(12)一01 御方々、君たち
語釈
(1)御方々、君たち、上人など、1御前に人のいと多く候へば、廂の柱に寄りかかりて、女房と
物語などしてゐたるに、ものを2投げ給はせたる、あけて見たれば、3「思ふべしや、いなや。人
、第一ならずはいかに。」と書かせ給へり。
(2)御前にて物語などするついでにも、4「すべて、人に一に思はれずは、何にかはせ1む。た
だいみじう、なかなかにくまれ、あしうせられてあら2む。二、三にては死ぬともあらじ。「1にて
をあら3む。」など言へば、5「一乗の法ななり。」など、人々も笑ふことのすぢなめり。
(3)筆・紙など給はせたれば、6「九品蓮台の間には、下品といふとも。」など、書きて参らせ
たれば、「7むげに思ひ屈じにけり。いとわろし。言ひとぢめつることは、さてこそあら4め。」
とのたまはす。「それは、8人に従ひてこそ。」と申せば、「9そがわろきぞかし。第一の人に、
また一に思はれ5むとこそ思は6め。」と仰せらるる、いと10をかし。
(注)@御方々 ここでは中宮定子(九七七−1000)の身内の人々。A君たち 上流貴族の子息たち。B上人 殿上人。C御前 ここは、中宮定子のこと。D廂 母屋の四面にある「廂の間」。E第一ならずは
もし第一でないならば。F一乗の法 『法華経』のこと。『法華経』に「十方仏土中、唯有一乗法無二亦無三。」(方便品)とある。「一乗」は第一の乗り物。それに乗って彼岸に到達する。G九品蓮台の間には、下品といふとも 『和漢朗詠集』に「十方仏土之中、以西方為望。九品蓮台之間、雖下品応足。」(巻下・仏事 慶滋保胤)とある。「九品蓮台」は極楽往生の九段階。上品・中品・下品を、それぞれ上生・中生・下生に分ける。Hさてこそあらめ
そのまま押し通すほうがよいのだ。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 上人 2 候へば
3 廂
4 女房
5 一乗の法
6 九品蓮台 7 下品 8 屈じにけり 9 仰せ
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 なかなか
2 むげに
3 言ひとぢむ
三 *の問いに答えよ。また、傍線部1〜10と 「 」の問いに答えよ。
* a類集的章段、b日記的章段、c随想的章段のうちどれに分類されるか。
1 誰の前か。
2 主語を 記せ。
3 「 」 (1)誰が誰を「思ふ」のか。
(2)3「 」と書いた紙片を与えた理由は、文中のどの部分に説明されているか。
4 「 」ここから分かる作者の性格を一語で記せ。
5 どういうことを言おうとしたものか、説明せよ。
6 (1)どういうことを言おうとしているか。
(2)またここで「九品蓮台」という言葉を引き合いに出したのは、どの言葉を受けて言ったものか。文中から四字で抜き出せ。
7 定子からこう思われた理由を抜き出せ。
8 どんなことが言いたいのか、二十五字以内で記せ。
9 指示内容を記せ。
10 文章の最後を「をかし」で結んでいるが、これは作者のどんな気持ちの表れか。
11 (1)(2)の「人」「人々」はそれぞれ誰を指すか。
四 二重線部1〜6の「む」の文法的意味を識別し活用形を記せ。
1
2
3
4
5
6
五 口語訳
(1)
定子の身内の方々、上流貴族の子息達、殿上人などが定子の前に大層多く伺候していたので、廂の柱に寄りかかって、女房と話などしていた時に物を投げなさって、開けてみると、「思おうかいや思わないか。第一でないならばどうか?」とお書き成っていた。
(2)
お前でお話などするついでにも、「すべて、人に第一に思われなければどうでしょうか。ただひどく、かえって憎まれいじめられているほうがましだ。二、三位では亜死んでも我慢するのはいやだ。一位でいよう。」など言うので、「一乗の法だ。」など人々も笑う。あの話の筋であるらしい。
(3)
筆、紙などをくださったので「九品連台の間にある間は下品でもよい。」などと書いて差し上げたところ、「ひどく気が滅入った。大層悪い。言い切ることはそのまま押し通す方がよいのだ。とおっしゃる。「それは人によることです。と申すと、「それが悪いのだ。第一の人に、また第一に思われようと思うのがよい。」とおっしゃったことは、大層趣深い。
構成
(1) (2) (3) |
節 |
1000年頃 宮中 過去 |
時 場所 |
物を投げる。 Q「第一に思われない場合どうか?」 「弱気だ。一度言ったことは通せ。」 「それが悪い。第一の人に第一に思われるようにせよ。」 |
定子 |
開けてみる。 「人に第一に思われなければいやだ。二、三なら死んでもいやだ。」 (女房達)「一条の法だ。」 紙「定子なら最下級でもいい。」 「人による。」 |
清少納言 女房達 |
主題 第一の人に第一に思われるのがよい。
(12)一01 御方々、君たち 解答
(1)一1 うえびと 2 そうら 3 ひさし 4 にょうぼう 5 いちじょうののり
6 くほんれんだい 7 げぼん 8 くん 9 おお
二 1 かえって 2 ひどく 3 言い切る
三 * b 1 定子 2 定子 3 (1)定子が清少納言に
(2)「御前に物語する〜すぢなめり。」 4 勝ち気 5 作者の絶対主義をからかった
6(1)定子に愛していただけるのなら、千人中千番でもかまわない。
(2)「一乗の法」 7 「九品連台の〜書きて参らせたれば」
8 第一に思われたいが、ひとによりけりで定子は別。
9 相手によって態度を変えること。 10 もったいなくてうれし涙がこぼれそうな気持ち
11 1 人 御方々 2 人、愛される人(作者) 3 人に 愛する人
4 人々も 同僚の女房達
四 1 推量 体 2 適当 止 3 意志 止 4 適当 已 5 意志 止 6 適当 已