(5)壇ノ浦合戦1185年 能登殿の最期                                             

 

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語釈

 

(1)  およそ@能登の守教経の1矢先にまはる者こそなかりけれ。矢だねのあるほど射尽くして、

 

今日を最後とや思はれけん、A赤地の錦の直垂に、B唐綾縅の鎧1て、Cいかものづくりの

 

大太刀き、白柄の大長刀の鞘をはづし、左右に2持つてなぎまはり給ふに、面を合はする者ぞな  

 

も討たれにけり。D新中納言、使者をたてて、3「能登殿、3いたう罪な作り給ひそ。さりとて

 

、4よき敵か。」とのたまひければ、5「さては、大将軍にE組めごさんなれ。」と心得て、F打

 

ち物茎短に4取つて、源氏の船に乗り移り乗り移り、をめき5叫んで攻め戦ふG判官を見知り給は

 

ねば、物の具のよき武者をば判官かと目をかけて、馳せまはる。判官もHさきに6心得て、7I

 

に立つやうにはしけれども、Jとかく違ひて能登殿には組まれず。   

 

(注)@能登守教経  平教経。本文によれば当年二十六歳。教盛の子。物語では平家の武人の中で最も勇猛な人物として描かれている。この場面は、一一八五年(元暦二)三月の壇の浦の合戦。A赤地の錦の直垂  赤地の錦で作った鎧直垂。「鎧直垂」は、大将格の武士が鎧の下に着る衣服。B唐綾縅  唐綾を細く切り、重ね合わせて縅の糸にしたもの。Cいかものづくり  いかめしく見えるように作っあるさま。D新中納言  平知盛(一一五二−一一八五)。清盛の四男。E組めごさんなれ  組めというのだな。「組めとにこそあるなれ」の縮まった形。F打ち物茎短に取つて  太刀や

長刀の柄のつばもと近くを握って。「茎」は剣などの柄。G判官  ここでは源義経(一一五九−一一八九)。Hさきに  すでに。I面に立つ  教経の正面に立つ。Jとかく違ひてあれこれ行き違うようにして。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      能登守教経      直垂        唐綾縅                太刀

 

      白柄        7  長刀                9  判官    10  馳せまはる

 

二 次の語の意味を辞書で調べよ。

 

      矢先

 

  2 矢だね

 

      さりとて

 

      物の具

 

  登場人物を抜き出せ。1〜7について、「  」は誰の言葉か記せ。傍線部の問いに答えよ。

 

       なぜか。

 

       どこにかかるか。

 

       「  」誰の言葉か。また、ここからどのような考えがうかわれるか

 

      具体的にどういう敵か。

 

    5 「  」誰の言葉か。

 

      義経は何を「心得」ていたのか。

 

      なぜ「面に立つやう」にしていたのか。

 

  1〜5の文法問題に答えよ。

 

  1 活用の種類 基本形 活用形

 

  2、4、5 音便の種類 もとの形。   3 品詞分解 口語訳

 

(2)

されどもいかがしたりけん判官の船に1乗りあたつて、あはやと目をかけて1飛んでかかるに、判

 

官かなはじとや思はれけん、長刀わきにかいばさみ、味方の船の@二丈ばかり2退いたりけるに、

 

ゆらりと飛び乗り給ひぬ。能登殿は、3早業や劣られたりけん、やがて4続いても飛び給はず。

 

A今は5かうと思はれければ、太刀・長刀海へ投げ入れ、甲も6脱いで捨てられけり。鎧のB草摺

 

かなぐり捨て、胴ばかり着て、C大童になり、D大手を広げて立たれたり。およそ4Eあたりをは

 

らつてぞ見えたりける。恐ろしなんどもおろかなり。能登殿大音声を上げて5「我と思わんものど

 

は、7寄つて教経に8組んで生け捕りにせよ。鎌倉へ9下つて、F頼朝に10会うて、ものひと

 

こと言はんと思ふぞ。寄れや寄れ。」とのたまへども、寄る者一人もなかりけり。

 

(注)@二丈  「丈」は長さの単位。一丈は約三メ−トル。A今はかうと  今はこれまでとB草摺  鎧の胴の下の垂れた部分。C大童になり  髪の結びが解け、乱れ髪になって奮闘するさま。D大手  肩から手先まで。Eあたりをはらつて  周囲を威圧して、人を寄せ付けないさまF頼朝  源頼朝(一一四七−一一九九)。義朝の三男。鎌倉幕府を開いた。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      二丈      退いたり      早業                草摺

 

      大音声      頼朝

 

二 次のの語の意味を辞書で調べよ。

 

     やがて

 

     おろかなり

 

  登場人物を抜き出せ。また、1〜5の問いに答えよ。 

 

      主語

 

      主語

 

      どのような武芸か。

 

      どんな様子をいっているか。

 

