝細くて咲きたる。

 

藤の花は、@しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし。

 

(2)四月のつごもり、五月のついたちのころほひ、橘の葉の濃く青きに、花のいと白う咲きたる

 

が、雨うち降りたるつとめてなどは、世になう心あるさまにをかし。3花の中より、4こがねの玉

 

かと見えて、いみじうあざやかに見えたるなど、朝露にぬれたるあさぼらけの桜劣らず。Aほとと

 

ぎすのよすがと5さへ思へばにや、なほ1さらに言ふべうもあらず

 

(2)  梨の花、よにすさまじきものにして、近うもてなさず、Bはかなき文つけなど7だにせず。

 

愛敬おくれたる人の顔などを見ては、たとひに言ふも、げに、葉の色よりはじめて、あはひなく見

 

ゆるを、唐土には限りなきものにて、文にも作る、なほ8さりともやうあらむと、せめて見れば、

 

花びらの端に、をかしきにほひこそ、心もとなうつきためれ。楊貴妃の、帝の御使ひに会ひて、泣

 

きける顔に似せて、「梨花一枝、春、雨を帯びたり。」など言ひたるは、9おぼろけならじと思ふ

 

に、なほいみじうめでたきことは、たぐひあらじとおぼえたり。

                                                                 

(3)  桐の木の花、紫に咲きたるは、なほをかしきに、葉の広ごりざま2、うたてこちたけれど、

 

異木どもとひとしう言ふ3べきにもあらず。唐土にことごとしき名つきたる鳥の、えりて10これ

 

にのみゐるらむ、いみじう心ことなり。まいて琴に作りて、さまざまなる音の出で来るなどは、を

 

かしなど世の常に言ふ4べくやはある。いみじうこそめでたけれ。                                                                         

(4)  木のさまにくげなれど、楝の花、いとをかし。かれがれに、さまことに咲きて、必ず11

 

月五日にあふも、をかし

 

 

(注)@しなひ長く  花房が長く垂れ下って。Aほととぎすのよすが  ほとぎすが好んで橘に宿ることを詠んだ歌が『万葉集』以降多く見える。Bはかなき文つけなどだにせず当時、手紙を木や草につけて贈る風習があった。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

                        愛敬          唐土        楊貴妃

 

      梨花                            五月

 

二次の1〜9の語の意味を辞書で調べよ。

 

      めでたし                    

 

  よすが

 

      よに                         

 

  すさまじ

 

      愛敬                        

 

   心もとなし

 

      うたて                      

 

  こちたし

 

      心ことなり

 

三 *1・2と傍線部1〜11の問いに答えよ。

 

    *内容の上で三つに分類されるうちのどれか。

 

    *取り上げた木の花はいくつか。

 

      どの語と照応しているか。

 

      述語を記せ。

 

      どこにかかるか。

 

      何がか。

 

      何の上に何が添え加わるのか。

 

      (1)日本人はどう見ているか。また、その理由はなぜか。ともに文中の言葉を使って答えよ。

 

        (2)中国ではどう思われているか。また、その理由はどういう点にあるらしいといっているか。ともに文中の言葉を使って答えよ。

 

      文意に添って説明せよ。   

 

  何を受けているか。

 

      だれが何に対してどう感じているというのか。分かりやすく説明せよ。

 

    10  指示内容を記せ。

 

    11  「楝の花」がどうして「五月五日」に「あふ」のが「をかし」いのか。

 

        1〜3の文法事項に答えよ。

 

      品詞分解。口語訳

 

      結びの語 基本形 活用形

 

    3、4  品詞 基本形 活用形 意味

 

五 口語訳

(1)木の花は濃いのも薄いのも紅梅がいい。桜は花びらが大きく葉の色が濃いのが細い枝に咲いているのがいい。藤の花は花房が長く色濃く咲いているのが大層すばらしい。

 

(2)四月の晦日、五月の一日の頃橘の葉の濃く青いのに、花が大層白く咲いているのが、雨が降った翌日などは、世にある物とも思えず、趣深い。花の中から黄金の玉かと見えて、大層鮮やかに見えているおなど、朝露に濡れている明け方の桜に劣らない。ほととぎすと縁があると思えば、やはり全く言う必要もない。

 

(3)梨の花は、実に興ざめな物として近くもてなさなく、ちょっとした手紙をつけることさえしない。かわいらしさのない人の顔などを見ては、たとえに言っても、まことに葉の色から始めてつまらなく見えるのに、中国ではこの上ない物として、、漢詩にも作る。やはりそういうこともあるのだろうと無理に見ると、花びらの端に趣深い色合いがぼんやりとついているようだ。楊貴妃が帝の使いに会って泣いた顔をたとえて、「梨花一枝、春雨を帯びたり。」などと言ったのは、並一通りではないと思うのに、やはりひどく立派なことは他に例がないと思われた。

 

(4)桐の木の花、紫に咲いているのは、やはり趣深いのに葉の広がりざまがひどく大げさだが他の木と同等に言うことができものでもない。中国でものものしい名のついている鳥が選んでこれにだけいるというのは、ひどく格別である。まして、琴に作っていろいろな音が出てくるのなどは趣深いなどと世間一般にいうことができようか、ひどくめでたいことだ。

 

(5)木の様子はにくいが、楝の花は大層趣深い。枯れたような感じで咲いて、必ず五月五日に咲き合うのも趣深い。

 

構成

 

 

(3)

 

 

 

 

 

(4)

 

 

 

 

(5)

(1)

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅梅

 

 

 

木の名

 

 

花びらの端の色つや

楊貴妃のたとえ(長恨歌)

 

紫色

鳳凰が止まる

琴の材料

 

枯れ枯れに咲く紫色

端午の節句に咲く

 

紅色

花びら大 葉の色濃い 細い枝

花房長く濃い紫

 

濃い緑色の葉 白い花 五月雨 黄色の実

ホトトギスとの取り合わせ(『万葉集』『古今集』)

 

特色

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 木の花の鑑賞  色 白 紅 紫 黄 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(6)三七 木の花は  解答

一 1 たちばな 2 なし 3 あいぎょう 4 もろこし 5 ようきひ

6 りか 7 きり 8 おうち 9 さつき

二 1 すばらしい 2 ゆかり 3 実に 4 興ざめだ 5 かわいらしさ

6 はっきりしない 7 ひどく 8 仰山である 9 趣が格別である 

三 *1 類従的笑談 2 七つ 1 枝ほそくて 2 咲きたる 3 見えたる 

4 橘の実 

5 さへ 副助 添加 橘の美しさの上に「ほととぎすのよすが」が添え加わる

6 (1)どう見ているか 「よにすさまじきもの」 理由 「葉の色よりははじめてあはひなく実ゆる」(2)中国 「限りなきもの」 理由 「花びらの端にをかしきにほひこそ心もとなうつきためれ」

7 だに 副助 軽い物(「はかなき文つけ」)をあげて重い物(大切な手紙)を推測させる 8 「あはれなく見ゆる」9 白楽天が梨の花に寄せる関心は並大抵のもおではあるまい 10 桐の木 11 「あふ」に「さふち」と「合ふ」とをかけて五月五日に咲き合うのは「あふち」という名の通りである。

四 1 さらに 副

    言ふ  動ハ四言ふ止

    べう  助動べし用べくのウ音便

    も   係

    あら  動ラ変あり未

    ず   助動打ず止

    全く言う必要もない

  

  2 「こちたい」お体「こちたき」になるはずだが、接助「ど」を解して、下に続いたため結びが流れた。

 

  3 べき 助動べし体当然 4 助動べし用可能