(11)九六 かたはらいたきもの
語釈
かたはらいたきもの、よくも@音弾きとどめ1ぬ琴を、よくもA調べ2で、心の限り弾きたてた
る。客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にBうちとけ言など言ふを、3えは制せで聞く心地
。1
思ふ人のいたく酔ひて、同じことしたる。2聞きゐたりけるを知らで、人のうへ言ひたる。3それ
は、C何ばかりの人なら4ねど、使ふ人など4だにいと5かたはらいたし。
D旅立ちたる所にて、5下衆どものざれゐたる。にくげなるちごを、6おのが心地のかなしきま
まに、うつくしみ、かなしがり、7これが声のままに、言ひたることなど語りたる。才ある人の前
にて、才なき人の、Eものおぼえ声に8人の名など言ひたる。ことに9よしともおぼえぬわが歌を、
人に語りて、人のほめなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。
(注)@音弾きとどめぬ その音を弾きこなさない。A調べで 調律しないで。Bうちとけ言。C何ばかりの人ならねど どれほどの身分の人でなくても。D旅立ちたる所 自宅から離れてしばらく滞在している場所。Eものおぼえ声に もの知りぶった声の調子で。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 客人 2 心地
3 酔ひて
4 下衆
二 つぎの1〜6の語の意味を辞書で調べよ。
1 かたはらいたし
2 いたく
3 下衆
4 かなし
5 うつくしむ
6 才
三 傍線部1〜9の問いに答えよ。
*内容の上で三つに分類されるうちのどれか。
1 「思ふ」人は男性と思われる。その根拠となる語句を五字で抜き出せ。
2 主語はだれか。
3 「それ」は何をさしているか。
4 意味は何か。
5 「下衆ども」は、A「泊り先の下衆」とも、B「自分の連れていった従者の下衆
」とも解される。それぞれの場合の作者の気持ちを説明せよ。
6 誰をさすか。
7 どういうことか。
8 ここではどういう意味か。
9 「よしともおぼえぬ」人とは誰か。
四 二重線部1〜4の文法事項に答えよ。
1 品詞名 基本形 活用形 意味
2 文法的に説明せよ。
3 品詞分解 口語訳
(3)「聞く心地」の次にどのような言葉が省略されているか。文中から十字以
内で抜き出せ。
3 文法的意味。
4 品詞名 基本形 活用形 意味
5 品詞名 活用の種類 活用形 基本形
五 口語訳
側で聞いたり見たりしているのも苦々しいもの。よく音を弾きこなさい琴を、よく調律もしないでおもうままに弾きたてたこと。客人などに会ってものを言うのに、奥の方で、遠慮のない話しなどを言うのを制することができないで聞く心地。愛する人がひどく酔っておなじことをくりかえすこと。聞いていたのを知らないで人のことを言っていること。その当人は、どれほどの身分の人でなくても自分が使う人でさえ大層聞いたり見たりしているのは苦々しい。
旅先で使用人がふざけあっていること。醜い子を自分の心にかわいいと思う思うままにかわいがり、この子の声のまねをして、言ったことなどを語っていること。学問のある人の前で学問のない人が物知りぶった声の調子で人の名などを言っていること。特にいいとも思われない自分お歌を人に語ってそれを人がほめたことを言うのも苦々しい。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 |
番 |
琴=下手 調律× 大きな音 客と話 奥で打ち解けた話 恋人=酔う。繰り言 当人が居るのを知らずに噂話をする。 身分が高くなくても、使用人でも 自宅街で使用人がふざける。 醜い子の声をまねする親 学問のない人=学者の名をいう。 下手な歌の自慢 |
かたはらいたきもの |
注意するわけにも行かない。 注意するわけにも行かない。 目をつぶりやい。 きまずい。 きまずい。 |
理由 |
構成
構成
主題 側で見ていてはらはらするものは、注意できないので困る。
(11)九六 かたはらいたきもの 解答
一 1まろうと 2 ここち 3 え 4 げす
二 1 側で聞いたり見たりしているのも苦々しい。 2 ひどく。 3 使用人。
4 かわいい。5 くぁいがる 6 学問。
三 *類従的章段 1 「いたく酔ひ」
2 「人のうへ」をするときの、噂話の主人公。 3 そのうわSをされる当人。
4 副助詞 類推 デサエ
5 A 泊まった家の使用人達が騒いでいるのを客としてはたしなめるわけにも行かない。
B 自分の家ではないから自分の従者にもふざけたりしないでもらいたい。
6 「ちご」の親 7 この子(「にくげなるちご」)の声をまねして
8 著名な人、学者などの名 9 この文章の作者。
四 1 助動 打 ず 体 2 接助 打
3 え 副 は 係助 強意 制せ 動 サ変 制す 未 で 接助 打 聞く 動 カ四 聞く 体 心地 名
制することができないで聞く心地
4 助動 打 ず 已 5 形 ク活 かたはらいたし 止