(27)五月ばかりなどに山里にありく(第二百二十三段)
語釈
1 2 @ A
五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし。草葉も水もいと青く見えわたりたるに、上
3 B 4 C
はつれなくて草生ひ茂りたるを、ながながとただざまに行けば、下はえならざりける水の、
5
深くはあらねど、人などの歩むにはしりあがりたる、いとをかし。
D
左右にある垣にある、ものの枝などの、車の屋形などにさし入るを、急ぎてとらへて折ら
E 6
むとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いと口惜しけれ。
F G 7
蓬の、車に押しひしがれたりけるが、輪のまはりたるに、近ううちかかへたるもをかし。
(注)@見えわたりたるに 一面に見えているが。A上はつれなくて 上はさりげない様子で。
下に水があるという様子もなく。『拾遺和歌集』に「あしねはふ泥土(うき)は上こそつれなけれ下はえならず思ふ心を」(よみひとしらず)とある。Bただざまに まっすぐに。Cえならざりける水 何ともいいようもないような(清らかな)水。D車の屋形 牛車の人が乗る部分。Eふと過ぎてはづれたるこそ すっと牛車が通り過ぎて手からはずれてしまったのは。F押しひしがれたりけるが 押しつぶされたのが。G近ううちかかへたる 鼻先に香りが漂ってくるのも。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 五月 2 生ひ茂り 3 垣 4 屋形 5 蓬
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 ありく
2 つれなし
3 ただざまなり
4 口惜し
5 ひしぐ
三 *と傍線部1〜7の問に答えよ。
*内容の上で三つに分類されるうちのどれか。
ア 類聚的章段 イ 日記回想的章段 ウ 随想的章段
1 交通手段を記せ。
2 「いとおかし」としながらも6「いと口惜しけれ」とあるのはなぜか。
3「上」と4「下」は何の上と下か。
5 誰のことか。 ア 筆者 イ 車添いの人 ウ 女房 エ 農夫
7 主語を記せ。
四 口語訳
5月の頃などに山里であちらこちら乗り回すのは、たいそう趣深い。草の葉も(それをひたしている)水もたいそう青く一面に見えているが、上はさりげないよう様子で草が生い茂っているところを、長くまっすぐに行けば下は何とも言いようのない水が、深くはないが、人が歩くにつけて水しぶきがはねあがったのは、たいそう趣き深い。
左右にある垣根にある、何かの枝が車の屋形などに入り込んでくるのを、急いでつかまえておろうとするが、すっと牛車が通り過ぎて手から外れてしまったのは、たいそう残念だ。
蓬が、車に押しつぶされたのが、車輪の回るにつれて、鼻先に香りが漂ってくるのも趣き深い
五 構成
五月 山里 |
時 場所 |
牛車で郊外散策 草の下の水が跳ね上がる 車に入って来る枝 車輪に押しつぶされる蓬の香り |
様相 |
視覚 触覚 嗅覚 |
五官 |
主題 五月の新緑の爽快さ
(例)初夏の遠足・ドライブ。ハイキング
(27)五月ばかりなどに山里にありく(第二百二十三段) 解答
一1さつき 2 お しげ 3 かき 4やかた 5 よもぎ
二 1あちこち移動する。 2 さりげない 3 まっすぐだ 4 残念だ
5 おしつぶされる
三 *ウ
1 牛車 2 6この場合は風流新の発現だから。
3 上―草葉の表面は水をたたえているとも思われないから。
4下―草葉の下には水がある。
5 イ 7 蓬の香り