(25)一八四 宮にはじめて参りたるころ
語釈
(1)
@
宮にはじめて1参りたるころ、もののはづかしきことの数知らず、涙も2落ちぬべければ、夜
々参りて、三尺の御几帳の後ろに候ふに、絵など取り出でて見せさせ給ふを、3A手にてもえさ
し出づまじう、2わりなし。3「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」などのたまはす。
B高坏に4参らせたる御殿油なれば、髪の筋なども、なかなか昼よりもC顕証に見えてまばゆけ
れど、念じて見などす。いとつめたきころなれば、さし出で5させ6給へる御手のはつかに見ゆ
るが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたしと、D見知らぬ里人心地には、かか
る人こそは世に7おはしましけれと、4おどろかるるまでぞ、まもり参らする。
(注)@宮 一条天皇中宮定子(976〜1000、藤原道隆の娘)の御所。A手にてもえさし出づまじう 手を差し出すこともできないくらいに。B高坏 一本足のついた丸または角の食台。逆さに立てて灯明皿を置き、照明具にもした。光源が低いので近くが明るくなる。C顕証に あらわではっきりと。D見知らぬ 宮中を見知っていない。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 几帳 2 高坏 3 御殿油 4 顕証 5 里人
二 次の1〜3の語の意味を辞書で調べよ。
1はづかし
2 わりなし
3 念ず
4 里人
三 傍線部1〜4の問いに答えよ。
1 なぜか。
2 どのような心理を表す言葉か。
3 (1)「とあり、かかり。」とは、どういう意味か。十二字以内で答えよ。
(2)「それが」「かれが」とあるが、次にどのような言葉が省略されているか。五字 以内の口語で答えよ。
(3)「・・・などのたまはす。」とあるが、中宮が「これは、とあり、かかり。それ が、かれが。」とおっしゃったのは、どのような気持ちからか。
4 どういう意味か。
四 二重線部 1〜7の文法事項に答えよ。
2,3 品詞分解 口語訳
1、4、5,6、7の敬語表現について次の表を埋めよ。
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注意 |
7 |
6 |
5 |
4 |
1 |
番号 |
おはしまし |
給へ |
させ |
参らせ |
参り |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
(2) 暁にはとく下りなむといそが1るる。1「葛城の神もしばし。」など仰せら2るるを、
いかでは筋かひ御覧ぜられむとて、なほ伏したれば、御格子も参らず。女官ども3参りて、「こ
れ、放たせ給へ。」など言ふを聞きて、女房の放つを、2「まな。」と仰せらるれば、笑ひて帰
りぬ。ものなど問は4せ5給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれば、「下りまほしうなりにた
らむ。3さらば、はや。夜さりは、とく。」と仰せらる。ゐざり隠6るるや遅きと、4上げちら
したるに、雪降りにけり。登花殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし。
5
(3) 昼つ方、「今日は、なほ参れ。5雪に曇りてあらはにもあるまじ。」など、たびたび7
召せば、この局のあるじも、「見苦し。さのみやは籠りたらむとする。6あへなきまで御前許さ
れたるは、7さおぼしめすやうこそあらめ。思ふにたがふはにくきものぞ。」と、ただいそがし
に出だしたつれば、あれにもあらぬ心地すれど8参るぞ、いと苦しき。8火焼屋の上に降り積み
たるも、めづらしう、をかし。
(注)@下りなむ 私室に退出してしまおう。A葛城の神 葛城山に住む一言主の神。役の行者
の命令で橋をけるのに、醜い容貌を恥じて夜だけ働いたという伝説がある。葛城山は今の奈良県
西部と大阪府東西部の境にある山。Bいかでかは筋かひ御覧ぜられむ どうして斜めにでも顔を
ご覧に入れることができようか。C女官 女房より身分の低い女官。Dまな だめです。禁止の
言葉。E登花殿 後宮七殿の一つ。「御前」はその前庭。F立蔀 格子の裏に板を張った蔀を、
庭などに立て、仕切とした物。G局のあるじ 局の主である女房。新参女房は古参女房の局に同
居する。H御前許されたるは 中宮の御前へのお目通りが許されたのは。I火焼く屋 かがり火
