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(15)一0六      二月つごもりごろに

語釈

 

  二月つごもりごろに、風いたう吹きて、空いみじう黒きに、雪少しうち散りたるほど黒戸に@主

 

殿寮来て、a「Aかうて候ふ。」と言へば、寄りたるに、b「1これ、B公任の宰相殿の。」とて

 

あるを見れば、懐紙に、

 

    C少し春ある心地こそすれ

 

とあるは、げに今日1けしきにいとようあひたるを、2これが本はいかでかつくべからむと、3

 

思ひわづらひぬ。c「4Dたれたれか。」と問へば、d「Eそれそれ。」と言ふ。5みないと恥づ

 

しき中に、宰相の御いらへを、いかでかFことなしびに6言ひ出でむと、7一つに苦しき

 

G御前に御覧ぜさせむとすれど、上3おはしまして大殿籠りたり。主殿寮は、e「とく、とく。」

 

と言ふ。8げに、おそうさへあらむは、いととりどころなければ、9Hさはれとて、

 

    空寒み花にまがへて散る雪に

 

10わななくわななく書きてとらせて、いかに思ふらむと、わびし。11これがことを聞か5ばや

 

と思ふに、そしら6たらば聞かじとおぼゆるを、f「J俊賢の宰相など、12g『なほ、内侍に

 

奏してなさむ。』となむ、定め給ひし。」とばかりぞ、左兵衛督7、中将におはせし、語り給ひ

 

し。

 

 

(注)@主殿寮  宮中の清掃を担当し、灯油や薪炭などを扱う主殿寮の役人。Aかうて候ふ  ごめんください、おじゃまします、の意のあいさつの言葉。B公任の宰相殿  藤原公任。966〜1041年。関白太政大臣藤原頼忠の子。詩歌・芸能の達人とされた。「宰相」は参議の唐名。C少し春ある心地こそすれ  「白氏文集」巻十四に「三時雲冷多飛雪二月山寒少有春」とある。Dたれたれか  (藤原公任と同席の人は)だれだれか。Eそれそれ  だれそれです。Fことなしび  何事もないような様子。G御前  中宮定子。Hさはれ  どうともなれ。ままよ。「さはあれ」の約。I俊賢の宰相  源俊賢。960〜1027年。左大臣源高明の子。J内侍  内侍司の三等官である掌侍の略称。内侍司は天皇への取次や宮中の礼式のことなどをつかさどる役所。

 

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      二月        主殿寮        公任の宰相殿      懐紙        御覧ぜ

 

      大殿籠り    俊賢の宰相    内侍              奏し    10  左兵衛督

 

  次のの語の意味を辞書で調べよ。

 

      つごもり

 

      懐紙

 

      げに

 

      大殿籠る

 

      まがふ

 

      わびし

 

      そしる

 

  *と「   」a〜g、傍線部1〜12の問いに答えよ。

 

    *内容の上で三つに分類されるうちのどれか。

 

    a〜g「    それぞれ話し手は誰か。

 

      指示内容。

     

      指示内容。

     

      どうすることか。また、なぜ「思ひわづら」ったのか。

     

      どういう気持ちで尋ねたか。

     

      誰が「恥づかし」と思うのか。また、なぜ「恥づかし」いのか。

     

      何をどのように言おうというのか。

     

      どういう状態にあるのを言うのか。

     

      何が「遅うさへあらむ」であるのか。「さへ」は何の上に何を添加しているか。

   

  どんな気持ちを表したものか。また、その理由と思われる部分を抜き出せ。

 

    10  なぜか。

 

    11  指示内容。

 

    12  ここには俊賢のどんな気持ちがこめられているか。

   

 

         1〜7の文法事項に答えよ。

 

      品詞名 文法的意味。

     

      品詞名 文法的意味。

     

      品詞名 文法的意味。

     

      品詞分解  口語訳

     

      品詞名 文法的意味。

                   

      品詞名 意味 基本形 活用形

                    

      品詞名 文法的意味。

 

六 口語訳

 二月つごもりごろに、風がひどく吹いて、空がすごく黒く雪が少し降っている時に黒戸に役人が来て、「こうです。」と言うので、寄ると「これは公任の宰相殿の。」とあるのを見れば、懐紙に

  少し春らしい気持ちがする

とあるのは本当に今日の天候によくあっているのを、これの本はどうつけたらよいだろうかと思いわずらった。「だれだれがいるの?」 と聞くと「誰それです。」と言う。みな大層こちらが恥ずかしい人の中に、宰相の御返事をどうして何事もないような様子に書き出そうかと一人悩むのを定子にご覧に入れようとするが、上がいらっしゃってお休みなっている。主殿寮は「早く早く。」と言う。いかにも遅くさえあるのは大層取りえがないので、ままよと

  空が寒いのではなに見間違えて散る雪に

震えて書いて取らせて、どう思うだろうと思うとつらい。このことを聞きたいと思うが、非難されたら聞くまいと思っていると、「『俊賢の宰相がやhり内侍に申してしよう。』と決定なさった。とだけ左兵衛の督で中将でいらっしゃったかたが語りなさった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構成

 

二月末

風 空黒

黒戸

時 場所

少し春ある心地こそすれ  末

(『白氏文集』 「少有春」)

 

 

 

 

俊賢の宰相「内侍にしよう。」

藤原公任

「誰がいるか。」

「定子に相談しよう。」

定子 寝ている。

空寒み花にまがへて散る雪に    本

(『白氏文集』 「山寒」)

 

 

 

清少納言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 作者の漢詩の教養と、その応用の才能

 

 

 

 

 

(15)一0六      二月つごもりごろに  解答

 

一 1 きさらぎ 2 とのもづかさ 3 きんとうのさいしょう 4 ふところがみ

5 ごらん 6 おおとのごも 7 としかたのさいしょう 8 ないし 9 そう 10 さひょうえのかみ

二1 下旬。 2 折りたたんで懐中に入れておき、歌などを書いたり鼻紙として用いたりした紙。

3 いかにも。 4 寝ぬの尊敬。お休みなる。 5 見間違え聞き違いするほどによく似ている状態になる。Eつらい。 7 非難する。

三 * 日記的章段  a 主殿寮    b 主殿寮  c 清少納言  d 主殿寮 

 e 主殿寮  f 左兵衛の督 g 俊賢

1 手紙。 2 「少し春ある心地こそすれ」 3 あれこれ思案する。 相手が公任だから(下手に答えられないから)

4 そこに、気のおける人がいるかどうか尋ねた。 

5 清少納言が  皆立派な人たちなので自信のない歌はやれないから。6 上の句を恥ずかしくないようにつけよう。

7 一人で思い悩む。 8 返事(上の句)。 「さへ」返歌が下手なうえに遅くまでなる。

9 捨て鉢。  主殿寮は「とく、とく。」と言い、げに遅うさへあらむは、取りどころなければ

10 返歌に自信がなく、公任がこの歌を「いかに思ふらむ」と考えて

11 返事に対する先方の反響。

12 このような文才のある人をこのままにしておくのは惜しい。

1 格助 ノ 体修 2 接助 順接 3 格助 ガ 主 4 空 名 寒 形 寒し 幹

み 接尾 空が青いので 5 終助 タイ 願望 6 助動 受身 る 用

7 格助 デ 同