TOPへもどる

古文へもどる

 

 

(17)一二九 關白殿の黒戸より出でさせ給ふと
語釈


(1)@關白殿のA黒戸より出でさせ給ふと、女房の廊に隙なくさぶらふを、「あないみじの御許だち

 

や1いかにをこなりと笑ひ給ふらん」と分け出でさせ給へ、戸口に人々の、色々の袖口して御簾を

 

引き上げたるに、B權大納言殿、御沓取りはかせ奉らせ給。いとものものしうきよげに、よそほしげ

 

に、C下襲の裾ながく、2所狹くさぶらひまづあなめでた、3大納言ばかりの人に沓をとらせ給ふよ

 

。D山井の大納言、そのEつぎづぎさらぬ人々、Fくろきものをひきちらしたるやうに、G藤壺のへ

 

のもとより、H登華殿の前まで4居竝みたるに、いとほそやかにいみじうなまめかしうて、御太刀など引きつ

 

くろひすらはせ給、I宮の大夫殿の、清涼殿の前にたたせ給へれば、それは6居させ給ふまじきな

 

めりと見る程に、少し7歩み出でさせ給へ、ふと8居させ給こそ、猶いかばかりの9昔の御行のほど

 

らんと見奉りしこそみじかりしか

(2)J中納言の君のK忌の日とて、くすしが給ひしを、10「たべ、その珠數しばし。行ひて

 

でたき身にならんとか」と集りて笑へどなほいとこそめでたけれ。L御前に聞しめして、「佛になり

 

たらこそ、Mこれよりは勝ら」と打ち笑ませ給へるに、又めでたくなりてぞまゐらする。 大夫殿

 

の居させ給へるを、11かへすがえす聞ゆれ、「12例のN思ひ」と笑はせ給。ましてこの13後の

 

御ありさま、見奉らせ給は2ましか、14とおぼしめされな2まし

(注)@關白殿 藤原道隆(953~995年)。一条天皇中宮定子の父。990年摂政・関白。A黒戸 

清涼殿の北側にある部屋。B權大納言 藤原伊周(974〜1010年)。定子の兄。992年権大納言、

994年内大臣。C下襲 束帯の時、ほうの下に着る衣で裾を後ろに長く引く。D山井の大納言 藤原道

頼(?995年)。道隆の長子。994年権大納言。伊周らの異母兄。Eつぎづぎ 官位がそれに次ぐ人

々で身うちではない人。Fくろきもの 当時、四位以上は黒いほうを着た。G藤壺 清涼殿の北西にある飛

香舎の別名。その東西を築垣で区切って塀とした。H登華殿 清涼殿の北東にある殿舎。I宮の大夫 藤原道長(966〜1027年)。道隆の弟で当時中宮太夫(中宮に関する事務えおつかさどる役所の長官)であった。1016年摂政、翌年太政大臣になる。J中納言の君 中宮に仕える女房の名。K忌の日 親族の命日。

一般に行われる物忌の日とする説もある。L御前 中宮。Mこれより 関白の身分。N思ひ人 ひいきにし

ている人。

 

一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

 1 黒戸 2 袖口 3 権大納言 4 沓 5 下襲 6 藤壷 7 登花殿 8 居並

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

 1 ひまなし

 

 2 いみじ

 

 3 ものものし

 

 4 よそほしげ

 

 5 なまめかし

 

 6 やすらふ

 

 7 おこなふ

三 登場人物を抜き出せ。三つに分類されるうちのどれか。また、傍線部1〜14の問いに答えよ。

 

 1 誰のことか。また、なぜこういったか。

 

 2 誰がどのようにしているのか。

 

 3 誰が誰にどうさせるのか。

 

 4 主語を記せ。

 

 5 主語を記せ。

 

 6 何故こう思ったか。

 

 7 主語を記せ。

 

 8 主語を記せ。

 

 9 誰のどういうことを指すのか。

 

 10 主語を記せ。

 

 11 何故こういうことをしたのか。

 

 12 誰のことか。

 

 13 具体的にどういうことか。

 

 14 具体的内容を記せ。

 

四 二重傍線部1、2の文法問題に答えよ。

 

 1 品詞分解 口語訳

 

 2 品詞名 基本形 活用形 文法的意味

 

 

五 口語訳

(1)

道隆が黒戸より御退出なさるといって、女房が隙間もないほどお仕え申し上げるのを「ああ、素晴らしい皆様方翁をどんなにお笑いなさるだろうか。」と言ってかき分けてお出になるので戸に近い人々はいろいろの袖口をのぞかせて、御簾を引き上げると伊周が御沓をとってはかせ申しなさる。大層厳かで美しくととのっている。下襲のすそを長くひいて窮屈に伺候なさっている。ああすばらしい、大納言ほどの人に沓を取らせ申しなさると思われる。道頼、その次次のそうでない人々が黒い物を引き散らしたように藤壷の塀の元から登花殿の前まで並んでいるのに、ほっそりして大層若々しく御太刀などお取りなおしなさったのに、立ち止まりなさると、道長は戸の前にお立ちになっていたので、ひざまずきますまいと思っていると、少し歩み出してふとお座りになったのこそやはりどれくらい、前世のよい行いであったか。少しお座りなって、やひりどれほどのおこないのせいなのかと素晴らしかった。

(2)

 中納言の君が命日だと改まった態度をとり、仏道修行なさったのを、「下さい。その数珠を。しばらく仏道修行して立派な身になろう。」と借りようとして、集まって笑ったがはりすばらしかった。中宮に申して、「私になることができそうなら、関白の身分より勝るだろう。」と御笑いになるのをまためでたいと見申す。道長が

いらっしゃったのをかえすがえすもうしあげると、あのひいきにしている人と御笑いになる。まして、御様子を見申しなさらないなら、当然と御思いになるだろう。 

 

構成

 

(1)

 

 

 

 

 

 

(2)

黒戸

 

登花殿

 

 

戸の前

時 場所 

   

出る。

 

 

御太刀など取りなす。

立ち止まる。

歩き出す。

 

「貸せ。」 

「仏になれば関白より上だ。」

道隆

(女房)暇なく迎える。

(伊周)沓をはかせる。

(道頼他)並び座る。

 

 

(道長)立っている。座る。

 

(中納言の君)数珠

 

(清少納言)道長の様子を繰り返す。

(定子)「ひいきにしている人。」

(清少納言)この後の道長の活躍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 道隆の羽振り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(17)一二九 關白殿の黒戸より出でさせ給ふと  解答

 一 1 くろと 2 そで 3 ごんだいなごん 4 くつ 5 したおそい 6 ふじつぼ

   7 とうかでん 8 いなむ

 二 1 すきがない。 2 すばらしい。3 おごそかに。 4 美しく整っている。 5 苦々しい。

   6 立ち止まる。 7仏道修行。

 三 日記物語的章段

1 道隆。謙遜 軽口 2 伊周。あたりを圧するように控えている。

3 道隆は伊周ほどの人にくつをとらせ威厳を示す。 4 道頼他。 5 道隆。 

6 道長は豪胆な人で、兄道隆にも遠慮することがなかったから。 7 道隆 8 道長

9 道隆が前世でつんだ善業。 10 清少納言。

11 道長のこの先を思うとそのことが予感されたから。 12 道長

13 道長のこの後の活躍。14 清少納言が道長の行為を何度もくりかえし言ったこと。

  四 1 あな 感動詞 めでた 形めでたしク活の幹めでた 感動表現 まあ素晴らしいことだ。

    2 反実仮想