をたいて御所の警護をする兵士の詰め所。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 暁 2 葛城 3 女房 4 立蔀 5 局
6 籠る
7 召す 8 火焼屋
二 次の1〜3の語の意味を辞書で調べよ。
1 ざる
2 あへなし
3 にくし
三 傍線部1〜8の問いに答えよ。
1 中宮が作者を「葛城の神」と言ったのはなぜか。三十字以内で答えよ。
2 (1)「まな」とあるが、どのよな場合に用いる言葉か。漢字二字で答えよ。
(2)またこれらは中宮のどのような気持ちを表した言葉か。
3 どういう意味か。
4 何をどうするのか。
5 何が「あらはにもあるまじ」というのか。十字以内で簡潔に答えよ。
6 中宮のどういう気持ちを表し散るか。
7 (1)「さ」はどういうことを指しているか。二十字以内で答えよ。
(2)「やうこそあらめ」とはどういう意味か。十字以内で答えよ。
8 どこと対応するか。抜き出せ。
四 二重線部1〜8の文法事項に答えよ。
1・2・6の「るる」の違いを説明せよ。
3、4、5、7、8の敬語表現について、次の表を埋めよ。
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注意 |
8 |
7 |
5 |
4 |
3 |
番号 |
参る |
召せ |
給ひ |
せ |
参り |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
(4)大納言殿の参り給へるなりけり。御直衣、指貫の紫の色、雪に映えていみじうをかし。柱
もとにゐ給ひて、「昨日今日、物忌みに侍りつれど、雪のいたく降り1侍りつれば、1おぼつか
なさになむ。」と申し給ふ。「道もなしと思ひつるに、いかで。」とぞ御いらへある。うち笑ひ
給ひて、「あはれともや御覧ずるとて。」などのたまふ、御ありさまども、2これより何事かは
まさらむ。3物語にいみじう口にまかせて言ひたるに、たがはざめりとおぼゆ。
(5)宮は、白き御衣どもに、紅の唐綾をぞ上に2奉りたる。御髪のかからせ給へるなど、4絵
にかきたるをこそ、かかることは見しに、うつつにはまだ知らぬを、夢の心地ぞする。女房と5
もの言ひ、たはぶれごとなどし給ふ。御いらへを、6いささかはづかしとも思ひたらず聞こえ返
し、そらごとなどのたまふは、あらがひ論じなど聞こゆるは、目もあやに、あさましきまで、あ
いなう、おもてぞあかむや。御くだもの3参りなど、とりはやして、御前にも4参らせ5給ふ。
(注)@大納言殿 藤原伊周(974〜1010)。道隆の子。中宮の兄。992年権大納言
。A直衣 貴族の平服。宮中では天皇の許可のある人に限って着用する。B指貫 裾を糸でく
くり、ふくらませて履く袴。C道もなし 拾遺集 の「山里は雪降り積みて道もなし今日来
む人をあはれとは見む」(冬 平兼森)による。Dあはれともや Cと同じ歌による返事。E
唐綾中国渡来の綾織物。Fとりはやして 座をとりもって。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 直衣 2 指貫 3 物忌み 4 御衣 5 唐綾
6 奉る
7 御髪
二 次の語の1〜5の語の意味を辞書で調べよ。
1 物忌み
2 いらへ
3 そらごと
4 あさまし
5 あいなし
三 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1 次にどのような言葉が省略されているか。敬語と係り結びに注意して六字の文語で答え よ。
2 作者は何に感動しているのか。
3・4 ここではどういう性格のものと考えられているか。
5 主語は誰か。
6 この女房たちの様子と際だった「はづかし」の用例はどこにあったか。
四 二重線部1〜5の敬語について次の表を埋めよ。
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注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ふ |
奉らせ |
参り |
奉り |
侍り |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
(6) 「御帳の後ろなるは、たれぞ。」と問ひ給ふなるべし。さかすにこそはあらめ、立ちて
1おはするを、1なほほかへにやと思ふに、いと近うゐ2給ひて、ものなどのたまふ。まだ3参
らざりしより聞きおき給ひけることなど、「まことにや、さありし。」などのたまふに、御几帳