      どういう者どもか。

 

四 1〜10の文法問題に答えよ。           

 

  1、2 音便の種類 もとの形

 

  3 こういう語を何というか。

 

  4、5、6、7、8、9、10 音便の種類 もとの形

 

(3)ここに土佐の国の住人、@安芸郷を知行しける安芸の大A領B実康が子に、安芸太郎C実光

 

とて、三十人が力1持つたる大力の1剛の者あり。我に2ちつとも劣らぬ郎等一人、弟の次郎も普

 

通たるしたたか者なり。安芸太郎、能登殿を3D見たてまつて申しけるは、2「いかに4猛うまし

 

ますとも、我ら三人5とりついたらんに、たとひ、丈十丈の鬼なりとも、6などか従へざるべき。」

 

とて、3主従三人小船に7乗つて、能登殿の舟に押し並べ、4「えい。」と言ひて乗り移り、甲の

 

E錣をかたぶけ、太刀を8抜いてF一面に9討つてかかる。能登殿10ちつとも騒ぎ給はず、まつ

 

先に11進んだる安芸太郎が郎等をG裾を合はせて、海へ12どうど蹴入れ給ふ。続いて寄る安芸

 

太郎を弓手のわきに13取つてはさみ、弟の次郎をば馬手のわきにかいばさみ、ひと締め締めて、

 

5「Hいざ、うれ、さらばIおれら、死途の山の供せよ。」とて、生年二十六にて海へ14つつと

 

ぞ入り給ふ。

 

(注)@安芸郷  土佐の国安芸郷の郷名。今の高知県安芸市。A大領  郡の長官。B実康伝未詳。C実光  伝未詳。D見たてまつて  見申し上げて。「見たてまつつて」と同じ。E錣  甲の左右や後ろに垂れた部分。F一面に  並んでいっせいに。G裾を合はせて  裾と裾が合うほど引き寄せて。Hいざ、うれ  さ、きさまら。「うれ」は、相手をののしって呼び掛ける語。Iおれら  おまえたち。

 

  次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。

 

      安芸郷        知行        郎等      丈十丈        主従   

 

                      弓手      馬手

 

二1〜5の意味を辞書で調べよ。

 

      知行

 

      剛の者

 

      郎等

 

      弓手

 

      馬手

 

      死途の山

 

  登場人物を抜き出せ。1〜7について、「  」は誰の言葉か記せ。傍線部の問いに答えよ。

 

    1誰のことか。また、この後で何と言っているか。

 

  2 誰の言葉か。

 

  3 誰のことか。

  

4 誰の言葉か。

 

 5 誰の言葉か。この言葉で言っていることは、具体的にはどういうこことか。

 

  1〜14の文法問題に答えよ。

 

  1、3、4、5、7、8、9、11、13、15 音便の種類 もとの形 

 

2、 10、12 14 こういう語をなんというか。

 

6 品詞分解 口語訳              

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五 口語訳

(1)

大体、能登の守教経の矢面に立つ者はなかった。矢立に入れてある矢をすべて思ったのだろうか、赤地の錦の直垂に唐綾縅の鎧を着て、いかめしく見えるように作ってある大太刀を抜いて、白柄の大長刀の鞘を外し、左右に持って横様に払って切りなさるのに、面と向かって相手をするものはいない。多くの者どもが打たれた。平知盛が使者を使って、「能登殿対す罪を作りなさるな。それだからといて、身分の高い敵か。」とおっしゃったので、「それでは義経と組めということだな。」と理解して、太刀や長刀の柄の鍔元近くを握って、源氏の船に乗り移り、大声で叫んで攻め戦う。義経を見知りなさらないので、武具のいい武者を義経かと目を掛けて駆けまわる。義経もすでに理解して面と向かうようにはしたけれども、あれこれいき違うようにして、能登殿には組まれない。

 

(2)

そうではあるけれどもどうしたことか、義経の船に乗り当たった。たいへんだと目を掛けて飛んでかかると義経は、かなわないと思われたのか、長刀御わきに挟んで味方の船の六メートルくらい離れているのに、ゆらりと飛び乗りなさった。能登殿は、素早い業は劣っていらっしゃったのか、すぐに続いても飛びなさらない。今はこれまでと御思いになったので、太刀、長刀をうみへ投げいれ、甲もぬいで、おすてになった。鎧に下のたれた部分を払いのけて、胴だけつけて乱れ髪になって大手を広げてお立ちになった。大体周囲を威圧して、見えた。恐ろしいなどと言うのもありきたりだ。能登殿は大声を上げて、「武芸に自信のあるものどもは、寄って教経に組んで生け捕りにしろ。鎌倉へ下って頼朝にあって、一言言ってやろうと思う。寄って来い。寄ってこい。」とおっしゃるが寄るものは一人もいない。

(3)

