(5)二八 にくきもの
語釈
にくきもの。急ぐことある折に来て長言するまらうと。1@あなづりやすき人ならば、「2後に。」とても1や
りつべけれど、3心恥づかしき人、いとにくくむつかし。
硯に髪の入りてすてられたる。また、墨の中に、石のきしきしときしみ鳴りたる。
ものうらやまみし、4身の上嘆き、人の上言ひ、A露塵のこともゆかしがり、2B聞かまほしうて、言ひ知ら
せぬをば怨じ、そしり、また、わづかに聞き得たることをば、われもとより知りたることのやうに、異人にも
C語り調ぶるも、いとにくし。
ねぶたしと思ひて臥すしたるに、蚊の5細声にわびしげに名のりて、顔のほどにD6飛びありく。羽風7さ
へ8その9身のほどにある3こそ、いとにくけれ。
また、物語するに、Eさし出でして、われひとりFさいまくる者。すべてさし出では、童も大人も、いとに
くし。
(注)@あなづりやすき人 軽く見てもよい人。A露塵のこと ほんのちょっとしたこと。B聞かまほしうて 聞きたがって。C語り調ぶる 調子づいて語る。D飛びありく。 飛びまわる。Eさし出でして でしゃばって。Fさいまくる さきばしる。話の先回りをする。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 長言 2 硯 3 入りて 4 墨 5 露塵
6 怨じ 7 異人 8 童 9 細声 10 羽風
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 長言
2 まらうど
3 むつかし
4 にくし
5 異人
6 怨ず
三 *1・2と傍線部1〜10の問いに答えよ。
*1内容の上で三つに分類されるうちのどれか。
ア 類聚的章段 イ 日記回想的章段 ウ 随想的章段
*2作者がここに取り上げた「にくきもの」はいくつあるか。
1 対照的な語句を抜き出せ。
2 この後に語を補え。
3 どのような人か。
4 誰の「身の上」を嘆くのか。
5 (1)どういうことか。
(2)修辞法を記せ。
6 主語を記せ。
7 「さへ」は添加の副助詞である。何に何を加えたか。
8 指示胃内容を記せ。
9 意味を記せ。
四 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 品詞分解 口語訳
2 品詞分解 口語訳
3 結びの語 基本形
五 口語訳
不快なもの。急ぐことがある時に来て、長話をする客。軽く見てもよい人ならば、「後で(またおいでください)。」と言っても追い返すことができるだろうが、こちらが恥ずかしくほど立派な人は、たいそう不快でやっかいだ。
硯に髪が入ってすられていること。また、墨の中に、石があってきしきしときしんで音が鳴っていること。
何かにつけて人をうらやましがり。自分の身の上を嘆き、他人の噂をし、ほんのちょっとしたことも知りたがり、聞きたがって、言って知らせないことをうらみ、非難し、また、ちょっと耳に入ったことを、自分がもとから知っていることのように、別の人にも調子づいて語るのも、たいそう不快だ。
眠たいと思って横になっているときに、蚊がかすかな声でさびしそうに音を立てて、顔のあたりに飛び回ること。羽風までがその身に応じてあるのは、たいそう不快だ。
また、世間話などしている時に、でしゃばって、自分一人で話の先回りをする人。大体でしゃばりは、子供でも大人でもたいそう不快だ。
構成
不快なもの 理由
1 忙しいときに来て話し込む人 用事が果たせない
2 墨をするとき髪が入っていること。 きしむ音
また、石が入っていて音を立てること
3 他人をうらやみ人の噂をしたりする人 自己中心的 知ったかぶり
4 睡眠を邪魔する蚊 蚊のくせに生意気
5 でしゃばってしゃべる人 でしゃばり
主題 不快なもの 人間に対する方が不快な感じが強い。
(5)二八 にくきもの 解答
一 1 ながごと 2 すずり 3 い 4 すみ 5 つゆちり 6 えん
7 ことひと 8 わらわ 9 ほそごえ 10 はかぜ
二 1 長話。 2 客。 3 うっとうしい。 4 気に入らない。
5 他の人。別の日と。 6 うらむ。
三 *1 ア *2 五 1 心恥ずかしき人 2 またおいでください
3 こちらが気恥ずかしく感じるような人 4 自分
5 (1)蚊
がかすかに音を立てて飛んでくること。 (2)擬人法 6 蚊 7 何に 細声 何を 羽風 8 蚊
9 身体の大きさ