隔てて、よそに見やり奉りつる2だにはづかしかりつるに、いとあさましう、さし向かひ聞こえ
たる心地、うつつともおぼえず。行幸など見る折、車の方にいささかも見おこせ給へば、下簾ひ
きふたぎて、透影もやと3扇をさし隠すに、なほいとわが心ながらも、おほけなく、いかで立ち
出でしにかと、汗あえて4いみじきには、何事をかはいらへも4聞こえむ。
(7) かしこき陰とささげたる扇をさへ取り給へるに、ふりかくべき髪のおぼえさへあやしか
らむと思ふに、5すべて、さるけしきもこそは見ゆらめ。とく立ち給はなむと思へど、6扇を手
まさぐりにして、7絵のこと、「誰がかかせたるぞ。」など5のたまひて、とみにも給はねば、袖
をおしあててうつぶしゐたるも、唐衣に白いものうつりて、まだらならむかし。
(注)@さかす 興味をそそる。A参らざりしより 清少納言の出仕前から。B車の方に 清
少納言の乗っている牛車のほうへ。C下簾 牛車の簾の内側に垂らす布。D扇をさし隠す 扇で
顔を隠す。E 汗あえて 汗が流れ出て。Fかしこき陰 頼みにしている隠れ場所。Gふりかく
べき髪のおぼえさせ 髪をふりかけて、(扇のかわりに)顔を隠してよいはずのところだが、そ
の額髪の具合までが。H唐衣 貴婦人の正装。I白いもの おしろい。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 御帳 2 几帳 3 下簾 4 行幸 5 透影 6 唐衣
二 次の1・2の語の意味を辞書で調べよ。
1 透影
2 おほけなし
三 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1 「ほかへ」「にや」の次にどのような言葉が省略されているか。それぞれ四字以 内の文語で答えよ。
2 「だに」によって類推されている内容は何か。
3 この後どうなるか。
4 具体的にはどんな気持ちか。
5 (1)「さるけしき」とあるが、具体的にはどのような様子か。二十字以内で簡潔に説 明せよ。
(2)「もこそ」とあるが、どのような心情を表しているか。
(3)「とく立ち給はなむ」とあるが、どういう意味か。十五字以内で説明せよ。
6 誰の「扇」か。
7 何の「絵」か。
四 二重線部1〜5の敬語について次の表を埋めよ。
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|
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
のたまひ |
聞こえ |
参ら |
給ひ |
おはする |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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|
誰を |
(8) 久しくゐ給へるを、1心なう、苦しと思ひたらむと心得させ給へるにや、「これ見給へ。
これはたが手ぞ。」と1聞こえさせ給ふを、「給はりて見侍らむ。」と申し給ふを、「2なほ、
ここへ。」とのたまはす。「人をとらへて立て侍らぬなり。」とのたまふも、いといまめかしく、
身のほどにあはず、かたはらいたし。人の草仮名書きたる草子など、取り出でて御覧ず。「3た
れがにかあらむ。かれに見せさせ給へ。それぞ、世にある人の手はみな見知りて侍らむ。」など、
ただいらへさせむと、あやしきことどもをのたまふ。
(9) ひとところだにあるに、また前駆うち追はせて、同じ直衣の人2参り給ひて、これはい
ま少しはなやぎ、猿楽言などし給ふを、4笑ひ興じ、5我も「なにがしが、とあること。」など、
殿上人のうへなど申し給ふを聞くは、なほ、変化の者、天人などの下り来たるにやとおぼえしを、
候ひ慣れ、日ごろ過ぐれば、いとさしもあらぬわざにこそはありけれ。かく見る人々も、みな6
家のうち出でそめけむほどは、7さこそはおぼえけめなど、観じもてゆくに、おのづから面慣れ
ぬべし。
(注)@人をとらへて 清少納言がわたし(伊周)をとらえて。伊周のじょうだん。A身のほど
にあはず わたしの年齢にはふさわしくなくて。B草仮名 草書体で書いた万葉仮名。Cかれ
清少納言をさす。D唐衣の人 ここでは、藤原道隆(953〜995)。中宮の父。伊周の弟
の隆家とする説もある。E猿楽言 冗談。Fなにがし
だれそれ。具体的な名前をぼかした書き方。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 侍り 2 草仮名 3 草子 4 前駆 5 猿楽言 6
変化
7 面慣る
