(10)ありがたきもの 七十五
語釈
ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思は1るる嫁の君。毛のよく抜くる@しろがねの毛抜き。
主そしら2ぬ従者。
3つゆの癖なき。かたち・心・ありさますぐれ、世に経るほど、いささかのAきずなき。1同じ所にB住む
人の、Cかたみに恥ぢかはし、Dいささかのひまなく用意したりと思ふが、2Eつひに見えぬ4こそかたけれ。
物語・F集など書き写すに、G本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して書けど、必ずこそ汚げにな
るめれ。
3H男、女をば言はじ、I女どちも、契り深くてJ語らふ人の、末まで仲よき人、かたし。
(注)@しろがねの毛抜き 銀製の眉毛を抜く道具。当時の成人女性は眉毛を抜いて書き眉をした。普通は鉄製で、銀製のものは外見はよいが毛が抜けにくいとされる。Aきず 欠点。B住む 奉公している。宮仕えしている。Cかたみに恥ぢかはし 互いに相手を優れたものとして遠慮し合い。Dいささかの暇なく用意したり すこしのすきもなく気を配っている。Eつひに見えぬ さいごまで(相手にすきを)みせないのは。F集 歌集。
G本 もとの本。H男、女をば言はじ 男女の間は、いまさら言うまい。I女どちも女同士でも。J語らふ 親しく付きあう。
一 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 舅 2 婿 3 姑 4 嫁 5 従者 6 墨
7 草子 8 契り
二 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 ありがたし
2 そしる
3 かたち
4 契り
三 *1、2と傍線部1〜3の問いに答えよ。
*1内容の上で三つに分類されるうちのどれか。
ア 類聚的商談 イ 日記階層的商談 ウ 随想的商談
*2 「ありがたきもの」を列挙し、その特色を述べよ。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1 どういう人か。
2 何が見えないのか。
3 ここに込められた作者の感情はどういうものか。
四 二重線部1〜4の文法問題に答えよ。
1 品詞名 基本形 活用形 意味
2 品詞名 基本形 活用形 意味
3 品詞分解 口語訳
4 結びの語 基本形 活用形
五 口語訳
めったにないもの。舅に誉められる婿。また、姑にかわいがられるお嫁さん。毛のよく抜ける銀製の毛抜き。主人の悪口をいわない家来。
少しの癖もない(人)。容貌、気だて、態度(の三つとも)が優れ、世の中で人と交わって過ごしている間、少しの欠点も見せない人。同じ所に宮仕えしている人で、互いに相手を優れたものとして遠慮し合い、すこしのすきもなく気を配っている人が、最後まで(相手にすきを)見せないのはまれだ。
物語・歌集などを書き写すそきに、元本に墨を付けないこと。立派なとじ本などは、とても気をつけて書くけれど必ず汚らしくなるようだ、
男女の間は今更言うまい。女同士でも固い約束をして親しく付きあってい人で、最後まで仲の良い人は滅多にいない。
(10)ありがたきもの 七十五 解答
一 1 しゅうと 2 むこ 3 しゅうとめ 4 よめ 5 ずさ 6 すみ 7 そうし 8 ちぎ
二 1 めったにない。 2 人のことを悪く言う。 3 容貌。 4 約束。
三*1 ア
*2
1 舅にほめられる婿 身近な人間関係の難しさ
2 姑にかわいがられる嫁 身近な人間関係の難しさ
3 毛のよく抜ける銀製の毛抜き 見た目もよく実用的
4 主人を悪く言わない家来 身近な人間関係の難しさ
5 欠点のない人 身近な人間関係の難しさ
6 外見がよくて欠点のない人 身近な人間関係の難しさ
7 心の奥底を見せない人 こういう人は少ない
8 写本の時、墨をつけないこと 器用な人
9 最後まで仲がよい人 身近な人間関係の難しさ
1 同じ宮仕えをしている侍女同士
2 心の奥底 欠点
3 男女の愛はこわれやすく長続きしない。