ここに土佐の国の住人安芸郷を支配していた安芸の太郎実康の子に安芸太郎実光といって、三十人力の大力のすぐれて強いものがいた。自分に少しも劣らない郎等一人、弟の次郎も普通以上のすぐれて強い者であう。安芸太郎、能登殿を未申して申されたことには、「どんなに勇猛でいらっしゃっても、我ら三人すがりついたらたとえ、r丈十丈の鬼であってもどうして「したがわされないことがあろうか(いやしたがわさせる)。」と言って主従三人小舟に乗って、能登殿の舟に押し並べ、「おう。」と言って乗り移り、甲のしころを傾け、太刀を抜いて、並んで一斉に討ってかかる。能登殿は少しも騒ぎなさらず、真っ先に進んだ安芸太郎の郎等を裾と裾が合うほど引き寄せて、海へどんと蹴入れなさる。続いて寄る安芸の太郎を左の手の脇に挟み、弟の次郎を右手の脇にはさみ、一しめしめて、「さ、きさまら、死出の旅の友をしろ。」と言って生年28で、海へさっと入りなさる。

 

構成

主題 教経の勇壮な最期

(1)

 

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 

(3)

 

1185年三月

壇ノ浦

射る

大太刀大長刀

 

 

源氏の船

時 場所

射る

大太刀大長刀

知盛「敵を選べ。」

「義経を打てというのだな。」

乗り移り、探す。

 

乗り当たる。

「もう最後だ。」

大太刀大長刀を捨てる。

「組み打ちで来い。」

 

海へ蹴入れる。

右手ではさむ。

左手ではさむ。

 供に入水。

平教経(能登殿) 26才

 

 

 

 

義経 うまく逃げる。

 

義経 早業で六メートル飛んで逃げる。

 

 

誰も寄らない。

 

郎党     ほぼ三十人力

安芸太郎実光 三十人力

弟次郎    普通以上の力

源氏

 

(十一)壇ノ浦合戦1185年 能登殿の最期 解答                                            

(1)

一 1 のとのかみのりつね 2 ひたたれ 3 からあやおどし 4 よろい 5 たち

6 しらえ 7 なぎなた 8 さや 9 ほうがん 10 は

二 1 矢の飛んでくるところ 2 矢盾に入れてある矢。 3 それだからといって。4 武具

三  能登殿 新中納言 判官

1 教経の弓は正確で強弓だから。 2 「なぎまはりたまふ。」

3 知盛 名もない武 5 知盛り

6 教経が自分と組み打ちしようと追いかけていること。

7 源氏の総大将として、逃げ回っているような印象を与えないようにし、表面的には立ち向かっているような姿勢を示した。

四 1 動カ上一着る用 2 促音便 持ちて 4 促音便 取りて 

5 撥音便 叫びて 3 いたう 形ク活いたし用いたくのウ音便

罪 名 な 副 作り 動ラ四作る用 そ 終 禁 あまり罪を作りなさるな  

 

(2)

一 1 にじょう 2 の 3 はやわざ 4 かぶと 5 くさずり 

6 だいおんじょう 7 よりとも

二 1 すぐに

  2 ありきたりで不満足である。

三 能登殿  判官 

1 能登殿  2 義経 3 すばやいわざ。早足、飛び越えなどのような武芸。

4 側に寄せ付けないほど勢いがはなはだしいさま。 5 武芸(組技)自信のあるもの。

四 1 促音便 乗りあたりて 2 イ音便 退きたり 3 擬態語

4 イ音便 続きても 5 ウ音便 かくと 6 イ音便 脱ぎて 

7 促音便 寄りて 8 撥音便 組みて 9 促音便 下りて 

10 ウ音便 会ひて

 

(3)

一 1 あきのごう 2 ちぎょう 3 ろうどう 4 たけじゅうじょう

5 しゅじゅう 6 しころ 7 すそ 8 ゆんで 9 めて

二 1 ある地域を支配すること。 2 すぐれて強い者。 3 従者。家来。

4 左の手。 5 右の手。 6 死後に行く冥土にある山。

三 能登殿 安芸太郎実光 次郎 郎党

1 安芸太郎実光 したたか者。 2 安芸太郎実光 3 安芸太郎実光 次郎 郎党

4 安芸太郎実光 次郎 郎党 5 能登殿 死の道連れになれということ。

四 1 促音便 持ちたる 3 促音便 見たてまつりて 4 ウ音便 猛くましますとも

5 イ音便 とりつき 7 促音便 乗りて 8 イ音便 抜きて 9 促音便 討ちて 

11 撥音便 進みたる 13 促音便 取りて  

 

2、 10、12 14  擬態語

6 などか 副(反語) 従へ 動ハ下二従ふ未 ざる助動ず打体 べき 助動可べし体

どうして屈服させられないことがあろうか(いやない)