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 いまめかし
2 かたはらいたし
3 面慣る
三 傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 (1)「心なう、苦しと思ひたらむ」とはどういう意味か。
(2)「心得させ給へるにや」とあるが、誰が「心得」たのか。
2 定子のどのような気持ちがうかがわれるか。
3 どういう単語をどこに補えばわかりやすくなるか。
4 主語をしるせ。
5 誰を指すか。
6 どういうことか。
7 指示内容を記せ。
四 二重線部1〜5の敬語について次の表を埋めよ。
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|
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ひ |
参り |
給ふ |
させ |
聞こえ |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
五 口語訳
(1)
定子の御所に始めて参上したころ、もおの気が引けることは数多くあり、涙が落ちてしまいそうなので毎夜参上して三尺の御几帳の後に控えていると、絵など取り出して見せなさるが、手を差し出すことも出来ないくらいに、耐え難い。「これは、こうなのよ。ああなのよ。その、かえって昼間よりもあらわではっきり見えて恥ずかしいが、我慢してみたりする。とても冷える頃なので、差し出しなさっている御手のほのかに見えるが、とてもつややかで美しい薄紅梅色であるのは、この上なくすばらしいと宮中を見知っていない、宮仕えをしていない人の心地には、「こんな人がこの世にはいらっしゃったのだわ。」と自然にはっと気づくほど見つめ申す。
(2)
暁には早く退出してしまおうと自然に気がせかれる。「(夜明けの嫌いな)葛城の神様だってもうしばらくはいいでしょう。」などとおっしゃるが、どうして斜めにでもご覧に入れられようかと、やはりうつぶしたままで居るので御格子もお上げしない。女官達が参って、「これをお開けください。」などと言うのを聞いて、女房が開けるのを「だめ。」とおっしゃっると笑ってかえってしまう。あれこれお尋ねになりお話をなさるうちに、時間もたったので、「下がりたくなったでしょう。それならば早く。夜分は早く(おいで)。」とおっしゃる。膝をついて移動して(自室へ姿を}隠すやいなや、(女房達が格子を)どんどん上げてしまうと、雪が積もっていたのだった。登花殿の前庭は、立蔀が近くに巡らしてあって狭い。雪はとても趣深い。
(3)
春頃、「きょうは(昼で)さえ参上しろ。雪で曇って丸見えでもないだろう。」などと何度もお呼びになると、この局の古参女房も、「見るに忍びない。そんなに引っ込んでばかりいようとするか(いやしない)。あっけなく物足りないほど御前への(おめどおりが)許されたのは、そうお思いなるわけがあるのだろう。思いに背くと気に入らない物だ。」と気ぜわしく出仕させるので我を忘れるほどうろたえる気持ちがするが参上するのは本当につらい。火焼屋の上に降り積もった様子もめったにないことだ。
(4)
大納言殿が参上なさったのであった。御直衣、指貫の村スキンお色が雪に映えてたいそう趣深い。柱の側におすわりになって、「昨日今日物忌みでしたが、雪がひどく降りましたので、気がかりで。」と申しなさる。「『山里は雪降り積みて道もなし。』と思っていたのに、どうやって。と御返事になる。お笑いになって、「『今日来む人をあはれとは見ん。』とご覧になるかと。」などおっしゃるご様子など、これに何事が勝ろうか。物語に大層口に任せてかき立てた{主人公}と違うところははないとおもわれる。
(5)
定子は、白い御衣に紅の唐綾の織物を上にお召しになっている。御髪がかかっておられるなどは、絵に書いた人には、こういう人は見たが、現実にはまだ知らないので夢のような気がする。(伊周は)女房と話したり冗談など口になさる。御返事を、少しもきがひけるとも思っていず、返事申し、うそなどおっしゃるのには論争もうしなどするのは、目もまばゆいばかりに驚きあきれるほどで、分けもなく赤らむ思いだ。御果物を召し上がるなど、座を取りもって、定子にも差し上げなする。
(6)
