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(20)一五一 うつくしきもの

語釈

 

うつくしきもの  瓜に書き1たる兒の顏。1雀の子の2Aねずなきするをどりくる。又紅粉などつけ

 

て居たれば、親雀の蟲など持て來てくくむるも、いとらうたし。三つばかりなる兒の、急ぎて這

 

ひくる道に、いとちひさき塵などのありけるを、目敏に3見つけて、Bいとをかしげなる指にとへて、

 

おとななどに見せ2たる、いとうつくし。Cあまにそぎ3なる兒の目に、髮のおほへるを掻きは遣らで、

 

Dうち傾きて物など見4たるも、いとうつくし。

 

 おほきにはあらぬE殿上わらはの、Fさうぞきたてられて歩くもうつくし。をかしげなる兒の、あか

 

らさまに抱きてつくしむ程に、かいつきて寢5たるもらうたし。

 雛の調度。蓮のうき葉のいとちひさきを、池よりとりあげ6たる。G葵のちひさきもいとうつくし。

 

何も何もちひさき物はいとうつくし。

 いみじう肥えたる兒の二つばかり8なるが、白ううつくしきが、H二藍のうすものなどI衣ながく

 

てたすきあげ9たるが、這ひ出で10たるもいとうつくし。八つ九つ十ばかりなるをのこの、聲をさなげ

 

にてJ文よみ11たる、いとうつくし。

 鷄の雛の、K足だかに、白うをかしげに、L衣みじか12なるさまして、ひよひよとかしがましく鳴きて

 

人の後に立ちありくも、また親のもとにつれだちあり、見るもうつくし。Mかりの子。N瑠璃の壺。

 

(注)@うつくしきもの 愛らしい物。Aねずなきするに ちゅうちゅう泣くまねをして呼ぶこと。B

いとをかしげなる指 大層かわいらしい指。Cあまそぎ 短く切りそろえられた髪型。Dうち傾きて 

ょっと首をかしげて。E殿上わらは 公卿の子弟で元服前に昇殿を許され、清涼殿の殿上の間に奉仕した

者。Fさうぞきたてられて 着飾らせられて。G葵 ここでは、賀茂の祭り用いた二葉葵のこと。にH二

藍のうすもの 縦糸が紅、横糸が藍色の薄い織物で絽や紗の類。I衣ながくてすきあげたる 着物が長

めで、袖をひもでくくりあげている子が。J文 ここでは漢籍をさす。K足だかに すねが長い様で。足

の上部までけが生えそろっていないさま。L衣みじかなるさま 短い着物をきた格好。Mかりの子 あひ

る・がちょうなどの卵。N瑠璃の 壺 仏骨などを入れる壺。ここでは瑠璃色の意。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 瓜 2 塵 3 殿上童 4 調度 5 葵 6 二藍 7 結ひたる 8 雛 9 瑠璃 

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 うつくし          2 あり

 

 3 あからさまなり

 

 4 らうたし     5 いみじう   6 をかし

 

三 *の問に答え、「  」の問に答え、傍線部1〜3の問いに答えよ。

 

 *三つに分類されるうちのどれになるか。

 

*全体の主文を抜き出せ。

 

 1 どこにかかるか。   2、3それぞれ、 主語を記せ。

 

 

四 二重傍線部1〜12を文法的に説明せよ。

 

五 口語訳

 可愛いもの。瓜に書いたちごの顔。雀の子でちゅうちゅう鳴く真似をしておびき寄せると踊るように

来る。二三歳の児が急いではって来る途中で、大層小さい塵があったのを目ざとく見つけて、大変かわいらしい指でつまんで大人に見せたのは大層かわいらしい。頭は尼そぎである児の目に髪がおおっているのをかきあげないで少し首をかしげて物など見ているのもかわいい。

 大きくは殿上童が着飾らせられて、歩き回るのもかわいい。可愛らしい児がちょっと仮に抱いて遊ばしかわいがるうちにしがみついて寝ている、大層かわいらしい。

 雛の調度。はすの浮き葉が大層小さいのを池から取り上げた。葵の大層小さく、雛のひどく小さいものはみなかわいい。

 大層白く太った児で二つくらいなのが、二藍の薄物など、着物を長めにきているのもまた、丈の短いのが

袖がちに着て、歩き回るのをみな可愛らしく、八つ九つ十ばかりの男女が声はおさなげで文を読んだのは大層かわいらしい。

 鶏の雛の足高に、白くかわいらしく、短い物を着た格好でひよひよとうるさく鳴いて、人の後先に立って歩き回るのも面白い。また、親が一緒になっ立って走るのも皆可愛い。かりのこ。瑠璃の壷。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構成 

 

14

13

12

11

10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番号

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分類

 

瑠璃の壷

かりの

足高に歩く 後先に歩く 親が連れ去る

八九十ばかりの男児=幼げな声で朗読する

たいへん肥えた児=夜長に着る

 

葵の大変小さいの

 

草の浮き葉の小さいのを池から取り上げる

 

雛の調度

 

寝た子=しがみついて寝る

 

殿上童=着飾らせられる

 

尼そぎの児=目に髪がかかる

 

二つ三つの児=塵をつまんで見せる

 

雀の子=ねず泣きすると来る

 

瓜に書いた児の顔

 

様子

 

小 清らかな光沢

小 均整感

小 清らか ふっくら

小  高い透った声

小 清らか ふっくら

 

小 均整感

 

 

小 均整感

 

小 柔らかな触感

 

小 清純

 

小 清純

 

子 あどけなさ

 

 

小 あどけなさ

 

小 愛くるしい

 

特色

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 可愛いもの    とらえたものー女性的・母性的 とらえ方―対象を局部的にとらえる

 

 

(20)一五一 うつくしきもの  解答

一 1 うり 2 ちり 3 てんじょうわらわ  4 ちょうど 5 あおい 6 ふたあい

  7 ゆ 8 ひな 9るり

二 1 かわいらしい。 2 歩き回る。 3 かりに。 4 可愛い。5 非常に。 6 かわいらしい。

三 類聚的章段 なにもなにも、小さきものはみなうつくし

  1 「をどり来る」 2 人。 3 二つ三つばかりなるちご 

四 1 助動たり体完 2 助動たり体完 3 助動なり体断 4 助動たり体存 5 助動たり体存

  6 助動たり体完 7 助動たり体存 8 助動なり体断 9 助動たり体存 

10 助動たり体完 11 助動なり体断 12 助動なり体断

 

*完了たりを多用し、今目の前に可愛いものを見ている感じに書いている。また、断定なりによって

可愛いものを言いきっている。