(13)一〇二 中納言殿まゐらせ給ひて
語釈
@中納言殿まゐらせ給ひて、御扇奉らせ給ふに、1「隆家こそいみじきA骨をえて侍れ。2それをはらせて
參らせんとするを、おぼろけの紙は1えはるまじければ、3もとめ侍るなり」と申し給ふ。4「いかやうなる
にかある」と問ひ聞えさせ給へば、5「すべていみじく侍る。6「2さらにまだ見ぬ骨のさまなり」となん人々
申す。まことにかばかりのは侍らざりつ」とことたかく申し給へば、7「さて扇のにはあらで海月の3ななり」
と聞ゆれば、8「9これは隆家がことに4してん」とて笑ひ給ふ。
10かやうの事こそ、かたはらいたき物のうちに入れつべけれど、11「一つ5な落しそ」と言へば
12いかがはせん。
(注)@中納言 藤原隆家をさす。A骨 扇の骨。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 中納言 2 奉る 3 侍れ 4 扇 5 言たかく
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 いみじ
2 おぼろけなり
3 かたはらいたし
三 三つに分類される中のどれになるか。登場人物を抜き出せ。また、1〜12の「 」は誰の言葉か記し、傍線部の問いに答えよ。
1 誰の言葉か。
2 指示内容を記せ。
3 どのような物を「もとめ」用とするのか。
4 誰の言葉か。
5 誰の言葉か。
6 誰の言葉か。
7 誰の言葉か。
8 誰の言葉か。
9 指示内容。
10 「かたはらいたきことのうちに入れ」ておくべきだという考えは作者のどのような気持ちを言い表そうとしたものか。
11 誰の言葉か。
12 作者のどのような気持ちを言い表そうとしたものか。
四 二重傍線部1〜4の文法問題に答えよ。
1 品詞分解 口語訳
2 品詞分解 口語訳
3 品詞分解 口語訳
4 品詞分解 口語訳
5 品詞分解 口語訳
五 口語訳
中納言隆家が参上なさって、扇を謙譲なされるにあたって、「隆家はすばらしい骨を手に入れております。それに紙を貼らせて差し上げようと思いますが並一通りである紙ははれないので探しています。」と申し上げなさる。「どんな様子の骨か。」とおたずねなさると、「どこからどこまでもすばらしい。人々も今までに見たこともない骨だ、と申す。本当にこれほどの骨は見たことがなかった。」と声高くおっしゃるので、「それでは、扇の骨ではなくて海月の骨だ。」と申すと、「これは隆家の言ったしゃれにしよう。」といって笑いなさる。
こういうことは苦々しい自慢話の中に是非入れるのがよかろうが、「一つも書き漏らすな、」というので、どうしようか(どうしようもない)。
構成
「すばらしい扇の骨だ。すばらしい紙を探している。」 → 「見たことのない骨。」 → 「隆家のしゃれにする。」 → |
隆家 |
(定子)「どんなの?」 (清少納言)「扇のではなく、海月のだ。」 (清少納言)これは自慢話だ。一つも書き漏らすなというので書いた。 |
他 |
主題 清少納言の機知
(13)一〇二 中納言殿まゐらせ給ひて 解答
一 1 ちゅうなごん 2 たてまつ 3 はべ 4 おうぎ 5 ことたか
二 1 すばらしい。 2 並一通りである。 3 側で聞いたり見たりしているのもにがにがしい。
三 1 隆家 2 扇の骨 3 すばらしい紙 4 定子 5 隆家 6 人々 7 清少納言 8 隆家
9 扇のしゃれ 10 自分の言ったしゃれが評価されたこと。 11 定子
12 自分の機知を他人に示すのは趣のなくなる恐れがあるが、すべて記せと言われたので仕方ない。
四 1 え 副 はる 動はる止ラ四 まじけれ助動まじ打推まじ已 ば 接助 張ることが出来ないだろうから
2 さらに 副 まだ 副 見動見る未 ぬ 助動ず体打 骨 名 まったくみたことのない骨
3 な助動断なり体なる撥音便なんのん無表記 なり 助動推なり止 であるようだ
4 し 動すサ変用 て助動強つ未 む助動意志む止 しよう
5 な 副 落とし 動落としサ四用 そ終助 落とすな