(14)一〇四 淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど
語釈
(1)@淑景舎、東宮に1参り2給ふほどのことなど、いかがめでたからぬことなし。
(2)1東宮の御使ひにA周頼の少将参りたり。2御文取り入れて、渡殿は細き縁なれば、Bこな
たの縁に褥さしいだしたり。御文取り入れて、C殿、上、宮など3御覧じわたす。4「御返り、は
やにも聞こえ給はぬを、5「Dなにがしが見侍れば、書き給はぬなめり。6さらぬをりは、7これ
よりぞ、間もなく聞こえ給ふなる。」など3申し4給へば、御おもては少しあかみて、うちほほゑ
み給へる、いとめでたし。8「まことに、とく。」など、上も聞こえ給へば、9奥に向きて書い給
ふ。上、近う寄り5給ひて、もろともに書かせ奉り給へば、いとどつつましげなり。
(注)@淑景舎 藤原道隆の娘原子(?〜一00二)。中宮定子の妹。九九五年(長徳元)一月、東宮(のちの三条天皇)の妃となり、「淑景舎」(後宮五舎の一つ)に住んだ。A周頼 生没年未詳。藤原道隆の子。中宮の異腹の弟。Bこなた 中宮や原子たちが対面している登花殿の東の簀子をさす。C殿、上、宮 道隆(九五三〜九九五)とその北の方(高階貴子)と中宮定子。Dなにがし 自称の代名詞。ここは道隆をさす。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 淑景舎 2 東宮 3 周頼 4 渡殿
5 褥
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 東宮
2 褥
3 とみなり
4 とし
三 *1と傍線部1〜9の問いに答えよ。
1* a類集的章段、b日記的章段、c随想的章段のうちどれに分類されるか。
1 「東宮の御使ひに周頼の少将参りたり」とあるが、周頼の少将は誰への使者とし
て参上したのか。
2 「御文」は誰から誰へ送ったものか。
3 「御覧じわたす」とはどうすることか。
4 誰の言葉か。
5 誰の言葉か。
6 「さらぬをり」とはどのようなことか。
7 「これ」の指示内容を記せ。
8 誰の言葉か
9 「奥に向きて書」いたのはなぜか。
四 1〜5の敬語について次の表の空欄を埋めよ。
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注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ひ |
給ふ |
申し |
給ふ |
参り |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
(3)宮の御方より、萌黄の織物の小袿、袴、おしいでたれば、三位の中将かづけ1給ふ。1首苦し
げに思うて、持ちて立ちぬ。
(4)松君のをかしうもの2のたまふを、たれもたれも、うつくしがり3聞こえ4給ふ。2「宮の
御皇子たちとて、ひきいでたらむに、わるく侍らじかし。」などのたまはするを、げに、など B
かさる御ことの3今までとぞ、心もとなき。
(注)@三位の中将 藤原隆家(九七九〜一0四四)。道隆の子。中宮の弟。A松君 藤原伊周の子道雅(九九二〜一0五四)の幼名。道隆の孫。Bさる御こと 中宮の皇子御出産。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 萌黄 2 小袿
3 袴
二 傍線部1〜3の語の意味を辞書で調べよ。
1 小袿
2 かづく
3 心もとなし
三 1〜3について、2「 」は誰の言葉か記し、傍線部1、3の問いに答えよ。
1 (1)「思う」の主語を記せ。
(2)なぜ「首苦しげに思」ったのか。
2 「今まで」の次にはどのような語句を補えばよいか。
四 二重線部1〜4の敬語について次の表の空欄を埋めよ。
構成
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注意 |
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5 |
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4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
ひ |
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給ふ |
聞こえ |
のたまふ |
給ふ |
語 |
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主語 |
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種類 |
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地の文 会話文 |
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敬意 誰が |
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誰を |
時 995年2月18日
場所 京 内裏
登場人物 藤原道驕i4月没)
=――――――――伊周―道雅(3才松君)
貴子 (42才) 隆家(17才)
周頼(17、8才)
定子(中宮 19才)
=―――――――― ゆう子
敦康
一条天皇
原子(淑景舎)14、5才
=
三条天皇(東宮)
(1)原子が東宮にまいるころ
(2)東宮からの手紙
原子の返事←道驕@貴子 定子 せかす。 「愛でたし」
(3)周頼(使者)褒美をたくさんもらう。
(4)道雅を見るにつけ、定子の皇子出産が待たれる。 「心もとなし」
主題 道驩ニの最も幸福に満ちた場面
五 口語訳
(1)
淑景舎が東宮に参上なさるほどのことなどどんなにか素晴らしくないことはない。
(2)。
東宮のお使いに周頼の少将が参った。御文を取り(懐に)入れて殿、上、宮などが手紙を順々に回覧して渡す。「御返事は早く。」と言うが急にも申しなさらないのを、「私が見ますので、書きなさらないようだ。見ていないときは、淑景舎が間もなく申しなさるようだ。」など申しなあさるとお顔が少しあからんでほほえみなさるのは大層素晴らしい。「本当に早く。」など。上も申しなさるので奥に向かって書きなさる。上は近く寄りなさって一緒に描きなさるので、一層控え目な様子だ。
(3)
宮のお方から萌黄の小うちぎ、袴、をおし出したので、隆家が肩にかけなさる。首が苦しそうに思って、持って立った。
(4) 松君が面白くおっしゃるのを誰も誰も可愛がり申しなさる。「宮の御皇子たちといって例としてあげたら悪くもありません。」などとおっしゃることを本当にどうして中宮の皇子御出産が今までなかったかと気がかりだ。
(14)一〇四 淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど 解答
(1)(2)
一 1 しげいさ 2 とうぐう 3 ちかより 4 わたどの 5 しとね
二 1 皇太子の御殿。2 座るときや寝るとき畳むしろの上に敷く綿入れの敷物。
3 急。 4 はやい。
三 *1 b 1 原子(淑景舎)2 東宮から原子へ
3 道驕A貴子、定子が手紙を順々に回覧して、ご覧になること。4 道驍ネど
5 道驕@6 そうでないとき(道驍ェ見ていないとき)
7 原子(淑景舎 8 貴子
9 恥ずかしいので道髓Bに手紙の中身を見られまいとした。
(3)(4)
|
対する |
二方面に |
対する |
二方面に |
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
給ひ |
給ふ |
申し |
給ふ |
参り |
語 |
(寄り=貴子) |
(申し=道驕j |
道 |
(参り=原子) |
原子 |
主語 |
尊敬 |
尊敬 |
謙譲 |
尊敬 |
謙譲 |
種類 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
貴子 |
道 |
原子 |
原子 |
東宮 |
誰を |
一 1 もえぎ 2 こうちぎ 3 はかま
二 1 高貴な婦人の通常礼服。 2 (衣服などを)褒美としていただく。
3 きがかりだ。不安だ。
三 (1) (2)周頼 褒美にたくさんの衣服を肩にかけてもらったから
2 なき(なからむ。おはしまさぬ。) ナイノカ
四
|
対する |
二方面に |
|
|
注意 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
番号 |
侍ら |
給ふ |
聞こえ |
のたまふ |
給ふ |
語 |
|
(うつくしがり=みな) |
(うつくしがり=みな)) |
道雅 |
(かづけ=隆家) |
主語 |
|
尊敬 |
謙譲 |
尊敬 |
尊敬 |
種類 |
|
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 |
地の文 会話文 |
|
作者 |
作者 |
作者 |
作者 |
敬意 誰が |
|
みな |
道雅 |
道雅 |
隆家 |
誰を |