「御几帳の後ろにいるのは、だれだ。」とお尋ねになるようだ。興味をそそることを言ったのだろう。立っていらっしゃるのを、まだ別の所へいらっしゃるのだろうかと思っていると、すぐ近くにお座りになって、話しなどなさる。まだ出仕前から聞いておきなさったことなどを「本当に相だったのか。」 などおっしゃるので、御几帳越しに、よそながら拝見してさえ立派だとおもっていたのに 驚きあきれるばかりで著癖宇お向かい申している気持ちは、現実とも思われない。行幸など見るとき、(清少納言の乗っている)車の方へ少しでも視線をお向けになったりすると、下簾をおろして(それでも)透蔭も(みえはしないか)と扇で隠すのに、やはいR大層我ながら身の程をわききまえずどうして出たのかと、涙が流れ出て、とてもつらから何を一体お答えできよう(いやできない)。
(7)
頼みにしている隠れ場所としていた扇までも取りなさったので、髪をふりかけて顔を隠してよいはずのところだが、その額髪の具合までがみっともないだろうと思うと、すっかり私のみすぼらしい様が見えているかもしれない。「早くお立ちになってほしい。」と思うが、扇をもてあそんで絵のことを「誰が書かせたの?」などとおっしゃってすぐのもくださらないので、袖を押し当てつっぷしているのだが、唐衣におしろいがついて、(顔も)まだらだろう。
(8)
長くおいでになるのを、思いやりがないつらいと思って居ると理解なさっているのか、「これをご覧なさい。これは誰の筆跡か?」ともうしなさるが、「いただいてまいりましょう。」と申しなさるので、「やはりこちらへ。」とおっしゃる。「私をとらえて立たせないんです。」とおっしゃるのも、大層当世風で私の年齢にはふさわしくなくて、きまりが悪い。誰かが草書体で書いた草紙などを取り出して御覧になる。 「誰のでしょうか。清少納言にお見せください。かの状は世にある人の筆跡はみな見知っているでしょう。」などとただもう答えさせようと、とんでもないことをおっしゃる・。
(9)
一人でさえもてあましているいおに、また先払いの声をさせて同じ直衣姿の人が参上なさって、こちらは少し陽気で冗談などおっしゃり笑い興じて女房達も「だれそれがこんなこと。」などと殿上人についてのことなどを申しなさるのを聞く私はさては変化の者か天人などが下ってきたのかと思われたが、おそばに控え慣れ、日がたつと大して不思議でもないことだった。この眼前の人たちもはじめて仮定を出て宮仕えした当初の頃は、そう思ったのだろうなどみていくうちに、自然と慣れて平気にきっと成るだろう。
(25)一八四 宮にはじめて参りたるころ 解答
(1)一 1 きちょう 2 たかつき 3 おおとなぶら 4 けそう 5 さとびと
二 1 気がひける。2 たえがたい。 3 我慢する。 4 宮仕えしていない人。
三 1 昼は明るくてよく見えるため恥ずかしいから
2 無茶苦茶に恥ずかしくてたまらない気持ち。
3 (1)こうなのよ。ああなのよ。(2)こうして (3)作者の気持ちやS恥じらいを解きほぐし尻込みする作者を側近く引き寄せたいとう気持ち。
4 作者自身はっと気づかれるまでじっと見つめ申し上げる。
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敬語 |
最高 |
|
|
注意 |
7 |
6 |
5 |
4 |
1 |
番号 |
おはしまし |
給へ |
させ |
参らせ |
参り |
語 |
定子 |
(さし出で=定子) |
(さし出で=定子) |
役人 |
作者 |
主語 |
尊敬 |
尊敬 |
尊敬 |
謙譲 |
謙譲 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
定子 |
定子 |
定子 |
宮中 |
宮中 |
誰を |
(2)(3)一 1 あかつき 2 かづらき 3 にょうぼう 4 たてじとみ 5 つぼね
6 こも 7 め 8 ひたきや
二 1 膝をついて移動する。2 あっけなくて物足りない。 3
気に入らない。
三 1 夜だけ出仕する作者を葛城の神になぞらえからかう気持ち。
2 講師を上げると明るくなり、作者が恥ずかしがり退出したがることを考慮した言葉。
3 昼に下がりたいならば早く下りなさい。4 格子をどんどん上げてしまうこと。
5 清少納言の顔や姿。 6 清少納言に対する深い愛。
7(1)清少納言お琴をお気に召していること。(2)訳があるのだろう。
8「登花殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし
四 1 助動自発る体 2 助動尊敬らる体らるるの一部
6 動 ラ下二隠る体隠るるの活用語尾
四
|
|
敬語 |
最高 |
|
注意 |
8 |
7 |
5 |
4 |
3 |
番号 |
参る |
召せ |
給ひ |
せ |
参り |
語 |
清少納言 |
定子 |
(問は=定子) |
