(24)一八一 雪のいと高くはあらで
語釈
(1)
雪のいと高くはあらで、うすらか1に降りたるなどは、いとこそをかしけれ。
(2)
又雪のいと高く降り積みたる夕暮より、1端ちかう、2@同じ心なる人二三人ばかり、火桶中2に居ゑて、
物語などするほどに、暗うなりぬれば、3こなたには火もともさ3に、大かた雪の光いと白う見えたる4に、
火箸して灰などかきすさびて、あはれなるもをかしきも、いひあはするこそをかしけれ。
(3)
4よひも過ぎぬらんと思ふほどに、5沓の音近う聞ゆれば、怪しと見出したるに、時々6かやうの折、7A
おぼえなく見ゆる人なりけり。「今日の雪を8いかにと9思ひきこえ5ながら、B何でふ事にさはり、そこに暮
しつる。」などaいふ。C今日來ん人をなどやうのすぢをぞ言ふらんかし。晝よりありつる事どもをうちはじめ
て、よろづの事をいひ笑ひ、圓座bさし出でたれど、片つ方の足はDしも6ながらあるに、E鐘の音の聞ゆる
までになりぬれど、F内にも外にも、いふ事どもは10飽かずぞcおぼゆる。
(4)
G明け暮れのほどに歸るとて、11H「雪何の山に滿てり」とうち誦じたるは、いとをかしきものなり。1
2女のかぎりしては、さもえ居明さざらましを、13Iただなるよりはいとをかしう、Jすきたる有樣などを
d言ひあはせたる。
(注)@同じ心なる人 気のあった女房。Aおぼえなく見ゆる人 思いがけず顔を見せる人。B何でふ事にさはりて これというほどでもない雑事にさまたげられて。C今日來ん 『拾遺集』冬に「山里は雪降り積みて道もなし今日こむ人をあはれとはみん」(平兼盛)とある。Dしもながらある 下に下ろしたまま座っているが。E鐘の音 暁に打ち鳴らされる鐘の音。。F内にも外にも 室内の女合達にとっても外にいるその方にとってもG明け暮れ 夜の明ける前のほの暗い頃。H雪何の山に滿てる 『和漢朗詠集』冬に「暁入梁
王之苑、雪満群山、夜登庾公之楼、月明千里」とある。Iただなるよりは (女性ばかりで)いつものようであるのにくらべて、それよりは。Jすきたる有樣 風流な様子。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 火桶 2 火箸 3 宵 4 沓 5 円座
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 おほかた
2 すさむ
3 言ひ合わす
4 あやし
5 すぢ
三 登場人物を抜き出せ。また、*と傍線部1〜13、a〜dの問いに答えよ。
*内容の上で三つに分類されるうちのどれか。
*まとめ(1)この訪ねてきた人は何をしようと思ってきたのか。
(2)この人はいつ頃来いつ頃帰ったか。
(3)この人は、語り明かす間どういう格好でいたか。
(4)この人の振る舞いをこの文では誰が何と批評しているか。
1 どこに近いことをいうのか。
2と7の人は、それぞれ男か女か。また、これを同時に決定する根拠を一つ抜き出せ。更にa〜dの主語は誰か、2・7で答えよ。
3 指示内容を記せ。
4 誰が思ったか。
5「きこゆれ」と9「聞こえ」の意味の違いを記せ。
6 指示内容を記せ。
6 後に省略された語句はなにか。
8 後に省略された語句は何か。
10 「飽かず」は、もう十分だの意味を表す。それで、面白く興が尽きない意にもなる。ここではどちらか。
11 こう誦したのはだれか。
12 実際にはどうだったのか。
13 (1)「ただなる」というのは、具体的に言えばどんな場合か。
(2 )「すきたるありさま」とはどんなことか。
(3)「いひ合わせたり」とあるが、誰がそうしたのか。
四 二重傍線部1〜6の文法問題に答えよ。
1〜4 文法上の異動を説明せよ。
5・6 文法上の異動を説明せよ。
五 口語訳
(1)
雪が大層高くはなくてうっすらと降っていたのなどはひどく趣深い。
(2)
また、雪の大層高く降り積もった夕暮れからのき先近くで、気のあった女房二人と火桶を中において話などするうちに、暗くなってしまったが部屋の中には火もともさないのに、あたり一帯の雪の光で大層白く見えているので、火箸で灰など掻きもてあそび、しみじみしたことも面白いことも互いに語り合ったのはお揉むk深かった。
(3)
宵も過ぎたであろうかと思って理ううちに沓の音が聞こえるので、不審に思い見出した所、時々御子いう折に、思いがけす見える人だった。「今日の雪をどう見ているだろうと思いやり申したが、雑事に妨げられてそこで過ごしていた。」などと言う。「今はいこう。」などという事に関したことを言うのだ。昼にあったことなどからはじめていろいろなことを言う。円座だけさし出したけれど、一方の足は下に下ろしたまま座っているが、鐘の音などが聞こえるまで、室内の女房「にとっても外にいる男にとっても、この言っていることは興が尽きないと思われる。「雪何の山に満てり。」とずしたのは、大層お趣深いものだった。女だけではこのよに座って夜を明かすこともできないのだっただろうに、いつもの様であるよりは、趣深く風流な様子など言い合わせた。
構成
(1) (2) (3) (4) |
節 |
雪 薄らと降る。 雪が高く積もる。 夕暮れ 縁側 火桶 雪の光 宵過ぎ 鐘の音 暁 夜明け前 |
時 場所 |
趣深い。 気の合った女房二三人 話 趣深い。 女房 話が 女だけでは明かせない。 |
女 |
沓の音 思いがけず顔を見せる男 雪が気になる。 雑事 昼にあったこと 万事 片方の足は下に 尽きない 帰る 「雪何の山に満てり。」 |
男 |
主題 男女で語り明かした雪の夜の風流
(24)一八一 雪のいと高くはあらで 解答
一 1 ひおけ 2 ひばし 3 よい 4 くつ 5 わろうだ
二 1 そのあたり一帯。2 もてあそぶ。 3 互いに語り合う。 4 不審だ。
5 その事物に関したこと。
三 同じ心なる人 人 内にも外にも 日記回想的章段
まとめ (1)今日の雪に就いて風流なことを作者たちと語り合うため。
(2)宵持過ぎたかと思われるころ。まだあたりの薄暗いころ。
(3)すのこに片氏を地面に下ろしたままの恰好で半身になって腰かけて。
(4)彼が来てくれて御蔭で冬の夜を一晩中楽しく過ごすことができた。
1 縁先に近い。2 女 7 男 a 男 b 女 c 女と男 d 女
3 部屋の中。 4 清少納言。 5 動ヤ下二聞こゆ已(聞こえる) 9 補動聞こゆ謙譲用(男が作者にへりくだる) 6 雪が降り積もった夕暮れ 8 見給ふらむ 10 面白く興が尽きない意
11 「時々かやうのをりに、おぼえなく見ゆる」人
12 この男が加わったため、夜明けまで話しながら楽しく起き明かした。
13 (1)女だけの場合。 (2)風流な雰囲気。 (3)女房達。
四 1 形動ナリ活うすらかなり用活用語尾 2 格助場所 3 接助逆接 4 接助順接
5 接助逆接の確定条件ノニ 6 接助動作・状態の継続ママ