(問は=定子) |
女官 |
主語 |
謙譲 |
尊敬 |
尊敬 |
尊敬 |
謙譲 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
(4)(5)
一1 のうし 2 さしぬき 3 ものい 4 おんぞ 5 からあや 6 たてまつ
7 みぐし
二 1 方角や日が悪いとき一定期間家に籠もって身を慎むこと。2 返事。
3 うそ。いつわり。4 驚きあきれるばかりだ。 5 わけもなく。
三 1 参り侍りつる 2 時や場面にふさわしい古歌を即座に引用し、洗練された対応ができる大納言と定子の教養や風流。
3 「いみじう口にまかせて」虚構を述べるもの。4 現とは異なるもの 3,4ともに理想化された世界。5 伊周 6 冒頭 「もののはづかしきことの数知らず」清少納言 気がかり
女房 気がひけない
四
対する |
二方面に |
|
|
|
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ふ |
参らせ |
参り |
奉り |
侍り |
語 |
(参らせ=伊周) |
伊周 |
伊周 |
定子 |
|
主語 |
尊敬 |
謙譲 |
尊敬 |
尊敬 |
丁寧 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
会話文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
伊周 |
敬意 誰が |
伊周 |
定子 |
伊周 |
定子 |
定子 |
誰を |
(6)(7)
一 1 みちょう 2 きちょう 3 したすだれ 4 ぎょうごう
5 すきかげ 6 からぎぬ
二 1 物の隙間や薄い布などを通して見える姿や形。 2 身の程をわきまえない。
三 1 おはする あらむ 2 「さし向かひ聞こえたる」こと 3 扇をさへ取り給へる
4 とても辛い気持ち 5 (1)額髪もみすぼらしく、見苦しい作者の様子。(2)懸念
6 清少納言 7 扇に書いてある絵。
四
(8(9)
|
|
|
|
|
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
のたまひ |
聞こえ |
参ら |
給ひ |
おはする |
語 |
伊周 |
作者 |
作者 |
(ゐ=伊周) |
伊周 |
主語 |
尊敬 |
謙譲 |
謙譲 |
尊敬 |
尊敬 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
伊周 |
定子 |
定子 |
伊周 |
伊周 |
誰を |
一 1 はべ 2 そうかな 3 そうし 4 さき 5 さるごうごと 6 へんげ
7 おもな
二 1 当世風だ。2 決まりが悪い。 3 慣れて平気になる。
三 1 (1)作者が、大納言の行為を思いやりがなくつらいとおもっているだろう。
(2)定子 2 なんとかして伊周の関心を清少納言からそらすようにしてやりたい気持ち。
3 たれが(手) 4 女房達 5 女房達 6 初めて家庭を出て宮仕えした当初から
7 「なほ、変化の者、天人などの下り来たるにや」
四
対する |
二方面に |
敬語 |
に対する |
二方面 |
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ひ |
参り |
給ふ |
させ |
聞こえ |
語 |
(参り=道驕j |
道 |
(聞こえ=定子) |
(聞こえ=定子) |
定子 |
主語 |
尊敬 |
謙譲 |
尊敬 |
尊敬 |
謙譲 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
構成
1 2 3 4 5 6 7 8 9 |
節 |
993年 内裏 夜 暁 雪 昼頃 火焼屋の雪 雪 宵 果物 御懐 昔と今 |
時 場所 |
参上 すばらしい。 → こういう人が居る。 退出しよう。 夢のよう → すばらしい → 扇で顔を隠す。 恥ずかしくて汗 恥ずかしさにうつぶす。 草仮名 当初は誰でも緊張する。 慣れた消える。 |
清少納言 |
←定子「これはこんな絵。」 ←許さない。 ←定子「参上しろ。雪でよくわからない。」 伊周「雪で気になって。」 定子「どうやって。」 定子 服装 白い衣に紅の唐綾 伊周 女房と話す。 ←伊周「誰?」話しかける。 ←伊周 扇を取り上げる。 定子「これは誰の筆跡?」―配慮 伊周「こちらへ頂いて見る。」 隆家 冗談を言う。 |
定子 伊周 隆家 |
主題 宮仕え当初の緊張と恥ずかしさ